30.脱出

「なんだか分からないけど、急いだ方がよさそうね。小さなことの後には、大きなことが起きるもんでしょ」

 奇妙に動く小石に、そこはかとない嫌な予感を感じた杏香は言った。

「同感だ」

 杏香の言った言葉にブリーツも同意すると、四人は急いで、出口から続く暗い階段を、明かりも無しに駆け上がっていった。


 しかし、扉は四人が期待したようには動かなかった。

「嘘っ! 開かない!」

 サフィーが動揺して、叫んだ。

「内側からカギがかかってんじゃねーの!?」

「内側はこっちでしょ! でも……」

 サフィーは鍵らしきものを探したが、暗さや焦りが手伝って見つけられずにいた。

「見て、大型の動物は、あたし達と同じように、ここで立ち往生してる」

 杏香の指差す先を、一同が観察する。大型の犬や子供のワムヌゥ等、大型の動物がたむろしている様子が、暗がりの中で目を凝らすと辛うじて分かった。

「鼠やカラスは居ないわ」

「暗くて見えにくいからじゃないの?」

 サフィーが、なおも目を凝らしながら言った。

「いえ、この状況から考えると、歪んだ扉の隙間から出たんじゃないかと思う」

「なるほど、俺達は逆に、扉が歪んでるから開かなくなって外に出れないって事か」

「笑えないわね、それ」

「すまないな、さすがにこういう時にギャグは言えん」

「いや、ギャグもつまらないから」

「なぬぅ~!?」


「扉から離れて! あたしがやる!」

 杏香は属性銃ハイブリッドブラスターを腰から引き抜き、属性弾を込めた。

「でさ、悪いけど、背中、押さえててくれる? これ、反動が凄くて……」

 そう言いながら、杏香は属性銃ハイブリッドブラスターを構えた。

「おお! 任せろ任せろ!」

「ブリーツ! あんた、変な所触ろうとしないでよ!」

 やけに機嫌のいいブリーツに不安を覚えたサフィーは、釘を刺した。

「<風>と<圧>重衝撃波ウィンドプレッシャー!」

 杏香が、三人に支えられながら引き金を引いた。杏香に、そして三人に、強力な衝撃が伝わる。すると、扉は大きな音を立てながら剥がれるように吹き飛び、そこから光が漏れた。

「ぐ……」

 完全に仰け反っていた杏香は、両側の壁に手をかけ、無理矢理に前に体を押し出して体を起こした。

「ありがとう、行きましょう!」

 そう言って、杏香が駆け出した。三人もそれに続く。


 四人が階段を上りきると、そこはサフィーとブリーツにとって馴染み深い、いつもの廊下だった。いつもと違う点といえば、更に強くなった振動くらいだろうか。

「……っ!?」

 周りの様子を見ていた杏香は、凄い勢いで宙を舞い、こちらへと向かってきていた砦の瓦礫を発見した。

「属性弾<炎>!」

 それを急いで、予め装填してあった炎の属性弾で、杏香が撃ち落とした。バラバラになった瓦礫の破片が四人に降りかかる。

「普通、こういうのは下に落ちるよな? 随分非常識な瓦礫だな」

「非常識なのは、こんな時に冗談言ってるあんたよ! とにかく、ここにいたら危険だわ……あそこ! あそこの窓から出ましょう!」

 サフィーはブリーツに突っ込みつつも、近くの窓を指差した。

「属性弾<炎>!」

 杏香は窓に向けて属性弾を放った。属性弾は命中すると爆発し、窓とその周辺を破壊した。

「これが属性銃ハイブリッドブラスター……凄い威力……マクスン副師団長、もしかして本当に……」

 サフィーがぼそぼそと言い、杏香の方に目線を向けようとしたその時だった。

「……危ない!」


 カノンが叫んだ。新たな瓦礫がサフィーの間近に迫っていたのだ。

「え……キャ……!」

 マクスンのことに気をとられていたサフィーは、とっさに動くことができず、その場に立ち尽くしている。

「属性弾<炎>!」

 杏香が、サフィーに迫った瓦礫を破壊した。

「杏香!」

 カノンが再び叫ぶ。別の瓦礫が杏香の方へも迫っていたのだ。

「く……っ!」

 杏香は急いで、自らに迫る瓦礫に属性銃ハイブリッドブラスターを向けた。しかし、とても間に合いそうにないと、自分でも感じている。

「間に合わ……!」


 次の瞬間、瓦礫が砕かれた。杏香は属性弾を発射していない。

「大丈夫か!?」

 杏香の耳に、ブレイズの声が聞こえた。

「ブレイズ! 何とか大丈夫よ! 良くここが分かったわね」

「派手な爆発が見えたからな。もしやと思って覗いてみたら、杏香達が居たんだよ。危ねえ所だったじゃねえか」

 杏香が上を向くと、その先には天井の隙間から覗いているWGウォーゴッドΣシグマの姿があった。

「随分、精密なことが出来るようになってたのね。見直したわ」

「へっ、舐めんじゃねえ。どれくらいこいつを使ってると思ってんだ!」

「ふ……そうだったわね」

 暫く離れていたからなのか、それとも本当にたくましくなったのか。杏香には初めて、ブレイズが頼もしく見えた。


「ちょっと待っててよ、今からそっちに……」

「乗れよ、杏香!」

 ブリーツの声が聞こえたと思ったら、不意に、WGウォーゴッドΣシグマの腕が壁を突き破り、目の前に現れた。

「うわっ!?」

 四人がほぼ同時に叫んだ。大小さまざまな破片が舞い散り、四人は思わずその場に伏せた。

「ちょっとっ! 乱暴過ぎるわよ! さっきの言葉、撤回するわ! 撤回!」

 杏香がWGウォーゴッドΣシグマの方を向き、腕を振り上げて怒った。

「わりいわりい、まあ乗れよ」

「全く……瓦礫で死ななくったって、WGウォーゴッドΣシグマの手か壁に当たったらさ……」

 杏香がぶつぶつと文句を言いながらWGウォーゴッドΣシグマの手の平に乗った。

「お邪魔しまーす」

 ブリーツも杏香に続き、WGウォーゴッドΣシグマの手の平に乗り、他の二人もそれに続いた。

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