第18話 不意な項






餓鬼みたいな自分が嫌いで仕方が無くて、でもどうしようもなくて。

ぐっと下唇を噛んだ。


頬なんか、絶対に赤い。

目が熱い。

じわっと目が潤んでいくのを、感じる。


そんな俺は眉を少し寄せて、先生を見つめた。



重なる視線。

互いに黙り込み、美術室はしんと静まり返る。


不意に先生の手が伸びてきて、俺の筆を持っていた手を掴む。



「…せんせ?汚れる…危ないですよ?」



慌てて俺が筆を置くけど、先生はゆったりと見つめてくるだけで。


ど、どうしたんだろう?


きょときょとと目線を動かすも、あまり効果は無い。

すると先生の指が動いて、手の平までもが重なった。



——クイッ。



軽い力で、引っ張られた。

けれども、完全に力を抜いていた俺は、簡単にバランスを崩して。



「わわ…っ」



座ったままの先生の膝の上。

気づいた時には、もう遅い。


俺は、そこに向き合う形で、跨ってしまった。



え、え、え…。


頭が真っ白になる。

意味が解らない。

何なんだ、この状況は。


問いかけても、質問者は俺で、回答者も俺。

堂々巡り。


ぐるぐる、ぐるぐる。



重なった手は、そのまま。

先生のもう片方の手が、動く。


それを、ぼーっと眺めていると、俺の後頭部に回ってきて。






するりと、項を撫でられた。





「ぎょ、わ!!」



思わず俺は、先生の耳元で叫んでしまい。


先生は耳元を抑えて、机に突っ伏してしまった。






その後、他の生徒達も来て、先生も復活していたけれど。

俺はその日、もう彼の目を見る事が、出来なかった。



皆は先生の描いたマグロの一本釣りを見て、わぁわぁはしゃいでいたけれども。


知らんがな!!






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