37.魔踊剣舞
「ここら辺で大丈夫っす。さて……
迫って来た巨大な瓦礫に驚き、ブリーツは詠唱を中断した。が、その瓦礫は二門の魔力砲の同時発射によって砕かれた。
「何をやっている! それでは私が壁になっている意味が無いだろう!」
「全くです。面目ない。
「おお! 効いてるぞこれ! やっぱなー。光属性が嫌いで、力の源が呪いなんだったら、解呪の呪文でどうにかなると思ったんだ」
ブリーツの放ったディスペルカースに押されるように、七つ目の液体部分は徐々に少なくなっていく。
「解呪の呪文を指向性のエネルギーにして飛ばしたの!? 何て出鱈目!」
「へえ……強引だけど、とんだ芸当じゃない。惚けてるだけかと思ったけど、やるわね」
サフィーは驚愕し、杏香は感心した。
「凄い……」
「何だ、そんなに凄いのか?」
驚くカノンの声を聞いてブレイズが言った。
「凄いの……」
カノンが繰り返した。
「魔法の本来の性質をがらっと変えたのよ。ある意味、新しい魔法を開発したことになる」
続いて杏香も言った。
「こんなの、普通の魔法使いには出来ないことだわ。初めて会った時からいい加減な奴だと思ってたけど、ここまでいい加減だなんて……」
更にサフィーも続く。
「いえ……新しい魔法の開発とも違うのかしら。理論をすっ飛ばして、即興でこんなこと……って、ブリーツ!?」
杏香は目の前の状況を見て、思わずブリーツに声をかけた。
「だめだ、これ、限界……」
「情けないわね、もっと頑張りなさいよ!」
ブリーツの力無い声とサフィーの罵声が、一同のコックピットに響く。
「そうしたいけどさ、魔力のキャパってもんがあるのよ、キャパが」
「魔法なら気合で何とかなんねえのか、気合で!」
瓦礫を、
「無茶よ、ブレイズ。魔法の効果なら、精神的な要因である程度変化が起こるけど、個人の持っている魔力量はどうすることもできない。しかも、本来の魔法の使い方じゃないんだし、きっと魔力の消費も通常より激しいでしょう。手詰まりね」
杏香は残念がりながらブレイズに言った。
「……来る」
カノンが、七つ目が再び動かなくなって、瓦礫を吸い始めたのに気づき、呟いた。
「ひえー、疲れきったところにこれか、しんどいなー」
ブリーツが言った。さっきと同じで、七つ目に向かう瓦礫が急激に加速している。
「各機、攻撃よりも防御に重きを置け!」
マクスン副師団長の命令が四体のコックピットに響き渡る。
「賛成。どうせ削り切れないんだから、戦力は温存して、相手が放出するのを待った方が懸命だと思うわ」
「了解だ、でもその後はどうすんだ?」
「それはこれから考えないといけないわね。正直、お手上げ状態だけど。そうそう、カノン、もう魔法使っても大丈夫よ。魔法でも無理みたいだから」
「……ううん」
カノンはかぶりを振った。
「え?」
魔法を我慢し続けていたカノンから意外な答えが返ってきたことに杏香は驚き、聞き直した。
「考えがあるの。魔力は消費したくない」
カノンは静かに答えているが、そこ声に固い意志や覚悟等が混じっているように、杏香には思えた。
「カノン……一体どんな考えなの?」
「私をブリーツの機体に乗せて」
「ブリーツの機体に? ……なるほど、ブリーツに魔力を供給するのね」
杏香はカノンの言葉を聞いて、カノンが考えていることを察した。
「……そう」
「確かにカノンの魔力量なら可能かもしれない。それでも微妙なところだと思うけど……やってみる価値はあるわね」
杏香はそう言いながら、
「ブリーツ、話は聞いた?」
「了解だオレンジ女。受け渡しはどうする?」
「強引だけど、この場で今する。で、あの爆発のすぐ後に魔法を打ちこむ。それが一番、外側が薄くなる時だと思う。これが最大の、しかも唯一のチャンスでしょうね。だから、受け渡しを出来るだけ安全にしたいと思うんだけど……」
「我々の力が必要ということだな。了解した」
マクスンはそう言うと、
「度々すいませんね、副師団長」
ブリーツはそう言いながら、
「やっぱ……でけえな……」
ブリーツは
「うー……どいつもこいつも、おっかねえな、全く」
「準備はいい? せーのでハッチ開けるから、そっちも同時に開けて。で、カノンはすぐに乗り移って」
「ん……了解だ」
ブリーツは、杏香の声で、思い出の世界から現実に呼び戻された。怖がる時間も無いらしい。
「いくわよ、せーの……!」
「杏香」
「何? カノン」
「これ」
カノンはポケットからスマートフォンを取り出し、杏香の鼻先に突き出した。
「これは……」
「これがあると、魔力が弱まるから……」
「なるほど。確かに、万全を期すには邪魔だものね」
「大事に……持ってて」
「分かった。気兼ねなく行ってらっしゃい」
「……うん」
カノンは
「おっと、ようこそ
勢いよく飛び込んで来たカノンを、ブリーツが抱えた。
「……ハッチ、閉めた方がいい」
「ああ、そうだな。ちょっとばかし窮屈になるけど、我慢してくれよ」
ブリーツはコックピットハッチを閉めた。
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