36
ホットドッグをはぐはぐしつつ、ヴァイスくんと訪れた腕相撲大会。
そこで彼は無双の強さを見せた。
「な、なんだヴァイス激似野郎ッ、腕が全然動かねえ……!?」
「力だけはちょっと自慢のヴァイス激似野郎だ。では倒すぞ」
「ぎゃー!?」
現在、ヴァイスくんは爆速で九連勝したところだ。
いやもう本当に爆速だ。一人称が『オデ』なムキムキの相手も、何かありそうな謎の達人風老人も、謎のローブ男も、謎の少年も、謎の少年の父親っぽい男も、黒幕っぽい雰囲気の人も、全員一秒で地に伏せていた。
マジでヴァイスくん無双である。
『つっ、強いーーーッ! 登録名“エセ・ヴァイス”選手、怒涛の快進撃だぁ~~~!』
ドクター開発の音声増幅器で叫ぶ司会兼主催者さん。その顔には驚愕と共に焦りが浮かんでいた。
だってこの腕相撲大会、ノンストップで十連勝した人がチャンプになって賞金もらえるってルールだからね。
ちなみに挑戦する人は参加費を払う必要があり、それで収益を上げる感じだ。
だから連続十連勝者なんてほぼありえない存在が生まれるまで、ガッポガッポと稼げるはずだったんだけど、
「さぁ、次の相手は誰だ?」
『ひえぇえええ……!』
ヴァイスくん、爆速無双で王手である。
しかも祭りはまだ始まったばかりなんだからそら焦るわ。もう終わりそうなんだもん。
『た、頼むから誰か強い人ッ、この男を止めてくれ~~~~ッ!』
と、司会兼主催者さんが本音っぽい叫びをあげた時だ。
観客たちをかき分け、黒髪の男が前に出てきた。
「ならば拙者が相手をしよう」
現れたのは和風の美男子だった。
服装や彫りの浅い顔立ちからして、間違いなくアキツ和国の人なのだろう。
彼を見てヴァイスくんが目を細める。
「その風貌に……腰の『刀』。なるほど、和国の騎士たる
「如何にも。拙者の名はセツナ、腕を磨くため異国を旅する士族でござる」
ほぁー、そりゃすごいわね。
アキツ和国っていったら極東のめちゃ遠い島国って聞くのに。よくそんなところから来たものだわ。
「セツナと言ったか。かなりの強者とお見受けしよう」
「フッ、おぬしもな、エセ・ヴァイスよ」
静かに睨み合う二人。
う、うおおおおお、これは期待できる勝負になりそうねっ!
『こ、ここでまさかの異国の剣士が参戦だー! では準備をッ!』
司会の言葉に合わせ、ヴァイスくんとセツナさんが台の上で手を握り合う。
『ではエセ・ヴァイス選手の十連勝を掛けた試合――始めぇッ!』
瞬間、バキバキミシミシッッッと異音が響き渡った。
一気に力を込めた選手二人の膂力により、台や足元にひびが入ったからだ!
って、どんな力してるのよ二人ともっ!?
「ッ、エセ・ヴァイスよ、貴様やはり化け物のように強いなっ!」
「そちらにも言えたことだろう。正直、力を抜いたら負けそうだ」
「ふん、涼しい顔で何を言う。だが拙者は勝つぞ。理想のために金が必要なのだァッ!」
セツナさんが攻めた!
ただ相手の腕を倒そうとしてるだけじゃない。
肘を起点に微細に腕を動かして、時に前に押し、時に後ろに引き、ヴァイスくんの力を入れるタイミングを崩さんとしてる。
「そもそも腕相撲の『相撲』とは、我がアキツ和国から伝わりしスポーツだ。力のぶつかり合いの中で行う技術的な駆け引きッ、それについては拙者のほうが
「っ……」
ヴァイスくんの表情がわずかに苦しそうになった!
大会が始まって以来初めてだ。腕もゆっくりと傾いてきた気がする。
「うおおおッ、賞金を手にするのは拙者だーーーっ!」
叫ぶセツナさん。うぅうんっ、このままじゃヴァイスくんが負けちゃうかも。
仕方ない、公衆の面前で正直恥ずかしいけど……、
「ヴぁ、ヴァイスくん、がんばって~~っ……!」
と、わたしが絞るような声で声援を送った時だ。
瞬間、
「お」
「お?」
「おおおおおおおおおお――ッッッ!」
ヴァイスくんが咆哮を上げた!
すると意味わからん勢いで逆転をはじめ、そのまま、
「うぉおおおおおーーーーーーーッ!!!」
「ぎゃああああーーーーーーーッ!?」
隕石が落ちるような勢いでセツナさんを粉砕!
彼の手の甲を台に叩きつけた瞬間、大爆発するように台と足場が吹っ飛んだ!
「ってヴァイスくん、腕相撲でも爆発かましちゃってるしー!?」
相変わらずの爆発王子様である。あんたのどこが氷の王子なのよ。
まぁともかく、
「俺の、勝ちだ」
『きっ――決まったぁああああーーーッ! エセ・ヴァイス選手、圧倒的な強さで十連勝達成! 腕相撲チャンプの誕生だああああーーー!』
司会が声を上げた瞬間、観客たちもわっと大歓声を上げる。
「つ、つよすぎるだろーーー!?」
「台も足場もぶっ壊れたぞぉおおーーー!?」
「うおおおおッ、やべぇもん見ちまったよ! 故郷のみんなに絶対話そーー!」
民衆どももご満悦で何よりだ。
極悪領主として、ぜひみんなには来年も祭りに来て外貨落としていってほしいからね。
『うぅぅ……では優勝を称え、賞金である百万ゴールドをお渡ししますぅ~……!』
「感謝する」
なお司会兼主催者さんのほうは涙目の模様。
盛り上がるには盛り上がったけど、収益をほとんどあげれないまま大会が終わっちゃったんだからね。
本来なら連続十連勝者自体すら現れるのは難しく、それなら用意した賞金分も丸儲けだったのに。笑えるわ。
「ふふ、わたし弱ってるやつを見るといじめたくなるのよねぇ……」
コイツに屈辱を与えてやることにしましょう。
わたしは壇上に上がると、がっくりしながら賞金を渡す司会に近寄る。
『こっ、これは領主たるレイテ様ッ! 一体どうして!?』
「アンタをいびってやるためよ。というわけではいこれ」
わたしは白金貨を弾いて渡した。
一枚で一千万ゴールドの価値あるものだ。
『ほ、ほわぁッ!? これはッ!?』
「この腕相撲大会、ここからはレイテ様が乗っ取らせてもらうわァ!」
わたしは観客たちに向き直ると、声を張り上げて宣言する!
「これよりレイテ様主催・腕相撲大会第二幕を開催するわッ! 賞金額はさっきの十倍の一千万よッ! ヴァイスくんに負けた連中に、彼を見て強い男に憧れた連中ッ! みんな
「「「オッ、オォオオオオオオーーーーーーーーーッ!」」」
みんな大盛り上がりねぇ!
うーふっふっふ、大会を乗っ取ってやるなんてわたし邪悪すぎるでしょ!
「――さて、司会進行は引き続きアンタに任せるわ。わたしは他の催し物も回らなきゃだからね~」
『あ、ありがとうございますレイテ様ぁッ!』
「ふんっ」
本当はわたしみたいな小娘に尻拭いされた屈辱でいっぱいなくせに。
「じゃ、わたしは他に行くから」
『はいぃッ! ぁ、ちなみに自分、記憶にないでしょうがメインベルト領の――』
「知ってるわよ。出稼ぎにきた新興商家跡継ぎのトロヤくんでしょ? 顔合わせの時にお父さんに紹介されてたじゃない、忘れないわよ」
『えっ、えっ!? 出稼ぎ商人なんて何十人もいたはずなのに……!?』
舐めるんじゃないっての。
祭りに合わせてやってきた出稼ぎ連中も、一時的にとはいえわたしの下僕になるのだ。
不祥事やらかして逃げても捕まえられるよう、ちゃんと頭に叩き込んでるわよ。
「主催者はお父さんでアンタは補佐のはずだったけど、たぶん急病ってところかしら。じゃ、せいぜい頑張ることね。親のためにも、ウチの祭りを盛り立てるためにも」
『は、はぃいいーーっ!』
なお、
「なぁ司会よ、次の大会も俺は出ていいのだろうか?」
『えッ!?』
ってヴァイスくんは出禁よッ!
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