28.超古代の文明
「ザ……ンガ……師団長……?」
マリーは、そう言い終わる間にもザンガが何をやったのかが理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「マリー君や、儂はおぬしを……いや、おぬし達を甘やかし過ぎたのかもしれんな。じゃが、今更どうすることもできん。儂もまた強欲。これだけは譲れんのじゃ。生涯を賭けた復讐はな」
ザンガは躊躇いも無く、更に何回も、ナイフでマリーの胸を突き刺した。そのナイフは、的確に心臓に狙いを付けられていた。
「あ……あ……」
マリーの口から血が溢れ出る。
「マリー君、すまないが、君にも儂の復讐の糧となってもらうほか無くなってしまった」
「い……嫌……!」
マリーは離れようと思ったが、その前に、ザンガの突き上げたナイフが首を貫いた。
「お……おおっ! なんか動けるぞ!」
ブリーツが歓声を上げて、飛び起きた。
「サフィー!」
急いでサフィーの元に駆け寄る。
一方で、部屋のほぼ中央では、杏香達が相変わらず、サフィーに必死に心肺蘇生を施していた。
「……ごほっ、がはっ!」
「良かった、気が付いたみたい!」
杏香がザンガを無視して必死で心肺蘇生を行った甲斐があって、サフィーが勢いよく水を吐き出した。それを見た杏香はほっとして、思わず声を上げた。
「どわっ! なんつータイミングだ!」
ようやくサフィーの所に辿り着いたブリーツだったが、心肺蘇生を変わろうと思ったところでサフィーの目が覚めたので、ブリーツは思わず、頭からずっこけた。
「う……ここは……そっか……私……」
「『ここは……』って、お前がゴーモンされてた所だろ、特に移動してないぞ」
ブリーツは、擦れた顔をさすりながら言った。
「そ、そんなこと分かってるわよ! つい口に出ちゃったんだから仕方ないじゃない!」
「うおお、おっかねえ! 全然元気じゃねーか!」
予想外にいつもと同じ突っ込みが帰ってきたので、ブリーツは思わずたじろいだ。
「うう……全然元気じゃないわよ。頭もぼーっとしてるし、体中ずきずきする……ブリーツ、状況は?」
サフィーは上半身を起こすと、ブリーツに問いかけた。
「えっと……師団長は絶賛呪い中で、サフィーはこの人が助けてくれて……」
ブリーツが杏香を指差す。
「オレンジ髪の女……! マクスン副師団長はどうしたの!?」
サフィーは、杏香を見るなりその場から飛び退いた。
「待って、話は後! ……の方が、今は色々といいと思わない?」
「そうしてもらえると助かります。こいつ副師団長のことになると頭に血が上っちゃってねー。ほらほら、命の恩人に失礼なことしちゃ駄目だろー、ありがとうございましただ。はい、ありがとうございましたー」
いつの間にかサフィーの背後へと移動していたブリーツは、サフィーの頭を片手でつかみ、自分と一緒にお辞儀させた。
「ぐ……ブリーツ!」
サフィーが乱暴にブリーツの手を払った。
「いやいや落ちつけってサフィー、この状況じゃ、こうする他に手は無いだろう?」
「……確かに……そうだけど……!」
ブリーツは普段から冗談ばかりでイライラさせてくれるが、ブリーツが言った今の言葉はもっともだ。サフィーは怒りを無理やり落ち着けて、周りの様子を見てこれまでの状況を整理しながら、なんとか頭を整理しようとした。
「
杏香の目に、ザンガの服や手が、血で真っ赤に染まっている様子が映った。
血みどろのザンガの一緒に、ザンガの足元に横たわって微動だにしない誰かが見て取れたが、杏香はそれを気にせずに話を始めた。
「マズローさんから? 愚痴の言い場に困って
「いえ……何でもない」
サフィーは杏香の冗談の言い方が、若干ブリーツに似ていたので、反射手金いジトりと怪訝な目つきで杏香を見た。
「いやいや、彼なりに評価はしておったようだぞ。貴重な戦力だとな。ただ……色々とやってもらいたいこともあってな。場合によっては杏香君を嫌っていた風に見えたかもしれん。最近だと、暗殺者の件かのう……」
「あ……あの時……!」
カノンが杏香の後ろで呟いた。
杏香も溜め息混じりに「……心当たり、すっごくあるわ」と肩を落とした。
ここで
「マズローと、我が暗殺部隊に、その実力を計らせたのじゃ。杏香君と、その武器……
「なるほど……で、あの程度だったら、ここへと誘い込んでも良かったってわけね」
「いや……正直、全員がやられるとは思わなかった。模造品の弾しか満足に供給できない状態の
「なっ……それって……このティホーク基地に駐留している部隊全員が、ザンガ師団長のわがままに振り回されてたってことなの……?」
サフィーの顔から血の気が引いていき、見る見るうちに青ざめていった。
「すまんのう……サフィー君の言う通り、一個師団全てを……いや、国もじゃな。騙し続けることになってしまった。じゃが、儂にもこのティホーク砦とティホーク砦守備師団には思い入れがある。せめて、できることならこの砦は守りたかったんじゃが……それでは確実さに欠けるんじゃ。すまんのう」
そう言うと、ザンガは俯き、口ひげを何回か擦り、続けた。
「ふむ……せめてもう少し、情報を早く伝達できれば良かったのじゃが……あちらとこちら、どちらにも怪しまれないためには、通信も魔法も使わないようにする他なかったのでな」
「……そんな問題じゃない!」
サフィーは拳を強く握りしめた。
「私達の戦いは……この砦を守るための戦いは何だったっていうの?」
「それについては心配無かろう。例え誰に仕組まれた、何の為の戦いであろうと、この砦を守っていることには変わりは無いのじゃ。だから儂はこの砦だけは……」
「屁理屈よ!」
サフィーは、ザンガの話を遮った。そして、剣を抜き、正面からザンガに突き付けた。
「……ほう、儂を殺すのかね、サフィー君」
「気安く呼ばないで、ザンガ。この戦いが貴方に仕組まれたものなら、私は貴方を師団長と……仲間と認めるわけにはいかない」
「……よかろう」
ザンガは不意に、勢いよく数歩前進し、サフィーの手を掴み、自分の方へと引き寄せた。
その行動を予想だにしていなかったサフィーは、ザンガの思うがまま動かされるしかなかった。
「なっ……!」
ザンガの胸に、サフィーの剣が突き刺さり、鮮血が飛び散った。
「ザンガ……師団長?」
サフィーが呆然と言った。
「すでに呪いは発動しているのでな。
「そんな……こんなんじゃ、納得なんて……」
「おお……そろそろじゃな……これで……儂は……」
ザンガは、己の胸から黒い煙のような光が放たれているのを見届けると、目を閉じた。
「師団長……何なの……一体……」
崩れ落ちるザンガを尻目に、サフィーは呆然と立ち尽くした。
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