6月27日(金)にカクヨム運営公式Discordサーバーで開催した配信イベント「木爾チレンさんに学ぶ創作術 キャラクターの作り方からミステリー・ホラーの書き方まで」の内容をインタビュー記事にまとめました。
角川学園ミステリー&ホラー小説コンテストのために執筆している人はもちろん、そうでない作者の方にとってもきっと創作のヒントが見つかるはず!
配信終了後に追加で質問した内容もありますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
小説を書く準備
――いつ頃から、どのようなきっかけで小説を書き始めたのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?
中学生の時、好きな男の子がいたんですけど、何回告白しても振られたので、その想いを成就させるために、自分と彼の小説を書き始めたのが最初です。本を読むのが好きで、一回書いてみたいなという気持ちがあり、小説という媒体を選びました。
――その後はどのような形で執筆を続けたのですか?
当時、メルマガがすごく流行っていたんです。なので、メルマガを作って、二次創作の小説を配信していました。ジャンルはアイドルの夢小説とBLです。そこで、ランキングの1位になったんです。みんなから「神」みたいに言われて、配信するたびにたくさん感想をいただいて、楽しかったです。小説家になりたいなと思ったのは、それがきっかけです。
――カクヨムに投稿されている方が自分の小説にコメントや反応をもらうのと近い体験ですね。
本当に近いと思います。今、私が学生だったら、絶対カクヨムとかで書いていたと思いますね。
――オリジナル小説を書くようになったきっかけは何だったのでしょう。
高校生の頃はホラーばかり読んでいたんです。それこそ角川ホラー文庫のコーナーでいつも選んでいるくらい。大学生になって、一般文芸もすごく読むようになりました。村上春樹さんや吉本ばななさんに触れて、「小説ってストーリーの面白さしか知らなかったけど、文章の美しさを味わう体験もできるんだ」と感動したんです。
それから、私はどちらかというと、こっちが書きたいと思って、純文学系の賞に応募していました。小説家になる以外考えていなかったので、就活とかもしていなくて。大学を卒業した次の日に、「女による女のためのR-18文学賞」の受賞の電話がかかってきたんです。
――卒業の次の日に……! 運命的ですね。さて、創作の話題に移ります。執筆を開始する前に、どんなテーマ・内容の小説にするか検討する準備期間があると思います。どのようにして取り組む作品を決めるのですか?
デビューしたばかりの頃は、感性に任せて書いていたんです。けれども、それでは売れないということを学習しまして、最近は自分の書きたいテーマの作品がどうやったら手に取ってもらえるだろう、どうしたら目立つのだろうという風に考えながら、決めています。
――『二人一組になってください』の場合はどこから着想を得て、どのように形にしていったのですか?
『バトル・ロワイアル』世代ということもあり、元々デスゲーム系がすごく好きで、映画とかも片っ端から見ていたんです。ちょうどプロットを作っている時期に『イカゲーム』が流行っていて、「やっぱりデスゲームって最高」という風に自分の中で流れができました。
それで、すぐに考え出したら「二人一組になってください」というワードがパッと降ってきたんです。女子高で二人一組にならないと死ぬ。これだけでだいぶキャッチーなんじゃないかと思い、そこから30分くらいでルールやプロットを作りました。
だから、きっかけは「感銘を受けたから自分もこういうのを書きたい」くらい気軽でいいと思います。作品を真似するわけじゃなくて、自分がこのテーマで書いたらどうなるだろう、という感じですね。
『二人一組になってください』(双葉社)
<あらすじ>
「このクラスには『いじめ』がありました。それは赦されるべきことではないし、いじめをした人間は死刑になるべきです」
とある女子高の卒業式直前、担任教師による【特別授業(ゲーム)】が始まった。突如開始されたデスゲームに27人全員が半信半疑だったが、余った生徒は左胸のコサージュの仕掛けにより無惨な死を遂げる。
自分が生き残るべき存在だと疑わない一軍、虚実の友情が入り混じる二軍、教室の最下層に生息し発言権のない三軍――。
本当の友情とは?
無自覚の罪によるいじめとは何か?
生き残って卒業できるのは果たして誰か?
――核となるアイデアから長編小説に仕上げていくコツはあるのでしょうか?
例えば文芸小説で人の恋愛を書く場合、そこまで緻密なプロットはいらないと思うんです。感情のまま書いた方がいいこともあるので。でも、やっぱりデスゲームやミステリーに関しては、どんでん返しやオチも必要ですし、読者をびっくりさせなきゃいけないので、プロットの時点でフックを作ることを意識しますね。ミステリー・ホラーに関しては、あとから変わってもいいので、プロットを作った方がいいと思います。
――ヒット作の『みんな蛍を殺したかった』や『二人一組になってください』のプロットはあとから変わったりしましたか?
『みんな蛍を殺したかった』は結構変わりましたね。『二人一組になってください』は手をつなぐ順番を最初に決めたので変えようがなかったのですが、致命的なミスが1個ありまして、それをカバーするために、エピソードを変えることはありました。結果的に、そのおかげでより面白くなりましたね。
魅力的なキャラクターの作り方
――『みんな蛍を殺したかった』は主人公の蛍が転校生の美少女でありながら、スクールカーストの下位に位置する生物部のメンバーと親しくなり、その関係がやがて悲劇に発展していく……という物語です。この蛍という人物そのものが物語全体の謎であり、またホラーな雰囲気も生み出していますね。
ホラーって絶対、美少女が出てきますよね(笑)。怖い作品には美少女が必要なのではないか、という持論があるんです。この作品はフレネミー(※友達のふりをした敵のこと)がテーマなのですが、「私は安全だよ」みたいな感じで近づいてくる美少女がいたら怖いんじゃないかという発想から、蛍は生まれました。美少女を書くのが好きなので、「この小説に合う美少女ってどんな性格かな」というところから考えました。
生物部のメンバーについては、『みんな蛍を殺したかった』が初めてのミステリーだったこともあり、自分にしか書けない作品は何だろうと考えた時に、オタクが出てくるミステリーはあまりないんじゃないかと思いつきました。私自身、学生時代オタクだったので。
『みんな蛍を殺したかった』(二見書房)
<あらすじ>
京都の底辺高校と呼ばれる女子校に通うオタク女子三人、校内でもスクールカースト底辺の扱いを受けてきた。そんなある日、東京から息を呑むほど美しい少女・蛍が転校してきた。生物部とは名ばかりのオタク部に三人は集まり、それぞれの趣味に没頭していると、蛍が入部希望と現れ「私もね、オタクなの」と告白する。次第に友人として絆を深める四人だったが、ある日、蛍が線路に飛び込んで死んでしまう。真相がわからぬまま、やがて年月が経ち、蛍がのこした悲劇の歪みに絡みとられていく――
――ご自身の経験や「好き」を作品作りに取り入れているのですね。
大学で小説を教える時にも言うのですが、自分の得意分野を書くべきだと私は思っています。自身で体験したことって、誰よりもリアルに書けるし、その気持ちもすごく上手に書けるので、たとえ文章が不得手だったとしても、相手に伝わります。私だったら、オタクの気持ちは他の作家さんに負けずに書ける自信があります。例えば、将棋が得意だったら将棋の話を書くとか、得意分野をどんどん掘り下げていくのがおすすめです。
私は自分の部屋に「美少女文学を極める」というスローガンを貼っているんです。美少女が出てくる話が好きなんですよね。美少女には悩みがないって思われがちですけど、実はそういう子の方が容姿に関してコンプレックスがあったりとか、中身を見てもらえなかったりとか、様々な悲しみを持っていると思うんです。もちろんそれ以外も書いていくんですけど、「美少女文学」を一つの軸として持っておきたいと考えています。
――素敵なスローガンですね。『みんな蛍を殺したかった』の栞という登場人物は二次創作の小説を書いていて、まさにご自身の経験を反映されているように思います。
結構、自分をキャラに落とし込むことはありますね。自分の中にある細胞を色んなキャラに1個ずつ与えている感覚です。
――今回のコンテストは学園が舞台ということで、必然的に学生が主人公や主要人物になるケースが増えます。物語のキャラとして、学生を魅力的に描くポイントやコツがありましたら、ぜひ教えてください。
皆さん、学校に通われている、もしくは通われていたと思うので、その時のクラスメイトを思い浮かべて書いてみてください。例えば、「こいつめっちゃ嫌だったな」とか、反対に「この子めっちゃ好きだったな」とか。嫌いでも好きでもどっちでもいいんですけど、そういう個性の強い子を小説に落とし込むと、魅力的なキャラクターになると思います。
――『二人一組になってください』27名のクラスメイトが登場します。その一人一人がとてもリアルな存在に感じるのですが、どのような方法でたくさんの登場人物を生み出し、書き分けることに成功したのですか?
本作においてはキャラを作るのに1、2か月くらいかけています。書くにあたって、一人もモブにしたくない思いがありまして、全員のキャラクター表を作りました。一人の設定に対して、1000〜2000文字くらいなので、結構な量ですね。
それから、顔を思い浮かべないと書けないと思ったので、その子のイメージに合う顔をChatGPTで作成したんです。なので、本当にキャラをこの世に誕生させてから、物語に反映させたという表現が正しいかもしれません。自分の中でキャラクターのイメージや容姿は大事だと思っているので、効果的でした。
――キャラクター造形の点で、影響を受けた作品はありますか?
ノベライズを担当した『殺戮の天使』から多くを学びました。この作品には色々な殺人鬼やシリアルキラーが出てくるのですが、一人一人のキャラクターがものすごく強いんです。それぞれにバックボーンもしっかりあって、だからこそゲームに落とし込んだ時に、キャラクターとして映えるんだと気づきました。
ミステリー・ホラーの書き方
――「女による女のためのR-18文学賞」優秀賞受賞作は純文学のジャンルです。その後、ゲームのノベライズや児童向けの小説など作品の幅を広げ、『みんな蛍を殺したかった』でミステリーに初挑戦されています。ミステリーを書く上で、困難に感じる点はあったのでしょうか?
実はミステリー小説を全然読んだことがなかったんです。なので、ミステリーの書き方すら分からず、『ミステリーの書き方』(幻冬舎)を熟読してから書きました。色々な作家さんがミステリーの執筆方法を紹介している分厚い本なのですが、文章のサンプルもついていますし、ミステリーの教科書みたいです。
私、ミステリー映画ならたくさん見るので、どういう手法があるのか知っていたんですけど、それを小説に落とし込む方法がよく分からなくて。例えば、叙述トリックとかフーダニットといった用語も知らなかったですし。それが書かれているので、「ミステリーってこんなに書き方の方程式がいっぱいあるジャンルなんだ」という発見がありました。この方程式に自分の物語をはめ込んでいけばいいんだ、という土台を与えてもらったような感じですね。この本を読めばミステリーが書けたので、ぜひ読んでみてください。
――今回のコンテストは必ずしも本格ミステリーだけを求めているわけではありません。初めてミステリーに挑戦する方も大歓迎なので、ぜひ書き方のコツがあれば教えていただきたいです。
自分の書きたい物語をミステリー仕立てにしてみよう、くらいの意気でいいと思います。例えば、初めに事件(謎)があって、なぜこの事件が起こったのか、という形式だけでもいいですし。私自身、ミステリーは難しいんじゃないかと感じていたんですけど、書いてみると書き方の方程式があるので、むしろ文芸よりもチャレンジしやすいジャンルだと思います。だから、あまり意気込まずに「どんでん返しに挑戦してみよう」「叙述トリックを書いてみよう」とか、テストの問題を解くような感じで書いてみてもいいのではないでしょうか。
――次にホラーについて教えてください。お好きなホラー作品はありますか?
漫画なら伊藤潤二さんや楳図かずおさんで、小説なら小林泰三さんの『玩具修理者』に収録されている『酔歩する男』や江戸川乱歩さんの『芋虫』。人間の心理に訴える、心を痛める感じのホラーが割と好きですね。
最近、クレーンゲームに関するホラーを書いたんです。クレーンゲームって人形が落ちる瞬間、ゴトンって音がするんですが、主人公の美少女はその音を聞きたくてハマってしまう。ある時、彼女は人が飛び降りてくる場面に遭遇し、とても大きい「ゴトン」の音を聞くんです。それに快感を覚えて、シリアルキラーになっていくという話なんですけど、そうした突拍子もない展開のホラーが割と好きですね。そこからこうやって繋がっていくんだ、みたいな。デスゲームもそうですけど、日常が一気に変わってしまうような、突然始まる怖さが好きなのかもしれないです。
――ホラー作品における恐怖の生み出し方について、アドバイスをいただけますか?
音とか五感の描写を細かく書き込んだ方がホラーとして怖いと思います。それから、恋愛小説における「好きと言わずに好きと書く」みたいな感じで、キャーって悲鳴を上げて怖がっている人を描写するのではなく、何が怖いのかを書くのも一つの方法です。ちょっと抽象的ですけど。
ただ、文章で怖さを表現するのは、とても難しいと思います。恐怖にはやはり視覚が重要なので。それこそモキュメンタリーが流行っているのは、視覚的に怖さを与えられるからだと思うんです。例えば、新聞記事風とか、SNS風とか。リアルで起こる出来事が一番怖いので、いかにリアルに見えるかが勝負ですね。
――『二人一組になってください』のデスゲームでは、クラスの中で二人一組になれなかった一人の生徒から順番に命を落とすというルールをベースに、他にも細かな設定があり、それらが有機的に物語に組み込まれています。このルールはどのように作られたのでしょうか?
クラスの人数が偶数になった時は一人の生徒が待機するとか、そういうルールがあるんですが、書きながら結構変えていきましたね。このルールがあった方が、このエピソードが活きるということもあるので、多分15回くらい変えて、最終的にあの形に落ち着きました。それと、自分が難しい小説は苦手というのもあって、難しいルールは避けたく、「誰でも理解できる」を念頭に作りました。
――学園という舞台装置をミステリーやホラーに活かすポイントを教えてください。
閉じられた空間というのが、一番ミステリーやホラーにつながりやすいと思います。社会に出ると、どこにでも行けるというか、選択肢が増えるはずです。でも、学生の頃は家か学校、それかバイト先くらい。特に学校は第二の生活拠点と言える場所なので、その日常というか、決められた空間で何かが起こると、恐怖や謎が生まれます。
創作と生活
――少し話は変わりますが、2023年に小説紹介クリエイターのけんごさんとご結婚されています。小説家として、けんごさんとのご関係は?
どんな作品や動画が伸びるのか、一番近くで見たり感じたりしています。例えば、普段から本を読んでいる人以外に届ける場合、フックなりキャッチーな部分がないと難しいとか、勉強になっています。書く方と読む方の組み合わせだから、うまく相互関係ができているのかもしれません。
――木爾チレン先生にとって、ずばり「創作」とは?
息ですね。書いていないと「この時間が無駄」だと思ってしまう。書いている時も辛いけど、書いていない時の方が辛い。自分の思っていることを言葉にするのが苦手だけど、小説だと物語だからこそ思いを伝えられる。読者と自分が通じ合う気がして、孤独感も減るんです。だから、生きる糧ですね。
――最後に、コンテストへの応募を考えている皆さまへ、メッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
私も小説家になってから10年経った頃に、初めてミステリーを書きました。これまで書いたことがなくても、この機会にホラー・ミステリーを書いてみようとか、そういう軽い気持ちでいいと思います。新しいことを勉強するのは、すごく面白いですし。そのワクワクとか面白さを大事にしていただけたらなと思っています。
角川学園ミステリー&ホラー小説コンテストは9月1日(月) 午前11:59まで募集しています。皆さまの力作と出会えることを楽しみにしています。奮ってご応募ください。
角川学園ミステリー&ホラー小説コンテストとは
「学園ミステリー部門」と「学園ホラー部門」の2部門で、8万字以上14万字以下の長編エンタメ小説を募集します。
「学園」の定義は細かく縛りません。新しさを感じるエンタメ作品をお待ちしています。
選考委員は『二人一組になってください』『みんな蛍を殺したかった』の著者・木爾チレン氏に務めていただきます。
大賞、優秀賞を受賞した作品は、KADOKAWAより書籍化を予定しています。




