実らない話
丹桂
第一章
第1話 こんにちは
何が良いのかと聞かれれば、少し考えるけど。
きっと、何かが自分のツボに、はまったんだ。
「…こんにちはー」
小さい声で挨拶しながら、美術室へと入る。
くるりとドアノブを回して押すけれど、結構開けるのが大変で。
大分、古いんだろうな…。
それでも、この程度では修理なんか、しないんだろう。
だって、ただの美術室だから。
この学校は、芸術に力を入れている訳ではない。
入れているのは、勉強と部活動の成績くらいだ。
文武両道――その肩書きが、欲しいんだと思う。
解る。
俺だって、その肩書きが欲しい。
だって、めちゃくちゃ格好良くね?
…まぁ、俺は勉強も運動も出来ないから、どちらの肩書きも無いんだけど。
きっと、ウエイトルームの機材とかだったら、速攻で直されるんだろうな…。
いや、別に良いんだけど。
扉が重くて開けづらい事くらい、別に良いんだけど。
だって
「あ、こんにちは。扉重くなかった?」
準備室から先生が出てきて、心配そうに声を掛けてくれるから。
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