単純作業の中毒性。

 20分で組み立てたボールペンを、がらざら積んでは20分で解体していく。

 不毛な話だが、これも就活の一環なのだ。


 無職なう、が決まった後、私は障害者として就活することを決めた。

 自分の特性や弱さについて、改めてとらえ直した上で仕事をしたいと思ったからだ。


 幸い雇用保険には入っていたし、いくばくかの退職金も出た。実家でならお金をためられる程度の金額を当面得られることになった。

 その実家に戻る準備がまた大変だったりするのだが、それはさておき。


 私としては早い動きで、ハロワから障害者職業センターへ、そして就労準備支援へとつながった。

 口頭での情報と予定を系統立てるのが苦手な私としては、この間2か月というのは本当に早かった。

 そして冒頭のボールペンに至る。



 組み立てた端から解体する、という作業は不毛に思えるが、実はその周辺情報こそが重要なので問題ない。


 立ち仕事に慣れること。

 集中力や疲労の管理。

 作業効率の維持と成長。

 そして、作業の上での苦手や問題の抽出。


 私の場合、浮かび上がってきたのは単純作業への過集中と、疲れへの鈍さ、そして体調を表現できないことだった。



 スピード狂というのか、ハイスコア狙いというのか、とかく単純作業に熱を上げるところがある。

 テトリスやぷよぷよにハマる口の人ならわかるかもしれない。

 止め時がわからなくなるし、手を緩めるのも意識しないとできないのだ。


 この間は本を詰めるのに夢中で、気がつくと夜が明けていた。その次には出かける30分前だった(なぜそこで作業続けた)。



 疲れに鈍いのも問題だ。

 流血しながら痛みに気づけないようなもので、体の危険信号は拾えないと時に命に関わる。


 脳内麻薬も出ているのだろう、作業を終えて数分たたないと疲労に気づかない。

 そして、出たときにはすでに遅い……

 煙をはいた機械みたいに脱力、もとい休憩している。



 体調を表現できない、というのは、「調子が悪い」以上のことを説明するのに苦労することである。


 たとえば風邪ならわかる。頭痛とか腹痛もわかる。メインポイントがはっきりしている。

 しかし、私の場合こういう体調であることの方が多い。


「こちら背中方面! いつもの凝りにぼやけた痛み、緊張状態より疲労発生中!」

「こちら胃腸、断続的にストレス性の痛み発生。日頃のものか精査中」

「知覚がボケています」

「胸から腕のつけね方面に怠さを感知」

「めまいの観測はなされておりません」

「疲労物質滞留中! 知覚されなかったもののようです!」

「首と肩が張りすぎて通信が入りません!」

「お腹すいたー」

「平熱の範囲ですな」

 ぎくしゃくぎくしゃく……


 体調が悪い、以外にどう言えというのか。


 疲れたというのが一番近いのだろうが、怠さは風邪のものに似ていたりする。

 なにより、私は運動疲労以外の疲れがよくわからないのだ。


 ストレスを感じていると気づく力も鈍いし、他人を知覚しなければ気疲れなども発生しないので、学びそこねているらしい。



 作業への過集中、疲労に気づくまでのタイムラグ、メインになりきれない体調の微妙な悪さ。

 これらが組み合わさるとどうなるか……


 休みなく働いては突然倒れる、社会人としてはダメな仕様ができあがるんだな。


 体調がくずれていくほど、作業にブレーキをかける精神力も下がっていく。

 主観では疲れを感じるまでにラグがあるから、過集中に流されて休みなしに作業を続けてしまう。


 そうして休む暇がなくなると、私の場合真っ先に根を上げるのが脳みそだ。

 戦略も判断もなし崩しになり、各所から上がる報告はばらばらになり、余力のない脳は複雑な状況をうっちゃって、ばたりと全てを落とす。

 寝落ちである。



 それでも単純作業に落とし込まないと、人間というのは物事を進められない。

 私がタスク管理にハマって倒れやすくなったのは、そういう背景もあるかもしれない。

 すぐ目に見える成果に、熱中してしまうのである。


 そういう意味では文章書きも似てるよなあ、と。

 思ったり、思わなかったり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る