最終章

第26話 うじうじ




とは言っても。



(…入りたくない)



一日やそこらで癒される傷な訳がない。

ちなみに寝る時には既に、うじうじモードになっていた。


ごめんね弘樹。



俺は放課後、美術室の前で扉に手を掛けずにいた。

空を切った腕を下ろし、額を扉にごつっと当てる。


ズーンと落ち込みそのままもたれかかり、動けない。



結婚。

先生が、結婚。


少し近づけたと思ったその距離は、元々無いに等しいものだったのだ。



一人でに勘違いして頬を染めて、土俵にすらも立っていなかったのに。

俺は男で、先生も男。


普通の人は同性に恋愛感情を抱かない。

そんな当たり前の事を、どうして忘れていたんだろう。



あー・・・、先生に会いたくないなあ…。

このまま帰っちゃおうかな…。



どのくらいそうしていただろうか、次第に本気で帰りたくなってきた。


駄目だ。

部活を休む事はいけないことだって解っているのに。


じくじくと痛む胸に、身体が動けなくなっていた。




ずるずると引き延ばしては、余計に入れなくなる。


でもなあ…うーん…。



と、まあこんな感じでうだうだしていた時に、急に目の前の扉が開かれた。



「う、お…!」



ぐらりと傾く身体。


あ、やばい…頭から突っ込んでしまう…!

思わず目を瞑ったその瞬間。








「わっ、崎本…?」



ぽすんと受け止められる身体。

抱き着いたのは、自分よりも逞しくて。


頭上から聞こえる愛しい声に、ぎゅっと喉が苦しくなった。






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