第1章−[3]:俺の社会貢献は却下された

俺は申請書をもらうと早々に帰宅し、早速申請書に記入し始めた。

もう既にどんな部活を申請するかは決まっているのだ。

え〜と。記入しないといけない内容は、『部名、部の活動概要、部の活動内容(詳細)、部員名と役職』とのことだ。

部名、概要、詳細は既に決まっているので、問題ない。

あとは部員名だが、現在部員は俺一人だ。だってボッチだしな!

部活新設申請のための詳細説明を読むと、『部として認められるのは5名以上部員が在籍していること。部員が5名に満たない場合は一旦同好会とし次の部活動選択時期の際に補充すること。補充できない場合廃部とする。』となっている。

部活動選択とは、年に2回、自分が入部する部活を変更できるシステムだ。逆に言えば1回入部してしまうと半年間は変更できないということである。

ちなみに次回の部活動選択は2学期の始めの9月に行われる。

これであれば部員が一人でも問題はない。仮に次回の部活動選択時に部員が増えず廃部になったとしても、少し内容を変えて新たに部活申請をすれば良いだけだ。

うん。完璧な作戦だ!我ながらに非の打ち所がない作戦だと思う。

そして、俺は難なく申請書に記載し始めた。


しかし、そんな俺を卓袱台の向かいに座る母が訝しげに見ている。


「一斗、何してるの?」

「えっ?部活新設の申請書を書いてるんだよ」

「あんた、また何か変なことを企んでないでしょうね?」


はっ?企むって、どういうこと?それじゃあまるで俺が悪いことをしているみたいじゃないか。もう少し子供を信用するべきじゃあないでしょうか!?

とはいえ、申請理由を母に話すと、『子供は余計なことを考えるんじゃありません』などと説教タイムが始まることは明白だ。

ここは、若葉先生に説明した返答と同じ返答をしておこう。それにうちの母のことだから、いつ先生と顔見知りになるか分かったものじゃない。その時にバレたら大目玉だ。


「いや。俺のやりたい部活がないからだよ。折角の学生生活なのに無駄な時間をお送るのはバカげてるだろ」

「ほんとかねぇ?まぁ、それならいいんだけど」


おしっ!クリアーーー!まぁ、少し心が痛むけど、そこは許してもらおう。

母とそんな話をしている最中、俺は申請書を書き終え鞄に入れた。

あとは明日の本番をクリアしたら完了だ。

俄然、モチベーションが上がってきた。ウェーイ!


◇◇◇


そして翌日の放課後、俺は再度申請書を持って若葉先生のところに訪れた。


「若松先生、申請書が書けたので持ってきました」


すると、先生は、サンタクロースからクリスマスプレゼントを受け取る時のような、そんな期待に胸躍らせた笑顔で受け取った。


「見てもいい?」

「はい。もちろんです」


って、見ろよ!聞くなよ!プレゼントじゃないんだから!

そして、若松先生は申請書に目を通し始めた。

俺が書いた申請の内容は、以下の通りだ。


部名: 社会貢献部

部の活動概要: 社会の仕組みを理解すると共に、社会に貢献することを目的とする。

部の活動詳細:

学校とは、社会に出る前の自己研鑽の場である。

それを念頭に置き、以下の活動を行う。

実際に社会の労働現場にて、それを体験し、働くことの大切さを理解する。それと同時に、社会の構造と人間関係を理解することにより、それを学校生活にも反映する。

また、実体験を通じ、社会に貢献すると共に、学生が如何に勉学に勤しみ成長しているかを社会に理解してもらい、雇用労働の促進を促す。

以上、


若葉先生はそれを読み終えると、


「すごい!素晴らしいわ!自分の存在意義をしっかり理解すようとする行いよ。学生の時分からここまで考えられるなんて、本当に凄いことよ!」


目に涙を溜めながら感動している。

あれー?そこまで感動しなくてもいいんじゃないか?

純粋すぎでしょ。可憐な乙女か!?

絶対人に騙されるぞ。ほんとに誰か守ってあげて!

それにしても、この先生と話しているとほんとに調子が狂う。


若葉先生は涙を拭うと、


「新見君の志は分かったわ。早速、教頭先生のところに行って、承認をもらってくるわね。大丈夫!私に任せて!」


と言い、申請書を片手に教頭先生のところに走って行った。

といっても、ここからでも見える位置に教頭先生の席はあるので、走る必要もないと思うのだが。

それにしても、あれほど感動されると少し心が痛む。罪悪感がハンパない。

少し悪いことをしている気分になってきた。

そんなことを考えていると、若葉先生は教頭先生のところに辿り着き、教頭先生に部活申請の内容を熱弁している。

そして、熱弁が終わるか終わらないかというところで、怒声が響いた。


「あなたは何を考えているんですか!こんな申請書を受け取れるはずがないでしょう!!」


教頭先生が若葉先生に向かって凄い剣幕で叱責している。


「でもでも、素晴らしい志だと思うんですけど…」若葉先生が怯えながら反論を試みる。

「はぁ?いいですか。当校はアルバイト禁止です。これはどう見ても部活申請に見せ掛けたアルバイト申請でしょう」


そこで、若葉先生は、はっとした表情で、部活申請書を見直している。


「あぁーーーーーーーーーー!」


バレた!あと一歩のとこでバレてしまった。

クソッ!あの教頭先生、頭いいじゃないか!?こんなにキレ者が居るとは思わなかった。


若葉先生は、泣きベソを書きながら俯き加減にトボトボと帰ってくる。

そして席に着くなり机に突っ伏し、


「新見君に騙された〜。私の純情な心を弄ばれた〜」


と泣き喚き出した。

ちょーーーと待てーーーー!俺がジゴロのような表現はやめろーーーーー!

確かに俺も悪いとは思ってる。でもだ。その表現はおかしいだろ。

知らない人が聞いたら、俺は最低のクズに映るだろうが。

俺はクズじゃない。そもそもモテないんだぞ!ボッチなんだぞ!

いかん。先生と一緒に泣きたくなってきた(泣)


いやいや。こんなところでめげている場合ではない。

俺には晩飯を守るという大切な勤めがあるのだ。


「若松先生、すみませんでした。でも、悪気はなかったんです。確かにアルバイトと言われれば結果的にそうなるかもしれません。でも、俺の志は若松先生が思っていただいた通りの思いです」


俺は誠心誠意を込めた眼差しで、そう声を掛けた。

あれ何?俺って俳優になれるんじゃないか?あっ、やっぱりクズかも?!


「ほんとに?嘘ついてない?信じていいの?」


って、その言い方はやめてください。ほんと誤解を招きますから!


「はい。もちろんです!」

「こういう誤解もあるかと思い、もう1つ申請書を書いていますので、見ていただけますか?」


そう言って、俺は新たな部活新設の申請書を差し出した。

そう。何事にもリスクヘッジは必要なのだ。事前に副案を用意しておくのは当たり前である。そのために申請書を2枚もらったのだ。

今度は先程よりも自信作だ。大丈夫だろう。


そして、若葉先生は、その申請書を読み始めた。

2枚目の申請の内容は、以下の通りだ。


部名: 高齢化社会対策部

部の活動概要: 核家族化を防ぎ、老齢者の単身化を防ぐことを目的とする。

部の活動詳細:

昨今、高齢化が進み、今や5人に1人が60歳を超えている。

それと同時に核家族化が進み、単身の高齢者問題が深刻化している実態がある。

これは行政の財政圧迫化をも招いている。

これは偏に、家族の繋がりが軽薄化していることが問題ではないだろうか?そして何故、そのような問題が起こるのであろう?

それは両親が共働きであったり、子供が昼夜問わず家にいないために、家族の絆が薄れていることが考えられる。

そこで、我が部の活動として、授業終了後速やかに帰宅し、家庭奉仕を行い、家族愛を深める活動を行うものである。

両親が共働きである場合は、両親の帰宅後にすぐ食事ができるよう準備する。また、家族が家にいる場合は共に食事を作る等の活動を通して、家族の絆を深めるのである。

これが実を結べば、核家族化を防ぎ、しいては老齢者の単身化を防げるものであると考える。

以上、


どうだ。今度は完璧だ。どこにも疑問を挟む余地はないだろう。

若葉先生はというと…


「すごい!ほんと新見君の志には感服するわ!でもねぇ…」


いかん。さっきのやつが尾を引いているようだ。ここは誠意を見せなければ。


「先生は僕を疑ってるんですか?そう言われると悲しくなります」


俺は肩を落として俯き加減に、そう答えた。

おぉ。俺ってやっぱり演技派だ。決してクズではない!


「えっ?えっ?そっ、そんなことはないのよ。分かったわ。新見君を信じる!これも教師の勤めよね!それじゃ、教頭先生のところに行ってくるから待っててね。今度こそは大丈夫よ!」


そんなことを言い、教頭先生のところに走って行った。

チョロい!ほんとチョロ過ぎだ!ほんと心配になってきたよ。俺が言える立場じゃないけど。


そして先程と同じように、若葉先生は教頭先生に熱弁している。

些か先程よりも熱が込もっているように見えるのは気のせいだろうか?

でも、これなら大丈夫だろう。

そんなことを考えていると、またまた怒声が響いてきた。


「あなたは何を考えているんですか!何度も何度もこんな申請書を受け取って!こんなものが承認できるはずがないでしょう!!」


先程と同じく、教頭先生が若葉先生に向かって凄い剣幕で叱責している。


「でもでも、今度のはちゃんとしていると思うんですけど…」若葉先生が怯えながら反論を試みる。

「はぁ?いいですか。当校は部活動必須です。なのにこれは邸の良い帰宅申請書ではないですか。授業終了後帰宅するのは部活とはいいません。帰宅部と言うんです!」


そこで、若葉先生は、はっとした表情で、部活申請書を見直している。


「あぁーーーーーーーーーー!」


またバレた!今度こそイケると思ったのだが、あの教頭先生、やはり頭がいい。ライバル認定してやろう。


そして若葉先生は、またまた泣きベソを書きながら俯き加減にトボトボと帰ってくる。まるでドッペルゲンガーだな。この後の展開が密かに想像できる。

そして席に着くなり机に突っ伏すると、


「また新見君に騙された〜。私の純情な心を弄ばれた〜。こんな辱めを受けたら、もうお嫁に行けない〜」

と泣き喚き出した。


だーーかーーら!その表現はやめろーーーーー!勘違い以外、何も産まないから!というか、言葉だけで俺の童貞を卒業させるな!

あー、でも少し可愛い。無性に頭を撫でたくなってくる。

こいつは本当に『天然ビッチ』確定だな。


「先生に迷惑を掛けてすみません。本当に悪気はなかったんです。僕なりに社会貢献できないかと思っただけなんです。それが結果的に先生に迷惑を掛けてしまって。でも大丈夫です。もう迷惑は掛けませんから」


そう言うと、俺は落ち込んで肩を落とし、先生の席から立ち去ろうとする。

だって、全滅だぞ。この申請書が通らないと俺の生活は死活問題だ。そりゃー、落ち込みもしますよ。

ほんと、あのラスボス強過ぎだろ。ひょっとしてゲームマスターじゃないのか?あっ、教頭だったらゲームマスターランクか!失敗した。


そんな俺を見て先生が駆け寄ってきた。


「ごめんなさいね。そこまで真剣に考えていただなんて。先生の力不足よね。これにめげずに志は持ち続けてね!」


そんな励ましの声を掛けてきた。何かを勘違いしているようだ。

『本当にすみません』俺は心の中で謝った。


それにしても、この後どうしたものか?

さすがの俺も万策尽きてしまった。

まるで死亡フラグが確定した気分だ。虫の息とはこういうことを言うんだろう。

はぁ、明日からの生活を考えると気が重い…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る