第2章−[3]:置引き犯の再襲撃と弁当交換会

『キーン コーン カーン コーン』


はぁ、ようやく午前中の授業が終了した。

昨日の双葉先輩による置引き事件や、部活問題、果ては生徒会勧誘と、最近の俺は何かと慌ただしい生活を送っている。

さすがの俺もかなり疲れが溜まってきたようだ。なかなか席から動く気になれない。

周りを見渡すと、『出遅れたー』と叫びながら購買部にパンを買いに走っていく者や、グループで固まっている者達が見受けられる。

俺もいつもの場所で昼飯を済ませてゆっくりしよう。

何せここはアウェーの真っ只中だ。休まるものも休まらない。

俺は鞄の中から弁当の入った包みを取り出し、気合を入れて席を立った。

それにしても、こんな日まで外に食べに行かないといけないのは、さすがに辛い。

これもビンボーボッチの定めなのだろうが、今日ばかりはできれば他の生徒に外に出て行ってもらいたい。まぁ、そんな望みが叶うはずはないが。


俺がそんなことを考えながら教室の扉を出て階段の方に向くと、何やら階段の方が騒ついている。

なんだ?何かあったのか?

でも、何かあったにしては少し変だ。物凄い勢いで近付いてくる足音が聞こえる。

人が走っているのか?昼休みの廊下を走るとは、不届きな奴だ。

あっ、俺も昨日走ってたか!?でも、あれは仕方なくだしな。双葉先輩にお弁当を取られなければ、走ることもなかったのだ。

昨日の出来事が頭の中を過る。はぁ、思い出すだけで疲れが増してしまう。暫く、双葉先輩には遭いたくないものだ。

俺がそう思った瞬間、その騒つきと足音の正体は俺の前で止まった………。

えっ?なんでこの人が目の前に現れたの?言った先からどうして?

噂をすればなんとやら、目の前に現れたのは昨日弁当を置引きした双葉先輩だった。


「やったー!お米君、見っけ!」

「ちょっと待てーーーー!誰がお米君だ!スルーできないだろうが!」

「え〜、だってぇ。お米を届けてくれる王子様だしね」

「おいっ、それどこの世界のメルヘンだ!薔薇の代わりにお米って、想像しただけで萎えるわ!」

「そうかなぁ?凄くキラキラいしてると思うんだけだなぁ?銀シャリだよ」

「はぁ、なんだよ?銀シャリって!?思わず想像して納得しかけたわ!」

「えへへ。でしょ〜」

「『でしょ〜』じゃない!……はぁ(溜息)、もうホント勘弁してくださいよ。それでなくても疲れてるんですから」

「???、どうして疲れてるの?」

「お前だ!お前!自覚しろ!」

「ええ〜、双葉悪いことしてないよ」

「あぁーーー、もういいです(泣)」


それにしても、いきなり現れたかと思ったら、人のことをお米の王子様とか全く意味が分からない。なんで毎度こいつとは会話が成立しないんだよ?ホント疲れる。


……………


うん?あれ?ちょっと待て。

双葉先輩へのツッコミに気を取られていて気付かなかったが、周りの雰囲気が何かおかしいような………。

俺は周りを見渡してみる。


はっ!皆がこっちをガン見している。しかもこっちを見る目が冷ややかで怖い。

そして耳を澄ませば、生徒同士で口々に『あれ学園のアイドルだよな?』『どうして若松先輩がいるの?』『なんであいつが一緒にいるんだ?』『なんでタメ語なんだ?』『どうして親し気なの?』『なんで?』『どうして?』などと話している言葉が聞こえてくる。


しまったーーー!ここはアウェーのど真ん中だった。完全にディスられてる。

唯でさえビンボーボッチが女生徒と話しただけでディスられるのに、目の前にいるのは、なんと、美少女揃いと噂されている生徒会のドンだ。学園のアイドル的存在であり、憧れの的だ。

こんなのディスられない訳がない。

しかも学園のアイドル的存在なだけあって、あたり一辺の衆目が全て此方に集まっている。全方位からの集中攻撃状態だ。


これはヤバい!非常にヤバい!

このままでは俺の『闇に紛れて生きる大作戦』が、俺の努力とは関係なく頓挫してしまう。なんとかしなければ。

しかし、どうすればいい?どうすれば……、そうだ!ここから一刻も早く退散して場所を変えるんだ。

俺は咄嗟に1歩足を前に踏み出し、右手で双葉先輩の腕を掴もうとする………が、

『え?何?手を繋ぐの?』『何してんだよ?』………、

周りから更なる攻撃が飛んでくる。

いかん!手を繋いだ途端、何をされるか分かったもんじゃない。

冷や汗が止まらない。

とはいえ、先輩を外に誘い出しても、『なんでボッチが学園のアイドルを誘ってんだよ!』『ボッチが女生徒を外に連れ出して何する気なんだよ?』などと謂れもないディスりを受けるに違いない。

こうなれば一層、無視か?いやいや。無視したら無視したで、『ボッチがアイドルを無視しやがったぞ。何様だ?!』と言われる。

どうしたらいい?


「お米君、どうしたの?」


俺がどうしたものか思案している姿を不思議に思ったのか双葉先輩が声を掛けてきた。

どうしたもこうしたもねえ。お前だ。お前が原因だ!これ以上喋るな!

あぁ、声に出して文句を言ってやりたいが、この状況ではそれもできない。

こいつに状況把握と空気を読む力があれば話は別なんだが……、無理だよなぁ。

あぁ、神様、ホントなんとかしてください!

考える間にもどんどん人が増えて注目が集まってゆく。

いよいよ手がなくなり、俺が神頼みを始めた時、

先程、双葉先輩が来た方向から、更なる騒つきと足音が近付いてくる。

えっ?何?まだ何かあるの?これ以上はもう即死だぞ。

もう逃げるか?逃げた方が良いんじゃないか?昔の人も『逃げるが勝ち』と言っている。そう。昔の人は正しいのだ。


そして、俺が覚悟を決めて逃げようとした………時、


「こらーーーー!双葉ーーーーー!お前は何をしてるんだーーーーー!」

「あっ、いおり〜ん!お米君にお弁当を貰いに来たんだよ〜」

「お前はまた何を勝手なことを言っているーーーー!」


そう言いながら、騒つきと共に此方に向かって伊織先輩が走ってくる。

そして伊織先輩は俺達の前まで来ると、すぐさま双葉先輩の後ろ襟を鷲掴みにし、


「すまなかったな。新見君、また双葉が迷惑を掛けるところだった。双葉はこのまま連れて行くので勘弁してくれ」


と言ってきた。

おぉ!伊織先輩が神様に見えるよ。マジ、カッコいい!


「いえいえ。まだ弁当は取られてませんので、大丈夫です」


確かに弁当は取られてない。既に迷惑は掛けられた後だけど。


「なら良かった。では失礼する。あっ、そうだ。また近いうちに昨日の答えを聞かせてくれ」


そう言うと伊織先輩は、双葉先輩を引き摺りながら颯爽と去っていった。

その時「双葉のお米〜。約束したのに〜」という喚き声が聞こえたが無視しておく。


そして周りに集まっていた生徒はというと………、

『一体なんだったんだ?』『何がどうなったの?』『迷惑がどうとか聞こえたけど?』『付き合ってるって感じじゃなかったな』

などと口々に喋りながら解散していった。

ディスられはしたものの、取り敢えず、最悪の勘違いだけは免れたようだ。

俺もこの場を早々に立ち去ろう。

それにしても疲れ過ぎた。今日はもう帰りたい。


◇◇◇


双葉先輩襲撃事件の翌日、

俺は今、校舎の横手にある通用口入口の前にある階段に座っている。

いつも俺が昼飯を食べる場所だ。

昨日はいきなり教室の前で双葉先輩の襲撃を受けてしまったので、今日は4時限目終了のチャイムが鳴ると同時に教室を出て、ここに避難してきた。

とはいえ、伊織先輩に連れていかれて昨日はこっぴどく怒られたはずだから、さすがの双葉先輩でも2日連続の襲撃はないだろう。ない…よな?

まぁ念には念を入れての避難だ。

それに、昨日のことがあった所為か、クラスの生徒の視線がいつも以上に厳しかったために教室に居辛かったのもある。

それにしても、昨日の襲撃には肝を冷やされた。

ボッチで女生徒にモテない俺にとっては、アイドル的美少女と言われてもピンとこない。そもそも女性というもの自体を意識しても仕方ないので、そこまで深く考えたことがなかったのだ。

ここは暫く双葉再襲撃には注意をした方が良いだろう。

さてさて、避難もしてきて反省会も済んだし、それじゃあゆっくりと弁当を食べるとしよう。


………、と、その時、


ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!キィーーーーーー、タンッ!


「お米君、見っけ!探したよ〜、教室行ったらいないんだもん」

「こらーーーーーー!誰がお米君だ!そこから入るな。話が進まんだろ!」

「え〜、だってぇ。お米を届けてくれる王子様だしね」

「だ・か・ら、誰がお米君だ!つーか、何でお前は来るんだよ?!」

「え〜、だって一昨日、お弁当の交換の約束したでしょ」

「してない!それはお前が一方的に言ってただけだろうがぁ」

「でも、お米君、嫌って言わなかったでしょ?」

「それはスルーしただけだ!そもそもあの話の流れだと、どう考えても普通俺が生徒会に入ったらって話だろ!」

「ええ〜、『生徒会に入ったら』なんて、そんなの双葉言ってないし」

「えっ?」

「うん?」

「いやいや。おかしいでしょっ!?」

「何が?」


こいつはバカか?自分の言ったことを忘れてるのか?

まぁ、俺も会話の一つ一つを覚えている訳ではないが、これはあまりに酷すぎる。


「……え〜っと……、もう一回、一昨日の会話を思い出してみてくださいね?」

「うん。いいよ」

「まず、伊織先輩が双葉先輩に俺を生徒会に誘ったらどうかって聞きましたよね?」

「うん、いおりんに聞かれたよ」

「それで、双葉先輩は、俺が生徒会に入ったら毎日お米がいっぱい食べられるから良いねって言いましたよね?」

「うん。言ったよ」

よし!裏取りは取れた!ちゃんと順を追って聞けば覚えてるじゃないか!?

さすがの双葉先輩でもこれで言い逃れはできないだろう。

「ほら、俺が生徒会に入ったらって言ってるじゃないですか?」

「うん?でも、それはいおりんに言ったとことで、お米君との約束とは違うよ」

「えっ?」

「うん?」

「って、いやいやいやいや。だって、俺もその時居ましたよね?」

「うん。居たけど、あれは双葉といおりんの相談話だよ」

「へっ?……、でもでもでもでも、その相談の結果、俺を誘ったんですよね?」

「うん。そうだよ。でも、お米君が少し考えるって言うから、双葉は『明日からもお弁当交換しようね』って誘ったんだよ」


えっ?相談話しと最後の話は関係ないの?途中で切れてるの?

えーっと、それって俺の解釈ミス?そうなの?俺がコミュ障なの?

いかん。頭の中がおかしくなってきたぁ……って、ダメだ!決してこいつに流されてはダメだ。俺が真性のコミュ障になってしまう。

ここは………、不本意だが仕方がない。仕切り直そう。


「分かりました。では、百歩譲って俺の解釈ミスは認めます。なので、ここで改めてお断りします!嫌だ!」

「え〜、ダメだよ!一回約束したことを撤回とか認められないよ」

「いや、だから!あれは俺の解釈ミスでスルーしただけって言ってるんです!」

「それは暗黙の了解って言うんだよ」

「だから!解釈ミスだと言ってんだろうが。人の話を聞け!」

「解釈ミスはお米君の話で、約束は双葉とお米君の話だから違うよ」

「だ・か・ら!勝手に都合の良いところで話を切るな!繋げろ!ああーーーー、もう頼むから意味の通じる会話をしてくれーーーーー!」


「無駄だと思いますけどね」

「は?」

「いや、だから、若松(わかまつ)先輩と真面な会話は繋がりませんよ。諦めた方が賢明ですね。それより、若松先輩にタメ口で暴言を吐くとは、あなたは見上げた根性の持ち主ですね。アホですか?」

「おい!暴言とはなんだ。暴言は双葉先輩の方だろ。てか、お前誰だよ?いきなり現れて初対面の相手にその物言いの方が暴言だろ」


いきなり喧嘩を売ってきたこの女生徒は初めて見る顔だ。

髪は茶髪で肩ぐらいまでのボブカット?少し不揃いな感じだがファッションか?不快感はない。身長はかなり低くて140cmぐらいだろうか。少し幼感が残る美少女だ。こういう奴が世間ではロリッ子と言われるのだろう。色に例えるなら……間違いなく黒だな!


「ほう。クラスメイトに初対面とはやっぱり貴方はアホなんですね」

「へっ?クラスメイト?お前みたいな奴いたか?」


ついでに他の奴も知らないけど。

あっ、そういえば、さっき双葉先輩が俺の教室に行ったと言っていたが、その時に、こいつを連れてきたのか?ということは双葉先輩の知り合いか?


「こら待て!それでは私が影の薄いボッチみたいではないですか!何ですか?喧嘩を売ってるんですか?」

「喧嘩は売ってないだろ!お前が勝手に尾ひれ背びれを付けたんだろうが」


はぁ、なんだか知らんが、また面倒臭い奴が増えた。


「なんですか?私が勝手にとは!それでは私が会話の意図を間違えたようではないですか!自分の説明不足を棚に上げて失礼なやつですね。やっぱりアホですね」

「どう考えても間違えてるだろが!というか、その毒なんとかしろ!」

「毒とはなんですか?人を毒蛙みたいに言うとは失礼な奴ですね。礼儀知らずにも程があります!」

「それを毒って言うんだ!しかも人の話を勝手にマイナス方向に解釈して、それを糧にして毒吐くってどんな芸当だよ」

「それでは私が無理やり因縁を付けているみたいではないですか!?いいでしょう!そこまで言うなら、その喧嘩買ってやろうじゃないですか!」


そう言うと、”黒”少女は、俺の胸ぐらに掴み掛かってきた。


「おいおい!待て待て!」

「………」

「………」

「………」

「って、胸倉に掴みかかるのは良いけど……、お前、どう見てもブラ下がってんじゃねえか。少しは身長差を考えろよ!」


………


「こらこら!胸倉引っ張るなっ!…って、お前が懸垂してんじゃねえ!」


はぁ、あまりの光景にこっちの毒気が抜けてしまった。

このまま胸倉にぶら下がっていられるのも困るので、俺は”黒”少女の頭を鷲掴みにし、”黒”少女を無理やり剥がした。


「おい!何をするんですか?手を離せ!女性の髪を触るとは失礼だろ!おりゃー!どりゃー!おりゃー!!!!!!」


”黒”少女は俺にパンチと蹴りを入れてくるが、リーチ差があるので届かない。

こいつバカだわ。でも、これなんか楽しくなってきたぞ。

まるで、猫とじゃれ合っているようだ。うん。”黒”少女から猫娘に昇格させてやろう。


俺が猫娘とのそのんなやり取りに気を取られていると、階段の方から、何やらガサゴソ、ムシャムシャという音が聞こえくる。

俺はなんとな〜く嫌な予感がして、恐る恐る音がする方に視線を向けると………、


「って、お前!勝手に人の弁当食ってんじゃねえーーーーーー!」

「? 心ふぁいしなくても、んく、お米君のお弁当はちゃんと私が持ってきたから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃねえ!」


ああーーーーーー!なんなんだ、この壮絶な頽廃感(たいはいかん)は?

俺は灰になってしまった気分だ。立ち尽くす以外術がない。白髪になってないよな?


そして、その時、ようやく伊織先輩が駆け付けてきた。


「ああー、遅かったか!新見君すまない。目を話した隙に逃げられてしまった。本当に申し訳ない」

「あっ、いえいえ。伊藤先輩の所為じゃないですから」

「ええ〜、逃げた訳じゃないよ。約束守りに来ただけだよ」


煩い!お前は喋るな!本当に話が進まないから勘弁してくれ。


「あっ、そういえば、琴美(ことみ)君までどうしたんだ?少し涙ぐんでいるようだが?」

「おりゃー!どりゃー!こいつが、女性の髪の毛を触って離さないので成敗してるんです!」


あっ!忘れてた!


「すまん。離すわ」

「死ね。この変態!」


あっ、こいつ!俺が手を離した瞬間に俺に一発蹴りを入れて、すぐさま伊織先輩の陰に隠れやがった。まぁ、忘れてた俺も悪いしな。ここは勘弁してやろう。

しかし、この琴美とか言われた奴は何者なんだろう?どうやら同じクラスのようだが。

っと、今はそれどころではないな。


「あの〜、双葉先輩?」

「お米君、どうしたの?」

「え〜とですね、どうしても俺の弁当を諦めてもらう訳にはいきませんか?」

「う〜ん。約束だからね。生徒会長としては破れないかな」


そこだけ生徒会長を主張されても説得力の欠片もないのだが…。


「分かりました。その代わり条件があります」

「えっ?条件?」

「はい。俺の教室には来ないでください。その代わり、ここで弁当を交換しますから」

「ここで?うん、別にいいけど、どうして?」

「いや、まぁ、諸事情ってやつです」


お前が来たら目立ってしまって、俺の『闇に紛れて生きる大作戦』が頓挫してしまうなど言えない。ここは分厚いオブラートに包ませてもらおう。


「新見君、君はそれで良いのか?君が良いなら私も監視をしない分助かるのだが」

「いや。そこは監視してください!放置は危険です!」

「あっ、ああ」

「うん。じゃあ、明日からここでお弁当の交換会だね」


おそらく、会話が成立しないであろうこいつを説得するのは不可能だ。

そして明日からも間違いなくこいつは襲撃してくるだろうし、タイミングが悪ければ、昨日のような状況に成りかねない。

それであれば、いっそうここで交換した方が人目に付かない分、被害が少ないだろう。

これが俺が今できる最善策だ。本当は関わりたくないのだがな。

はぁ、それにしても変な奴に目を付けらたものだ。


そして、ようやく話が纏まり掛けた時、


「すみません。さっきからお話を聞いていましたが、若松先輩とこのアホが一緒にお弁当を食べるのですか?」


伊織先輩の陰に隠れながら、”黒”少女が問い掛けてきた。

あれ?そういえば、こいつ双葉先輩のことをさっきも若松先輩って呼んだけど………、若松というのは最近どこかで聞いたことのある苗字だな?

昨日は伊織先輩とは名乗り合ったが、双葉先輩は夢中で俺の弁当を食べていたので、双葉先輩の苗字は聞きそびれていた。まぁ、伊織先輩が双葉と言っていたので下の名前だけは分かったが。


「うん。ことみん、そうだよ」

「そうですか、………、では私もご一緒させて頂きましょう。こいつと若松先輩が二人っきりなど危険過ぎます」


猫娘は俺の方を睨みつけながら、そんなことを言ってきた。

おいおいおいおい!お前が居る方が危険だろ。特に俺のシャツの襟首が!お前がぶら下がると破れるからな。


「うむ。そうだな。では、私も一緒に食べよう。双葉の監視もあるしな」


えっ?えっ?えっ?何?

いきなり大所帯になりましたが、どうして?ねえ?俺の安息の地はどこに行ったの?

この猫娘、本当に余計なことをしやがる。

かといって、駄目だとでも言いようものなら、教室でなどと言い出しそうなので、ここは甘んじて受けるしかないだろう。まぁ、ここなら人も来ないし人に見られることもなさそうだ。


まぁ、無理やり感はあるが話も纏まったので、ここで俺も一つ質問させてもらおう。

先程からちょいちょい気になっていたことだ。


「え〜と、俺からも質問して良いですか?」

「ああ、新見君、どんな質問だ?生徒会に関することか?」

「いえいえ、違います。大した話ではないんですが、双葉先輩、若松って言うんですか?」

「えっ?うん。そうだよ。昨日言わなかったけ?」

「はい。昨日は先輩の諸事情で聞きそびれたので」

「私の諸事情?」

「まぁ、諸事情に深い意味はないので気にしないでください。それより、若松って、最近聞いた気がするんですよね〜……」

「う〜ん?………、あっ!お米君は、ことみんと同じクラスだから1年C組だよね?」

「あ、はい。1年C組ですが、それが何か?」

「それじゃあ、私のお姉ちゃんが、お米君のクラス担任だからじゃないかな?」

「えっ?えっ?ええーーーーーー!」

「??? 今のそんなに驚くとこかな?」


いやいや。言われてみれば顔立ちも良く似ているし、2人とも別世界の天然だから、姉妹だと言われても納得する。むしろ疑う余地がない。

しかし逆にそここそが驚きなのだ。だってこんなのが家に2人もいるんだぞ!想像しただけで怖気が走る。俺なら間違いなく病院送りになってしまう。

まぁ、一度は家庭風景を見てみたいが。


「でも、そう考えると、お米君と私は親戚みたいなものだね」

「えっ?親戚?いやいや。俺は病院送りになりたくないんで!」

「??? 大丈夫?どこか調子悪いの?」

「あっ、いえいえ。大丈夫です。それよりなんで親戚なんですか?」

「だって、私とお姉ちゃんは姉妹だよ。で、お姉ちゃんと新見君は教師と生徒でしょ。師弟の関係って親子も同然って言うじゃない」

「いやいや。教師と生徒では親子とは言いませんから!大体、それだと双葉先輩は俺の叔母さんになりますが、それで良いんですか?」

「うむうむ。それじゃあ、私も若松先輩と親戚ですね。それは良いですね」

「ええ〜、叔母さんは嫌だな。姉弟が良いなぁ〜」

「姉弟だと妹は入らないので、姉妹も含んでください」


何やら、猫娘がちょくちょく挟んでくるが、無視しておこう。


「それじゃあ、俺が、双葉先輩のお父さんの隠し子になりますよ?」

「ええ〜、お父さん、隠し子いるの?新見君、隠し子なの?」

「お父さんに隠し子なんていませんから。あっ、いや。それは知らないですけど…、俺は隠し子じゃないですから!」

「そうなの?良かったぁ。双葉びっくりしたよ」

「びっくりするも何も、そもそも双葉先輩が言ったんでしょうが!」

「ええ〜、双葉は隠し子なんて言ってないよ」

「ああーーーーーー!出た!双葉の必殺技!会話連結強制接断斬(ワードチェインブレイカー)!って、そうじゃなーーーい!話を途中で切るな!繋げろーーーー!」

「また暴言ですか」

「あはははは。これから昼休みが楽しくなりそうだな」


楽しくなーーーーーい!


こうして、期せずして俺の弁当交換生活が幕を開けた…

それにしても、俺の温和な学生生活がどんどん崩れていっている気がするのは、気の所為か?

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