第1章:俺の辞書から社会貢献が除かれた

第1章−[1]:高校生活は初日から無理難題

はぁ〜、どうしてこうなってしまった?

俺は教室の机に突っ伏しながら項垂れている。


今日は高校入学式。


えっ?何故、進学を諦めた俺が高校にいるかって?

これには長く壮大なストーリーが……、

って、そんなものがあれば俺がビックリするな。そんなものは勿論ない。

あれから就職することに決めた俺は、中学最後の進路相談で就職と書いた進路希望票を確かに提出した。

どの道、進学できないのであれば就職した方が良いに決まっている。

お金も稼げるし、一石二鳥というやつだ。

ただまぁ、難点といえば、中卒ではそれ程大金は稼げないことだろう。

しかし、今よりは遥かに裕福な暮らしができる。

俺の母も就職に異論はないと思っていた。

ところがである。

進路希望票を出した日、家に帰ると何故か母が卓袱台の前で涙ぐんでいる。

日々ビンボーにもめげずに笑って生活していた母が泣きそうな顔でいるのだ。


「どうしたの?何かあったの?」


それはもう何があったのかと慌ててそう問い掛けた。


「一斗、あなた進路希望で就職希望で出したの?」


俺は何が飛び出してくるかと身構えていたのだが、母から返ってきたのは予想していたことではなく、進路希望の話だった。

…………。えっ? 何?というより何故知っているのだ?提出したの今日なんだけど……。

中学に入ってから頻繁に呼び出しを受けていた母は、先生ともかなり顔見知りになっているようで、そういった情報は直ぐにリークされるらしい。

何?学校には生徒の守秘義務ってないわけ?少しは仕事しろよ!まぁ、相手が母親なので守秘義務もクソもないのだが。

まぁ、それは別にいいんだけど、それと涙ぐんでることと何か関係が……?


「高校には進学する気がないの?どうして高校にいかないの?」

「???」


母が問いかけてくるがますます意味が分からない。


「だって、うちには高校行くお金なんてないだろ。それに日本のような学歴社会だったら大卒以外はみんな同じだよ。中卒でも高卒でも就職には影響ないからね」


そう言うと母はますます泣きそうになった。


「就職が優位とかそんな話じゃないのよ。お母さんはね、亡くなったお父さんに顔向けできないんだよ。」


ええ?そこ?いやいやいやいや。そこはどうでも良いよね?

根本的にどうしようもないよね?

どうも母は、俺が進学しないことにショックを受けているようだ。


「お父さんが亡くなる時、お父さんはあなたのことが心残りだったのよ。だからお母さんはあなたを一人で立派に育てるて約束したのよ」


そう言うとついに母は泣き出した。号泣である。

まぁ、気持ちは分からなくはないけど…。むしろありがたいくらいだけどさ……。


「でもお金はどうするのさ?うちにはそんなお金ないでしょ」

「大丈夫!奨学金制度ってものがあるらしいんだよ」


だよ?だよって、それ誰かの入れ知恵?余計なことをしてくれる奴がいるものだ。


「学費は奨学金制度でなんとかなったとしても、生活費はどうするんだよ。母さん、そんな体じゃ働けないでしょ。俺が働いたら済むことだろ」

「そんなことは子供の心配することじゃないよ。お母さんはまだまだ働けるよ!それに、あなたが学校卒業したらちゃんと養ってもらうから大丈夫だよ」


あっ、俺が養うのは前提なのね。まぁ、俺もそのつもりだし問題ないけど。


それから30分ほど、このような話を数えきれないぐらい延々とループしたのだが、母は一向に折れようとはしなかった。

まぁ、母は一度言い出したら人の話は聞かないので、俺が折れるしかない。

それに母親の涙は少々辛い。

そんなやり取りがあり、半ばなし崩し的に高校に入学したのである。

あっ、ちなみに奨学金は無事受けられました。ありがとうございます!

というより受けれなかったら今この場ににいないんだけどね。


◇◇◇


そして先程まで体育館で偉い方達のありがたい話を聞いた後、各自の教室でホームルームがあり、担任の先生から学校説明が行われていた。

普通なら、世の中の学生にとっては新たな青春の1ページが刻まれる大切な門出の日である。新しい出会いとラブコメに胸躍り、ワクワクドキドキ!キャッキャウフフ!な気分に慕っていることだろう。

当然、先ほど説明のあった校則なんて耳に入ってる者は少ない。

現に、ホームルームが終わった教室では、携帯電話を取り出しアドレス交換を行っている者、ここぞとばかりに隣に座った女子に自己アピールをする男子など、喧騒に包まれている。

これが世の中で言われるリア充というというやつだ。


お前ら全員砕け散れ!


それにしても、リア充って何だ?価値観は人それぞれじゃないのか?

自分が満足していれば、それがリア充で良いだろうに。どうしてこんな言葉まで作って区別したがるのだろう?

リア充だけが正しいように扱われるのは間違っている。

例えば、ヒキコモリなんて理想の生き方だろう。

だって、家に居て働かなくても生きていけるんだぞ。もし働かずに食べていけるとしたら、どうだ?大半の人間が働かなくなるんじゃないのか?

オタクだってそうだ。好きな事に打ち込んで生きていけるなんて、なんとも理想的な生き方じゃないか。

この世の中に好きな職業に就ける奴がどれだけいる?みんな妥協して就職するんじゃないのか?それこそ負け組じゃないのか!?

視点を変えれば違った部分も見えると思うんだけどな〜。皆はどうしてリア充に拘るのか不思議でならない。

選択肢は大事に選ぶべきだぞ。俺なんて選択肢自体が与えられていないんだから。何これ?寂しい!

と、いかんいかん。

この手の話になると、ついつい俺の闇の部分が出てしまう。ついでに自分で心まで折ってしまった(泣)


話が逸れてしまったが、話を戻すと、俺は先ほどのホームルームで説明された校則に出鼻を挫かれ心が折られてしまっている。もうボッキボキだ!

そんな俺の心を折った校則とは、


1. 当校の学生はアルバイトを禁止する


何故だ?意味が分からない。

高校生といえば社会に出る一歩手前じゃないのか?

であるならばだ。むしろ社会経験は必須ではないのか?それとも、これがゆとり教育ってやつか?

世の中、学生に甘すぎなんじゃないですか?って、俺も学生か!?

いやいや、そらね。甘やかされるのは嬉しいしウェルカムですよ。でもね。わざわざ校則で禁止することはないんじゃないでしょうか?

この校則で不幸になる奴もいるんだぞ。俺なんて死活問題だ(泣)この高校は俺に死ねと言っているのか?ほんと勘弁してくれ〜!


2. 当校の生徒は全員部活動に参加する


部活動に参加すること自体は問題ない……ないこともないが、ないことにしても良い。しかしだ!それもお金の課からない部活があるならの話である。そんな部活がある訳がない。

運動部であれば、ユニホーム、備品、遠征費、合宿費などにお金が課かることはあれど、そうでない部活など聞いたこともない。

文系部は一見お金が掛からないように見えるが、そうではない。

例えば美術部であれば絵の具やキャンパスなどの消耗品や備品が必要だし、パソコン部や遊戯部であげばゲームソフトや課金などのお金が必要だろう。ましてや競技系の文系部に至っては遠征費などが必要となる。

部活動?何それ?美味しいの?お腹膨れるの?

そんな余裕はうちの家にはありません!


どうにもこの学校は俺に対して優しくないようだ。むしろ死ね!と言われているようにすら思えてくる。

いくらこの高校が公立の名門進学校で、しかも文武両道を謳っているとはいえ、大学に進学しない俺にとってはそんなことはどうでも良いのだ。

それよりもお腹いっぱい食わせて欲しい!


だったら、何故、進学校に入学したのかって?

これには長く壮大なストーリーが……、2回目はないな、ごめんなさい。

理由なんて何のことはない。俺の家から自転車で通学できる高校がここだけだったのだ。交通機関を使うなんてのは以ての外!そんなお金はない!

公立高校と言っても、自転車で通学できる近場の高校なんてそうそうないし、どこの高校だろうと拘りのない俺が、わざわざ頑張って遠い高校に通う必要もない。

それに既に入学してしまったものは悔やんでも仕方がないしな。俺には過去に戻る能力なんて備わってないし、あったとしても死ぬのは怖いし。ってこれ怒られるか?


まぁ、この状況をなんとか打開する方法を考えるしかないだろう。

ギャルゲーにだって幾つかのルートがあるみたいだし、考えればルートの1つや2つは見つかるはずだ。

よし!家に帰って、ポジティブシンキングタイムだ。


俺が気を取り直し、カバンを担いで席を立つと、隣の男子学生が声を掛けてきた。


「ねえねえ。これからみんなで紹介と親睦を兼ねて遊びに行くんだけど、新見君も一緒にどう?」


えっ?なに突然!?リア充のお誘いか?

とういか、お前誰?なんで俺の名前知ってんの?まだ自己紹介もしてないだろ?

リア充の人名辞書の登録速度ハンパねぇーなー。どれだけのスペックをそこに割いているのだろう?

声を掛けてもらえたのはありがたい話だが、俺は今お前達に付き合っている暇はない。

とかっこよく言ってみたものの本当は遊びに行くお金がないのだ(泣)でも、そんなことを悟られると蔑まれてしまう。これは中学生の時に経験済みだ。

ここは当たり障りのない返答をしないとだな。


「ごめんね。俺、今日は用事あるんだよ」


俺は爽やかに返答し、そして、軽く手を振り別れを告げてその場を離れたのだが、俺が教室を出ようとした時、


「新見君ってノリ悪いね?」

「それも言うなら『付き合い悪い』じゃないか?」

「あっ、それそれ!」

「それにしても。初日から付き合い断るとか、ありえなくない?」

「やっぱ、ないよね〜」


などという話し声が笑い声と共に聞こえてきた。


あれ?俺、当たり障りのない理由で断ったよな?

俺、選択肢間違った?ひょっとして、どのルートも奈落の底なの?

ほんとこれクソゲー過ぎるだろ!こんなの売れねぇぞ!

絶対、神様にクリエータの素質はないな。

それにしても、断り方なんてどうでもよくて、付き合うのが当然みたい言い方だな?

どっかに一緒に遊びに行かないと友達付き合いできないのか?

なんとも薄っぺらい関係だ。ペラッペラだ!

大体、その遊ぶ金もお前達が自分で稼いだものじゃないだろうに。何を偉そうに語っているのだろう?そういうのを虎の威を借る狐って言うんだぞ。

故人曰く『金の切れ目は縁の切れ目』とはよく言ったものである。

でもまぁ、俺がそんなことを言ったところで世の中が変わるわけもない。彼らの方が一般的で多数派なのだ。そして世界はそんな彼らのためにあるのだ。

封建社会の底辺なんぞ知ったこっちゃないのである。

やはり高校でもボッチは確定事項のようだ。これが現実ってやつだな。


そして俺は一人寂しく、ボッチという帰路に着くのでした。なにこれ寂しい!

そうそう。当然高校でも『闇に紛れて生きる大作戦』は継続予定なので、俺の高校生活は温和なものとなる予定だ。ボッチだけどね…。

ちなみにこの作戦、高校で初デビューなのだ。ついに役に立つ時がきた!www

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