【カクヨム小説創作オンライン講座2019】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第2回

11月末より開催する第5回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座2019」
その第1弾「カクヨムコン歴代応募作品講評会」、第2回をお届けします。

※「カクヨムコン歴代応募作品講評会」とは? という方は第1回の記事をご覧ください

第2回 掲載作品

【SF】スカイ イズ ザ リミット ー無限の空を白鳥は飛ぶー 作者 水野 藍雷
【異世界ファンタジー】浮遊する僕らと要塞のファンタジア 作者 成井露丸
【恋愛】乙女ゲームの攻略対象キャラのポジションに転生しました。って、アタシ女の子なんだけど? 作者 無月兄
【現代ファンタジー】カミツキ姫の御仕事 作者 まじりモコ


【エントリーNo.6 SF
アーク、愛してるわ。だけど、さようなら。私の愛しい白鳥さん。
スカイ イズ ザ リミット ー無限の空を白鳥は飛ぶー 作者 水野 藍雷
あらすじ:
村で唯一、戦闘機に乗り空獣を狩る青年アーク。
ある日、父親の親友から遺言を聞いて、伝説の戦闘機『ワイルドスワン』と共に旅に出る。
旅に出ると空賊に襲われ、街では浮気旦那の妻とイチャつき、飯屋の女性と恋に落ちる。
途中で借金の形として手に入れたエルフにメイド服を着させて嘲笑う。
地上ではロクデナシだが、空を飛んでいる時は天才。機銃でモンスターをぶっ殺して金稼ぎ。
無限に広がる空をアークは自由に飛ぶ。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:4
・文章力:4

◆良かった点:
ドラゴンやエルフやドワーフがいるファンタジー的な世界で、飛行機乗りたちがレシプロ機で宙を舞い、空を飛ぶモンスターを撃ち落すという設定がオリジナリティあふれていて非常に良いです! 口の悪い主人公を始め、登場人物も一人一人のキャラが大変立っており、最初はびくびくしていた相棒のフルートが話が進みパイロットとして成長するにつれて、アークと対等に会話できるような関係性の変化も楽しく読めました。男女のコンビでありながら、単純な恋愛関係に落とし込まない独特の関係は非常に魅力的でした。

◆改善すると良くなりそうな点:
本作の一番のメインとも言える空戦描写ですが、引いた視点からカメラで映したような描写が多く、そこは少しもったいないかと思われます。引いた視点がなければ何をやっているかわかりづらくなってしまうのですが、その一方でパイロット視点からキャノピー越しに見える光景や、飛行機を操縦しているときの心理描写をより克明に掘り下げることで、より戦場の臨場感が増すと思われます。
また、下ネタ・スラング満載のアークの喋りは彼の個性であり、本作の大きな特徴でもあるのですが、常にあのような喋り方をされると読者も自然と慣れてしまい、徐々にセリフのインパクトが薄まってしまいますので、普段はもう少し抑えめにして、ここぞという時で気の利いたスラングを使わせるという見せ方もありかもしれません。


【エントリーNo.7 異世界ファンタジー
――空中要塞、波動砲、空から降る少女。
浮遊する僕らと要塞のファンタジア 作者 成井露丸
あらすじ:
『波動砲の光が天を焦がした。少女が空から降ってきて、僕らの旅が始まる』

 ある日、西の山脈から空中要塞が現れ、空から少女が落ちてきた。
 僕は空から落ちてきた少女フラウロウと一緒に、帝国の空中要塞を止めるために、そして、エレナ王女に会うために、王都へと駆け出す。
 主人公カイト・フェレンドはフローレンス王国の西の果ての村レヴァロンに住む16歳の少年。ある日、幼馴染で義理の姉であるエリシアと、親友のレオンと村外れの丘でロバを遊ばせていた。その時、突然、西の空に空中要塞が現れる。突然の光。そして、空から落ちてくる少女。
 空中要塞を止めるためには、フラウロウをエレナ王女に会わせる必要がある。これまでの生活は終わり、カイトは少女フラウロウと東へと駆け出す。フラウロウを狙う帝国の黒騎士。新しい街での新しい出会い。そして、物語は思わぬ展開へと。
 本当の「勇者」は誰だ? それは人々が決めるのか、それとも……。
 天に繋がる無限の塔――神の塔《ソラリス》の恩恵を受けた大地、ユーレフラシア大陸。その東端の国、フローレンス王国を舞台にした、ボーイミーツガール物語。
 その物語《ファンタジア》のページを開こう。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:3
・ストーリー:3
・世界観:2
・文章力:3

◆良かった点:
浮遊という地味な魔法しか使えない主人公が、冒険を経てその能力を使いこなしながら徐々に成長していくという過程を楽しく読めました。主人公がいかにも英雄というレオンではなく、一見頼りないし周囲から軽んじられているカイトというのも良かったと思います。
ストーリーも主人公とヒロインの出会いというボーイ・ミーツ・ガールから始まり、途中で様々な仲間や敵と出会い、最後に力を合わせて敵を打ち破るという王道の展開をしっかり書けている点を評価します。

◆改善すると良くなりそうな点:
空中要塞というガジェットは非常に強力なのですが、それを作中で上手く使い切れていないように思えました。そもそも陸上部隊などなくとも魔鉱石爆弾があれば、一方的に王国を蹂躙できたと思うのですが、それができない理由がやや弱いように感じられました。
また、カイトの白魔法が軽んじられていますが、作中で黒魔法を有効活用する男性キャラがほとんどおらず、一方白魔法はかなり強く描写されていることもあって、カイトが軽んじられる理由が弱く感じられました。全体的に設定面はもう少し練り込む必要があると思います。
ストーリー面ですが、ラストのフラウロウの決断をより印象深くするために、物語の途中でそのことに対する彼女の葛藤をもう少し描けるとより良くなったと思います。
またカイトのライバルとなる黒騎士シアノですが、作中では負けてばかりなので、もうちょっと彼の強さや脅威を描かないとライバルとしては力不足です。


【エントリーNo.8 恋愛
えっ、乙女ゲームへの転生先ってモブや悪役令嬢じゃないの?
乙女ゲームの攻略対象キャラのポジションに転生しました。って、アタシ女の子なんだけど⁉ 作者 無月兄
あらすじ:
かつてアタシが身も心も捧げるほどハマっていた乙女ゲーム、『あなたと繋ぐ恋』、通称『あな恋』。
なぜだか命を落としたアタシは、そのあな恋の世界に転生していた。
しかも、転生先はアタシの最押しの神キャラ、春乃宮旭様。まさかアタシが旭様になれるなんて、ひゃっほーい!……って、ちがーう!
そりゃアタシは旭様が好きだけど、旭様になりたかったわけじゃ無いの。しかも家柄や人間関係はともかく、顔だの頭の出来だのは旭様とは全然違うし。そして何より性別は女の子のままなんだけど!
こうなったら、ヒロインともう一人の押しキャラをくっつけて、それを誰よりも近くで眺めてやるんだからーっ!

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
ネタがすばらしいですね! 流行の題材をひねりにひねって、ここまでのオリジナリティを実現できていることには脱帽です。着眼点のよさはすなわち作家性の高さですので、満足することなく。これからもひねりまくっていってください。
テーマの絞り込み方もお見事です。日和ることもブレることもなく、エンディングへ向かって突き進むストーリーラインの太さと確かさで、最後まで安心して読み進めることができました。

◆改善するとよくなりそうな点:
キャラクターが強く打ち出せていないことが気になりました。
主人公は圧倒的モノローグ量によって自己表現自体はできているのですが、逆に「他人から見た魅力」が出せていない感がありますし、ゲームキャラクターたちも同様で、さらには物語の都合で動かされている感が拭えませんでした。
まずはこのキャラクターがこの状況にあったらどう動くべきか、それによって打ち出される魅力を読む側にどう伝えられるか、それを意識していただければ。
そして、段落内の文章量が総じて多く、読みにくくなってしまっています。また、それを原因とした物語の平坦さも気になるところ。
せっかく書き込まれた文章も、読む側の目が滑ってしまってはもったいありません。書き込むべき描写と流していい描写を取捨選択し、各段落の情報量にメリハリをつけていきましょう。
最後に文章作法の話になりますが、“!”や“?”の後はひと文字分空けるようにしてください。


【エントリーNo.9 現代ファンタジー
狗神憑きの少女と織り成す伝奇系怪奇譚
カミツキ姫の御仕事 作者 まじりモコ
あらすじ:
 ある事情で九州の田舎町に引っ越してきた平賀真信は、同級生の住む屋敷で殺戮現場を目撃してしまう。
 狗神を使役する美しくも面倒くさがりな少女は、国家に仇なす者を処分する樺冴家の当主だった。怪しいおじさんに脅され彼女の世話係にされてしまった真信は、彼女をおんぶして学校に行ったり、食事を作ったりと風変わりな生活を送ることに。
 しかし穏やかなだけの日常は送れない。変わりゆく呪術社会の波と、真信の実家の事情がだんだん二人を襲いはじめていた。

◆点数評価:
・オリジナリティ:
・キャラクター:
・ストーリー:
・世界観:
・文章力:

◆良かった点:
裏社会に生きる主人公とヒロインが手を合わせて理不尽に立ち向かう姿に魅せられました。狗神使いの家系のヒロインと、現代の暗殺者の家系の主人公というキャラの強い組み合わせで、どちらも積極的に物語を動かしていく行動力や意志力があり、お互いの存在によって支えあっている関係が素晴らしかった。
親や周囲からの期待と自分の感情の板挟みになっている苦悩や葛藤を描いたストーリーが心に沁みて、若い読者の共感や感動を得られると思いました。
文章が適切なテンポ、必要とする具体性を持った上で簡潔に表現されており、自然体でありながら読者への気配りを感じました。

◆改善すると良くなりそうな点:
ストーリーが殺伐としてネガティブな雰囲気になりがちなので、明るく中和する工夫をしてみてください。シリアスなシーンでもブラックジョークや皮肉を交えることでユーモアを出せます。
現代ものとすると、田舎の暮らしぶりや呪術といった話がやや古臭く感じました。現代日本にこだわらず、時代を大正や明治に設定して時代性やロマン観を足したり、日本に似た異世界にしたりして世界観の独自性や新規性を意識してみてください。


第3回は11月13日更新予定です。