8.ブリーツ

 ナイトウィザードを反転させて、ゼゲの集団と対峙させたブリーツは、ひとまず二人を送り届けたところで機体の性能を試してみることにした。まずは物凄く不安がある魔法の性能からだろうか。

「なるべく派手なのがいいだろうな……」

 敵の注目は、二人の機体と周りの味方機へと移っていて、この機体には目が届いていないようだ。中途半端に魔法が使えるこの機体にとっては幸いなことなのだが……この場合、ここで敵を目を引きつけるのがブリーツの役目だ。後ろの二体は起動に時間がかかる。それまではただの置物といっていい。いくらゼゲとはいえ、バズーカでも直撃すれば、いくら縦横無尽じゅうおうむじんといえども危ないだろう。ここはフルキャストで範囲魔法を使いたいところだ。


紅蓮ぐれん大火炎だいかえんよ、全てを覆い、燃やし尽くせ……エクスプロージョン!」

 ナイトウイザードの左手。いや、左手というよりは、神獣を模ったクリスタルの彫刻であるそれは、ブリーツが詠唱をすると光り輝いた。そして、そこから大きな火の球がゼゲの群れに向かって飛んでいき、地面に着弾すると激しい爆発を起こした。


「こんなもんか。さて、次は……焔焔えんえんたる五つの破壊者よ、その力をもって全てを焼き尽くせ……クィンターバースト!」

 ブリーツはブースターを吹かしてナイトウィザードを右往左往させながら、頭上に現れた五つの火球を一つずつ、エクスプロージョンによって発生した砂煙の中に放っていった。


「よーし……」

 ここまで撹乱すれば、敵は迂闊にマシンガンは打てないはずだ、そして、フルキャストで唱えて完全な威力を発揮した魔法を二発も放ったのだから、敵の数も半減している。


「あとは……」

 ブリーツは、この砂煙を突破してブリーツの方へと近付いてくるゼゲから処理をすることにした。そうすれば、同じく近くにある二人の機体も、自然と守れることだろう。

「来たな!」

 砂煙をいち早く突破して、ブリーツの方へとマシンガンを構え始めたゼゲを見たブリーツは、バーニアを思いきり吹かし、ゼゲの懐へと飛び込んだ。

 マシンガンで対応できないくらいに近寄られてしまったゼゲは、防御行動をとることが出来ない。


「行かせないぞ! おりゃあーー!」

 地面と摩擦を起こしているローラーの音を聞いて、ブリーツはゼゲが後退すると読んだ。

 かけ声と共にナイトウィザードに横斬りさせると、後ろに下がるつもりだったゼゲは、防御行動をとることもなく、ナイトウィザードの剣によって斬り裂かれた。

「よっしゃ……うん?」

 次のターゲットを待とうと周りを見渡していたブリーツは気付いた。所々破壊されたゼゲが、集団でこちらにマシンガンを向けている。今にも一斉に撃ちそうだ。

「うおっ! あいつら……」

 バーニアを吹かして距離を取りつつ、ブリーツはゼゲの集団を見た。大破しているのは、エクスプロージョンの着弾点の中心であろう所に朽ちているゼゲだけのようだ。近くに居た他のゼゲは、思いの外ピンピンしている。

「フルキャストでこの威力かよお」

 ブリーツが情けない声で言った。魔法の威力の減衰が無いフルキャストでもこの程度らしい。


「ファイアーボール!」

 ある程度注目を集めてしまったこの状況だと、フルキャストは難しい。ブリーツは呪文名のみを詠唱する「ファストキャスト」でファイアーボールを使った。

 ファイアーボールが命中すると、そのゼゲは仰け反り、一歩後退した。そこら辺に転がっている石でも投げた方が強いんじゃないかといわんばかりのファイアーボールの威力に、ブリーツは驚愕した。

「やっぱ牽制くらいしか出来ねえ! ウインドバリア!」

 この調子だと下手をすれば、呪文自体が出ない時があるのではないだろうか。そう思いながら、ブリーツは苦し紛れに、ゼゲに対して横方向に動き回りながらウインドバリアを詠唱した。


「うおっ!」

 コックピットに衝撃が走る。マシンガンを避けきれず、また、ウインドバリアも長くは持たず、ナイトウィザードの肩へと被弾してしまったのだ。

「く……なるほど、中途半端ねえ……」

 マシンガンの弾は、なおも引っ切り無しにブリーツを襲う。ブリーツは、なんとかそれを避けつつ、ファストキャストの魔法で牽制したり、ウインドバリアを張り直したりして致命傷を避けている。


「うおお! こりゃまずいな……接近戦のがマシかも?」

 隣のナイトウォーカーの爆発音を聞いて、既に三体のナイトウォーカーが撃墜された事を認知したブリーツが、誰に話すでもなく言った。

「しゃーなしだな……」

 ブリーツは腹を決めてゼゲの群れへと飛び込む。ブースターを吹かして一番近いゼゲに接近し、剣で横に切る。

「まず一体!」

 ゼゲが両断される。次に、その隣のゼゲにも斬りかかったブリーツだが、そのゼゲは後ろに一歩下がり、致命傷には至らなかった。


 ゼゲのローラーが地面と擦れ合う音が、周りのそこかしこから聞こえる。ゼゲが一斉に接近戦を仕掛けてきたのだ。ブリーツはいくつもの剣撃を受け流さなくてはならなくなった。

「おいおい!」

 正面のゼゲの剣を弾き、すぐさま後ろからの攻撃を受け止める。正面のゼゲが再び斬りかかってくると、それを機体の角度を変えて、どうにかかわす。ブリーツは二体を相手に防御するのが精一杯だ。しかし、そんなことはお構いなしに襲い来る三体目のゼゲの剣先が、ブリーツのナイトウィザードを襲う。

「……ぐ!」


 ブースターを吹かし、二体目のゼゲを、受け止めていた剣もろとも無理やり押しかえした。が、次の瞬間に、ギリギリという音を耳に入れたブリーツは、事態の深刻さを自覚するしかなかった。

「うおお!」

 ギリギリという音は、三体目の剣撃を回避できる程は押し返せずに、ゼゲのブレードによってナイトウィザードの装甲が引き裂かれた音だ。ブリーツのナイトウィザードは、左肩からほぼ垂直に、まともに斬り付けられてしまっていた。

「く……まだなんとか動くか」

 切り離されはしなかったものの、その傷は浅くはない。しかし、それ以上に、ゲゼを無理やり押し返した反動の方が問題だ。余りにも前のめりになり過ぎ、最早、他のゼゲの攻撃には対応できなくなっている。


「はあ……これまでか……」

 ブリーツが折角の新機体を大破させられるのを残念がっている時だ、ブリーツの周りの二体のゼゲが爆発し、その場に倒れ込んだ。

「おっ」

 ブリーツはそれを見て、周りに居る残りの一体のゼゲに、一太刀を浴びせた。ゼゲは他の二機が一瞬で撃墜させられたことによって戸惑っていたようで、それを大破させるのには。無理な体勢からの一太刀でも十分だった。


「なんとかなったのか?」

「囮役くらいには役に立つみたいの、ブリーツ」

 体勢を立て直しつつ周りの様子を確認するブリーツに、サフィーが通信で話しかけた。


「ははっ! まあな!」

「ちょっと! 自慢げにしないでよ!」

「ええっ!? じゃあ何で褒めたんだよ」

「皮肉言ってるんでしょ!」

「そうだったのか? 理不尽だな……」

 ブリーツとサフィーは、そんなやりとりをしつつ、ゼゲを片っ端から倒していく。


「いいなあ、その機体……欲しいなあ……」

 ブリーツが物欲しげに呟いた。

「ふっつーのナイトウォーカー相手に何言ってんの! こんなのでよけりゃ、砦に戻ったら山ほどくれてやるわよ!」

 サフィーや、他の多数のパイロットが乗っているナイトウォーカーは、魔法文明が色濃い地域全てで見ても、一番生産数が多い機体だ。今のセリフは、ナイトウィザードのような、ある意味エクスリーゼ並に希少な機体を授けられたブリーツが言うセリフではない。

「マジ!? 売り捌けば相当な額になるぜ!」

「あーっ! 冗談だって! 何であんたは冗談ばっか言ってんのに、私が冗談言ったらまともに受け取って返すのよ! 鬱陶しい!」

 サフィーが苛立ちをぶつけるように、周りの二体のゼゲを両手に持った剣で、それぞれ斬りつけた。


 サフィーのナイトウォーカーは、両手の剣をうまく操り戦っている。ゾバの攻撃を片方の剣で受け流し、もう片方の剣で斬り付けたり、両方の剣でX字に両断したりして立ち回っている。

 サフィーのナイトウォーカーは、二刀流に加えてブースターを重視しており、近接に特化されている。また、サフィーの剣術の腕も中々のもので、ブリーツのナイトウィザードよりもテンポ良くゼゲを倒している。

「いやいや、冗談に冗談を返しただけだって」

「それはそれで、更に鬱陶しいっ!」

 サフィーが更に一体のゼゲを、二本の剣で十字に切り裂いた。

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