第5章:俺の辞書に価値はない
第5章−[1]:新たな決意の門出
社会生活というのは難しい。闇に紛れて生きることがこれ程大変だとは思ってもみなかった。
俺が高校に入学してまだ1ヶ月半程度だというのに、早々にそんなことを痛感させられてる。
まぁ、そもそも参加しないという手段を得たので無敵化に近付いているとは思うが。
俺がそんなことを考えながら生徒会室の扉を開ける。
今日は双葉先輩達がお昼休みにクラスの用事があるとのことでお弁当交換会は中止になっている。このため生徒会室には放課後の生徒会活動のために来ている。
「おはようございます」
「ニット君、はっふぉー」
「フィ、フィ、フィット、はっふぉーだ」
「ニット、はっふぉーです」
「新見君、おはようございます」
えっ? ニットって誰? しかも一人だけ体に張り付いてますけど?
俺は思わず辺りを見回したが、他には誰もいない。
って、いないよね? 俺だけ見えてない人がいるとかないよね? トイレに一人で行っても大丈夫だよね?
「えーっと、ニットってなんなんですか?」
「ニット君は新しいニット君の呼び方だよ」
「………、双葉先輩?」
「うん、どうしたの?」
「『ニット君はニット君の新しい呼び方だよ』って、おかしくないですか?」
「えっ? そうかな?」
「だって、ニット君も新しいニット君もニット君ですよ?」
「えっ? う〜ん。う〜ん。ニット君はニット君の新しい呼び方で、でも、ニット君はニット君のままだから一緒? あれ? じゃあ、ニット君は新しい呼び方じゃないの? でも、ニット君は新しい呼び方だよ? あれ? どこがおかしいの?」
うん。バカだ! 真性のバカだ!
「双葉先輩、もういいです。で、どうしてニットになったんですか?」
「あ、うん。えーっとね。ランクアップだよ」
ランクアップって何? 渾名にレベルってあるの? レベル上がるとクラスチェンジとかジョブチェンジしちゃうの?
確かにニートからニットにジョブチェンジしてるけど、それで良いのか?
「渾名の出世とか聞いたことありませんけど?」
「えぇ〜? でも、ランクアップだよ?」
「う〜ん。確かにランクアップとも言えるか」
「そうですね。ランクアップと言えばランクアップですね」
「まぁ、ランクアップしたのは渾名ではありませんが、そうですね」
「なんだよ、そのナゾナゾみたいなの?」
「新見君は気にしなくても良いと思いますよ」
朗らかに微笑んで何だよ? 意味不明なんだけど。
って、また俺だけ仲間ハズレ? いーですよ。いーですよ。もう慣れっ子ですからね。うぅ、寂しい!
それにしても、最近ニートを聴き慣れてしまった所為か、急にニットと呼ばれても違和感がある。
それに不思議とみんなとの距離が少し開いたような気がしてしまうのだが何故だろう?
今までズカズカと家の中に上がり込んでいた奴から急に玄関の前で「入ってもいいですか?」と聞かれている気分だ。俺にはそんな友達いないけど。
「お、おほんっ! そ、それとだ。そのぉ、なんだ………」
「伊藤先輩、どうしたんですか?」
「そ、それだ! そ、その伊藤先輩というやつは少々方苦しくないか?」
「??? どうしたんですか? 急に」
「いや、そのだな。ニットは双葉のことをなんと呼んでいる?」
「えっ? 双葉先輩ですが、それがどうかしたんですか?」
「う、うむ。そ、そのぉ、なんだ。だったら私のことも、い、伊織先輩で良いんじゃないか?」
「「「………」」」
「な、何だ? みんなして、そ、その眼は? わ、私は変なことは言ってないぞ!」
「でも、私と琴美ちゃんは若松先輩、伊藤先輩と呼んでますよ?」
「あ、いや、それは……、そ、そうだ!愛衣君も琴美君も双葉先輩、伊織先輩と呼んでくれて大丈夫だぞ!」
「そうですか。でも、それを言うと………」
「う、うん? どうしたんだ?」
「伊織先輩は私のことを愛衣君と呼ばれてますし、琴平さんは私のことを愛衣さんと呼んでますからね」
「そうですね。私も伊織先輩から琴美君と呼ばれて、愛澤さんからは琴美ちゃんと呼ばれてますね」
何? なんなの? そのジト眼は?
えっ? もしかして、俺が愛衣さんとか琴美ちゃんて呼べってこと?
バッカじゃないの? な、なんなのこのリア充みたいなノリは?
針の筵に貼り付けられて万力で挟み込まれている気分がするから、やめてっ!
「無理無理無理無理無理無理無理!」
「どうして7回も言ったんですか?」
えっ? 数えてたの? 怖い! 怖いんですけど!
頼むから本題以外の方法で追い込まないでくれ!
「そらそうだろう。下の名前で呼ぶなんて、どこのリア充だよ?! だったら、お前らも俺のことを下の名前で呼ぶ気なのか?」
「あ、いや、ニットはニットだしだな………」
「でも、全員を渾名で呼んでるのって双葉先輩だけですよね?」
「うっ、あ、いや、そうだが………」
「じゃあ、伊藤先輩から俺を下の名前で呼んでみてくださいよ」
「え、あ、えーっと」
「どうしたんですか? 早くしてください」
「え、えーっと、か、か、か、かーーーじゅ………」
「はい。アウト〜!」
「じゃあ、次は琴平、呼んでみろ」
「えっ? あ、そ、そのぉ、か、か、か、かじゅーーー………」
「はい。アウト!」
「それじゃあ………、愛澤………」
って、いかん! こいつにだけは振ってはいけない気がする!
俺の脳内警報がウィーンウィーンと煩く警報を鳴らしまくっている。
「愛澤は………、もういいよな」
「一斗君、どうしてですかぁ!」
ほら。こうなるでしょ。
「いや、みんなで呼び方を合わせるんだろ? お前が言い出したんだぞ。だったら、伊藤先輩と琴平がアウトの時点で聞く必要ないだろ?」
まぁ、時既に遅いけど。
って、愛澤さん? 何で伊織先輩と琴美を睨んでるの? 二人とも怯えてますよ?
それにしても、愛澤家の宮廷ルールはよく分からない。格式高いと思えばこういうところはフレンドリーだったりするからな。まぁ、諸外国ではファーストネームで呼ぶのが普通みたいなので、愛澤家もそうなんだろうと納得するしかないか。
「はい。ということで、伊藤先輩は………伊織先輩、愛澤は愛澤、琴平は琴平ということで!」
「「「えーーー?!」」」
「や、やったーーー!」
「新見君、ど、どうしてですか?!」
「そ、そうです!」
「えっ? 別に大して理由はないんだけどな………」
大した理由はないのだが、さっきから一人勝ち誇ったようにしている人がいるのが目に入ったので、少し悪戯してみたくなっただけだ。
「ブーーー!!」
うん。その一人は物凄くムクれていらっしゃいますね。なんだか楽しい!
しかし、呼ばれ方一つでランクが位置付けされるとはリア充とは本当に分からない世界だ。
そんなことでリア充の充足感を味わってもらえるなら、愛澤と琴美のことも下の名前で呼んでもいいのだが、そこは、なんというか、俺にも色々事情があるのだ。って、恥ずかしいとかじゃないぞ! 俺は世界一の男女平等主義者だからな! そ、そうだ!俺はリア充じゃないからだ!
その証拠に伊織先輩と琴美はリア充ではない俺を下の名前で呼ぶのに抵抗があったからな。
「うんうん。やったー!」
「伊藤先輩、それより生徒会の方を進めませんか?」
うわぁ、愛澤は『伊藤先輩』で押し切る気みたいだな。目が座ってるし。
ファーストネームのルールはどこに行ったんだよ?
「あ、あ、そうだな。それじゃあ、今日の仕事が終わったら明日から生徒会も一時休止だから、今日は切りの良いところまで作業を進めるか」
伊織先輩は愛澤のそんな様子など意に介さず機嫌良さそうにそんなことを言ってきた。
って、今、さらっと大事なことを聞いた気がするぞ。
「え? 一時休止ってどうしてですか?」
そもそも帰宅部志望だった俺にとっては一時休止は喜ばしい事態だが理由が気になる。
「ニットはホントにバカですか? もうすぐ中間試験だからに決まってるじゃないですか」
「うむ。部活動もそうだが試験勉強のために生徒会活動も休止になるんだよ」
「あぁ、そう言えば、そんなものがありましたね」
中間試験の勉強か。
俺は卒業さえできれば良いので関係ないと言えば関係ないが、最近はこいつらの所為で授業中に寝ることが多かったので、多少勉強した方が良いかもしれないな。
「おっ、ニットはかなり余裕のようだな?」
「えっ? 余裕というか、赤点さえ取らなきゃ進級はできますからね。それほど焦る必要もないでしょ?」
………
あれ? 伊織先輩の質問への返答がおかしかったか? 何故か妙な沈黙が流れているのだが。
と、その時、生徒会室の扉が開き、
「おぅ。邪魔するぞ………」
夏川先生が入ってきた。
「………、お前達、どうしたんだ? 何を固まってるんだ?」
「あっ、夏川先生、お疲れ様です。いや、固まっていたというか………」
伊織先輩は、何やら神妙な面持ちで直前までのことを夏川先生に説明している。
「なるほど。そう言えば、新見には説明してなかったな」
「いえ、私達も説明しなかったのが悪いんです」
えっ? 何をだ?
おいおいおいおい! まだ何か隠し玉があるのか?
この学校にはどれだけびっくり箱が隠されてるんだよ?! お化け屋敷か? 忍者屋敷か?
あぁ、ものすごーーく嫌な臭いがする。というか、嫌な臭いしかしない。
「でもまぁ、試験前に分かったんだから良かっただろ。今からでも遅くはない。今から私が説明してやろう」
何が遅くないんだ? 入学してから説明って遅いだろ? 後出しジャンケンOKなの?
なら、野球拳で勝負してやる! 掛かって来い! 身ぐるみ剥いでやるから掛かって来い!
「新見、実はな………」
「聞きたくなーーーーい! あーあー、聞こえない! 今日は耳が日曜日です」
こうなれば両耳を塞いで抵抗してやる!
かなり幼稚な行為だがここは勘弁してもらおう。後出しジャンケンよりマシだからな。
「……、おい! 琴平、新見が隙だらけだぞ。狙うなら今だ」
「バッカ! お前、何してんの? 脇を擽るな! やめろーーーーー!」
ここぞとばかりに琴美が攻撃してきやがる!
ていうか、お前教師だろ! 生徒を嗾けてどうするんだ!
「………、はぁ!はぁ!はぁ!」
クソッ! 琴美に負けてしまったではないか。
それにしても、こいつは急所を見事に付いてきやがる。
「お前、どこでそんな技覚えたんだよ! 幼気な幼女にはまだ早いぞ!」
「誰が幼女ですか! こいつまだ足りませんか!」
「ははは。琴平、もう良いぞ。でだ、新見、話を聞く気になったか?」
ホントにこいつは強引な奴だな! 絶対いつか野球拳で鳴かせてやるからな!
「分かりましたよ。聞きますよ」
「うん。良い心掛けだ」
褒められても嬉しくない。
ていうか、褒められるところじゃないし! 絶対にお前が地獄に堕ちるとこだ!
「それじゃあ、話を続けるぞ。実はな、ここの生徒会メンバーは主要教科のうち5科目以上で90点以上を取ることが必須とされている」
「えっ? 今、何か言いました?」
意味不明だ! 今時、どこのスパルタ教育だよ?!
そんなスパルタだとモンスターペアレンツが襲ってくるぞ! あいつらマジで怖いんだぞ! あいつらの辞書には好き勝手という言葉しかないんだからな!
って、生徒会はエリート製造所だったの? ボッチ強化所じゃなかったの?
「聞こえなかったか? 5科目以上で90点以上が必須だと言ったのだが」
「聞こえてますよ! ていうか、何なんですかその条件! アホですか?」
「アホとは失敬な。アホではそんな点は取れんぞ」
いやいやいやいや! そこじゃない! 人の話を聞け!
前後関係を汲み取れ!
「そういうことじゃなくて、その条件ですよ!」
「まぁ、そう興奮するな。私も同感だが、そんなに簡単な話でもないのだ」
簡単な話じゃないってどういうこと?
複雑な事情があればそんな条件になるの? 粒子力学とか語りださないよね?
「私もこの学校に着任して聞いた話だから、聞き伝え程度でしかないが、これはこの学校の開校当時からの風習なのだよ」
おいおいおいおい! 何か話が壮大になってきたぞ。
「開校当時…?」
「ああ、この学校が作られたのが40数年程前なんだが、その当時は、学生運動は下火になり始めたとは言えまだまだ過激で、それに学校も設立したばかりということで、生徒が血気盛んだったそうだ」
「はぁ?」
話が全然見えない。まぁ、聞くと言った手前、聞きますけどね。
「そういう風潮の中生徒会の選挙が行われたんだが、候補者同士の対立が過激化して、あわや暴力沙汰にまで発展しかけたそうだ。それを防ぐために候補者同士で話し合いが持たれた結果、会長選出方法として『学校で成績が1番の者が会長になる』ということで落ち着いたそうだ。その後、この学校が進学校ということもあり、この風習が続いているという訳だ」
「はぁ、まぁ、それはありそうな話ですけど、40年以上も前の話ですよね?」
そうなのだ。大体、40年以上も前の話を今頃まで引き摺っているのはおかしいだろう。
何時代の迷信だよ! ここは現代日本だぞ! 無宗教をナメるな!
「ああ、そうだな。当然、そんな風習に異論を唱える者が出てくるだろう。特に総合順位1位の学生から文句が出たそうだ」
当然だ! そんな風習で生徒会長に選出さるなんてまっぴらごめんだ。
賛成! そいつに一票入れてやろう!
「ただな。この年の生徒会長選出は選挙を行ったそうなのだが、候補者が1人もいなかったそうだ。その後も何度か選挙を試みたそうだがな。結果は毎回同じだったらしい」
えっ? 候補者がいなかったって……、どういうことだ?
だってリア充がいるだろう? 生徒会選挙って人気者投票じゃないのか?
「まぁ、生徒会よりも部活や勉学に時間を割きたいと気持ちものもあるのだろう。少し残念な気もするがな」
なるほど。この高校は進学校で文武両道を謳っているから確かに一理ある。
しかし、自分よりも低いカーストを蔑む奴がいるだろう。それは即ち、自分が人より人間関係に長けていることを自慢する行為だ。
ならば、生徒会というのは、それをアピールするには絶好の場所だ。
それなのに実際には誰も立候補していない。自分のやりたいことを優先しているのだ。
いや。それが悪いわけではないし、やりたいことをすればいい。俺もそうしてるからな。
でも、人を蔑む奴にそれは許されない。
いざ自分はやりたくないことはしないのに、人付き合いが苦手でボッチを選択した人間や、人に馴染めず二次元を選んだ人間を笑っていいはずがない。それは明確に自分を棚に上げた依怗だ。『笑うならやれ!』と言ってやりたい。
大体、人間関係だけが絶対必須の選択肢ではないからな。
それにしても、犠牲感ハンパないな。
「それで今もその風習が続いているって訳ですか? でも、その話は会長選出の話じゃないですか。生徒会メンバーには関係ないですよね?」
「それがそうでもないんだ。結局、生徒会長は成績上位の者に依頼したのだが、自分だけが犠牲になるは嫌だということで、生徒会メンバーも5教科90点以上の者から選べという話になったのだよ」
反対! やっぱりさっきの一票は返してもらおう!
犠牲の上に犠牲を重ねてどうするんだ!?
「いやいやいやいや。それ、おかしいでしょ? 巻き添えじゃないですか。大体それでやる奴なんていないでしょう?」
「まぁそうだな。しかし当時はかなり切羽詰っていたのだろう。内申書の評価を上げたんだよ。まぁ、誰もなり手がない状況なら、その分見返りがあっても当然だろうがな」
えっ? それ良いの? それって買収って言うやつだよな?
まぁ、内申書なんて生徒を抑える餌みたいなものだから、使い方としては間違っていないし、これも社会の仕組みというやつだろうけど。
「まぁ、そうだとしても、生徒会メンバーに成り手がいるんだったら、拘る必要はないんじゃないんですか?」
「ああ、本来ならメンバーに成り手があって生徒会長が承認するなら問題はないだろうな。しかし、1回風習を崩してしまうとそれを戻すのは難しんだ。来年以降にもし生徒会長が駄々を捏ねたりした場合の保険といえば保険だが、しかし、今までそれで回避できていたとなると、そうそう崩せるものではないからな」
確かに風習を崩すのは勇気がいる。その時は良かっても、後々、同じ問題が起こった時に過去に風習を崩した者が叩かれることは良くあることだ。
本来、過去の人間を叩くのはお門違いなのだが、今それを解決できない自分ではなく、それがこじつけであったとしても、責任を外に向けて転化し攻撃の矛先を変えることで自分を救おうとするのだろう。
「はぁ、なんともくだらない理由ですね」
「そうだな。そう言われても仕方ないな」
夏川先生にしては珍しく苦笑いを浮かべている。
みんなも、表情に困っているようだ。それはそうだろう。ここに居る人間は全員被害者みたいなものだ。そしてそれを崩せないことの責任も感じているのかもしれない。
なんとも嫌な空気だ。やっぱり聞かなければ良かった。
と、まぁ話は分かったが、これは非常に大きな問題だ。
何故なら俺は目下、『闇に紛れて生きる大作戦』を決行中なのだ。
当然、5教科90点以上といった目立つ行為は厳禁。
何か回避方法はないものか?
過去のしがらみを崩せて、かつ、未来に問題が起こりそうにない方法があれば良いのだが………
俺が考えたところで思い付く筈ないよな。
それにしても、昨日参加しないことを決めたばかりだというのに、どうしてこうも直ぐにイベントが巻き起るのだろう?
って、あれ? 待てよ!
もし、俺がここで参戦しなければどうなる?
結果は当然、俺の生徒会強制脱退だよな?
俺的には此処の居心地は決して悪くはない。むしろ飾らず裏表なく接してくる彼女達といるのは居心地が良いのだが、しかし、だからこそ俺のような者が居るべき場所ではない気もする。大体、モブが生徒会にいること自体間違っているしな。
う〜ん。ということはそれもありなのか?
この高校は年2回の部活変更時期でしか部活を変更できないから1学期の間は生徒会に残って2学期から何処かの部活に入ることになる筈だ。すると部活選択までに時間があるし、仮に当初入部予定だった物理部でも月2日間の晩飯を我慢すれば入れないことはない。
でも、そうなると夏川先生から経験して学べと言われた課題は分からず終いだが………
「まぁ、そういう事情では仕方ないですね。分かりました、不本意ではありますが、努力はしますよ」
俺は渋々納得する素振りで答えた。
とは言っても、闇に紛れて生きる方の努力ですけどね。
そもそも俺が参戦することが間違っているのだ。その努力は人を不愉快にし傷付ける。
そうだ!これが俺が経験で学んだ答えだ。
「分かってくれて助かるよ。是非とも頑張ってくれ」
夏川先生はそう言うと席を立ち、生徒会室を後にしようとする。
はいはい。分かってますよ。ちゃんと学びましたからね。
そして、生徒会室を出ようとした時、俺の方に振り向いて一言告げてきた。
「そう言えば、私の課題は理解できたか?」
えっ? 今何言った? どうしてそれを今言うの?
ビックリし過ぎて顎が外れそうになったわ! ついでに鼻汁も出そうだわ!
本当にバッカじゃないの! どんだけエスパーなんだよ! 人の心を読むなよ!
「では、私がニットの対戦相手をしてやりましょう!」
えっ? 此処にも意味不明な奴がいるんですけど?
「琴平、対戦てなんだよ?」
「対戦は対戦です。5教科で私に勝てれば何でも1つ言うことを聞いてあげましょう。ですが、私が勝てば何でも1つ言うことを聞いてもらいます」
は? こいつ何言ってるの?
ひょっとして知恵の輪の再戦? どれだけ悔しがり屋さんなんだよ!?
「どうして俺がその勝負を受けなきゃいけないんだよ?」
「ははぁん。そうですか、怖くなって敵前逃亡というやつですか」
「だ・か・ら、理由を言え! 理由を!」
「そ、それは………、そ、そうです! 遣り甲斐というやつです! ニットの遣り甲斐を作ってやっているのです」
えーっと、それいりませんけど?! 俺は今回参戦しないので無意味なんですが?
「では、その勝負、私はニットが勝つ方に賭けるぞ。私が勝てばニットには1つ言うことを聞いてもらおう。勿論、負けたらなんでも1つ言うことを聞くぞ」
「そうですね。それは良い案ですね。では私も新見君が勝つ方に賭けます」
ちょっと待って! その賭け何かおかしいだろ!?
それでは勝てと言っているのか負けろと言っているのか分からない。まぁ、勝つことはないけど。
「うんうん。それは良い案だね。それじゃあ、双葉………」
「若林先輩は新見君が負ける方ですね」
「えっ? えーーー? どうして?」
「そうじゃないと賭けになりませんから。先着順です」
「若松先輩、大丈夫です。私が負けるはずありません!」
「うっ、うん。ことみん頑張ってね………」
「はい。では、勝負する5教科はオーソドックスに現代文、数学1、英語1、物理、化学です」
って、あれーーー?
またいつものように決まっちゃいました?
うん。決まっちゃいましたね。間違いなく決まっちゃいましたね。
まぁ、ボッチだからね。仕方ないよね。って、何これ!悲しい!
う〜ん。しかし、そうすると双葉先輩と琴美の言うことを1つずつ聞くってことか。
まぁ、琴美にはこういう時用に切り札を温存しているので大丈夫だが、問題は双葉先輩の方だな。試験が終わるまでに何か対策を立てないとだ。
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