第6章−[4]:諦めなければ神はいる

俺は今、目的地も分からぬまま彼女達の後ろに付き従うように歩いている。

助けてくれる仲間もいないいつもの俺なら死地に赴くボッチ気分全開になっていたところだが、今日はというと。

相変わらず俺の肩の上で琴音が嬉しそうにはしゃいでいる。

う〜ん。なんとも不思議な気分だ。


「ところで琴平、今日は何を買うんだ?」

「お父さんのプレゼント〜♪」


俺は琴美に質問したつもりだったのだが、答えが俺の頭の上から聞こえてきた。

あっ、そうか。琴音も琴平だもんな。紛らわしい。


「おい、琴美。琴音がお父さんのプレゼントって言ってるけど?」

「「「!!!」」」

「ひゃい!」


うん? 琴美の奴、どうしたんだ?

俺が声を掛けたというのにキョロキョロと視線を泳がせてまともな返事が返ってこない。

それに、何やらモジモジしているような………?

あれ?これはひょっとしてぇ〜。


「おい、琴美。何処まで買い物に行くんだ? 近くか? それまで我慢できるか?」

「「「「へっ?」」」」

「えっ?」


あれ? お花畑にお花を摘みに行くんじゃないのか?


「あっ、いや。ひょっとして大きい方か?」

「「「「へっ?」」」」

「えっ?」


あれ? う○こでもないのか?


「お、お前という奴はーーー!」


あんれー? 何故だか琴美が顔を真っ赤にして飛び掛かったきた。

いやいや。自然現象は我慢しちゃダメでしょ?


俺は右手で琴音の脚を抑えると右脚を一歩後ろにずらし、少しばかり腰を落として自分の体を固定すると俺の胸倉目掛けて飛び掛かってくる琴美の背中に左手を回し、そのまま琴美を手繰り寄せると抱きしめるように左胸板との間に挟み込んだ。


ふぅ。これで暴れられないだろう。

本当にこいつはバカか?!

琴音が乗っているのに、落ちたらどうするんだ?!


「わ〜い。お姉ちゃんもだっこだ〜♪」

「えっ?」


おっ? おぅ?

お、………おお?! おおーーーーー!

って、いやいやいやいや。そうじゃなくってーーー!

って、おい、こら、俺! 何してるんじゃーーー!


「琴美ちゃん! 少しおいたが過ぎますね〜〜〜!」

「そうだね〜〜〜!」

「そうだな〜〜〜! ボキ!ボキボキボキッ!」


えっ? あれ?

えーっと、皆さん?

顔が変ですよ?! 真面目にホラー映画のジェイ○ンみたいになってますよ?

ねえ、伊織先輩、指をポキポキ鳴らすのはやめましょうよ? それ、おっさんですから! 女を捨ててますから!

って、ねえ、お願いだから、頼むから、こっちに来ないでーーーーー!


「「ひっ、ひぃ、ひぃぃぃ、やぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」」


………


「「ぐすんっ」」

「きゃはは♪」


ああ、もうダメ! 帰りてーーー!

それにしても、琴音、お前は元気だな。

俺がお前を落とさないようにどれだけ苦労したと思ってるんだ?

こいつは将来、ホラー映画やジェットコースター大好き少女になりそうだ。

おい、そこの未来の彼氏! 気合と根性入れとけよ!


「ところで新見君、どうして琴美ちゃんのことを名前で呼んだんですか?」


うん? それがどうした?

………、あっ!

そう言えば、リア充では呼ばれ方もグループ内のランキングに繋がっているんだったな。

常に最下位が確定位置の俺には無縁のことなのですっかり忘れてしまっていた。

そうか。どうりで先日から俺が名前で呼んだ時にみんなの挙動がおかしかったわけだ。


「今日は琴音がいるからな。琴平だと紛らわしいだろ?」

「なるほど。そうですか。では今日だけということですね?」


いやいや。愛澤さん? こえーよ!


「あ、ああ。そうだな」

「うんうん。それなら仕方ないね〜」

「うむ。今日は琴音君がいるからな」


しかし、ランキングっていうのは結構重要なんだな。

ここまでみんなが気にしてるとは思わなかった。今更ながらに実感したわ。

うん。明日から絶対名前で呼ばないから! 俺は万年最下位でいいから!


「ところで琴美。琴音がお父さんのプレゼントって言ってたけど?」

「!! あ、え、は、はい、そうです。琴音が父の日のプレゼントを買いたいと言うので、き、今日はニットにも来てもらったのです。えへへ、へへ」


そうか。そういうことだったのか。

まぁ、俺も男だしな。

だが、確実に人選を誤っている。

何故なら俺はお金もなく父親もいないければプレゼント経験もなしと、必要な全ての要素が抜け落ちているのだ。まぁ、この俺が満たせるものなんてないけど。


「でも、俺で役に立つのか?」

「それなら大丈夫です! ニットが欲しいものを言ってっくれれば充分です」

「そうか? それならまぁ、いいけど。で、予算はどれくらいなんだ?」

「それは琴音のおこずかいの範囲ですので500円程度ですが………」


えっ? 500円?

そんなに?

それだけあるんだったら絶対にあれで決まりだ!


「だったら牛肉だな!」

「えっ?」

「いやいや。やっぱり量を考えると豚肉か? いや、しかし、500円もあるからな。こういう時にしか牛肉は買えないよな。そうするとやっぱり量より質を取るべきか………」

「えーーーっと、ニット? 考えて頂いているところ申し訳ないですが………、出来れば残る物にして頂けない、でしょうか?」

「えっ? どうして? 肉だぞ?! ご馳走だぞ?! これ以上の物はないだろ?」

「あ、いえ。今回は琴音のプレゼントなので残る物がありがたいのです。あはは」


あっ、そうか。

500円という金額についつい興奮してしまったが、そうだよな。

我が家では食べ物が何より優先するが、普通の家庭ではそうではないことを忘れていた。

う〜ん。でもそうなると俺は役に立たない気がするぞ。


「そうかぁ。でもそうすると………、う〜ん………、ない!」


ああ、ダメだ! やはりいろいろと考えてみるも食べ物以外思い浮かばない。

俺の脳味噌は知らない間に双葉先輩のことを言えないくらいに食物脳になっていたようだ。


「あ、いや、そのぉ………」

「うむ。まぁ、あそこのショッピングモールに行けば何か思いつくかもしれないしな」


ここで伊織先輩が助け舟を出してくれた。

おぉ、伊織先輩感謝です!

ショッピングモールまで行けば琴音が良いと思う物が見つかるかもしれないしな。

って、あれ? それだと、俺いらなくね? 然り気無く戦力外通告された?

えっ、何? これもボッチ強化の一環ってやつ?

ああ、クソ、やられた〜!(泣)


「そうだね。見てからだね」

「そうですね。では行きましょうか」


◇◇◇


ショッピングモールに到着した俺達は早速目星い店を探し始める。

とはいえショッピングモールなどに来たことのない俺は肩の上に琴音を乗せて彼女達の後ろを着いて行くぐらいしかできない。


それにしてもモールとは良く言ったものだ。

いろんな店が各々の特徴をアピールしながらも1店舗だけが目立つようなこともなく綺麗に整然と軒を連ねている。

こういうのを世間ではお洒落というのだろう。


しかしこれだけの店からお目当のものを探すとなるとかなり骨が折れそうだ。

俺がそんなことを考えモール内を見渡していると。


「琴音ちゃんはどんなものをプレゼントしたい?」


双葉先輩が琴音に問い掛けてきた。

まぁ、これが一番早道だろうな。本人があげたいと思う物をプレゼントするのが一番だ。


「う〜んとね。魔法少女アミティちゃん♪」


うん。それはしたい方じゃなくて、されたい方だな。


「そうかぁ。じゃあ、魔法少女アミティちゃんのキーホルダーとかかな?」

「キーホルダー!♪」


いやいや。だから、それは琴音が欲しいものだろ。

双葉先輩、付合い良過ぎじゃないかな?!

今はお父さんのプレゼントを探してるんですからね。

でもまぁ、これも琴音の反応を見ているとなんとも微笑ましく思えてくる。


「それじゃあ、お父さんとお揃いがいいね」

「うん。お父さんとおそろい!♪」


えっ?されたい方じゃなくて、したい方だったの?

でも、子供向けアニメキャラのキーホルダーをお父さんが喜ぶかな?


それにしても双葉先輩はどうしてなんの迷いもなくプレゼントだと思えたのだろう?

確かにプレゼントしたい物を聞きはしたが、それでも俺はそうは思わなかった。

子供と感性が似ているからか?

偶に思うことだが、この人が何を見ているのか分からない時がある。


「それじゃあ、琴音ちゃん、探しに行こっか」

「うん。いく〜♪」


◇◇◇


しかし、事はそうそう簡単には進まない。

アニメグッズを売っている店に到着した俺達はそこで大人の汚い事情を見ることになる。


なんと!

なんと、なんと、なんと!

キーホルダーが1個800円もするのだ!


おいおい。キーホルダーだぞ?

しかも子供向けアニメのキーホルダーなのに1個800円もしたら子供が買えないだろうが!

子供の夢を守るアニメが子供の夢をぶち壊してどうするんだよ!


見ろ! 琴音が俺の横で泣きそうになってるじゃないか!

俺の手を握る琴音の手に力が入っている。そして今にも泣きたい気持ちを抑えて俯き唇を噛み締めながら我慢している。


………


クソッ! この世に神はいないのかよ!

こんな思いをするのは俺だけで充分だろ!


もし俺に力があれば………。

でもそれじゃあ駄目なのも分かっている。

自分で、自分の力でプレゼントをするから価値がある。

これは琴音がおこずかいを貯めて初めて自分の力でプレゼントをしようと思ったものだ。


だからこそ、琴音。分かったような振りをするな!

悲しいなら諦めるな。我慢することを頑張るな。我慢することを覚えるな!


「琴音。諦めるな。他を探しに行くぞ」


俺は琴音の手をグッと握ると琴音を連れて店を出ようした。


「お、お兄ちゃん?」


琴音が戸惑い顔で俺の方を見上げてくる。


「琴音………もっと良いのを一緒に探そう、な」


俺は屈んで琴音と視線を合わせると琴音の頭を撫でながら囁いた。

そこは俺のいる世界でお前が慣れ親しんでいい場所じゃない。

大丈夫だ。諦めるな。そうすればきっと神様が味方する。お前にはその資格がある。


挫折させてたまるか。こんなところで躓(つまず)かせてたまるか!


と、その時。


「新見君。あれなんてどうでしょう?」


愛澤がアニメショップの向かいにあるイベント広場を指差した。

後で聞いた話だと、こういうモールにはこういった広場が所々にあるらしい。

こういう広場を利用して偶にどこかの店が集客用のイベントを催すそうだ。


そして俺達が訪れた日にそのイベントは催されていた。


広場の前に掲げられている看板には。

『体験版:お子様の写真でキーホルダーを作ろう!』

と書かれている。

値段も体験版ということで写真付きで500円だ。


ナイスだ、愛澤!


「琴音。あれはどうだ?」

「ん?」


あっ、そうか。琴音はまだ漢字は読めないか。


「琴音の写真でキーホルダーを作るんだ」

「琴音の写真で?」

「ああ、そうだ。アミティちゃんのお揃いより凄いぞ」

「お揃いよりもすごいの?」

「ああ、琴音の写真で琴音が作ったプレゼントだからな。だからお父さんは琴音が幼稚園に行ってる時でも琴音の写真を見て元気百倍だ」

「元気百倍? 琴音の写真で? 琴音が幼稚園に行ってるときも?」

「ああ、そうだ」


俺の言葉を聞いた琴音の顔がパーっと明るいものへと変わっていく。

たかが写真。されど写真。

俺にとっては晩飯を奪っていくか藁人形と供に使われる忌まわしきものでしかないが、普通の人には勇気と思い出を与えてくれるものだ。


「うん。それ作る〜♪」

「よし。じゃあ、行こうか!」


それから俺達はイベント広場で受付をし、キーホルダーの作成に取り掛かる。

そのキーホルダーは写真を透明のプラスチックカバーで挟み込むだけの簡単な物だったので琴音でもなんとか作ることができた。

途中、写真を撮るのに少しばかり順番待ちをしたが、それでも琴音は終始楽しそうにはしゃいでいて、出来上がった時にはそのキーホルダーを掲げて嬉しそうにモール内を馳け廻っていた。まるで雪の中を走り回る仔犬のように。


その琴音も少し疲れたのか今は俺の肩の上でおとなしくしている。


って、あれ? なんだか頭が冷たいんですけど?


「あら、琴音ちゃんは疲れて寝ちゃったみたいですね」

「ああ、そのようだな。ニットの頭を枕代りにして。可愛いな」

「うんうん。ニット君の頭が涎でべちゃべちゃだけどね」


えっ? 涎? 冷たかったのって、それ?

えぇーーーーーっ! うっそ〜ん。マジっすか?!


「あ、あ、ニット、すみません。琴音が、その、すみません!」

「ああ、いいよ。寝たものは仕方ないしな」

「でも、これだと家に帰した方が良さそうですね」

「うむ。そうだな」

「でも、この状態で……、どうするんですか?」

「ニット、それなら大丈夫です。すみませんが屈んでください。………、琴音。さあ、降りるのです! 琴音! 起きなさい!」

「ふにゅ? おにぇ〜ちゃん?」

「琴音。帰りますよ」

「ふにゅ」


おいおい。大丈夫か? 琴音がふらふらだぞ。


「それでは皆さん、琴音を家まで送ったらすぐ戻ってきますので、少し待っててください」


えっ? すぐ戻るって、琴美の家はこの近所なのか?

俺以外は誰も疑問に思っていないようなので、きっと琴美の家を知っているのだろう。

そういえば、待ち合わせの際に琴美が連れて行かれた時もそれ程時間も掛からずに服を着替えてきたな。

なるほど。そういうことか。


「琴美君、気を付けてな」

「はいです。さあ、琴音、行きますよ」

「ふにゅん」


おいおい。本当に大丈夫かな? 心配になってくる。

琴音。転けて怪我するんじゃないぞ。


◇◇◇


う〜ん。どうしてこうなった?

琴音のプレゼントを買った後、ショッピングモールの休憩所で休んでいる間に双葉先輩が自分の買い物にも付き合えと駄々を捏ね始めてしまい、琴美が戻ってくるなり否応無しに俺達はとある店の前まで連れてこられてしまったのだ。

おかしい! 琴美との中間試験の勝負は引き分けになった筈なのに、どうして琴美に賭けた双葉先輩も勝ったことになっている?


まぁ、それはさて置き、だ! どうして此処なの? どこのルートを通ればこうなるんだ?


「ニット君、早く入るよ〜」


俺の目の前には色とりどりの女性用の水着を陳列した店が入れるものなら入ってみろと言わんばかりに大口を開けて構えている。


ああ、いかん。彼女達の巧妙な術中に嵌っている気がする。

クソッ! こいつらのボッチいびりが確実に進化しているぞ。


「あ、いや。ふ、双葉、こ、此処はそのぉ………」

「そうですよ、若松先輩。流石に此処は………」

「そ、そうです! わ、若松先輩は何を考えているんですか?!」


うんうん。だ・か・ら!

その言葉を言いながらこっちをチラチラ見るのはやめようね!?

それだと俺が完全に変質者扱いだろうが! 俺に新たな属性を付与するんじゃんねえ!


「ええ〜。でもニット君に選んでもらうんだもん」

「あ、いや。『だもん』じゃないだろ! って、に、ニットも双葉に何か言ってやってやってくれ!」


はぁ、どうもこいつの辞書には羞恥心という言葉が完全に欠如しているみたいだ。

どうしてこうも人目を無視できるのか不思議でならない。

あれ? もしかしてこいつには人がお米に見えてるのか!?

うん。それはあり得るな。だったら今までのことも全て納得ができる。


「双葉先輩。いいですか、ほら、見てください! あそこに立っている店員さんが怖い目でこっちを睨んでるでしょ。この店はどう見ても男子禁制なんですよ。そんなところに男性が入ったら変質者扱いされるんです」


「「「「???」」」」

「???」


あれ? 俺は変なことを言ったか?


「………。あ、いや。ニット………。そこ? いやいや。此処は水着専門店だぞ?」

「ええ、それは見れば分かりますよ。だからああやって睨まれてるんじゃないですか。って、バカにしてます?」

「あ、いや。そのぉ………。そうなのか? ………え? って、いやいやいやいや。そうじゃなくて、に、ニットは私達の水着姿を見ても恥ずかしくないのか?!」


???

恥ずかしい? どうして? こいつが何を言っているのか全く意味が分からない。

そもそも水着は人に見られても良いように作られているだろ?


「えーっと、一つ聞きますけど、伊織先輩は双葉先輩の水着を見て恥ずかしいですか?」


「「「「えっ?」」」」

「えっ?」


あれ? 俺はまた何か変なことを言ったか?


「あ、いや。双葉と私は女性だから………、って、ちょっと待て! ひょ、ひょっとしてニット、ま、まさか君は………」

「ちょーーーと待て! お前今、俺が腐女子御用達の趣味の持ち主と勘違いしただろ!?」

「えっ? あ、そ、そうじゃないのか?!」

「お前はバカか! どうして俺がその道に目覚めないといけないんだよ! これ以上俺に不名誉な属性を付加するな! 俺は至って普通だ!」

「あ、いや、でも………」


はぁ、どうしてこいつらは揃いも揃ってバカばかりなんだ?

論点が完全にズレている。

ひょっとしてこいつらは俺にどうしても属性を付加したいのか?

更なるボッチ強化のための試練を与えようとしているのか?

あれ? でも、そう考えると生徒会残留が決まった翌日からの一連の出来事の辻褄が合う。


なるほど。そういうことか!

そういうことなら此方も対策を考えねばなるまい!


そして俺が彼女達の試練を迎え撃つための対策をシュミレートしようとした時。


ササササッ!


彼女達は4人で連れ添い俺から少し離れたところに陣取ると円陣を組んで何やら小声で相談事をし始めた。


やはりそうか!

俺が一筋縄では落ちないと分かって彼方も更なる対策を相談しているのだろう。

俺を甘く見てもらっては困りますよ。絶対負けないからな!


《双葉、伊織、愛衣、琴美/サイドA》


「愛衣君、ニットは本当に、そのぉ………、男性が好みということはないん、だよな?」

「伊織先輩、それはないと思います」

「そうですね。ニットは教室でも常に一人ですからね」

「でも一人でいるのと好みは関係ないと思うけどなぁ〜」

「双葉、煩い! 双葉はニットの好みが男性でもいいのか?」

「ええ〜。それは困るよ。だって未来の旦那様なんだから」

「「「黙れ!」」」

「ええ〜!」

「でも、そうすると、どうしてああも平然としていられるんだ?」

「ひょっとして私達に魅力が足りないとか、ですかね?」

「う〜ん。未来の嫁しか興味ないとかぁ〜?」

「「「喋るな!」」」

「ええ〜!」

「でも、もし魅力がないと思われてるとしたら、魅力を見せるしかありませんね」

「どうやってだ?」

「そうです。どうやってですか?」

「水着だよ〜!」

「「「………」」」

「う、うぅ〜………くっ!」

「若松先輩に、は、反論できません!」

「悔しいですが、一理ありますね」

「「「………」」」

「ほ、他に方法はないのか?」

「………、ここは覚悟を決める必要があるかもしれませんね」

「そ、そうですね。み、水着ですし、ね」

「あ、ああ、そうだ、な。………よ、よし! み、みんな覚悟はいいか?」

「「は、はい!」」

「よし! それじゃあ」

「「「勝負だ!」」」

「うんうん。レッツゴー!♪」


《新見(ボッチ)/サイドB》


生徒会残留が決まった直後からの出来事を思い浮かべてみる。


先ずは、琴美の変化だ。

いつもならすぐに喧嘩を売ってくる琴美があれ以降大人しく弱々しい従順な乙女を装っている。

これはどう考えても不自然だ。きっと俺の油断を誘う作戦だったに違いない。

何故なら、時を同じくして琴美が生徒会室以外で俺に声を掛けてきたのだが、それが危うく既成事実化してしまうところだったからだ。

もしこれが既成事実化されていれば俺は常に嘲笑に晒されることになっていた。

そして今日はと言うと、琴美の着替えを名目に琴音と俺を二人だけにし、それを元に俺にロリコン属性を付加ようとしてきた。

これら一連は琴美の装いを隠れ蓑にした巧妙な罠だったのだ。


そしてそれらを回避した今、彼女達は最終手段に打って出た。それがこの水着売り場だ。

その証拠に琴音の買い物が終わった後も何故か俺はこうして付き合わされている。

しかも彼女達はここでも巧妙な罠を仕掛けてきた。

それは双葉先輩以外が水着売り場に入ることに反対的な態度を取るというものだ。

しかし、これは間違いなく琴美の装いと同質の俺の油断を誘う作戦と見ていい。

絶対にこの後掌を返す筈だ。


そうすると、BL疑惑を回避した今、彼女達の此処での狙いは水着売り場でキョドるキモオタボッチといったところか。

なるほど。なかなかやるじゃないか。


しかーし、だ! 全く心配することなどない!

ここまで分かれば俺が取るべき行動は自ずと決まってくる。

ここで彼女達の言動や行動に動揺したり突っ込んだりしなければ大丈夫だ。

そう。平常心だ。何があっても平静を保ってさえおけば負けることはない。


あはは。俺の観察眼と推察力を舐めるなよ!

お前達! 相手が悪かったな。目にもの見せてやる!

よし! それじゃあ勝負だ!

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