第3章−[3]:生徒会の介入と俺の阻止

下駄箱にごみがはいっていゴミが入っていた翌日、俺はいつもより少し早めに登校した。

もし、ゴミを入れた奴が今朝も入れているかもしれないからだ。

こういったことは往々に周りに伝染したりするので、もし入っていたなら他の生徒のいない間に回収しときたい。それにもし入れているところを目撃できたら他の対処法も考えられるからな。


俺は駐輪場に自転車を止めると足早に昇降口に向かい自分の下駄箱を開ける。

少し嫌なドキドキ感がするな。手に汗が滲んでいる。

俺は若干の覚悟を決めると下駄箱の中に手を入れ中を確認する。


………


ふぅ、良かった!素直に上履きに触れることができた。

緊張気味だったのか体の力がホッと抜けて軽くなった感覚がする。

やっぱり誰かがむしゃくしゃした気分の時に入れたのかもしれないな。今日の夕方の帰宅時に入ってなければ、そう思ってもいいだろう。

俺はそのまま上履きに履き替えると教室に向かった。

ああ、緊張が解けたら眠くなってきたぞ。今日は早起きしたから、その分の眠気が一気に襲ってきた感じだ。先生方には申し訳ないが午前中の授業は爆睡タイムに割り当てよう。


そして俺が眠気を堪えながら教室に着くと、すぐさま教室後ろの窓側を見てみる。

いつもなら既に地味子の格好をした愛澤が教室の後ろの窓側に立っているのだが、今日はいないようだ。

俺が早くに登校したせいかもしれないが、昨日の生徒会での件もあるので、ようやく諦めて監視を解いたのだろうと期待してしまう。このまま来るなよ!


『キーン コーン カーン コーン』


今日の午前中の授業が終了したが、結局、地味子は俺のクラスに来ることはなかった。

俺の期待は期待で終わらず結実したのだ。

やったーーー!俺は思わず心の中でガッツポーズをする。

って、リアルにガッツポーズしてるし。誰にも見られてないよな?大丈夫だよな?

俺を見てる奴なんていないだろうけど、念のため軽く周りを見渡しても俺を見てる奴はいなさそうだ。うんうん。こういったところはボッチの利点だな。

あとは帰宅時に下駄箱にゴミが入っていなければ、俺の薔薇色のような平穏な高校生活が待っている筈だ。


俺はそのまま弁当箱の袋を鞄から取り出し生徒会室に向かう。

おぉ、こういう気分の時はスキップしたくなるな。午前中に睡眠を貪り尽くしたので体も絶好調だ。

そして生徒会室まで着くと意気揚々と扉を開け中に入る。


「おはようございます」

「ニート君、はっふぉー」

「ニート、はっふぉーだ」

「ニート、はっふぉーです」

「新見君、おはようございます」


愛澤も地味子の格好ではなく、初めて生徒会室であった時のクリアブルーになっている。

おし!これだこれ!俺の平和な高校生活の始まりだ!


あれ?それにしてもみんなの様子が少し暗い気がするけど、どうしたんだ?

こんな素晴らしき記念すべき良い日だというのに。

みんなは少し暗い表情でテーブルの真ん中に置かれているものを見ている。

俺もその視線に誘われて、みんなの視線が集まっているテーブルの上を見てみると、そこにはコンビニの袋に入ったゴミと思われるものが置かれていた。


「どうしたんですか?テーブルにゴミなんて置いて。あっ、それともみんなもう弁当食べ終わったんですか?」

「ニート、何を言っている。昨日の帰りにニートの下駄箱にこのゴミが入っていたそうじゃないか」

「えっ?下駄箱に入っていたゴミ?………どうしてそれが此処にあるんですか?」


そう。昨日、愛澤が駅のゴミ箱に捨てるからと持って行った筈だ。

うん?ということは………、愛澤が捨てずに持ってきたってことか?

俺は愛澤の方に確認の意味も含めて訝しげな視線を向ける。


「私が持ってきました」

「なんで捨てなかったんだよ?」

「こういう悪質な悪戯は生徒会メンバーとして放っておけないと思いまして」

「ああ、そうだな。これは放っておけないだろ」

「うんうん。そうだね」

「ニートにゴミが似合うからといって、放置はできませんね」


琴平、今はスルーしてやるが、ゴミが似合うって言った件はメモしとくからな。琴美倍返し貯金がどんどん溜まってるから覚えておけよ。


「いやいや。ちょっと待ってください」

「どうした?ニート、そんなに慌てて」

「それは慌てますよ。急に放置できないと言われても、1回入っていただけですし」


そうなのだ。たかだかこれしきのことで生徒会に動かれては大袈裟過ぎて困ってしまう。


「でも、1回でも悪いことは悪いことだよ」

「それはそうですが、まだ1回目ですよ。それに大体、俺が偶然生徒会メンバーで愛澤が一緒だったからみんなにも分かっただけで、そうじゃなかったら放置してるでしょ?」

「………、それは……、ニートの言う通りかもしれんが、とはいえ既に知ってしまったからな。それに例え生徒会メンバーでなくとも我々が知ったなら放置はしないぞ」

「いやまぁ、そうかもしれないですけど、俺はれっきとした生徒会メンバーですからね。周りはそうは思いませんよ」


なんとか此処で食い止めないと、こんなことで彼女達を巻き込んだらこいつらにまで被害が及んでしまうかもしれない。そんなことになったら目覚めが悪いからな。


「それに今朝はゴミは入っていませんでしたし、昨日、愛澤にも言いましたがその時の気分で衝動的に入れただけの可能性もありますからね。大事(おおごと)にするより静観した方が良いですよ」

「確かにそうだが………」


伊織先輩は思案気な顔で、他のメンバーを見渡しながら『どうする?』と言ったようなことを確認しているようだ。


「じゃあ、交代で下駄箱を見張ったらどうかな?」

「双葉先輩、生徒会メンバーが見張ってたら目立ち過ぎですよ。自分達が美……、あ、いや……、生徒会メンバーはそれなりに有名ですからね」


危ない危ない。もう少しで『自分達が美少女なのを自覚してくれ』と言ってしまうところだった。これ以上トラウマを増やしたら大変だ。


「そうかなぁ………?」


本当にこいつらは人の視線に麻痺し過ぎだな。そろそろ本当に自覚して欲しい。


「変装とかすれば良いのではないですか?」


クソッ!どうしても放置したくないのかよ!


「琴平、お前と伊藤先輩は変装しても身長でバレるだろうが」

「なんですか、それは私がチビだと言いたいんですか!あなたは喧嘩を売ってるんですか?!いいでしょう!その喧嘩買ってやろうじゃないですか!」

「いやいや。喧嘩を売ってるわけじゃない。事実として難しいだろって話だ………」

「………」

「………って、頼むから人の胸倉で懸垂するのはやめろ!お前最近わざとやってないか?」


クソッ!本当に近い内に襟元が破れそうで怖い。こいつは俺の母ちゃんの怖さを知っててやってるんじゃないかと思えてくる。


「わ、わざとな訳ないでしょう!し、失礼な奴ですね」

「琴美ちゃん、そろそろおいたは止めましょうか?!」


ほらみろ!愛澤が冷気を吐き出しただろうが!すぐに離れろ!

琴美も愛澤の冷気には歯が立たないらしい。素直に俺から離れて席に着いてくれた。


「えーと、話を戻しますが、それなら私が中学時代の格好をして見張りをするのが一番ですね」


あっ、見張りの話が続いてたのか。それなら、


「却下!」

「新見君、どうしてですか?」


怖い!怖いって!さっきのにも増して冷気が漏れてるから!壊れた冷凍庫みたいになってるぞ。


「どうしてもこうしてもないだろ。折角、その格好に戻したところなんだし」


続けて心の中で『こんなことで俺の平穏を奪われてたまるか』と呟いておく。


「あっ、えっ、………、それは………」


なんだ?愛澤の奴少ししをらしいな。なんだかんだ言いながらも、こいつも今の格好の方が好きなんじゃないのか?

それならそれで無理して俺を監視することもなかっただろうに。バカな奴だ。


「大体、1回あっただけで大事にするのはやっぱりどうかと思うぞ。少し静観してまた入ってたらその時考えれば良いだろ。本人も反省してるかもしれないし」

「「「「………」」」」

「いやまぁ、確かにニートの意見も一理あるが………」

「伊藤先輩、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。もしまた入ってたら相談しますから」

「………そうか?それなら次に入っていたら教えてくれるか。その時は我々も対処するから」

「ええ。その時はお願いします」


って、絶対教えないけどね。でもまぁ大丈夫ですよ。いざとなれば自分でなんとかしますから。


それにしても今日もおかずいっぱい弁当を味わえなかった。

いつもは愛澤冷気に当てられて味覚が麻痺するのだが、今日はそれに加えて先程までのゴミ投棄の話題が尾を引いていて生徒会の活気が下がっているの大きい。

今回の件はみんなには申し訳ないことをしてしまった。俺が攻撃されることは普通のことなので事前にみんなを巻き込まないように配慮すべきだったのだ。

この埋め合わせはどこかでしないといけないな。あっ、琴美はそれを差し引いてもマイナスだから覚悟しとけよ。


◇◇◇


『キーン コーン カーン コーン』


さて、今日も6時限目の授業を終え残すは生徒会での業務だけだ。

とはいえ、昼の休み時間にあんなことがあったので、少し生徒会に行くのが気が重い。


「おはようございます」

「ニート君、はっふぉー」

「ニート、はっふぉーだ」

「ニート、はっふぉーです」

「………」


あれ?愛澤の姿が見当たらないが、まだ来てないのか?いつもなら俺より前に生徒会室に来ているのに今日はまだとは……。


「愛澤はまだなんですか?」

「あっ、ああ…、愛衣君なら、今日は用事があるとかで今日は欠席だ……」

「うん。何かご用があるみたいだよ……」

「そうですね。急用があるとかで欠席すると言っていましたね」

「あっ、ああ…、そうなんですか……?珍しいですね」


あの格式高い愛澤が欠席とは珍しい。まぁ、愛澤も人間だからな。用事ぐらいあるか。


「そうだな。家の急用とか言っていたからな」

「家の急用ですか?心配事でなければ良いですけどね」

「あっ、ああ……、そうだな………」

「どうしたんですか?歯切れが悪いですが、何かあったんですか?」

「あっ……、いや、なんにもないぞ………」

「そうですか?それなら良いですけど」


どうしたんだろう?俺に言えないことなんだろうか?って、普通に考えたら俺に教えられることの方が少ないか。俺も一応男だし、それにまだまだ信用される程関係も築けているとは言えないだろうしな。


それから生徒会での業務を始め1時間程経った辺りで伊織先輩が俺に声を掛けてきた。


「あっ、そうだ。ニート、今日は愛衣君も休みだし、生徒会業務も滞りなく進んでいるので、たまには早く帰る日があっても良いと思うんだがどうだ?」

「えっ?そうですか?でも、そろそろ球技大会の競技とかも検討しないといけないんじゃないですか?」

「あっ……、それは………、去年の競技を参考にすれば良いだろうし、そう急ぐ必要もない……だろう」

「う、うん。そう……だよ。去年のを参考にすれば……良いしね」

「そ、そうですね……。校庭も体育館も広さは決まっていますので、できる競技は限られています……からね」


さっきから全員奥歯に物が詰まったような喋り方で本当にどうしたんだ?

愛澤の急用に関係しているのか?

それであれば、詮索するだけ失礼なのかもだが………。

でも愛澤は帰ったんだよな?他にも女性だけの相談事とかあるのだろうか?

やっぱりこれも俺が詮索するのは失礼かもしれないな。ここは男らしく爽やかな行動が基本だろう。


「まぁ、そういうことなら、早く切り上げても良いんじゃないですか」

「そうか、ならニートは今日はもう切り上げてもらっても良いぞ」

「えっ?伊織先輩達はまだ帰らないんですか?」

「あっ、ああ……、我々は……少しだけ残務が残っているので、それを片付けたら帰るから気にするな」

「それなら俺も残って手伝いますけど?」

「に、ニート君、大丈夫…だよ。ほんの少しだけ…だから」

「そ、そうですね…。ニートがいると返って邪魔です…からね」


なんだよ?やっぱり俺だけ早く帰らせたがってるよな?

とはいえ、さっき詮索せずに男らしい行動をするって決めたところだし、ここで問うのも違う気がするな。それに大体、俺の生徒会業務は主に物運びだったり倉庫の整理なので残っていても仕方ないと言えば仕方ないのだ。


「そうですか。分かりました。それじゃあ、お先に失礼します」

「あっ、ああ、それじゃあ、また明日な」

「うん。ニート君、バイバ〜イ」

「ニート、お疲れです。帰りに石に躓いて転けないように気を付けて」

「誰が石に躓くか!?どんだけ非力なんだよ。ああ、それじゃあな」


俺はそれだけ言うと鞄を担いで生徒会室を後にした。

それにしても、なんとも後味が悪いというか、スッキリしない生徒会だったな。

俺も少しは生徒会のメンバーに馴染んできたかと思ってたんだが、まだまだのようだ。

こればかりは俺の所為なので頑張ってより馴染めるように努力するしかない。


そして俺が昇降口に差し掛かった辺りで見覚えのあるような後ろ姿を目にする。

あれ?今の地味子じゃないのか?手にビニール袋らしきものを持って走って行ったが……。

うーん。でも……、生徒会室と反対側に走って行ったし、なにより今日は愛澤は家の急用で帰った筈だ。

それに昼休みに見た時は元のクリアブルーの格好だったから、地味子な訳もないか。

日頃監視されていた所為で敏感になっているのかもしれない。きっと俺の見間違いだろう。


今はそれよりも重要なことがある。

下駄箱にゴミが入っていないかを確認しないといけないのだ。

俺としては入っていないことを望むが、こればかりは俺の都合じゃないので、確認するまではなんとも言い難い。

さて、気合を入れて下駄箱を確認するとしよう。

俺は朝の登校時にも増して嫌なドキドキを感じながら気合いを入れて下駄箱に手を入れる。


………


よし!ゴミは入ってないようだ。俺の手は下駄箱から素直にスニーカーを取り出してきた。

俺は朝と同様に肩の力が抜けるのを感じながら安堵した。

やはり誰かが一時的な感情でゴミを入れたと考えるのが普通だろう。

明日、みんなにゴミが入っていなかったことを伝えたら、あいつらも安心するだろうしな。

おし!これで明日から俺の平穏な高校生の始まりだ!

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