20.次の任務
「考えれば考えるほど無茶よね、今回の任務は……」
杏香は顔深刻な顔をしながら腕組みをしている。目の前に広がる荒野が、その思いを更に加速させているのかもしれない。
「それにしても妙だわ……」
土煙を上げながら荒野を移動する
「さっきからそればっかじゃねえかよ杏香。ちゃんとレーダー見てんのか?」
「うん? ……うん」
杏香は曖昧な返事をした。誰かに敵の機体に見つかれば見つかるほど難しくなるのが今回の任務なので、杏香はいつも以上にレーダーには集中しているのだが、返事は曖昧だ。ある違和感が頭の中に纏わりつき、それについて考えることをやめられないでいることも確かなので、自分が本当に集中できているのか分からないからだ。
「杏香、この任務のこと、まだ気にしてる?」
カノンが心配そうに言った。
「ええ……だって、あれほど大切にしてた
カノンの言う通り、この前の、この任務に関する会議のことが、杏香の頭の中に未だにこびりついている。
「それに、
「私、大丈夫。魔力は完全に戻ってるって、なんとなく分かる」
「カノンが言うなら大丈夫なんだろうけど、未知の部分もあるし……あれだけのことがあったのに、あまり深く調べようとはしてなかったってのは、どうもね……」
いつものメディカルチェックも、これといって手厚くするわけでもなかった。
「確かにまあ……杏香の傷も、まだ治りきってないしな」
ブレイズも、思い出したかのように苛立ってきた。
「あたしは別に、いつも通り動けるくらいにはなってるからいいけど……いえ、それも引っ掛かるか……自分で言うのもなんだけど、今回の作戦では、あたしは肝の部分だし、命令する側だったら万全な体勢にはする筈よね……」
「
「そんなことだったら、これまでだって何回もあったわ。
「ん……そ、そうだな……あー……カノン……?」
「ブレイズ、分からないなら分からないって言った方がいい」
「うっ……」
カノンの冷静な分析が、ブレイズに突き刺さる。
「でも、私にも難しい……確かにおかしいけど……」
カノンが考え込む。
「カノンでも難しいのか。じゃあ俺には分からねえな」
ブレイズは完全に開き直り、そう言った。
「あんたね……あんたこそ、ちゃんと見てるんでしょうね、レーダー」
杏香が画面の左端に、ブレイズのコックピットの画面を映した。
「おお、勿論だ。さっきからずーっと見てる」
ブレイズが、つまらなそうに頬杖をしながらレーダーの方を見ている。見れば見るほど「一応」見ているように見えてくる。
「あのね……見てるだけじゃないでしょうねー、注意して見てんの?」
「……やってるよ。カリカリすんなよ。てか、会議のことなんてよく覚えてるなあ、俺なんて女
「くすっ……」
ブレイズとカノンの、堪え切れずに漏れた笑い声が、通信機を通して杏香の耳に入る。ブレイズにいたっては、足をバタバタとさせながら笑い転げている始末だ。
「もー、あんた達ね……あの突撃隊長のセンスでよく笑えるわね」
「だってよ、杏香が
「あたしゃ怪獣か! てか、それもう
「ふふ……あはは!」
カノンが声を上げて笑った。二人の絶妙な掛け合いが、なんとも面白いからだ。
「カノン、笑い過ぎだって……でも、ま、なんかリラックスしてきたかも。ありがとうね」
「へっ、考え込む杏香なんて、杏香らしくねえからな」
「なんか引っ掛かる言い方だけど……うん? これは……」
杏香は思わずレーダーを凝視した。
「あ……敵機、接近」
杏香の通信を聞き、カノンもレーダーを見た。
「すぐにブースターを止めて。この様子じゃ、気付いてなさそうだけど……」
「やっちまおうぜ、この数なら一瞬だ!」
「気付かれるの、良くない」
いつものブレイズの反応に、カノンもいつものように冷静に突っ込んだ。
「うん……なるべく気付かれずに行きたいところね。こいつらの動きに警戒しながらゆっくりと進みましょう」
なおも舞い上がっている土煙を背に、
この砂煙も誰かが気付かないうちに収まってくれればいいが……。杏香はそう思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます