指をくじくのでタッチタイピングが覚えられません。

 親指シフト、という入力方法がある。


 なんでもローマ字入力と違って1打で1字が入力できるから、指で話すようにキーを打ち込めるのだという。


 単純に入力時間が短くできるというのもあって、私は何度かそれを覚えようとした。



 ローマ字でもタッチタイピングできないのに。


 いや、覚えようとはしたし、いくらかはキー配置も覚えたのだ。

 しかし覚えきる前に、なぜか指が痛んで打てなくなる。

 そうして忘れてしまうのである。



 親指シフトは操作が少し独特だ。

 右と左の親指ボタンを押しながらキーを打つと、そのまま打つのとは別の文字が入力される。

 ゆえに「シフト」なのだろう。


 一部界隈では有名で、少し調べれば習得までの詳しい情報がわんさと出てくる。

 それらを読みふけり、手の形に留意し、キーを見ないように入力する。


 タンタン。

 タンタン。

 タンタン。

 タぐぎっ。


 結論から言おう。

 私の左手薬指に湿布が巻かれた。


 しかしなにゆえ挫いたのかは長いこと不明だった。

 タイピング中は指を見てはならないからである。



 ある日、たまたま右手が使えず左手で入力していたところに、薬指への痛みが来た。


 見れば指の関節が、がくがくと谷状にへこんでいるではないか。

 明らかに、曲がっちゃいけない方に曲がっている。しかも力がかかっている。

 おまけに小指を使おうとすると、つられてさらに状態が悪くなるのだ。


 どうやら長年の間に、挫き癖がついていたらしい。

 おそらく本を読むのに支えようとして、関節をへこませることでバランスを取る癖ができてしまったのだ。

 ホームポジションから下のキーを打つ時が一番痛む。

 柔軟性もないらしい。



 もともと私は、運動神経の発達が遅かった。


 二重跳びができるようになったのは高校での補習のためだし、バレーボールのサーブも下から打ってようやく入る。


 おそらくリソースが足りないのだろう、膝から下、肘から先を、自分で意識的に動かす感覚が長らくなかった。


 今でも早く走ろうとすると、足を意識するほど目が見えなくなってしまう。

 豪雨の中のフロントガラスよりもひどい、色と光だけの視界になるのである。



 さて。

 そんなこんなで、私は今もあやしい三本指打法でキーを打っている。

 これで親指シフトの配置覚えるんじゃダメかなあ、と思いながら。

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