はやみね先生が「キャラと対話するには?」など、受賞者の執筆のお悩みに一問一答!質問会の様子を記事にしました。【カクヨム甲子園2024授賞式】

「カクヨム甲子園2024」授賞式にて行われた、はやみねかおる先生との質問会の内容をご紹介します。
執筆に悩む受賞者に温かく励ましを送るはやみね先生のアドバイスは、執筆の参考になること間違いなしです。
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長編を完成させるために必要なこと

はやみね先生:
 書き方として、自分は二つのやり方をやってまして、一つがキャラクターを決めること。もう一つが書きたいテーマから始める、ということ。

 テーマについては後半の質問にもあるので、キャラクターについてお話しします。まず、それぞれ長い人生を持っていることを前提に、キャラクターを作ってください。それができていれば、そのキャラが日常生活でどんな行動をするか想像ができる、キャラクターを完全に掴んだ状態になれるんですね。その上で、キャラクターを物語のなかに放流することで、お話が自然と動いていきます。

 次に、長編で大事なことは体力です。自分は毎日、山の中を6.43km走ってます。最後は根性だけではなんともならない時が来ます。そこからは体力勝負です。

お悩み:長編を書こうとしても挫折してしまう(『瑞国伝』作者水野文華さん)

 水野さんの場合は、絶対に書けるので、安心して好きなように書いてください。あえてアドバイスをするなら、文章に一定のリズムがあるので、あえてリズムを崩して、描写にこだわった部分を作ってテンポを変えてみたりすると、文章の中に違う風景が出てくる時があるかもしれません。

 魅力的なキャラを書いてますから、それを掘り下げるという手もあります。朝の連続テレビ小説が子役から始まるみたいに、成人済みのキャラクターの生い立ちを書いていくと自然と長くなっていきます。

お悩み:並行執筆をしていると、長編執筆へのモチベーションが維持できない。(『よどみに浮かぶ花屑は』作者・夜賀千速さん)

 そもそも、無理にモチベーションを高めようとしないでもよいです。冷静な気持ちで書くのが大事だと思います。

 ちなみに、自分は若い時に長編を2本同時に書いていて、キャラクターの名前を間違うわ舞台が入れ替わるわで、どちらの編集者さんからも苦情が来たもので、今は並行して書くのをやめています。

 長編にするためのアドバイスとしては、『よどみに浮かぶ花屑は』の遠野先生と主人公の和花さんが出会うまでのお話を書いたりしていくと、連作短編の形で長く続けることができるのではないかと思いました。

キャラクターが人格を持って動き出すように描くために必要なこと

はやみね先生:
 全体的に言えることは、とにかく周りにいる人を観察するということです。たとえば、先ほど受賞者の皆さんは賞状を受け取りましたが、両手で受け取った人、右手から出した人、左手から出して受け取った人、とこの三種類がありました。皆さん、無意識でやってましたか? 自分は、右手から出して左手と添えて受け取る人を見て、「この人は小学校や中学校の卒業式で練習したのが身に染みてんのやな」と思いました。いろんな人を見て、どんな風な行動を取るか、細かいことを全部観察すると、頭の中にいろんなキャラクターが住み着いたアパートみたいなのができるんですよ。「こういう話を書くときには俺を使え」と出てきてくれるので、とてもよいです。

お悩み:キャラと対話することができない(『瑞国伝』作者・水野文華さん)

 現実社会の人間と対話するのは難しいですが、頭の中にできたキャラであれば、遠慮せずに対話することができるはずです。出来ます。
 例えば、もし『瑞国伝』主役の楚清朗に「ハワイのホテルでアルバイトしてみん?」と聞いてみたら、真面目な彼がどんな振る舞いをするだろう? とか、そういう風にキャラと話をするのも楽しいと思います。

お悩み:やり過ぎるといかにも作り物めいたキャラになってしまう(『満月と卵焼き』作者・蘇芳ぽかりさん)

 自分がキャラを作る上で気をつけているのは、自分が作り出したキャラに責任を持って、「キャラに気を遣う」ということです。生きている人間と同じように扱うということです。『満月の卵焼き』の今村美月と主人公が二人っきりで会話するシーンに代表されるように、蘇芳さんは良いキャラクターを作れていると思いますので、心配せずそのまま書き続けてください。

お悩み:キャラの個性の要素についてのアイディアはどのように見つけたら良いですか(『鈴木さんの宿題が終わらなかった。世界は滅んだ。』作者・青のり磯辺さん)

 これも、キャラを頭の中で作り上げていく過程で、例えば「あ、このキャラは廊下にゴミが落ちていたら絶対拾うな」といったディテイルがわかってきます。そして、「早瀬くんなら、どうやって世界を滅ぼす?」と聞いてくるようなキャラを生み出している時点で、青のり磯辺さんは大丈夫です。心配せずに書いてください。

お悩み:違うキャラの発言でも、つい同じようなセリフになりがち(『まっすぐ弓を引いて』作者・暁流多 利他さん)

 これについて、自分が気をつけているのは、不要なキャラを出さないということです。賑やかしでキャラを出してしまうと、他のキャラと被ったり、活躍もしないままに物語が終わってしまって、「結局あれ、誰やったん?」と読者にも思われますし、作者の中にも後悔が残ります。その点に注意してみてください。

自分が「こう書きたい」と思うような文章をなかなか書けない時、どのようなことが必要か

はやみね先生:
 前提として、書けば書くほどうまくなります。それから本をたくさん読んでください。読書量があれば、その分書きたい場面に合わせた書き方を勉強できますので。

お悩み:表現が一辺倒になってしまったり文章に個性を出せなかったりする(『老人』作者・中尾よる)

 ちょっと無責任にもなりますけど、中尾さんの『老人』という作品はすごい。ご自身の世界観ができてる人は、文章のうまいとか下手なんて気にしなくていいんですよ。「世界をこうやって伝えるんや」という思いそのものが、その方の文章になります。

お悩み:書きたい描写が多過ぎて、つい一文が長くなりがち。文章にメリハリをつけて、読みやすい文型を作りたい。(『まっすぐ弓を引いて』作者・暁流多 利他さん)
『まっすぐ弓を引いて』を読むと、体言止めをすごくうまく使って、文章にリズムができていますので、メリハリについては問題ないと思います。

 読みやすい文章について言えば、長い文章は読みにくいです。自分の場合は一つの文で、読点は二つまでになるよう心がけてます。それ以上の長さになったら文章を切る、というのを心がけています。でも、『まっすぐ弓を引いて』は上手に書けてます。あまり気にしないでください。

お悩み:コミカルで笑える箇所を書きたいのですが、なかなか思い付かず、硬めの文章になってしまう(『満月と卵焼き』作者・蘇芳ぽかりさん)

『満月と卵焼き』にコミカルで笑える場面を入れたら台無しになると思いますので、無理に入れなくても良いのではないかと思いました。(大賞受賞のスピーチを聴いて)蘇芳さんは真面目な方に見受けられましたので、作者ご自身のイメージに合う文章を追求するのもよいと思いますが、もし、エンタメを目指すのでしたら、吉本新喜劇などを参考にしてみると、面白い文章は書けると思います。

お悩み:書きたい事柄、伝えたい気持ちがあるのに、文面にできない、書けない時はどうすればいいかわからない(『Devote to you.』作者・落ちこぼれ侍さん)

 自分の場合は、書けるようになるまでひたすら待ちます。いつか書けるんです。そうやって自分は来年、執筆業三十五周年になります。待たされて困るのは編集者さんです。皆さんも編集者さんがついたときは、「今、必死で書くんや」っていう気持ちで書いてください。

物語を書く上で、着想の起点となっていることは

 自分の場合は、「とにかく読んでくれる人を楽しませたい」という気持ちが起点になっていることが多いです。小説を書く時、自分は一度プロットを書いて、編集者さんに見せてOKが出てから始まります。編集者さんはプロットを読んでるわけなんで、その通りに書いてしまうと、驚く余地がない。それであえてラストを変えようとしてすごく締切が伸びたりするくらい、読む人を楽しませたいと思っています。
 次に起点になっているのは締切です。プロの作家として、締切に間に合うように必死で考えるということです。自分が作家になりたての頃、ある有名な推理作家の方と対談させてもらって、一番聞きたかった質問をしました。「トリックはどうやって考えるんですか?」と。「必死で考える」と言われて、当時は企業秘密なんだなと思いましたが、今になって必死で考えるしかないんやなっていうのは身に沁みました。

皆さんからたくさん質問されて、ぼくは答えらしきものを言っていますが、必死で考えたら皆さんの中から答えは出てくると思います。

お悩み:小説のアイデアはどういう時に思いつきますか?(『声を紡ぐ』作者・吉野なみさん)

 自分の気持ちが動いた時ですね。例えば、日曜日に洗濯物を取り込んでいたら、首筋がジリジリと日焼けするくらい暑かったんですよ。「また人殺しみたいな夏が来るな」って思った時に、夏の話を書きたいなと思いました。そういう風にお話を広げてみると良いのではないでしょうか。

 吉野さんの場合は、嫌がらせしてくるようなキャラをうまく書いてると思いますので、ぼくの回答などを無視してぜひ書き続けてください。

お悩み:登場人物の心情や世界観についての着想はどのように得ていますか? 私は今回のカクヨム甲子園で初めて小説を書きました。自分が書いた小説では、自分の経験がベースになっていたので描写や心情にそこまで苦難しませんでしたが、他人の心情となれば描写するのは一層難しいと思うのです。(『春先、堕落と飛翔』作者・アロステリックさん)

 初めて小説を書いて賞をもらうっていうのは、すごいことです。何も心配しなくていいんです。具体的に言えば、『春先、堕落と飛翔』のなかで「僕」と「私」の人称を変え細かい書き分けをきちっとされてるのが良いなと思いました。「他人の心情の描写が難しい」という話もありますが、キャラは他人ではなく自分の中にある自分ですから、充分に対話して書き続けてください。

お悩み:ストーリーはどのように考えているのでしょうか?(『Devote to you.』作者・落ちこぼれ侍さん)

 自分の場合は、児童書なので、「子供たちにこういうことを伝えたい、自分はこういうことをやってきたよ、だからみんなもやってみたら面白いよ」という気持ちで考えています。そこに編集者さんの協力(「黒はやみねが出ている」という理由でボツにされて書き直すなど)があって、作っています。