2.WG-Σ
「くぉらあっ! いきなりとんでもない動かし方するなぁーっ!」
「るせえっ! 人に命令すんじゃねえ!」
対峙した敵を恐れさせ、
「……すごいG」
腰部コックピットに座っている、水色の髪のショートヘアの女の子が、ぼそりと言った。
「ほら見なさいよ、カノンだって驚いてるじゃないの!」
左胸部コックピットに座っている、自称明るい茶色髪、客観的にみるとオレンジ色の髪をしている
傭兵である杏香はブレイズのように制服は着ていない。かといって、物々しい迷彩服を着ているわけでもなく、半袖Tシャツにキュロットスカートという、カジュアルでシンプルな格好をしている。杏香にとっては一番しっくりきて、動き易い服装だ。
「お前だって何回もやってんだろうが!」
右胸部コックピットのブレイズも叫んだ。燃え盛るような真っ赤な髪で、同じく燃え盛るような髪型をしている。真っ赤な瞳は怒りで充血し、さらに赤くなっている。
ブレイズはテルジリア共和国の制服を身に着けているが、一般的な制服とは見た目が全く違っている。ブレイズ自身が適当に裁断し、適当にピンで留めて加工してしまったため、かなり奇抜な見た目の制服になってしまっているのだ。
「あたしは緊急の場合にしかしないわよ! あんたは無駄にブースター吹かしてるだけでしょうが!」
「……二人とも、うるさい」
カノンがぼそりと呟いた。カノンはノースリーブの白い服と、短めのスカートといった、魔法文明でよく見られるバトルドレスを纏っていて、首には青いスカーフを巻いている。
バトルドレスは着ているだけで魔力を高めるもので、その名の通り、一般的なドレスを戦闘用に動きやすく、手足の丈を縮めたような洋服だ。なので、ドレスというよりは、肌の露出の多い、ダンサーやアイドルが来ている服に近い印象に、見る人には映るだろう。
杏香とブレイズは、さっきから口喧嘩を通信機から垂れ流しつつ、ボタンやキーをしきりにいじって操縦系のコントロールの奪い合いを続けてばかりだ。おかげで
「……二人とも?」
「うん!?」
先に気付いたのは杏香の方だ。
「ああ……ごめん、つい熱くなっちゃったわ。でも、もうここでの戦闘にはひと段落ついたし、戦力も十分奪って、敵機も撤退してんだから、とっとと次のポイントに向かった方がいいわ」
杏香はそう言いつつも、ブレイズと操縦系のコントロールの奪い合いを続けている。
「まだあんなに敵が居るじゃねえかよ! それにほら! あのオーブ持ってるナイトウォーカー、あいつ、俺のコックピット狙ってきやがったんだぜ、一泡吹かせねえと気が済まねえ!」
鼻息荒く怒り狂うブレイズの視線は、目の前のナイトウォーカーに釘付けになっていた。そのナイトウォーカーの左脚部からは火花が舞い散り、所々装甲がはがれ、剥き出しになった所からはコード類が雑然と飛び出ている。
「……でも無事だった」
カノンが言った。
「全くね。装甲貫けるような攻撃じゃなくて良かったじゃない。……ほら、もうあちらさん、後退してくわよ」
「後退が何だ! 俺は後頭部強打したんだぞ!? 俺はあいつだけは倒すんだよ!」
ブレイズはそう言うと、火器管制系のコントロールを杏香から奪い、ガウスガドリングを発射した。その先には逃げる二体のナイトウォーカーの姿がある。一体は例の右脚部を損傷しているナイトウォーカー、もう一体は、それを抱えているナイトウォーカーだ。
「こらっ! 無駄弾打つなっ!」
杏香がコントロールを奪い返した。
「おい、何すんだよ! もうちょっとなんだよ!」
ブレイズも負けじと、更にコントロールを奪い返すと、ガウスガドリングの照準レバーに付いている、同じくガウスガドリングの発射トリガーに指をかけた。
「ああ……もうっ!」
杏香は、そう叫ぶと、これまでとは違ったボタンとキーの操作をし始めた。
「もー……これやると、あたしが怒られるんだからね、教育はどうなってるんだって。全く、あんたみたいのがいると、退屈しないわ。苦労はするけど……はい!」
杏香の声と共にガウスガドリングの音は止み、
「全く……コントロールの強制奪取とか、妙な機能の操作方法だけは覚えてるんだから。嫌になっちゃうわ……」
杏香はため息を軽く一回ついた。
「あっ! 杏香! ロックかけやがったな、汚ねえぞ!」
コックピットの中は、相変わらず賑やかだった。ブレイズは、杏香が火器管制のコントロールを奪い返し、さらに操縦系のコントロールも奪ったことに腹を立てている。
「あんたがそうやって暴走するから、あたしとカノンだけしかロック出来ないようにしたんでしょ!」
杏香は叫んでブレイズに言い聞かせると、ちらりと前を向いた。前には外の風景が広がっている。勿論、それは杏香自身の肉眼を通して見ているわけではなく、拡大、縮小のできる、外付けのカメラを通して見ている風景だ。
メインカメラは
「あちらさんは逃げたみたいね」
杏香の言葉に返したのはカノンだ。
「……罠じゃなかった?」
「かもしれない……っていうか、十中八九、そうだけど、完全に罠じゃないとも言い切れない。今ならあの二機に追いつけるけど……」
「危険」
「そうね。戦力は無効化できてるから、わざわざ深追いしてリスクを冒す必要は無いわ。ここで、あの二機だけに時間を割くのは、この
「……うん」
カノンがこくりと頷く。
「くそっ! 理不尽だ! 理不尽過ぎる!」
ブレイズは、自分で操縦できないもどかしさと、色々な事への怒りで頭が一杯になり、コックピットで暴れ出し始めた。
「なんか、ガンガン鳴ってる」
「例によって例の如く、暴れだしたのよ」
杏香の言う通り、ブレイズはコックピットで暴れ、そこら中を思い切り殴ったり蹴ったりしている。
「はいはい、そうやってストレス発散してなさい。こっちは溜まる一方だけど……カノン、次の手近なポイントは?」
「D―24地点」
「オッケー、そこに向かうわ」
杏香は怒り狂っているブレイズを意識の中から除けて、次のポイントを目指して
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