第10話:下僕の騎士たちを見に行くわよ~!!!①



「――先ほどのご婦人に対しては素晴らしい推理力を見せたな。やはりレイテ嬢は慧眼も持ち合わせているのか」


「ぬっ」



 ……この王子様、嫌味でも言っているのかと思ってしまった。


 あのねぇ、かしこいかわいいレイテちゃんだって即座にわかんないことだってあるわよ。

 たとえば悪党らしく欲掻いて“どこぞの傷病奴隷ども”を爆速買いしたら、“新政権の残敵”だったり!

 その中に死んだはずの“第一王子”が紛れ込んでたりねっっっ!


 と怒りたいところだけど、悪の支配者は舐められるわけにはいかないから、



「そ、そうわよ」



 わたしはひとまず肯定することにしました。

 ……なんかヴァイスくん相手には見栄張りたくなるのよね。



「すごいな。俺もキミを見習っていこう」


「あらあら。ヴァイスくんも悪の素晴らしさに気付いたのね? いいわよ悪の幹部にしてあげるわ」


「悪は目指さないんだが」


「なんでよ!?」



 じゃあわたしのナニを見習うつもりなのよ!?



「わたし、悪100%なんだけど。最後まで悪たっぷりなんだけど。それ以外に見るべき点なんてないんだけど!」


「あるだろう、優しさとか」


「やしゃししゃ!?」



 はっ、はぁーーー!? そんなもんが一体わたしのどこにあるわけ!?



「意味わかんないこと言わないでよ。トンチンカンなヴァイスくん!」


「ああ、俺は『来年にも父王から俺へと正式な王位戴冠が行われると決まった時、震えながら拍手する第二王子おとうとの様子を感動してくれているのだと勘違いした』トンチンカンなヴァイスくんだ。あれが『殺意の目覚め』だとわかっていれば……」


「クソデカスケールな自虐すんな」



 まったく。この天然王子様は突然何を言い出すかわからないわね。



「ふむ、優しさなどを美点に挙げると怒るのか」


「当然よ。そもそも優しくないし」


「ではキミの美点として容姿を挙げよう。キミは可憐で麗しいな」



 は?



「俺も一応は王族だからな。夜会パーティーなどで多くの貴族女性を見てきた。だがその中でも、レイテ嬢はひときわ輝いているように見える」


「はぁ!?」



 そ、そりゃ容姿には自信あるけどっ!?



「あいにく俺は口が下手でな。こんな俺ではキミの容貌をうまく褒められないだろう。しかしそれでも語るとすれば、キミの可憐さはまるで『夜に咲く花』のようだ。月明かりを受け宵闇よいやみに映えるような幻想的な美しさがキミという少女には――」


「いやいやいやいやいやちょっと黙りなさい! てかアンタめっちゃ女を褒めれるじゃないの!?」


「本当だ。思わぬ才能を見つけてしまったな」


「見失っとけ!」



 いやもうなんなのこの王子……!


 別に綺麗だとか言われること自体は使用人たちからほぼ毎日だから慣れてるけど、一切媚びのない真顔でつらつら言われるのは初めてよ。

 媚びた連中と違って嘘じゃないとハッキリわかる分、めちゃ恥ずかしいんだけど……!



「そもそも人のいる街中でそういうこと言うな!」


「二人の時ならいいのか?」


「よくない!」



 アホの脇腹をどついてやる。

 彼は「痛い」と無表情で呟いた。もっと痛そうにしろ!



「ふむ、女性とは話し慣れてないからな。またも怒らせてしまったようだ」


「アンタそもそも人間自体と話し慣れてないんじゃない?」


「……それもそうだった」



 いつも騎士たちが一方的に話してくれるばかりだったな……と微妙にへこみ気味なヴァイスくん。

 表情は変わらないけど、なんかコイツの感情の機微がわかってきたわね。



「そういえばレイテ嬢。騎士たちといえば、この街の兵団に入れたのだったな」


「そうだけど」


「今や騎士たちの主人はキミだが、元主君として彼らの様子が気になる。見に行ってもいいだろうか?」



 あぁそうね。わたしとしても、あの人たちがどうしているか気になるところだったわ。



「許可するわ。兵団員たちのいる修練場まで一緒にいきましょ」


「感謝する」



 別に礼なんて要らないわよ。わたし的には彼らが馴染めてるかどうかなんかはどうでもいいし。

 気になるのは、元王国騎士連中が兵団員たちに『再革命思想』をブチ撒いてないかだ。


 レイテちゃんは弱い民衆をいたぶってれば満足なのよ。マジで大規模な戦争とかは勘弁だからね。

 悶絶民衆専属調教師のレイテちゃんなのよ。



「(わたしの迷惑にならないよう)平和にやってればいいわねー」 


「ああ、平和が一番だ」



 お願いだからわたしの兵団員に変なことは吹き込まないでよね~?



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ヴァイスくん「やはりレイテ嬢とは話が合うな」


※合ってません。


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