39.スカーレットラースゴーレム
「ああ、問題無いぞ。とっととやっちまってくれ」
杏香の問いに、ブリーツが答えた。
「オッケー、あたしはガウスガドリングと榴弾砲を同時に操作するから、ブレイズはそのぐにゃぐにゃブレード頼んだわよ」
「了解だ。でも、大丈夫なのか?」
「防御面を考えなけりゃ、どうにかやれるわ。そっちもガンガン攻撃しちゃって!」
「へっ、面白れえ! こういうの、大好きだぜ!」
「うおおおおおお!」
マクスンの叫びが轟く。
「そろそろだぜ、準備はいいか?」
ブリーツがカノンに声をかける。
「……うん」
カノンはそう言って、ブリーツの手をきつく握りしめた。
「はー……」
ブリーツが溜め息ともとれる深呼吸をしながら、七つ目を見据える。
相変わらず周りの事を一切考えずに暴れている七つ目だが、
「よし……そろそろいくぜ?」
ブリーツがそう言うと、カノンは無言で頷いた。
「
「始まったか」
「タイミングはばっちりね!」
マクスンと杏香が、なおも攻撃を続けながら言った。
「おおおおお……!」
ブリーツは、自らの体内から急激に魔力が流れ出るのと同時に、カノンの手から引っ切り無しに流れ込む魔力を感じていた。
「凄えな……!」
カノンの魔力量に驚きを隠せないブリーツだが、そんなブリーツに七つ目の瓦礫が迫る。
「させんぞ!」
七つ目は、自らの体が削れているにも関わらず、なおも周りから瓦礫を吸い寄せ、それを
「おっしゃあ! いけるぜこれなら!」
ブレイズが叫ぶ。七つ目の体は見る見るうちに小さくなっていき、吸い寄せられる瓦礫の量も、目に見えて少なくなっている。
「しっかし凄いなあ、お前の魔力量。どんだけ底なしなんだ?」
「もうすぐ……尽きる」
ブリーツに流れ込む魔力が徐々に弱くなっていく。それに伴って、
「……へ?」
「でも、まだ絞り出せる。だから……」
カノンは徐にブリーツに顔を近づけた。
「むぷっ……!」
そして、カノンはブリーツの唇と自分の唇を深く重ね合せた。
「うん……ん……」
「ん……」
ブリーツは驚いたが、反射的に振り放そうとする気持ちをぐっと抑え、受け入れた。その意味を知っていたからだ。
魔力の受け渡しは、その方法を知っている者同士ならば、体を触れ合わせることで可能だ。だが、もっと効率的で強力な方法がある。それは体内から体内へ直接移動させること。そして、その方法の一つが「口付け」だ。
「んっ……んんんんんんっ!」
ブリーツは、カノンの口から驚く程の魔力が体内に入っていくのを感じた。底を尽きかけているといっても、元の量は膨大だ。ブリーツにとっては驚異的な魔力を、カノンは絞り出している。
「すげえ……!」
ブレイズはカノンと口づけをしたまま、もごもごと感嘆の声を漏らした。ディスペルカースの光は太く、力強くなり、それとは対照的に、七つ目はその体を削られ、徐々に小さくなり――遂にはディスペルカースの光に包み込まれてしまった。
「やったぜ!」
ブレイズが叫ぶ。
「まだだ!」
マクスンは声を張り上げた、ブレイズの叫びを掻き消すかのように否定した。
「まだ核が残っている!」
「核? ……あ!」
マクスンの言葉を聞き、杏香はモニターの倍率を拡大させた。すると、そこには透明で、それでいて濃い色をした、暗赤色の石があった。その石からは赤黒い液体がしみだして、ポタポタと地面に滴り落ちている。あれが七つ目の本体だ。
「あの状態なら、
杏香は
「おい、杏香!?」
「あれがある限り、七つ目は再生する! 急いであれを壊すのよ!」
「ちっ、面倒臭えな!」
ブレイズも
「だが、再生なんてさせねえ!」
ブレードを構えた
「うおっ、何だ!」
「ブースターが……!」
「なんてこと……七つ目の攻撃が、予想以上にダメージを与えてたのよ。それなのに最大出力を維持し続けてたから……」
「冗談じゃねえ! まだだ! まだ決着は付いてねえ!」
ブレイズはコックピットハッチを開けた。
「え……ちょっと、ブレイズ!?」
杏香は直感的に、嫌なことを感じ取った。
「まさか……生身で七つ目に突っ込む気!?」
「杏香だってやっただろうが! とどめだぜ化け物! うおおおおおおおお!」
ブレイズは案の定、コックピットからジャンプした。
「うわああああ!」
ブレイズの跳躍が七つ目まで届く筈がなく、ブレイズの体は為す術もなく落下を始めた。
「あの馬鹿! 届くわけ無いでしょうが!」
杏香は毒づきながらも
「<風>と<圧>
杏香は
「ブレイズ!」
抜け殻となった
「うわああああ……あっ!?」
杏香は抱きつくようにして、両手でブレイズの体を抱え込むと、その更に先にある七つ目のコアへと、視線を向けた。
「おおっ、ナイスキャッチだぜ杏香!」
「喜んでる場合じゃないわよ。チャンスは一回。その腰のブレード、有効に使いなさいよ」
「ああ、分かってる!」
ブレイズは腰のブレードを引き抜き、前に突き出すように構えた。
「うおおおおおお! 壊れろぉぉぉ!」
二人はそのまま七つ目へと突っ込んでいきブレイズのブレードの切っ先が、七つ目の核とぶつかり合った。
七つ目の核がカキンという一音を放ち、ほんの数ミリのひびが入った頃には、二人の体は核を通過し、核の遥か後方へと遠のいていた。
数ミリのひびは徐々に広がっていき、それが全体に達すると、一番間近に居るブレイズと杏香にも聞こえないほどの、小さな音を立てて、粉々に砕け散ってしまった。
「おっしゃあ! やったぜえ!」
核が砕け散ったことを知ってか知らずか、ブレイズは歓声を上げた。
「落ちながら燥ぐな!」
杏香の声も、荒れ果てた森林に木霊する。
「お疲れさん」
二人を受け止めたのは、
「おお、サンキュ、助かったぜ」
「どーいたしまして」
「へへっ、ブリーツだったか? 虫っぽい機体のパイロット、お前もよくやったじゃねえか。ちょっと降りて話しねえか?」
「……ああ、丁度いい。俺も話したいことがあるんだ」
「へへ……お互い、ゆっくりと
「ああ……そうだな……」
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