IF:俺の辞書にアルバイトがあったなら
IF:波乱万丈の正月アルバイト
皆様、明けましておめでとうございます!m(_ _)m
今日はお正月ということで、ゲリラ企画として『IF:俺の辞書にあアルバイトがあったなら − 波乱万丈の正月アルバイト −』という題でお送りします。
因みにこの物語は題名に『IF』が付いている通り本編とは全く関係ありません。なんなら人間関係図すらも無視しているかもです(汗)
それでは時間のある時にでもお読みください。
◇◇◇
今日は1月1日。世の中で言うところの元旦とういうやつだ。
俺は学校の冬休み期間を利用して、この辺りでは有名な神社でアルバイトをしている。
そして俺が何故この神社でアルバイトをしているかというと異様に時給が良い。
まぁ、お正月ということもあるのだろうが、他のところの倍ぐらいもらえるのだ。
ただ、美味しい話には裏がある、というわけでもないが………、この神社の神主さんが少し変わり者だったりする。
「新見君、社務所の方でおみくじの売り子をやってくれるかい」
「あ、はい。分かりました」
普通、おみくじの売り子と言えば巫女さんの格好をした女性が定番なのだが、此処の神主さんはこうやって男性の俺にもやらせてくる。
「でも、俺みたいな男性が売り子をして本当に大丈夫んなんですか?」
「うん? 新見君、何を言ってるんだい。逆だよ」
「えっ? 逆、ですか?」
「そう。巫女さんのコスプレをしたコスプレイヤーさんがおみくじを売るのは定番だけど、それは何故だか分かるかい?」
えっ? 巫女さんの衣装ってコスプレなの? 巫女さんてコスプレイヤーなの?
最近ではコスプレ神社とかが流行りなのか? ねえ、いつからそういう時代になったの?
って、ちがーーーう!
「おみくじって神様のお告げみたいなものですよね? だから巫女さんが売るんじゃないんですか?」
「新見君は分かってないなぁ」
「はぁ………?」
「いいかい。これは神社が行う特典のお渡し会みたいなもんなんだよ」
特典? お渡し会? こいつは何を言ってるの?
「は、はぁ………」
「でだ。神社のアイドルと言えば、巫女! そして世の中の男性はこの巫女さんに癒しを求めてやってくる! そう。年始に綺麗な巫女さんからおみくじを受け取り、今年一年の励みにするんだよ!」
えーっと、巫女さんがコスプレイヤーでアイドル?
おみくじは? それだと、おみくじがブロマイドと同格になってますがいいんですか?
「しかしだ。ここに大きな問題がある!」
おみくじですよね? 絶対、おみくじですよね?
「それは!」
「そ、それは?………ゴクッ!」
「巫女さんだけだと男性しか癒されない!」
ああ、バカだ! こいつ神聖のバカだ!
真剣に聞いた俺が恥ずかしくなってくる。
「神の使いたる者、差別をしてはいけない!女性にも癒しを与えるべきだと思わないかい?」
「いや。思いますよ。癒しは必要だとは思いますよ。でも、間違ってますよね?」
「何がだい?」
「何がじゃねーよ! 全てだ! 巫女さんはコスプレじゃないし。おみくじも特典じゃないでしょ! それに何より巫女さんに癒しを求めないでしょうが!」
「ははは。新見君は面白い考え方をするんだね」
えっ? どうして俺が面白いの? ねえ、俺の何が間違ってるの?
ねえ、誰か俺に教えてくれぇぇぇぇぇえええ!
「はぁ、もういいです。で、俺もおみくじを売ればいいんですね?」
「うんうん。頼むよ。いや〜。新見君は物分りが早くて助かるよ」
いやいや。諦めただけですけどね。なし崩しですけどね。
でも、神主さんの言うことが少し分かってしまう自分が悔しい。
そして俺が社務所に入って境内側に設けられた売り場に着くと、その表では、
「はいはい。男性の方は此方に並んでくださいね〜。女性の方は此方の列でお願いします」
神主さんがせっせと、おみくじ改め特典を買うために集まった人達を整列させている。
此処はどこのイベント会場だよ?
やだよ。俺が着ている衣装がコスプレに思えてくるからやめてくれ!
「あっ、そこのお客さん!」
えっ? お客さんって何? 最近は神社に初詣に来た人をお客さんて呼ぶのか?
「当神社では、巫女の写真撮影は禁止です」
って、誰だよ、写真撮ろうとしてる奴は!?
しかも、当神社ってなんだよ? 他の神社では写真撮影OKなのか?
「皆様、お待たせしました。それでは本日の販売会を開始させて頂きます。一番の方から順番にどうぞ!」
ああ、やっぱり何かが間違ってる。
うぅ、どうやら俺はバイト先を間違ってしまったようだ。
「すみません。おみくじ10枚ください」
えっ? 10枚?
俺が意味不明な枚数に驚き、お客さんの方に視線を上げる。
「「えっ?えっ?えーーーーーー!」」
「ど、どうしてあなたがこんな所に居るのよ!?」
「それは俺の台詞だ。それより恵那(えな)、10枚ってなんだよ?! おみくじを10枚も買ってどうするんだよ?」
「そ、そんなの………、あ、あんたに、か、関係ないでしょ! そ、それより、皇(すめらぎ)さんはどうしたのよ?」
ああ、この狼狽えようは………。しかも列の先頭で10枚の大人買い………。
なるほど。これが本当のお布施というやつか。
それにしても………。
「は? 皇? そんな人は此処にはいないぞ? お前、どっかの神社と間違ったんじゃないか?」
「な、何を言ってるのよ! こ、ここにちゃんと載ってるでしょ!」
恵那はそんな言葉と共に俺にスマホの画面を突き付けてきた。
そこには、何やらイベントの告知らしきものが載っている。
えーっと、何々?!
◯×神社恒例おみくじ販売会開催!
販売時間:10時〜12時
巫(かんなぎ):皇(すめらぎ)光一(こういち)
巫女(かんなめ):妃(きさき)葵(あおい)
※前売り券はありません。当日先着順で整理券をお渡しします。
※雨天決行となります。
※販売会会場でのプレゼントの直接手渡し、写真撮影等は禁止です。
そこに書かれている神社の名前は確かにこの神社だ。
時間も………、今は10時をちょうど回ったところで合っている。
それにしても皇と妃って誰なんだ? ネーミングセンス悪過ぎだろ?
そして、スマホの画面をスクロールさせると1枚の写真が載っていた。
そこには、俺と南條(なんじょう)さんが境内で落ち葉の掃き掃除をしながらカメラの方に向かって振り返り微笑みかけているような姿が写っている。
えっ? これいつ撮ったの? こんな写真を撮られた覚えはないんだが………?
って、これ合成じゃないか! しかも微妙に修正してある。
ああ、何やら頭痛がしてきたわ(泣)
「恵那、それ俺だ」
「えっ? えっ? えっ?」
恵那は俺の言葉を聞いてスマホの画面と俺を交互に見比べている。
うぅ、むちゃくちゃ恥ずかしい。何? 何なのこの羞恥プレイは?!
「どうも皇というのは俺らしい。恵那、わるいな」
ああ、クソッ! 俺は悪くないのに謝っちゃったじゃねえかよ!
あの神主め、こんな広告まで掲載してやがったのか!
「そ、そういうことなら、仕方ないわね。ほ、ほら、さっさとおみくじ10枚寄越しなさいよ!」
「えっ? だからそれ俺だぞ?」
「煩いわね。わ、私はおみくじを買いに来たのよ! い、イベント目当てじゃないんだからね!」
いやいや。明らかにイベント目当てだろ。
皇はどうしたって言ってたし。スマホのイベント告知まで見せておいて、今更かよ。
まぁ、買ってくれるなら文句ないけど。
「ああ、それじゃあ、これ。10枚で2000円になります」
「そ、そう。それじゃあ、これ」
恵那はそう言うと千円札2枚を差し出してきた。
それにしてもこんなおみくじに2000円もの大金を出すとは最近の高校生は絶対にお金の使い道を間違っている。もっと有意義に使った方が良いと思うんだが。
俺は自分がおみくじを売っていることを棚に上げ、そんなことを思いながら恵那からお金を受け取った。
………
??? えーっと、恵那さん? どうしたんですか? 既にお金は受け取りましたけど?
彼女は何故か右手を突き出したまま佇んでいる。
俺が不思議な気持ちで恵那の顔を見ると、恵那の顔には早くしろという催促の言葉が書かれていた………。
これは明らかに何かを待ってるよな?
ひょっとして10枚買ったら何か別の特典でもあるのか? そんなの聞いてないけど。
う〜ん。ここは誰かに聞いた方が早いだろう。
俺がそう思い隣でおみくじを売っている南條さんの方を向くと………。
「ありがとうございました。それではお釣りは0円です」
南條さんは、掌を差し出している男性に対しお釣りを返す時のように男性の掌の下に自分の左手を当て、男性の掌の上に自分の右手をそっと置いた。
あっ、ああ。そういうことですか。そういうシステムなんですね。
でも、これ、大丈夫なの? ねえ、ありなの? ねえ、捕まらないよね?
ああ、クソッ! 俺が捕まる前に絶対内部告発してやる。
それにしてもなんだよこれ? 新手の虐めか何かかよ。超恥ずかしいんですけど!
………
というか、こいつも俺にあれを求めてるのか?
「えーっと、恵那? 俺もあれをお前にするのか?」
「へっ?!………、あっ、な、ななな何を言ってるのよ! わ、私が、そんなことして欲しい訳、ないじゃない! あ、あれよ、あれ。こ、これは習わしだから。そう、習わしだから仕方ないのよ!」
えーっと、その言い方だと何かの罰ゲームみたいに聞こえるんですけど?
って、そうなの? これが噂に聞く『お前、負けたんだからあいつと握手な』という双方に残酷な爪痕を残してしまう罰ゲームってやつなのか? うぅ、何それ? 酷い!
「そ、それじゃあ………」
「な、何してるのよ! 早くしてよね。キモい!」
おい! やる前から心を折りにくるな!
ああ、クソッ! こうなったら、たっぷり新見菌を刷り込んでやる!
「ありがとうございました。お釣りは0円です!」
「ちょ、ちょっと、そ、そんなに強く握らなくても………」
ははは。どうだ! これでお前も明日からボッチ道真っしぐらだ! 新見菌を舐めるなよ!
そして恵那は俺に新見菌を刷り込まれた手を眺めながら去っていった。
恵那、そんなに見ても新見菌は見えないぞ。ウィルスだからな。なんなら洗っても取れないからな!(笑)
「あ、あのぉ………、わ、私もおみくじ20枚、ください」
えっ? 今度は20枚?
俺が驚きの眼で恵那から次のお客さんの方に視線を移すと………、
「………って、茅(かや)ヶ崎(がさき)………、お前もかよ?」
「お、お前もかって、何よ?! そ、その………、わ、私は………、神社の売上に貢献しようと………ごにょごにょごにょ」
はぁ? 神社の売上ってなんだよ?
何? 売上が良かったら2期でもあるのか? おみくじってアニメの円盤みたいなもんなのか?
俺は来年絶対ここでバイトしないからな。2期があってもキャスト変更確定だ。
「それでは20枚で4000円になります」
「そ、それじゃあ、これ………」
「ありがとうございました。それではお釣りは0円です」
「!………、あ、……あり……が……とう………」
「はぁ? 何か言ったか?」
「え、あ、い、言ってないわよ。そ、それじゃあ………、が、学校で、ね」
えっ? 学校?
それって、もしかして………、死の宣告ってやつ?
3学期初日の黒板に書かれるであろう文字が目に浮かんでくる。
ねえ、頼むから、そんな予告はしていかないでっ!
「新見君、そんな暗い顔しちゃダメだよ! 売り子さんは笑顔も売り物だからね! ほらほら、スマイル!スマイル!」
煩い! お前の所為だろうが! 俺の笑顔は売ってねえ!
クソッ! こうなったらバイト代を上げさせるからな。覚えてろよ。
それから俺は心を鬼にして淡々とおみくじを売捌いた。
そしてお客さんもいよいよ最後の4人に差し掛かり………。
って、最後はこいつらかよ?!
「えーっと、お米の王子様一人お願いします♪」
「………」
いきなり奇襲攻撃ですか?
う〜ん。さすがにそれは予想の範囲外ですわ。って、誰が予想できるか!
「すみませんが、お米の王子様は売ってません! それでは、またのお越しをお待ちしています」
俺は柔かな笑顔で丁寧にお断りすると売り場のカーテンを閉めに掛かった。
「ま、待て、ニット! 待ってくれ! ふ、双葉! お前が変なことを言うからだぞ!」
「え〜、双葉は変なこと言ってないよ。お米の王子様をくださいって言っただけだもん」
「そ、それが変だと言ってるんだ」
「そうですよ。若松先輩。新見君は売り物ではないです」
「そ、そうだぞ、双葉! ニットは売り物じゃない!」
うんうん。さすが愛澤と伊織先輩だ。彼女達に良識があってくれて助かる。
「新見君、私には新見君の心をください♪」
って、こいつもバカだったか!
なんだよ。お前は悪魔か何かか?! 俺の心臓を取ってどうする気だ? 臓器売買は違法だぞ!
「愛衣さん、何を言ってるのですか! ニットの心も売り物ではないです!」
あれ? 毒舌ロリがまともなことを言ってる気がするのは気の所為か?
「に、ニット、わ、私には、ニットの明日をください」
あぁ、まともじゃねえわぁ。少しでも感心した俺がバカだったわぁ。
それにしても明日ってなんだよ? 俺の将来を買い取ってどうする気だ? 奴隷売買も違法だからな!
「えっ? 愛衣君、琴美君まで何を言ってるんだ? そ、それじゃあ、わ、私は………」
「煩い! 人身売買も臓器売買も違法だ! 大体、俺は売り物じゃねえ!」
「えっ? えっ? えっ? わ、私はまだ何も言ってない………」
「煩い! 言ってなくても言う気だっただろうが!?」
「い、いや。で、でもだな………」
「でももへったくれもねえ! 伊織! お前までバカどもに習うな!」
「「「「!!!」」」」
「………お、怒られた、けど………、で、でも嬉しい………。えへ。えへ。えへへへへ」
えーっと、何、その反応? ねえ、どこのネジが飛んだの?
ひょっとしてその道に目覚めちゃった?
空手の鍛錬で痛みに快感を覚えちゃったとか………?
いやいやいやいや。格闘家がその道に目覚めたら終わりだからね!
「ねえねえ。ニット君!」
「はいはい。ニットですが?」
「私は双葉! 双葉だからね!」
「え? ええ。分かってますよ? 双葉先輩ですよね?」
「違うよ。ふ・た・ば! 単なるふたばにゅごにょばにょご………」
「「若松先輩! それ以上は言わせません!」」
??? 何してんだ、こいつら?
愛澤が何かを言おうとした双葉先輩の口を抑えて琴美が双葉先輩の両手を拘束し、何やら喧嘩をし始めやがった。
う〜ん。こいつらはいったい何しに来たんだ? おみくじを買いにきたんじゃないのか?
本当に正月早々騒がしい奴等だ。
こいつらを見ていると今年も波乱万丈な年になりそうだ。そんな予感が頭を過る。
俺がそんなことを考えながら訝しい顔で彼女達を眺めていると、
「は〜い。それでは本日の販売会は終了致します。皆さん、ありがとうございましたぁ」
神主さんが販売会終了の合図を告げ、それと同時に社務所の窓が閉められる。
「「「「あ、あ、ニットく〜ん(新見く〜ん)(ニット〜)!」」」」
あ〜あ、あいつら本当にバカだな。わざわざ列に並んだんだろうに結局おみくじも買えずに終わりやがった。本当にあいつら何しに来たんだか。
それにしても全員振袖姿で綺麗に髪まで結ってたけど、これから何処かに行くのだろうか?
「新見君、お疲れ様♪」
「あ、ああ。南條さんもお疲れ」
「うん。それじゃあ、奥でお茶にしようか?」
「ああ、そうだな。でも………、先に行っててくれ」
まぁ、あいつらだもんな。仕方ない。休み明けに渡してやるか。
俺はレジに800円を打ち込みお金を入れると、おみくじを4枚引き抜いた。
俺の0.5時間分のバイト代だからな。感謝しろよ。
あぁでも、3学期初日の黒板を想像すると学校行きたくねえなぁ(泣)
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