高機能発達障害の私の時間は非連続につらなっている。
雨昇千晴
時間ってランダム生成だと思ってた。
時計は見るたび形の変わる看板ではないのだ、と知ったのは30歳を過ぎてからだった。
もっと具体的に言うなら2016年5月末のことだった。
ついでにもっと正確に言うなら、私は時計をきちんと(って表現は何言ってんだお前感あふれていやなんだけど便利なんだよねえ)「時計」として見ているつもりだったのだ。
世間一般……えーと、だいたいの人が見てるであろうように見ていると信じていた、つい最近まで。
時間って動くんだよね。
あいつ勝手に動くんだよね、と常々私は時間に対して思っていた。
さっき見た「12分」という表示は、次に見たら「27分」になっている。
この間の私の体感時間を教えようか?
0秒だ。
コンマ2ぐらいはあったかもしれない、というのが個人的な実感なのだ。本当に。
ブラウザ立ち上げて某投稿サイト開いて適当に作品選んで短編半分読んだ、辺りで目を上げると、そういう"理不尽な謎の事象"がよく起こる。
今気づいたけど、これパソコンに弱い人が『なんにもしてないのに壊れた!』って主張してるのに似てるね。
そっちが何かしてるからだよ、ってやつだよね。
つらい。
しかし私の体感世界では、そういうことに「なっている」のだ。
何かをしている間の時間感覚が、私はすこぶる弱い。
人間はもともと時間を感じにくいのだ、という話も聞いたことがあるけれど(だからタイムログなしにタスク管理できるわけ無いだろって話になる)、それにしたって鈍すぎじゃないか? と自分では思う。
30分ほど寝るつもりで朝になっていた、という感覚が、多数の人にとっては近いのだろうか。
でも、それだけでは私が日々感じてしまう"理不尽感"には遠い気がする。
タスク管理で有名なとある著者が、こんなことを言っていた。
「人間は何もしてなくても息はしている。その"呼吸した時間"の存在を、人間は記録するまで気づかない」
私ならこう加えたい。
「記録して存在に気づいても、私はそれが"人生全体に足された時間"だと気づけない」
私にだって1秒の長さくらいはわかるし、移動時間の存在も知っているし、あそこに行くなら○分前に出ないと間に合わないな、と考えるフレームもあるのだ。
○分たった、という発想が、「時計」と噛み合わないだけで。
12+15は27だ。
ならば「16時12分」に「15分後に鳴るタイマー」をセットしたなら、タイマーが鳴るのは「16時27分」になるだろう。
タイマーが鳴った時、私は「15分たった」ことは理解できる。受け入れられる。
しかし、時計の表示が「16時27分」であることには、感覚的に納得できない。
何お前勝手に10の位変えてんの? くらいは思う。完璧なるいちゃもんである。
思うに、私にとっての「時間」とは、勝手に切り取られてはぷかぷか浮かぶ"泡"なのだ。
内側のことは鮮明だけれど、外のことはわからない。ぐるぐると巡っているけれど、ばらばらで他にはつながらない。
だから、私の記憶はいつもごちゃごちゃだ。
ひどいものは一瞬一瞬がバラけていて、前後のコマがわからない。パラパラ漫画が成り立たない。
アラサーくらいまでの記憶はそんな感じで、強烈に染み付いていることも多いけれど、忘れていることも結構多い。
ああ、そうだ。
ファンタジーによくある、囲まれた街とか、森のなかの村とか、移動する都市とか、旅人のキャラバンとか。
そういうイメージなのだ、私にとっての「15分」は。
独立してあちこちに点在し、適当に知らぬうちに移動している。
経路? 交流? そんなものはない。
あるのは不完全なテレポート装置くらいだ。
"泡"の中をランダムに飛びかっているから、社名をメモする間に名前が消える。
そんな世界で、人生の長さが過ぎた時間の単純な足し算だなんて、信じるほうが難しい。
並んだ"泡"がひとつひとつべたりとくっついた、ひとつらなりの存在だなんて思いもしない。
時計が動いていく時間と、タイマーが動いていく時間。
その2つが同時並行で進むものなのだと気づいたのは、2016年5月末のことだった。
なるほど針の位置も変わるだろう、と納得したのはそこでのことで、時計を「形の変わる看板」と見ていたんじゃないか、って考えもそこから浮かんだ。
「看板」説はどうも違うようだけれど、時計は人間に関係なく動いてくものなんだ、というのは飲み込んできたつもり。
……でもやっぱり、ちょっとした隙に50分ほど動かれていると腹立つんだよねえ。
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