33.七つの目
「始まりやがったな」
ブレイズの気持ちが昂る。
「いくらお堅い騎士さん達でも、ここまで好きにやられちゃ黙ってられないんでしょうね。それか、師団長の代理でも来たのかしら……」
杏香がそう言いながら、
「どっちでもいいさ。向かって来る奴はぶちのめすだけだ……うん?」
「どうしたの、ブレイズ」
「おい杏香……ありゃ何だ?」
「ええ?」
ブレイズの不思議そうな声を聞いた杏香は、モニターを見た。
「んっ!?」
モニターに、なにやら異様なものが映りこんでいるのに気付いた杏香は、それを凝視した。
「目玉が六つか……中々グロテスクね」
モニターに映っていたのは、巨大な暗赤色の巨人だった。顔にはギョロっとした目玉が六つついており、体には大小様々な岩石と砦の瓦礫が纏われている。用心深く見ると、リーゼの残骸と思しき物も、それらに混じって体に付いている。
「呪い……」
カノンが呟いた。
「呪い? ……きっと、そういうことでしょうね。あれが、あのじーさんの呪い……この
不意に、杏香のコックピットに、ピピピと電子音が鳴り響いた。通信回線のオープン要求だ。
「通信? あの追っかけられてるのからね。リーゼがこの
「うん」
「良く分かんねえから任せる!」
カノンとブレイズが、杏香へ返答した。
「オッケー、満場一致ね。こちら
「おーい! 皆助けろー! おおっ、繋がった!
「うわ……いきなり名指し……というか、色指しされちゃった……人にファイアーボール打っといて、なれなれしい奴ねー。っていっても、狙いは多分これなんだから、受けて立つしかないでしょうね。そこの追っかけられてるの、助けてやるから、とっととこっちに来なさい!」
「言われなくても行ってるっつーの!」
「オッケ、胸部ガウスガドリング、ターゲット、あの七つ目! 発射するわよ!」
杏香はそう言い、ガウスガドリングを発射した。
「ん?」
杏香が違和感を感じる。遠目とはいえ、見た感じ、七つ目はガウスガドリングをまともに受けているように見える。が、どういう訳か、その勢いは衰えていない。
「何だ!? 効かねえのか!」
「再生……してる」
ブレイズとカノンがほぼ同時に声を発した。杏香はモニター越しに七つ目を観察している。
「本当だ……」
杏香は少し身震いした。
七つ目は周りの岩石やリーゼ、そして、背後の砦からも様々な物質を引き寄せ、七つ目自身の体へと吸い付かせている。完全に七つ目に貼り付いた物体は、灰色の岩石だろうと白いナイトウォーカーだろうと、七つ目に張り付いた途端、暗赤色の液体が染み込んでいくかのように暗赤色へと変色している。杏香にはそれが、おどろおどろしい呪いの概念そのものに見えた。
「榴弾砲でいくわ。角度を地面と平行にして……」
x座標をゼロに、y座標は気にせず、杏香は正面に榴弾砲を発射した。
弾は一直線に七つ目に向かって宙を走り、命中、爆発した。
そして弾に当たった七つ目は、その体を大きく仰け反らせた。
「ナイス! オレンジ女!」
ブリーツはそれをきっかけに、七つ目と大きく距離を取った。
「いや、通信が通じて良かったぜ」
ブリーツは改めてほっとした。現在では、リーゼから
榴弾砲による爆炎が晴れると、右半身の瓦礫が剥げ、剥き出しになった七つ目の本体が現れた。杏香はその本体の見た目や様子から、本体の全体像は、暗赤色の水が人型になったような形をしていることを推測した。
「こりゃあ……凄いな」
ブリーツがまじまじと七つ目を見る。外側の瓦礫はは吹き飛んでしまったが、内側の水のような体は、ブリーツの見る限り無傷に見える。それどころか、既に外側の吹き飛んだ部分が半分近く再生している。
「……ガウスガドリングを!」
杏香がすかさず胸部ガウスガドリングの狙いを剥き出しになった七つ目の本体に向けて発射した。
「命中は……している筈なのに……!」
杏香は、明らかにむき出しの部分に胸部ガウスガドリングが当たっている様子を目にしている。にもかかわらず、七つ目は微動だにしない。
「効かねえのか!?」
ブレイズが叫んだ。
「通り抜けてる。どうすれば……」
杏香は目の前の異形に、恐れすら抱いている。
完全に再生し、本体を瓦礫で包んだ七つ目は、
「来やがったな!」
「ひとまず、時間を稼がないと……!」
ブレイズと杏香の声が
「俺らも協力するぜ! っても、サポートくらいしか出来そうにないけどなあ」
ブリーツが、
「みんな、私達も巨兵の援護を! あんなもの放っておいたら大変なことになる!」
ブリーツに追い付いたサフィーが、オープン回線で呼びかけた。
「あれは我らの守護神だ! 今こそ
サフィーの耳に、男の声が響いた。サフィーは驚いた。
「えっ!?」
「おーい、違う違う。ありゃでっかい呪い人形だぞ? 今もなんか踏まれてるしー」
ブリーツの
「些細なことは気にするな!
男は更に叫んだ。サフィーは、その声の主が誰だか分かると、その人物の意図していることを理解した。彼の名はマイクロフト。ザンガが右腕として、常に近くに置いておいた人物だ。だとすれば、彼のやりたいことは一つ。
「こりゃ松だな」
ブリーツが言った。
「サクラでしょ!」
呆然としているサフィーの代わりに、杏香が突っ込みを入れた。
「……こいつはやばいんじゃねえか?」
ブレイズが言った。リーゼが
「そうね。あの七つ目と、これだけのリーゼを相手にするのは無謀よね……とにかく、今は七つ目の攻撃を防ぐことに専念しましょう。他の攻撃は……この際、無視するしかなさそうね」
幸いなのは、エクスリーゼらしき機体の攻撃が無いこと。七つ目の攻撃さえ、どうにか防げれば、暫くは耐え凌ぐことはできるだろう。とはいえ、いくら
「敵は、この化け物と、大量のリーゼ。味方はあたし達三人と
杏香がモニター越しに、
「魔力フィールドを展開……」
「いえ、シールドだけで耐えましょう」
魔力フィールドを展開しようとしたカノンに、杏香が言った。
「おいおい杏香! シールドだけじゃ、こいつを凌ぐのは無理だぜ!」
「でも、やるしかないわ! 物理攻撃が効かない以上、あいつを倒せる可能性があるのは魔法的なエネルギーだけ。カノンの魔力は出来るだけセーブしないと」
「ちっ! 面倒くせえな!」
「……効いてない」
カノンが言った。
いくら斬り付けたところで、再生してしまうだけだ。
「くそっ! おい杏香! 何とかならないのか!」
「今考えてる!」
ブレイズと杏香が次々と叫んだ。
「リーゼからの攻撃は思ったよりも大したこと無い。これなら魔力フィールドを使わなくたって大丈夫か……やっぱり問題は七つ目……」
リーゼからの攻撃は、予想に反して穏やかだった。七つ目と
遠距離から射撃をしようにも、
「敵味方の区別も碌につかないで、ただこの
杏香は、七つ目の巨人を見つめた。壊れた砦を背景に、リーゼを踏み潰しながら、狂ったように暴れているそれを見ていると、この
「杏香……」
「大丈夫、だからって、あれは放っておけないし、
不安そうに話しかけるカノンに、杏香は言った。
「あったりめえだ!」
ブレイズもそれに呼応した。
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