マスカレイド@異世界現代群像のパラグラフ
木木 上入
1.深紺の巨兵
「ちっ、隊長がようやく重い腰を上げたと思ったら、よりによってアレの相手とはな」
エンジンの唸り声、金属のぶつかり合う音、攻撃魔法や補助魔法の入り混じった、混沌とした音――そこら中で激しく響く音の中で、一人が愚痴を口走った。
「あん? 最近戦闘が少ないって愚痴ってたのはおめえじゃねえか」
一人がそれに反応した。
「アレ以外なら歓迎しますがね、アレと戦いたい奴なんて居やしませんよ」
会話は通信機越しにしているが、辺りに響く轟音は、それすら時々、掻き消そうとする。
「おい! 榴弾砲が来るぞ!」
「各機、散開しろ!」
激しい爆発音が響き土煙が舞い上がる中、量産型汎用機『ナイトウォーカー』の、標準型魔力推進ブースターの音が響き渡る。魔力を込められて駆動しているそれからは、常に神秘的な音が放たれている。
「ダグザリーダーから各機へ、生きてるか!」
「こちらダグザワン、大丈夫だ」
「こちらダグザエイト、左脚部が動かないが、ダグザファイブの補助でどうにか動ける」
「ダグザファイブだ、こっちも左腕部をやられてる、二人そろってこのザマだ」
砂煙の中でのナイトウォーカーをはじめとする、それぞれの機体の動きには、まるで、それを動かすパイロット達の動揺が伝わっているようだ。
ナイトウォーカー達の集団が、砂煙の中から続々とその姿を現した。が、それらの数は、榴弾砲着弾前と比べると、明らかに目減りしていた。
「こちらダグザテン、異常は無……」
自分の無事を知らせようとしたダグザテンのナイトウォーカーの頭部を、何かが霞めた。
「うわあーっ!」
「ダグザイレブン!?」
ダグザイレブンを矢のように射抜いたそれは、鞭のようにしなりながら、砂煙の中へと戻ろうとしている。その先にはうっすらと、巨大な青い人型の影が浮かび上がりつつあった。
魔力推進ブースターの音とは対照的とも言える、機械的なブースターの噴出音が徐々に大きくなる。
「
矢のようであり、また鞭のようなそれは、巨兵の右腕の中へと吸い込まれるように戻った。所々に黄色いパーツの混じった蒼い巨体が姿を現した時には、既にそれは一本の巨大な剣の姿をして巨兵の手の中にあった。
「ダグザリーダーより各機へ! 命あっての物種だ、ずらがるぞ!」
「分隊長! まだ戦ってる奴が居る!」
ダグザテンがそう言ったが、分隊長は有無を言わさず返した。
「ウォッカ隊の馬鹿どもは放っておけ! こんな戦力で勝てるわけがない!」
「しかし……!」
逃げあぐねているダグザテンの耳に、突然、強烈な音が響き渡った。
「ほれみろ! あのガドリングにやられたいのか!?」
ダグザテンの目の前には、それまではナイトウォーカーの形をしていた何かがあった。
「クラーケン隊もやられたらしい、こいつは逃げるのにも苦労しそうだな」
モニター越しに、十本の細長い三角形をくねらせた風貌の紋章を見たダグザファイブは背筋が凍る思いだ。
「ここまでやられて黙って見てろって言うんですか!? ……こいつで!」
ダグザテンは右腕部に持っていたボウガンを放った。矢は真っ直ぐに、さっきまでガウスガドリングを放っていた、巨兵の胸を目掛けて飛んでいった。
ダグザテンは続けざまにボウガンを連射する。
「こいつっ! こいつぅっ!」
ダグザテンは、興奮した様子で何度もボウガンの引き金を引き続けた。
「気持ちは分かるがさ、やめとけよハワード、矢が勿体無いぜ」
「黙れブリーツ! 貴様も戦え!」
ダグザエイト、ブリーツが宥めたが、ダグザテンの興奮は収まらず、なおも攻撃を続けた。
「馬鹿が……ダグザリーダーより各機へ、ダグザテンを放棄する。各機は直ちにこの戦線より離脱しろ! ダグザテンに構ってやるのは自由だが、それは個々の判断で行え。結果的に奴と一緒に死んでも、俺は知らんからな!」
「……くっ……!」
ダグザエイトはナイトウォーカーを反転させた。
ダグザテン以外のダグザ隊は、一斉にブースターを吹かすと、巨兵とは逆方向へとそれぞれの機体を加速させた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
ダグザリーダーは通信機から聞こえるハワードの叫び声を聞くと、ナイトウォーカーを、出来るだけ速度を落とさないように留意しながら振り向かせた。レーダーには残骸となったダグザテンのナイトウォーカーと、こちらへと進み始めた巨兵の姿があった。
「……ちっ! ハワードの野郎、足止めにもなりゃしねえ!」
ダグザリーダーが毒づいた瞬間、巨兵のガウスガドリングの音が辺りに鳴り響いた。
「始まりやがった……ダグザリーダーより各機へ、散開して攻撃を分散させるぞ!」
ダグザリーダーの号令によって、ダグザ隊の機体はたがいに距離を取り、散り散りになりながらも、お互いをフォローできる位置に位置取りをした。
「ここからは運の勝負だな、ハズレくじだけは引きたくないもんだぜ」
ダグザフィフティーンが珍しく口を開いた。
「いや……そのハズレくじ、俺が引こう」
ダグザエイトは言った。
「……ブリーツ?」
ダグザファイブは、ダグザエイトの言葉に耳を疑った。
「バルドさん、俺を置いて逃げてくれ、俺が足止めする」
「へっ……つれねえな、ブリーツ……だが合理的だ」
「……だろ? 脚部の無い、俺のナイトウォーカーが、足止めにはぴったりだ」
ダグザリーダー、バルドは、ダグザエイトの左脚部が損傷していることを再認識し、暫く思想を巡らせ、再び口を開いた。
「ふん、全くだ……ブリーツ、生きてたらまた会おうぜ!」
「ああ、その時は一杯奢ってくれよ」
「俺が七割持とう、その代わり、浴びる程飲んでいいぞ!」
ダグザファイブはそう言うと、ダグザエイトのナイトウォーカーを抱えていた右腕部を開いた。ダグザエイトのナイトウォーカーがその場に崩れ落ちる。
「バルドさんにしては、いい条件だったな……」
ダグザエイトは、すでに切れた通信機に向かって、独り言を言った。
「さてと、スルーされないように気を引かなきゃな……このオーブで!」
浮遊魔力発生装置『オーブ』、ナイトウォーカーの兵装パターンの一つである、紫色で半透明なそれを、ダグザエイトは起動させた。ダグザエイトのナイトウォーカーから放たれたオーブは空中を自在に飛び、青い巨体へと向かっていく。
「コックピットを狙いさえすれば……!」
ダグザエイトは、巨兵のコックピットと思しき場所にオーブを辿りつかせ、再び命令した。
「やれ、オーブ!」
オーブはそれに答えるように、赤い光を一回放ち、同時にその球体から、燃え盛る火球をを巨兵目掛けて放った。火球は巨兵に命中すると、その場で爆発した。
「ま……そう旨くはいかないよな。気を引けただけよしとするか」
爆発から生じた煙によってよって遮られた視界が復活すると、そこには今だ健在な巨兵の装甲があった。
「しかしまあ、傷一つ付いて無いとは……んっ!?
巨兵がダグザエイトに向かって前進し始めた。ブースターの噴出音が、急激に近付いてくるのを、ダグザエイトは感じていた。
「あれが……
テルジリア共和国をはじめとする、機械文明の機体の特徴はローラーだ。一般的な機体なら、ローラーの摩擦音が聞こえてくるはず。しかし、今、聞こえている音は違う。ブースターの噴出音だ。しかも、こちらの魔法文明が有するブースターの音とも違う。魔法的な音ではなく、もっと物理的な音……それが聞こえる。
分かってはいた。が、いざ、こちらにのみターゲットを絞って、前屈みになって、しかも猛スピードで突進してくる巨体を目の前にすると、どうしても恐怖が込み上げてくる。
「俺は囮役を買って出たんだ。こうなることは……分かってて……」
そう言いながらもダグザエイトは恐怖を覚えた。巨兵が剣を振りかぶっている。鞭のようにしなり、矢のように刺さった、あの剣だ。
「うわぁぁぁっ!」
ダグザエイトは、もはや、どうすることも出来ず、目をきつく瞑り、頭を抱えてうずくまった。
まるで鎖のような音が鳴り響き、遠くで岩の砕ける音がした。何故か、金属同士のぶつかる音も、擦れる音も鳴ることはなかった。
「……?」
ダグザエイトは生きていた。目の前には、何故か明後日の方向に剣を振っている巨兵の姿があった。その動きは出鱈目で、まるで踊りを踊っているかのように見える。
「早く逃げなさい!」
ダグザエイトの耳に、凛とした声が響いた。どこか可愛らしさも感じられる、女の声だ。
「あ、あんたがやったのか!?」
「違うわよ、でも、敵がああやって隙を作ってくれてるんだから、これを利用しない手は無いでしょ。このタイミングと私の
声の主の機体と思われるナイトウォーカーが、ダグザエイトのナイトウォーカーに肩を貸した。二体のナイトウォーカーはブースターを最大加速させ、巨兵とは反対方向へと地面を滑っていった。
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