36.活栖杏香
「あ……! 二番コックピットのハッチ、開いてる」
「なっ……杏香!? 大丈夫か杏香!」
カノンとブレイズは戦慄した。杏香のコックピットが開いているのだ。七つ目がこじ開けたのだろうか。この状況でコックピットが開いている状態は、あまりに危険だ。
「大丈夫、自分で開けたの」
「自分で? だから、危ねえって!」
「分かってる! けど、これしか方法が思いつかないの!」
杏香は
「<光>と<心>
「やった! ブレイズ、急いでブースター最大出力!」
「お、おう」
七つ目が怯んでいる隙に、頭部を掴んでいる七つ目の手を
「ふう……どうにかなったな。さすがだぜ、杏香」
「そ、それほどでも……ない……わよ……」
杏香が苦しそうに言った。
「ん……どうした杏香……何やってんだ?」
ブレイズが二番コックピットにモニターを切り替えると、妙な体位の杏香が映し出された。
杏香は上下逆さまにひっくり返っていた。シーツに乗っかった頭は窮屈そうに横に捻られていて、足は大股を開いたまま、重力に任せてぶらりと垂れ下がっている。
急いでコックピットを閉じたまでは良かったのだが、体を固定しようとシートベルトを掴んだ瞬間に急発進してしまったのだ。杏香は顔を赤らめた。こんな状態を見られるのは恥ずかしい。
「な、何でもないわ。ほら、人のコックピット見てる場合じゃないでしょ! それより、気になることが……前!」
杏香は体勢を直しながら言った。ノイズは酷いが、走って
「ちっ、もう来やがったか!」
ブレイズは
次の瞬間、七つ目は横からの強い衝撃に押されて吹き飛んだ。
「よう、そっちも無事みたいだな」
ブリーツが言った。ブリーツのフルキャストのエクスプロージョンが命中したのだ。範囲魔法であるエクスプロージョンは、巨大な七つ目にとっては同程度の単体魔法よりも効き目があり、
「そっちも、そんなちっこいのでよく耐えたじゃねえか」
ブレイズが言った。
「いやー、七つ目がそっちに行ってくれなかったら、どうなることかと思ったよ。それよりオレンジ女、俺も見てたんだけどさ、さっきの」
「ええ……それが気になったんだけど……あいつ、絶対怯んでたと思うの」
「そりゃ、いきなりあんなの手に当てられたら怯むだろ、痛えもん」
何故、それが気になるんだと言わんばかりに、ブレイズがさらりと言った。
「……と、呪いを自分と同じように考えるブレイズは頭がおかしいと思うんだけど、ある意味ではブレイズの考えは合ってそうだって思うの。あれには知能があって、感情もあって、痛覚もあって……」
「んで、嫌なのは光属性ってことか」
ブリーツは言った。
「そう、そういうこと。ブリーツ、貴方、光属性の攻撃魔法は使える?
「うんにゃ。俺もそれ、考えたんだが、使える奴居ないなーって思って……そっちのちっこいのは使えないのか?」
「使えない」
カノンがかぶりを振りながら言った。
「カノンはまだ魔法の勉強中で、基本の魔法しか覚えてないの属性は炎と……」
「水と風。光は少し、難しい」
「そっかー……」
「てか、あんた、あの呪いのこと知ってるんでしょ? 解き方くらい分からないの!?」
考え込むブリーツに、サフィーが言った。
「いや、俺だって噂程度にしか聞いたことないんだから、知るわけないじゃんか。むしろ都市伝説かと思ってたよ、そんなの」
「噂で聞いただけ? ……いえ、そうよね。ブリーツがそんなこと知ってる筈ないわよね。全く、解呪の方法くらい、その時に聞いときなさいよね……」
ぶつぶつと愚痴のような言葉をブリーツにぶつけるサフィーだったが、それを聞いているうちに、ブリーツの脳裏にある考えがよぎった。
「解呪……か……一つ思いついたんだが……うーん……」
ブリーツが言い辛そうに杏香に言った。
「何かあるのね? 分かった。今はどんな可能性にも賭けたいわ」
「失敗しても恨まないでくれよ」
「恨まないわよ。で、何すればいいの?」
「外側を壊して、あいつの水っぽい部分を剥き出しにしてくれればいい。でも試しにやってみるだけだからな!」
「分かった。ブレイズ、カノン、それでいい?」
「……うん」
「おう! 要は壊しゃいいんだろ、壊しゃ!」
「えーと、副師団長とサフィーもいいか?」
「ええ、OKよ」
「俺もだ。各機、一斉に畳みかけるぞ!」
マクスンの号令を受け、六人と四体は一斉に動き出した。
「すまん、ちょっと隠れさせてくれ」
「え……ちょっと、何やってんのよ!」
ブリーツは
「あんたの
「いや、周り見てみろよ、木なんて一撃でポキンだぜ?」
「そんなこと言ったら、ナイトウォーカーなんてもっと脆いでしょ!」
「なら、私が上がろう。魔法の詠唱をするのだろう?」
マクスンの
「この機体ならば、あの瓦礫の二、三発は耐えられる。詠唱範囲くらいまでなら、近付いても耐えられるだろう」
「流石副師団長、頼りになる!」
「すいません、副師団長」
サフィーが申し訳なさそうに言った。
「必要なら、当然やるまでだ。行くぞ、ブリーツ!」
「はい!」
ブリーツとマクスンは、それぞれ
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