第24話 結婚
「……けっこん…?」
カラカラの喉。
考えることもなく、頼りない言葉が自然と零れた。
俺に気づいた女神だった女教師は、ぎょっとして慌てて口を塞いだ。
「えっ、ごめんなさい!生徒がいたんですね…」
「先生困りますよー。まだ全校生徒には話していないんですからー」
「今度から気を付けます…」
塩崎先生に窘められ、彼女はすごすごと自分のデスクへと戻って行った。
「あー・・・、じゃあノート受け取りました。今の事は内緒ねー」
「……はい」
失礼します。と言って職員室を出たかどうかは不確かで。
気がつけば、クラスに戻って自分の席に座っていた。
誰も居ない教室はオレンジ色の光に照らされて、少し眩しいくらいだ。
もうすぐ試合が近いのか、運動部の応援を練習する声が聞こえる。
あれはサッカー部だろうか、とぼんやり思う。
我校のサッカー部は強く、部員も多い。
確か、200人は超えると聞いた。
ああ、俺も部活に行かなきゃ。
分かっているのに、机に突っ伏したまま起き上がることが出来ない。
ねえ、結婚てなに。
じわりと溢れ出た温かい水滴は、目からこめかみを伝い、机へと落ちた。
あれ?俺、泣いてんのかな。
周りの温度に晒されすぐに冷めたその涙は、俺の心も身体も冷やしていった。
自分の感情も言葉も、何も浮かばない。
嗚咽も出ない。
流れる涙は意味を見い出せず、ただただ滑稽だった。
「あれ?希一じゃん。何してんの?」
不意に後ろから聞こえる昔からの友人の声。
「弘樹……」
俺の前に回り込みしゃがんだ彼の目と合い、掠れた声で呟く。
弘樹は、ぎょっと目を見開いた。
「え、は?何泣いてんの!?なした?腹痛いん?」
「違う…ちがう〜・・・」
慌てて俺の頭を撫でるその手が優しくて、俺の涙は増し、まるで愚図る幼い子どもの様。
希一。
高校からの友人とは違い、小学校からの友人の弘樹は、俺を下の名前で呼ぶ。
それがひどく落ち着かせたのだ。
「希一。希一。どしたとさ?言ってみ?」
「う〜・・・、うわぁああん」
「ぎゃー!まじ何があったとさー!!」
思わず席から立ち、床にしゃがみ込んだ弘樹の膝に跨り抱き着く。
耳元で騒がれて、少しうるさい。
でも弘樹の体温に包まれて、次第に心も身体も温まるのが分かった。
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