
「カクヨム短歌賞」10首連作部門は、11/16(日)に中間選考会を行い、最終選考に進む10名のファイナリストを決定いたしました。
ファイナリストは、以下の記事でお知らせしています。
中間選考においては、3名の選考委員が1,783作から事前に選んだ上位15作(全38作)を議論の対象としました。
この記事では、どのような議論を経てファイナリスト10名が決定したのか、中間選考の記録をお届けします。
※前編、中編、後編の3部にわたってお届けします。この記事は「後編」です。
前編はこちら▼ kakuyomu.jp
中編はこちら▼ kakuyomu.jp
選考委員(50音順)
青松輝
1998年生まれ。YouTubeでも活動。歌集『4』(ナナロク社)。
郡司和斗
1998年6月生。茨城県出身。第62回短歌研究新人賞、第4回口語詩句賞新人賞受賞。著書に歌集『遠い感』(短歌研究社)、川柳句集『ヒント』。短歌アンソロジー『海のうた』、『月のうた』、『雪のうた』(いずれも左右社)に参加。歌誌「かりん」、俳誌「蒼海」、文芸同人誌「焚火」所属。修士(専門職)。専攻は不登校研究。高校教員。
初谷むい
1996年生まれ、北海道在住。第一歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』(書肆侃侃房)、第二歌集『わたしの嫌いな桃源郷』(書肆侃侃房)、第三歌集『笑っちゃうほど遠くって、光っちゃうほど近かった』(ナナロク社)。共著に『スペース短歌』(時事通信社)。
各選考委員の上位15作
中間選考会にあたり、選考委員がそれぞれ選んだ上位15名は以下の通りです。
| 順位 | 初谷むい | 郡司和斗 | 青松輝 |
|---|---|---|---|
| 1 | 小池耕 | 甲斐 | 相澤零 |
| 2 | 由良鴻波 | 穴根蛇にひき | 椎本阿吽 |
| 3 | @sknct834194 | 高橋寧 | 高橋寧 |
| 4 | 篠原仮眠 | 夜羽ねむる | 紺野藍 |
| 5 | 夜夜中さりとて | 瀬斗みゆき | 篠原仮眠 |
| 6 | 烏海大智 | 京野正午 | 植垣颯希 |
| 7 | 水埜青磁 | 篠原仮眠 | 瀬斗みゆき |
| 8 | 綿引つぐみ | 唯織明 | なかの |
| 9 | 巣々木盥 | 瀬名蛍 | 甲斐 |
| 10 | 太朗千尋 | たべ山 | 湯島はじめ |
| 11 | 織原禾 | 夜夜中さりとて | 緑川すに |
| 12 | 京野正午 | 榊隆太 | 山口遼也 |
| 13 | 砂崎柊 | 阪口十和 | 仲井澪 |
| 14 | 羽水繭 | 川口番 | 志田冷 |
| 15 | 品口回ロ | 衣井くう | 小杉セオ |
選考会
水埜青磁『破顔』
※作品の画像をクリックすると作品ページへ遷移します。
初谷:7位に選びました。まず1首目〈診断書には砂とだけあった。母はまた煮沸消毒をしています。〉が非常に魅力的です。〈消毒〉って日常的な言葉なんだけど、実はすごく怖い言葉でもあるんだな、と気づかされた。こういう言葉を拾ってくるのが上手な作者なのかなと思います。〈飴色の犬はしゃんしゃんと笑って万引きを決してゆるさなかった〉のあたりまで、すごい勢いで爆走しているなと感じました。ただ後半はすこし失速している気もして、もっとぶっ飛ばせたんじゃないか、とは思っています。すごく好きな連作でした。
青松:僕はほぼノーマークというか、初読の印象が特殊すぎて順位を上げられなかったんですけど、6首目の〈Vtuberとぬるい便器の上で会うスワイプで口は増えてゆくのぜ〉などはすごいことをやってますね。「短歌の中で〈Vtuber〉と言っちゃう」だけで満足してしまいそうなところを、〈ぬるい便器の上で会う〉という過剰な状況を作り、さらに〈スワイプで口は増えてゆくのぜ〉が来る。〈のぜ〉は語尾だと思うんですけど、さすがに短歌で語尾が〈のぜ〉なのは見たことがないです。僕はむしろ後半のほうがおもしろい気がするな。全体的に、おもしろいんだけどパッと入ってきづらい作りの歌が多いと思いました。
郡司:後半の失速については、失速と言うよりだんだん壊れていっているということなのかな、と思いました。〈褒められて褒められて死んだ海 やーいびしょびしょの海 かえっておいで〉とか〈さみしいと胃の裏を舐める牛がくる牛だいすき牛すきだよすきだ〉とか、どんどんボルテージが高まっている感じがします。後半の、ボルテージが高まっている歌だけで10首組んだらどうなるだろう、と気になりました。
綿引つぐみ『猛暑日七日めその夜々のこと』
初谷:8位で取っています。〈猫たちが猫をかぶってゆく夜のけなみあしなみみだらなこころ〉という1首目のリズムで、非常に気持ちよく入っていけました。もっとも好きなのは〈衰退期のいとなみをあにめにさがすあこがれってこれくらいしかないもん〉です。はっきりとこういう意味の歌だ、と説明できるわけではないんですが、〈あこがれってこれくらいしかないもん〉のような言い方が、現代っぽいあこがれの形をよく表していると思います。ひらがなを多用した独特な文体ですが、内容はけっこう大人っぽい。こういったギャップもおもしろく読みました。
青松:おもしろいと思います。8首目の〈Geminiとおんなじことをかんがえてかんじてきめて、ぼくなのでした〉が好きでした。AIについての歌で〈Gemini〉を持ってくるのは良いラインだと思います。ただ2首目の〈風のない夜にも柿の実はおちて陵辱されたいぼくなのでした〉の〈陵辱されたいぼくなのでした〉は嫌だなと感じました。難しいところですが、よっぽどおもしろい歌だったらこういう(過激な)表現もわかりますが、〈ぼくなのでした〉という口調への着地のさせ方に少し既視感がある。〈陵辱〉という強い単語を使うからには、その責任を背負う必然性を見せてほしい。
郡司:まずタイトルの『猛暑日七日めその夜々のこと』からしてすごいなと思いました。神様が七日で世界を作ったという聖書の天地創造ではないですが、〈七日め〉という区切りにこだわりがあるんだろうと思わされます。タイトルや文体から想像の世界に入っていくのかなと予想したんですが、意外と生活感のある歌が多かったですね。〈一日食費四〇〇円の五〇円はあいすこーひーのからん、にささげる〉とか食費の、しかもけっこうヒリヒリする食費の話だし。こういうギャップもおもしろいと思いました。
唯織明『まつりのあとのつくりかた(再)』
郡司:8位に選んでいます。1,700ある応募作のなかで、このような作り方をしている人は誰もおらず、そこにまずシンプルに感動しました。連作でありつつ、連作という形を拒んでいるようでもあり、ふしぎな二重性がある。このような連作がファイナリストにほしいと感じました。どの歌も言葉遊び的な、前の言葉を受けて連鎖、展開していくような作りになっています。1首目から2首目で言うと、〈みうごきにみちたみちたりないうごきするあげくようやく おわりかね〉から〈かね〉を拾うようにして〈かねてからしてあるうわさ できっこできないって いきつくつじつまね〉が続くということです。読者を置いていくわけではなく、すこしずつ前に連れて行ってくれるような作りになっています。意外と意味を取ろうとすれば取れて、たとえば1首目では〈みうごきにみちた〉、つまりもう動かなくていいのだが〈みちたりないうごきする〉、つまり心が満ち足りないから動く。この方向性に振り切っているところがいいなと思いました。
初谷:すごく貴重で、唯一無二の作者だとは思います。こういう人が一人、ファイナリストにいてほしいというのもわかる。ただ私は、この作者をファイナリストに推すべきだと思わせてくれる歌が、この連作にあるとはあまり信じ切れていないところがあります。一般的な短歌とは尺度が違うというのもわかりますし、あえて読みづらく作ってあるんだと思うのですが。
青松:僕は、この連作を通すことには反対です。第一に、どの連作がよりよいかを僅差で競っているときに、「この作者がファイナリストにいたらうれしい」という基準ではどうしても選べない。第二に、この作者を通して他を落とす以上は、落とした作者に「なぜこの作者を残したのか」が説明できないといけないと思うんですが、僕はもしこれを通過させても、この連作が特殊であること、言葉の連鎖によって連作が展開していくこと自体がおもしろい、というメタ的なことしか言えない。1首目と2首目がどう違って、どういう共通のおもしろさがあるのか、僕は現状説明できないです。たとえば1首目の最後の〈おわりかね〉は、僕の感覚ではわざわざ一字空けを使ったにしてはリターンが少ないように感じました。これまでの短歌や連作の評価基準を解体するならするで、解体した先に何があるのかをもう少し親切に10首の中でプレゼンテーションしてほしいです。
郡司:お二人のおっしゃることは、おおむねその通りだと思います。一言弁明しておきたいのは、この作品がファイナリストにいたら「うれしい」とか賑やかになる的な動物園的発想で上位に入れたわけではない、ということです。そこは選考委員としての僕とこの応募作の尊厳のために言わせてください。連作部門という場で、連作自体が連作を解体していくということ。そして1首ごとの短歌もあわせて解体されていくこと。このような作り方を選んだこと自体が、連作についてもっとも考えているとして評価できるというのが僕の意見です。
なかの『怪物ちゃんの夢』
青松:8位で採りました。僕が上位で採った整然としていて技術の高い連作と比べて、パワフルで自由な作りに魅力を感じています。4首目の〈いまはまだかいめつほのおできなくてかいめつほのおいつか、とおもう〉が好きでした。〈かいめつほのお〉というのは架空のゲームの技とか呪文のようなものをイメージしたのですが、ひらがな七文字の造語のリフレインで一首が成立しているのはすごい。こういう歌がポンポンと立て続けに出てくるのが素直に心地よかったというか、新鮮でした。9首目〈橋を渡る 要らないものが落ちていく らんかーんらんかーんらんかーん・・・〉なども、おそらく橋の「欄干」から「らんかーん」という擬音が出てきていてある意味で強引なんですが、〈要らないもの〉という言い方が不思議だったり、3点リーダーがついていたりの個性で、どこか成立している。そう思わせてくれる必然性が歌の中にある、と考えて採りました。
初谷:私もこれは、非常におもしろい連作だと思います。1首1首のレベルが高く、連作としてもまとまっていてすごくいいです。私が取れなかったのはほとんど、2首目の〈怪物ちゃん。いろみずが好き。クリオネの捕食シーンは共感できる。〉に乗れなかったからです。この連作の主人公はきっと〈怪物ちゃん〉ですよね。ほかの歌は突飛な発想や見たことのない言葉が入っていて、それがタイトルにある〈怪物ちゃん〉という主人公のキャラクター性に集約されていくおもしろさがあると思うんです。でも2首目の〈クリオネの捕食シーンは共感できる。〉は、〈怪物ちゃん〉をコンパクトに説明する、ある意味非常に上手で器用なフレーズだった。クリオネの捕食シーンに共感するというわかりやすい怪物性は、ほかの歌の自由な、規定の外側にいる〈怪物ちゃん〉をどこか枠にはめてしまっているように感じました。ここが気になってしまった結果、ほかの歌も自由だと思えなくなってしまった。それで上位に入れることができませんでした。
郡司:僕はそこまでこの歌に息苦しさは感じませんでした。〈怪物ちゃん。〉から〈いろみずが好き。〉そして〈クリオネの捕食シーンは共感できる。〉と、句点でつながった情報のリズムがよくて、これによって1首が成り立っていると思います。僕が好きだったのは〈ごらんなさいあれが関東平野です大きいでしょう 元気を出して〉ですね。ほかの歌はパワフルで破壊的なんですが、この歌だけ不意に〈元気を出して〉と素朴に励ましている。意表を突かれて、おもしろく感じました。
青松:初谷さんの指摘は「なるほど」と思いました。もしこれが完全に〈怪物〉という架空のキャラクターを主人公とする連作なら、おっしゃるとおり2首目は少し説明的なのかなと思います。ただ、僕は直感的に、すべての歌が〈怪物ちゃん〉目線だとは思わなかったんですよね。〈力、気のきいたことが言いたいときに気のきいたことが言えない、ちから〉といった歌の葛藤が、すごく人間っぽいからそう感じたのかもしれません。人間としては言えないことやできないことを〈怪物ちゃん〉に仮託して言っているのか、あるいはこの連作自体、人間が〈怪物ちゃん〉と出会うストーリーなのか。その方向なら、2首目は単に説明のための歌ではなくて、〈怪物ちゃん〉と初めて出会う発見の歌、としても読める。
――ここまでで、各選考委員8位以上の計20名に関する議論が終わりました。ここからは9位以下の連作から、みなさまの希望に基づき太朗千尋『BIG GAME』と川口番『ビューティフル』の2作を取り上げて議論したいと思います。
太朗千尋『BIG GAME』
初谷:10位で取りました。非常に多くの引用があります。たとえば〈ああ化石になっちまうよ心臓が公園の遊具に触れたがる〉の〈ああ化石になっちまうよ〉はボカロ曲『きゅうくらりん』(作詞・作曲:いよわ)の歌詞だし、〈花火にも見えるし街並みだとも思う YES WE CAN お揃いのスニーカー〉の〈YES WE CAN〉はオバマ元大統領の言葉で、というのがどんどん出てくる。たぶん把握し切れていないものもあると思います。この作り方からしても、人生をルールや制約のあるゲームとして捉え、そこで生きていくおもしろさのようなものを描こうとしているのかなと感じました。その中で私が好きだったのは〈2四歩 気持ちが昂ぶることなんて 同銀 ねぇよ椿が落ちる〉のような歌です。かっこいいことを正面から迷いなく言う感じが、すごくいいなと思いました。
青松:大量の引用を入れた連作は今回は選びませんでしたが、選ぶとすればこれだと思っていました。この連作は、引用元に強い現代性がある。初谷さんが挙げていた『きゅうくらりん』もそうですし、〈おい Can you hear it? 雪の日本橋 Psst, I see dead people.〉はケンドリック・ラマーの曲「Not Like Us」の引用ですよね。単に共感されそうなものではなくて、若い世代がここ数年でリアルに触れているカルチャーを使って「今」をしっかり捉えようとする姿勢に説得力があります。加えて、引用だらけの短歌を〈雪の日本橋〉のような短いフレーズで具体性をギリギリ担保して、成立させようとしている。志が高いと思いました。
郡司:いろいろな引用元をコラージュしているのに、語り手の口調が統一されているのが、丁寧な構成になっていていいなと思いました。僕もギリギリ15位以内に入れようか迷いました。2首目の〈ああ化石になっちまうよ〉、6首目の〈気持ちが昂ぶることなんて〉〈ねぇよ〉、10首目の〈おい〉などですね。様々な要素をひとつの語りとして統合して一貫させ、連作として成立させているのが非常に上手いと思いました。
川口番『ビューティフル』
郡司:14位で取っています。〈晴れの日に布団を干しているような力が坂道をやってくる〉という始まり方もすごく丁寧で、一見暖かくて幸せな光景に見えるけど、〈力が坂道をやってくる〉の〈力〉は比喩上のもので、割とニュートラルな「パワー」の話をしている。〈力〉は、坂道を下ってきているのかな。ポジティブなのかネガティブなのか迷わせる、魅力的な1首目にまず惹かれました。アイロニカルなナショナリズムのテーマ展開もさりげなくて上手い。また、広告やニュース、天気予報など日常的に接触する事物に、すこし独特な捉え方で言及している。ただ見たままを述べているのではなくて、たとえばニュースを〈直線〉と表現したりしています。2首目で〈今一度問いに答えたならばそう 日本の花だ しかも満開の〉で出てきた〈日本〉〈花〉が、最後の歌で〈散り際の日本の花が綺麗だね ライフイズビューティフル もう一度〉と回収されるのも、ループ感、閉塞感が迫ってきて見事な締め方だと思いました。
初谷:私もこの連作は、すごく迷いました。まず単純に独特な視点のいい歌が多かった。1首目も上手ですし、〈予備校の広告の文字に追いついた初速に車内がゆれてそれから〉も好きです。全体的に巧みなんですが、9首目の〈ぐちゃぐちゃにぶちまけられて人生がこれが人生だったらなんだ〉が連作の雰囲気とは違っていて、そこが味変になっていてすごくいいなと思いました。
青松:僕も、この連作は非常に採るか迷いました。みなさん言っていますが、とにかく歌の質が高い。読んで損をした感じがする短歌が少ないです。〈遠くから届く電気にこの街はあたたかい光に包まれて〉なども、プレーンな語り口だけど実はけっこうすごいことをやっている。「電気が遠くから届いている」という1個の事実と、言い方の工夫だけで短歌を成立させている。とても魅力的でした。
ファイナリストの決定
――ここまでの議論ありがとうございました。ここから、ファイナリストを決めていきます。まず、各選考委員が1位に推している小池耕さん(『戦隊モノ』)、甲斐さん(『爪未満』)、相澤零さん(『イタリア』)と、3名ともが10位以上に選んでいる篠原仮眠さん(『ねがって』)について、みなさんいかがでしょうか。
郡司:この4名については、ファイナリストに内定でいいんじゃないでしょうか。
青松:はい、通過でいいと思います。
初谷:異存ありません。
――続けて、2名が高橋寧さん(『GINGER』)を3位という高順位に推しています。初谷さんは上位15作には入れていませんが、いかがでしょうか。
初谷:はい。私自身はもともと選んでいませんでしたが、技術という評価軸でファイナリストに残すならこの方だろうと思っていました。連作の作り方にもおもしろいところがあり、ぜひ20首でも読みたいです。ファイナリストに内定としてよいと思います。
――では、ここまで高橋寧さんを含む5名をファイナリストに内定します。では残り5名についてご議論お願いします。議論のきっかけとして、残りの候補者から推したい5名をあらためて投票いただこうと思います。ここまでの選考を踏まえ、もともと上位に入れていた人でもそうでなくてもかまいませんので、投票をお願いいたします。
――ありがとうございます。みなさまの投票結果は、以下の通りとなりました。
青松輝
瀬斗みゆき(『魚影』)、由良鴻波(『メイジャー』)、椎本阿吽(『騎士だよ』)、京野正午(『素数蝉』)、太朗千尋(『BIG GAME』)
郡司和斗
瀬斗みゆき、穴根蛇にひき(『ドレープ』)、京野正午、夜羽ねむる(『鶉と肋』)、紺野藍(『燃えるならなんでも』)
初谷むい
瀬斗みゆき、由良鴻波、京野正午、@sknct834194(『SVOC』)、水埜青磁(『破顔』)
――ここで3名ともが選んだ瀬斗みゆきさん、京野正午さんに関しては、ファイナリスト内定でよろしいでしょうか。
青松・郡司・初谷:問題ありません。
――ではここまで7名、ファイナリストが決定しました。由良鴻波さんについては、青松さん、初谷さんの2票が入っています。郡司さんはいかが思われますか。
郡司:由良鴻波さん、ファイナリストでまったく問題ありません。応募作の中でも個性的でいい連作だったと思います。ベスト15にも取りたいくらいでした。20首連作も期待しています。
――では8名がファイナリストとして内定しました。残り2名は、1票が入った椎本阿吽さん、太朗千尋さん、穴根蛇にひきさん、夜羽ねむるさん、紺野藍さん、@sknct834194さん、水埜青磁さんの7名から選んでいくことになるかと思います。
青松:紺野藍さんはいまの投票では入れませんでしたが、もともと4位で取っているので、ファイナリストにふさわしいという考えは変わっていません。郡司さんが投票されていましたが、初谷さんはいかがですか?
初谷:もうここまで残っている作者は、全員間違いなく力のある人たちです。という前提で、その中でも紺野藍さんは強烈な印象があり、次の20首でどんなものを見せてくれるのか、非常に気になりました。私も、紺野藍さんをファイナリストに推したいです。
――では紺野藍さんをファイナリストに加え、これで9名が内定しました。最後の1名についてご議論お願いします。
郡司:ここまで来たらもうどの方もすごいので、難しいですね。
初谷:ここまで残っている人たちは甲乙つけがたいですよね。誰を残すか。
青松:いや、難しいですね。いいからな、全員。たとえば、椎本さんについてはどう思われてますか? ここまでに決まっているファイナリストとはまた違った作風で、良い意味での手堅さ、可読性の高さがあると思っています。
初谷:椎本阿吽さんは、すごくいいと思います。歌も上手いし、手堅いですよね。ただ、「上手い」という評価軸でこれが最高値なのかと言うと、どうなんだろうと迷ってしまうところが正直あります。それだったら、何かチャレンジをしている作者を推したほうがいいのではないか、という。
青松:たしかに、次に来る20首が想像を超えてくるかという基準では、ほかにもいい候補がいるだろうとは思いますね。
郡司:水埜青磁さんとかなかのさんとか綿引つぐみさんとか、こういうパワフルな作風の人たちはどうでしょうか。10首ではいったんこれを作ったんだろうけど、20首ではまた別のすごいことをやってくれそうな期待があります。
青松:太朗千尋さんもそこに含まれそうですね。大技系というか。
初谷:この作風の作者は、どの方もすごくいいんですがその分拮抗していて、誰を推すという決め手に欠ける気がしています。
郡司:すみません、ここまでの議論の流れを踏まえると、さっきの投票で入れていなかったので急に挙げて申し訳ないんですが、残り一枠に入りそうな候補者をあらためて読み直していて、パワフルさ、骨太さでいうと川口番さん(『ビューティフル』)も討議に加わっていいと思うのですが、みなさん、いかがですか? もともと個人の15位以内に取っています。
青松:いいですね。全然あると思います。川口番さんも他のファイナリストとは少し違ったタイプですし、技術もすごく高い。
初谷:実際、川口番さんは20首を読みたいという基準で言うと、かなり強いかもしれませんね。
青松:地力はすごく感じたので。候補にあらためて入れるのはありだと思います。
――ではここでもう一度、決戦投票を行いましょうか。いま議論に残っている椎本阿吽さん、太朗千尋さん、穴根蛇にひきさん、夜羽ねむるさん、@sknct834194さん、水埜青磁さん、川口番さんの7名から、2票投じてください。今回は、自分が上位15作に取っていない人へ投票お願いします。
――ありがとうございます。みなさまの投票結果は、以下の通りとなりました。
青松輝
水埜青磁、川口番
郡司和斗
椎本阿吽、水埜青磁
初谷むい
椎本阿吽、川口番
――椎本阿吽さん、水埜青磁さん、川口番さんの3名が同点です。
青松:この3名なら、誰がファイナリストになっても納得がいきます。この中では川口番さんか、もともと採っていたのでいまは投票できなかった椎本阿吽さんを推す気持ちが強い。水埜青磁さんの『破顔』はいい歌は本当におもしろいんですが、9首目〈歯並びが悪い方のビート板がさしだす光 愛撫は上から〉、10首目〈ロスト・サンセット 内臓色のときめきが透けはじめているカメラロール〉など、すこし弱い歌も目立つ気がします。他のファイナリストと決勝で戦って、大賞を勝ち取る可能性が高い人、ということを考えると、歌のクオリティの下限が高い二人(川口、椎本)を推したいです。
郡司:川口番さんはもともと個人の14位に入れていましたし、ぜひ行ってほしい気持ちはあります。あとは椎本阿吽さん。絞られた中だとこの2名で悩んだという感じです。
初谷:いろいろ考えた結果、川口番さんをひとつ抜けて推したいと思っています。あとはみんな同じくらいいいんですが、一人を選ぶなら川口番さんです。
青松:いいんじゃないですか、川口番さん。
郡司:初谷さんにそう言っていただけるならありがたいです。川口番さんをお願いします。
――では、ファイナリストの最後の1名は、川口番さんでよろしいでしょうか。
青松・郡司・初谷:はい。
――ではこれでファイナリストが決定しました。甲斐さん、小池耕さん、相澤零さん、篠原仮眠さん、高橋寧さん、瀬斗みゆきさん、由良鴻波さん、京野正午さん、紺野藍さん、川口番さんの10名です。みなさんお疲れさまでした。お一人ずつ、一言お願いいたします。
郡司:お疲れさまでした。予選の選考はとても楽しかったです。1,700作品を何周も読むわけなのですが、当然読むたびにおもしろい作品が出てくる。AIじゃなくて人力なのでそりゃそうなのですが、ゆえにダイナミックなファイナリスト選出になったと思います。あと、選考会はやはりただただ趣味で好きな歌を選ぶのとは違う場なので、これらの作品が選ばれる意味とか、それをこの後、この三人で「いいと思っています」と押し出すことがどういう影響を持つのかとか、色々と考えました。当たり前の話なんですけどね。今回の賞に関わってくれたすべての人とその先の景色を見てみたいです。僕たちもファイナリストもこれからが本番だと思います。気を引き締めてやっていきたい。ありがとうございました。
初谷:想像していた通り、とても難しかったです。こういった選考は初めての経験で、楽しくもあり難しくもあり、という感じでした。話しながら、自分の力不足を実感する場面もすごくたくさんありました。でも今選ばれている10名を見てみると、すごく納得のできる10名だと思っています。もちろん、惜しくも入らなかった作者が他にもたくさんいるんですが。まずは、この10名の20首連作を、心から楽しみにしています。引き続き私も、私なりに全力でがんばりますので、よろしくお願いします。
青松:楽しかったです。正直、10枠は少ないですね。1,700から10にするのはやっぱり無理があるとは思いました。まず70くらいに絞って、次に30に絞って、次に10、という段階が踏めるくらいの大きな賞になってくれたらいいなと思います。選考はもっと大変になりますけど(笑)。選ばれなかった応募者の皆さんには、この3人が選考委員だったから偶然この結果になっているだけ、ということは本当に伝えておきたいです。あなたの短歌はよかったし、これからもっとよくなる。僕らの短歌観に過剰に合わせる必要もないし、あなたにとってのいい短歌を書きつづけてほしい。そして、だからこそ今回のファイナリスト10名には、最終選考作品の20首で、落ちた人が絶望するくらいのいい歌を書いてきてほしい。読んだ瞬間に「これが絶対1位だな」と思わせてくれる、そんな短歌を楽しみにしています。あなたたちにはそれができる。
――ありがとうございました。それでは最終選考も、どうぞよろしくお願いいたします。


