第11話 下僕の騎士たちを見に行くわよ~!!!②
というわけで修練場に到着だ。
はてさて。元王国騎士団の連中が、ウチの『ハンガリア領守護兵団』に変な思想を広げてないか心配で見に来たんだけど――、
「よいかッ、元騎士団諸君! 朝起きたらレイテ嬢の住まう方角に“おはようございます!”と頭を下げよ! 食事の際には“レイテ様の
『おぉーー!』
って、兵団のほうが変な教育してるーーー!?
「ちょいちょいちょいちょいっ、待ちなさいよアンタたち!」
「ヌァッ!? レイテ様がこのような場所に降臨なされた!? 幻覚か!?」
「現実よ!」
はぁーまったく。守護兵団のやつらってば、わたしに媚び売る連中の中でも特に媚び媚びなのよねぇ。どんだけわたしを恐れてんだか。
「あ、変なとこ見せちゃって悪いわねヴァイスくん」
「レイテ嬢、本日も麗しくあらせられます」
「教育されるなっ!」
アンタはアンタで素直過ぎるのよ……。
「まぁいいわ。それよりも元騎士団の副団長、ソニアくん。ちょっと来なさい」
筋肉ムキムキのさわやか青年を呼び出す。
ヴァイスくんとも仲良さそうで、奴隷として捕まってた騎士の中じゃ一番階級が高い奴ね。
「ハッ。レイテ様に置かれましては本日も麗しくあらせられますッ!」
「アンタも従うな! そういう媚び売りはいいから、現状について確認させなさい」
わたしが買っちゃった王国騎士団とヴァイス王子。
彼らの存在は、一般には一応隠匿されている。
ただし初日に騒いで屋敷の者たちには存在が知られてしまったので、現状彼らの正体を知る者は、そうした屋敷の面々と、あとは連中を預けると決めた守護兵団の者たちのみだ。
屋敷の使用人たちはわたしが弱みに付け込んで奴隷にした者たちばかりだし、兵団のやつらには特に給料とか社会保障とか
「さて聞くけどソニアくん。アンタ、兵団の連中に『再革命思想』を勧めるとかしてないわよね? “俺たちと共に戦おう”って誘うとか」
「もちろんしてません。危険な道と自覚しておりますので、周囲を無理に巻き込むような真似はしませんよ」
「あらそう」
なんだよかった。それなら安心ねー。
「ですが」
「ん、ですが?」
「兵団の皆様、むしろ
ソニアくんが何やら語っていた時だ。
彼の声は、修練場の隣から響く『グガァアアアーーーーーーーッ!』という咆哮に掻き消された。
「っ!? レイテ様、今のは!?」
「叫び声からして魔物ね」
「魔物!?」
なぜ魔物が領内にッと驚くソニアくん。背後に控えたヴァイスくんも「どういうことだ?」と尋ねてきた。
ああ、そういえば彼らには語ってなかったわね。
「少し前に変なおっさんを拾ってね、そいつに『魔学』研究をさせてんのよ。魔物の生態について調べて、効果的な撃退方法や生活にうまく利用できないかを探るの」
んで、何かあってもいいように、兵団の本拠地兼修練場であるこの場所の横っちょに研究所を構えさせているわけね。
そう語り終えるとソニアくんたちはなるほどと頷いた。
「しかし『魔学』研究ですか……。王都内では禁忌とされている学問ですね」
「あらそうなの?」
……あぁ、そういえば王都の研究者だったっていうおっさんもそんなこと言ってたわね。
「上流階級者たちは“魔物に触れると魂が汚れる”と考えている者が多いのですよ。それで数ヶ月ほど前には、若くしてあらゆる研究分野で名を上げてきた先生が『魔学』にも手を出していたことが判明し、それを理由に王都から追放したほどで……」
「ふぅん。じゃあ、魔物の侵攻から国土を防衛してる辺境伯のわたしも、王都に行ったらあまりいい扱いを受けないってワケ?」
「それは……」
言いよどむソニアくん。肯定ってことなのね。
「申し訳ありません、レイテ様。各地の辺境貴族の方々の奮闘により、今や国の中心部にはほとんど魔物がいない時代。ですがそれゆえに、魔物を見たこともない王都の
もちろん自分は違いますよ! と続けるソニアくん。
そんな彼にヴァイスくんも「俺も違うぞ」と同意した。
「“魔物に触れると魂が汚れる”? ならば、民草を守るべく魔物と必死で戦っている者たちは
彼は拳を強く握り、
「俺は彼らを誇りに想うぞ。命を懸けて民を守護する戦士たちこそ、まさに王国の宝だからな」
そう語る彼に、領地の兵士たちが『ヴァイス王子……!』と感動した様子を見せた。
ヴァイスくんは不愛想だけどそのぶん言葉に嘘がないからね。男同士、それが伝わったのだろう。
「さてと。それじゃあみんな、お隣の研究所を一応覗きに行きましょうか」
魔物の叫びや妙な物音がさっきから続いてるのよねぇ。変なトラブルが起きてたら困るわ。
「もしも魔物が逃げ出したとかなら(※わたしが)危ないものね。(※わたしの)平和を護るために、ハンガリア領守護兵団しゅつげきよ~!」
『うぉおおおーーーーっ!』
やる気いっぱいに応えてくれる兵士たち。
わたしのことは嫌いでしょうけど、お給料たっぷり払ってるだけあって気力は漲ってるみたいね。
「ソニアくんたちも行くわよー」
「ハッ! ところで最初の話ですが――」
最初の話? あぁ、ソニアくんたちが兵士たちを『再革命』に誘ってないかの件ね。
ちゃんと聞いてたわよ。そんなことしてないようでよかったわ。
「弁えているならいいのよ。無理に誘わずとも計画に賛同してくれる人のみで、王都にバレないようこっそりやりなさい」
「っ、ははぁ!」
嬉しそうに頷くソニアくん。
ぶっちゃけ『再革命なんてするな! わたしが巻き込まれたらどーする!』って思ってるけど、それを直接言おうものなら『つまり新政権に加担するということか!? ぶっ殺してやるッ! 天誅ーッ!』って襲ってきそうだしね。だから表面上は賛同ってことにしておくわ。
そして無理に誘わない限り、コイツらの無茶に付き合うような人間は現れないでしょう。これでもう詰みってわけね。
「ふふ、まぁ頑張りなさい」
昨日は使用人たちもわたしに媚びるために『政権奪取の暁にはレイテ様を王族に~』とかふざけたことを言っていたけど、所詮は非戦闘者たちの戯言。
実際に命懸けで戦おうなんて連中はいないでしょ。
だから、
「大丈夫、わたしはアナタたちの味方よ」
『ッッッ!?』
どうせ再革命は無理だろうから、テキトーな発言で慰めてあげるわ!
「革命によって政権を奪った第二王子は、このレイテ・ハンガリアにとっても許されざる存在よ。されど現状は戦力不足。しばらくは戦力増強に努めるべきね」
「わかっておりますッ! 戦士たち一同、アナタ様には改めての感謝を!」
などという噴飯ものの感謝を、わたしは憐憫の笑みで受け取った。
本当に残念ね。その『再革命に挑みし戦士たち』とやらは、最初の三十人から増えることはないでしょうに……! それじゃあ戦争を起こすのは不可能だわ。
『レイテ様万歳ッ! やはりレイテ様とわれらの心は一つだったぁーーー!』
「はいはいそうねー」
おーっほっほー! 騎士たちを騙しちゃうわたし、極悪ぅ~!
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レイテちゃん(そういえばソニアくん、なんか言いかけてたような?)
ムキムキソニアくん(やはりレイテ様も再革命を望まれている! われら、心は一つ!)
※バラバラです。
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