IF:俺の辞書にアルバイトがあったならⅡ

IF:真っ赤なクリスマス

皆様、メリークリスマス!です!!

永らく更新が滞っており、すみませんm(_ _)m

なかなか時間が取れず重い腰が上がらないのですが、ふと子ネタを思いついたので、短いですが、ゲリラ企画として『IF:俺の辞書にあアルバイトがあったなら − 真っ赤なクリスマス −』というお題でお送りします。

因みにこの物語は題名に『IF』が付いている通り本編とは全く関係ありません。なんなら人間関係図すらも無視しているかもです(汗)

それでは時間のある時にでもお読みください。


◇◇◇


この時期、生徒会の活動が終わった時間帯ともなると既に太陽は西の地平線に姿を隠し、街には至る所で煌びやかなイルミネーションが輝き始め、店先からはクリスマスソングが聴こえてくる。

そんな中、街を行き交う人達も楽しそうな笑顔で会話を弾ませながら歩いている。

これからデートだろうか? それとも家族でパーティーでもするのだろうか?


それを疎ましそうに横目で見ながら通り過ぎていく人もいる…

まぁ、俺もだけどねっ!


それにしても、このイルミネーションにどれくらいの電気代が掛かってるんだろう?

ねぇ、これ勿体なくない? これでご飯いっぱい食べられるんじゃない?

あぁ〜、お腹減ったなぁ〜…


でもまぁ、これで皆んながハッピーな気分になれるのなら安いものなのだろう。

幸せはプライスレスって言うしね!

俺はプライスなしだけどね!

マッチ売りの少女ってこんな気持ちだったのかなぁ…

なんだか悟りを開きそうだよ…


俺がそんなたわいもない事を考えながら街を眺めていると、


「新見君、南条さん、今日はこれを着て店の前でホールケーキを売ってもらえるかな?」


俺達がアルバイトをしているケーキ屋の女将さんが衣装を片手にやってきた。

そして、俺達は手渡された衣装を広げてみる。


「………」


う〜ん、これはなんというか…


「………」


俺の隣でも南条さんが不思議そうな顔で繁々と衣装を眺めている。


「あら、どうしたの?」


俺達の様子を見て女将さんも不思議そうな顔つきで聞いてきた。


「いや、これ…コートですよね?」


そう。手渡された衣装は真っ赤なコートで、しかも丈が足の脛辺りまである。


「そうよ。去年まではサンタの衣装を着てもらってたんだけど、女性用はスカートが短くて寒いからってアルバイトの子が途中でやめちゃったのよ。だから、今年はコートにしてみたの」


女将さんは自信満々のご様子である。


なるほど〜、それでコートかぁ…

うん。発想は悪くない。

いや、むしろ配慮があっていいと思う。


ただねぇ…


「これは、なんですか?」


俺はコートのとある部分を指差して聞いてみた。


「あぁ、それはクリスマスだから、少し派手な方がいいかなと思って入れてみたの!」


女将さんは、俺の問いにまたまた自信満々のご様子で答えてくれる。


いやまぁ、少しどころか目一杯派手になってるけどね…


このコートを見る限りサンタクロースの衣装みたいなモフモフ感は一切ない。

その上、コートの背中には金糸で縦にデカデカと「Merry X'mas」と刺繍がなされている。

しかも、和テイストな文字感で…


って、これ、どう見ても特攻服だよね?


「それを見ると若い頃を思い出すのよねぇ。本当は夜露死苦(よろしく)って入れたかったんだけど、クリスマスだしそれにしてみたの!」


女将さんは若かりし頃を思い出しながら照れ臭そうにしている。


あぁ、そうですかぁ〜。

やっぱり特攻服でしたかぁ〜。間違うことなく一択でしたかぁ〜。


って、いやいやいやいや!

これ着て店先で売り子しても大丈夫なの? ねぇ、ホント大丈夫?


「あ、それと、これも着けてくれる?」


俺が少々パニクっていると、女将さんから何やら追加で渡された、のだが…


「………」


手の中をみると、そこには更に特攻服を着る人達が着けていそうなものが鎮座している…


「食べ物商売だしマスクは着けないとね。それにそれだと防寒にもなるし、色も白いからお髭の代わりにもなるでしょ!」


うん。確かに防寒にもなりそうだし、配慮に長けてますよね…

インフルエンザも流行ってるし…、マスクは大事だし…、まぁ、髭には見えないけど。


って、そういう話やないやろぉぉぉ!

これ、もうあかんやつやん!

こんなん着けたら、そのまんまやん‼︎

真っ赤な特攻服とマスク着けた売り子って、どう考えても終わってるやろぉぉぉ‼︎


「そういうことだから、後はよろしくね!」


女将さんはそう言うと、足早に店の奥に消えていった。


はぁ…、そうですかぁ〜。どうしてもこの格好で売れと…

いやまぁ、それならそれでいいんですけどね。

どうなっても知らんよ?


「ねぇねぇ、新見君? これってもしかして…」

「南條、それ以上は言うな! 俺達はアルバイトだ。さっきの女将さんを見ただろ? 時に空気読むというのは大事なことなんだよ…」


俺は虚空の彼方を眺めながら半ば強引に南條の説得を試みる。


「う、うん、そうだよ、ね…」


そして、二人で天を仰ぎながら現実というものを強引に飲み込むのであった。辛いなぁ…


◇◇◇


それから俺達がとっこぅ…、もとい、売り子の衣装に着替えて1時間…


「ねぇねぇ、お母さん、あの人達、変わった服きてるね」

「しっ! 指差しちゃダメ! 早くこっちに来なさい!」


ですよね〜。そうなりますよね〜。


「ねぇ、新見君、お客さん来ないね…」


ですね〜。そうなりますよね〜。


「新見君、なんだか目が死んでるよ?」


ですよね〜。って、死んでないお前が凄いんですけどね〜。


「いやまぁ、これだけ客が来ないとな…。それもこれも、この…」


服のせいだと言いかけて言葉を止めた。


あれ? もしかして俺のせい?

いや、そんなことはないよね? 大丈夫だよね?

目が死んでるだけだから、問題ないよね?

って、大ありだわ!


「うん? どうしたの?」

「いや、なんでもない…。それより笑顔で売らないとな…」


反省したら即実行。

時には諦めも肝心なのだ! まぁ、諦めたことしかないけどね。テヘッ!


「うん、そうだね。普段こういう服を着ることもないから、これも以外と楽しいし!」


南条が優しい笑顔を浮かべて微笑みかけてくる。


南条…、お前…


目覚めたの?

いやいやいや、それは良くない! 決して良くないよ!

積木は崩しちゃダメだからね!


「えへへ」


あぁ〜、これはダメなやつだ。 絶対に目覚めたわ!

南條が3学期にどんな服装をしてくるのか考えると頭が痛い…


俺が横目でそんな南條を見ながら心配をしていると、


「あ〜、ニット君いたぁ〜」


何処からともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「いますね」

「えぇ、新見君ですね」

「ニ、ニット…、な、なんだ、そのカッコいい服は…」


一人だけおかしな奴が混ざってるが…

ここは無視!

俺は今、アルバイト中なんだよ! お客さんはいないけど…


「どうですか? 売れてますか?」


不意にかけられたその一言に再び俺の心が悲鳴をあげる。


え? 何?

新手の嫌がらせ? ねぇ、嫌がらせなの?

ねぇねぇ、追い討ちかけて楽しいの?(泣)


俺はジト目で琴美を睨みつける。


「その様子だと売れてないみたいですね! まぁ、そのとっこ…うご、ごぉ、おぉ…」


お前、今、特攻服って言いかけたろ!

ふっざけんなよ!

今、それ言われたら、俺、泣くぞ! もう寝込むまであるぞ!


俺は条件反射的に琴美の後頭部を鷲掴みにすると反対の手で口を塞いで琴美の言葉を遮った。


「もごぉ、もがぁ、もごぉ…」


それに抵抗するように琴美が暴れまくる。


「ねぇねぇ、お母さん、あの人達、喧嘩してるよ?」

「しっ! 指差しちゃダメ! 早くこっちに来なさい!」


はい、終わりました〜!

俺の心は木っ端微塵に砕け散りましたよ〜!

てか、こんなの絶対売れるわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ‼︎


「そうですか、では、これを20個ください」

「「「「え?」」」」


そんな俺達を横目に愛澤が突然変なことを言い出した。

その言葉に俺の特攻服をかじるように眺めていた伊織先輩も反応する。


「いや、20個って、お前そんなに食えないだろ? これホールケーキだぞ?」

「大丈夫です。私の父の会社で皆さんに配るそうなので」


え? 会社で配るってどういうこと?

愛澤のお父さんは会社で貢ぐ君でもしているのだろうか?

もしかして虐められてる?

あぁ、なんだか急に親近感が湧いてきたぞ。 今度一緒に語り合いましょう!


って、そう言えば、愛澤のお父さんが何をしているのか聞いたことがなかったな…

まぁ、俺に教えるようなことじゃないから当たり前だけど。


「では、私も20個もらいましょう!」

「よし! じゃあ、私も20個もらおう!」


すると、いつの間にか俺の手の中から抜け出した琴美と伊織先輩までもが変なことを言い出し始めた。


「いやいや、お前らまで…」

「大丈夫だ! うちには門下生が沢山いるからな!」

「うちもお店のお客さんに振舞いますので大丈夫です!」


そう言えば、伊織先輩の家は道場をしているし、琴美の家は喫茶店だったか…

まぁ、それなら分からなくもないが…


そんなやり取りをしていると、俺の横でそれを見ていた双葉先輩がおもむろにスマホを取り出し、どこかに電話をし始めた。


「お父さん、ケーキ20個買っていい?」

『20個も買ってどうするんだ?』

「会社で配れるでしょ!」

『え? なんで会社で配るんだ? そんなことできる訳ない、だろ…』

「以前、私のお弁当を勝手に食べた件をなかったことにしてあげようと思ったんだけどなぁ…」

『よし! 任せろ! 買っていいぞ!』

「お父さん、ありがとう!」


そして、双葉先輩は足早に電話を切ると、


「ニットく〜ん、私も20個もらうね〜」


と、みんなと同じように注文をしてきた。


いやいやいや、今の会話まる聞こえなんですけど…

それ、注文受け難いんですけど…

あぁ、もう少しボリューム小さくして欲しかったなぁ…


「双葉先輩、本当にいいんですか?」


念のために確認しておく。


「うちもお父さんが会社で配るみたいだから大丈夫だよ〜」


うん、無理矢理だけどな! 全然大丈夫じゃないと思うけどな!

ほんと、お父さんが不憫でならない…


もしかしたら、愛澤のお父さんも愛澤に脅されたのだろうか…

俺はふとそんな思いに駆られて愛澤の方を見た。

すると、愛澤は私は違うと言わんばかりに無言で首を左右に振っている。


え? 俺何も行ってないけど…?

なんで分かったの? むっちゃ怖いんですけどぉぉぉ!

ほんとにこいつは何者なんだよ!


と、その時、タイミングよく女将さんが店先に出てきた。


「どうしたの? 店先が賑やかそうだから出てきたんだけど…、お客さん沢山来てるの?」


沢山は来てないですね〜。来る訳ないしね〜。


「まぁ、沢山来てるじゃないの!」


いやいや、本日初のお客さんで、しかもこの4人だけですから!

勘違いも甚だしいので、やめてください!


まぁ…、それはそれとして、


「ちょうど良かったです。この4人がケーキを20個ずつ買ってくれるそうなんですけど、どうしたらいいですか?」


流石に一人20個ずつとなると俺の判断だけでは如何ともし難いものがある。


「え? 一人20個ずつ…? そんなに買って大丈夫なの?」


女将さんもこれには驚いたようだ。


「「「「はい、大丈夫です」」」」


一人、大丈夫じゃないやつも紛れてるけど…、お父さんがね!


「でも、20個は持って帰れないだろ?」

「それなら任せて! ここに住所と名前を書いてもらえれば配達するわよ! これでも車の運転には自信があるのよ!」


うん、知ってた! そう思って振りました!

こんな特攻服着てた人が運転できないなんて思えないしね。


「そうと決まれば善は急げね! 今から配達しましょう!」


え? 今から?

女将さんからは見るからにウキウキした空気が溢れ出ている。

大丈夫かなぁ〜。事故らなきゃいいけど〜。

女将さんの逸る気持ちに一抹の不安を抱かずにはいられない。

なんだか話を振ったのが失敗だった気がしてきた…


「お店は大丈夫なんですか?」

「それなら大丈夫よ! これで全部売れたから!」


そうなのかぁ〜。たった4人で全部買っちゃったのかぁ…


「ただ、お店はいいとして…、これだけの数だと配達に人手がいるから、新見君と南條さんも手伝ってくれる?」


「「「「え?」」」」


女将さんの言葉に生徒会の面々が驚きの声をあげる。


うん? どうしてこいつらが驚いてるんだ?

これから女将さんの運転する車に乗る俺と南條さんが驚くなら分かるけど…

もしかして今から配達されても家に誰もいないんだろうか?


「今、家に誰もいなかったりする?」


女将さんも同じことを思ったのか、みんなに確認している。


「いえ、それは問題ないですが…」

「うちも大丈夫ですが…」

「うちもですが…」

「私もお父さんに電話しておくので大丈夫ですが…」


あぁ、お父さん、また脅迫されるのね…

重ね重ねお悔やみ申し上げます。俺は心の中で手を合わせた。


「じゃあ、決まりね! それじゃあ、新見君と南條さんは裏に回ってくれる?」

「「はい。分かりました」」


俺と南條さんが女将さんの指示に答えると同時、


「「「「はい! かいさーーーん!」」」」


4人はその一言だけを残して蜘蛛の子を散らすかの如く散り散りにその場から走り去った。


「え? あいつらどうしたんだ? まだお礼も言ってないのに…」

「う〜ん、それなら大丈夫なんじゃないかなぁ…」

「そうか? どうせなら年末の挨拶もしたかったんだけどな…」

「たぶん、それも大丈夫だと思うよ…」

「うん? どういうことだ…?」


この時の俺は南條さん言葉の意味が分からなかったのだが、この後すぐにその意味を知ることになる。青ざめた俺の顔と共に…、うぅ、気持ちわりぃ…


「あ、女将さん、配達の前に着替えてもいいですか?」

「あぁ、そうね! 二人とも似合ってるから少し残念だけど、いつもの制服の方が動きやすいだろうし、そうしてくれる」


よし! これで解放される! これでようやく俺の心が蘇る!

それに、これを着たまま車で街を走るなんて拷問以外の何ものでもない。

うぅ、むっちゃ嬉じいぃぃぃ。


「え? 着替えるの…?」


………

南條さん、あたなたは別の世界に旅立ってしまったんだね…

そのキャラ属性は需要が少ないし、どうかと思うけど…

作者的にも困ると思うから早く帰ってきてあげてね…


そして、楽しそうな二人の女性と恐怖に慄く一人の男性を乗せた車が夜の街を疾走して行くのであった。

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