私にはアスペルガーも高機能自閉症もわかりません。

 発達障害は十人十色、傾向はそれなりにあるものの、因果関係はまったくユニークだ。

 だからこそ残念なことに、当事者同士でも共感しにくいことは多く、理解できないことはさらに多い。

 できることと言ったら、「あなたにはそうなんだねえ」とうなずいてやることくらいである。



 障害の現れ方は想像以上に多様だ、と知ったのは当事者会(同じ病や障害などを持つ人達だけで集まる会)でのことだった。

 その時は発達障害と診断された人を中心に集まり、フリートークをする形式だった。


 日報が書けない、上司に聞いてもなにを書けばいいのか全然わからない、という人。

 ブレーキを忘れてしまったみたいに、何分も何分もしゃべり続ける人。

 雑談で顔ごと目をそらす人。


 彼らに悪気がないのは伝わってくる。

 けれど、同時に私に仕込まれた「常識」が、彼らを無礼だと感じさせる。

 非言語であるからこそ、たちが悪い。



 自閉系の中には、他人の心情は読めないが同類の心情はわかる、という人がいる。

 そうした人は割と多いらしく、脳機能の近い者は共感が働くのではないか……言い換えれば脳機能の違いの大きさが多数派との溝を作るのではないか、と考えることもできるらしい。


 誤解のないよう言っておくが、自閉系でも立場の近い存在には強く共感できる人も多い。

 同い年であるとか、きょうだいの有無であるとか、そうした要素が近い存在がひどい目にあうと、強く同情や憐憫を抱くことがあるし、相手と同等レベルでショックを受けることもある。


 ちなみに私はこれのおかげで原爆や核のネタが苦手であるし、9歳の時に学校経由でユニセフに3000円寄付して、母にたしなめられたこともある。

 ティーンの活躍する漫画に入れ込めなくなったのは少し寂しい。



 男性の体に生まれたとある女性が言っていた。

「男心も女心もわかっていいわね、って言われるけど、正直どっちも全然わからないわ。私には私心わたしごころしかわからないわよ」


 多分傾向はあるのだろう(男女についてジョン・グレイ博士が言うように)。

 おそらく要素でくくれる部分もあるのだろう(三つ組の障害と言われるように)。


 それでも、私には私の感覚と困惑しかわからない。

 彼らの困難は彼らの困難で、「大変なんだねえ」と言う程度しかできない。


 だからこそ、こうして今日も書いている。

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