第25話:大したことないわよね!?!?!?
瞬間、ドクターは懐からメスを取り出した。
それを背後へと振りかぶるや、ガキィィンッという金属音が鳴り響く――!
「この王子には、敵わんネぇ」
「ラインハート……ッ!」
そこにいたのは、ドクターへと剣を叩きつけたヴァイスくんだった……!
白貌を染め上げる怒りの真紅。殺意に血走る片目の金眼。
さらに全身からは吹雪の如く蒼白の光が溢れており――要するに完全に本気でブチ切れていた!
「またレイテ嬢を危険に巻き込んでくれたな……!」
激情を身体能力に変える異能『天楼雪極』。その輝きがさらに強まる。
「ウヒヒッ……流石にこれはヤバいネぇ……!」
「ほざけ!」
そうしていよいよ、鍔迫り合いするドクターを真っ二つにせんとしたところで――、
「す、ストーップ! そこまでだよヴァイスくん!」
ハッとしたわたしは、急いで彼を止めに入った。
羽交い絞めにしたいけど背が足りないから腰に抱き着く!
「っ、レイテ嬢……!?」
「ヴァイスくん止まって~……って、なんでさらに放射光ビカビカしてるのぉ!?」
マジでドクター死んじゃうからぁ!?
そう思ってさらに強く抱き着くと、光がもっと強くなった!
なにゆえー!?
「レレレ、レイテくーん、私を想うなら王子から離れてくれるかなァ……? キミが引っ付いてると、彼の『
「えぇ~!?」
なんでよと思いつつ、とりあえず言われた通りに離れる。
すると本当にヴァイスくんの光は収まっていった。ええええ……?
「俺は冷静に戻った」
「よ、よくわからないけどよかったわ。じゃあドクターから剣を引きましょう?」
「いや冷静に考えてコイツは殺すべきだろう」
冷静に殺そうとしてる!?
いやいやたしかにドクターは酷いことしたけど、でもストップストップ!
「ヴァイスくん。怒ってくれるのは嬉しいけど、でもちょっと待って。たしかに無理やりこんなところに連れてこられたけど、ドクターの『魔晶石』研究に興味があるのは事実だから……!」
わたしは極悪令嬢だからね。
民の税金で美味しいもの食べまくりたいし、綺麗な服とか作りたいし、家をおっきくしたいし漫画買いまくりたいわけよ。
でも税金をガッポガッポするには、仕方ないけど民衆どもを生活豊かにしてやらなきゃなわけ。
「ウチは日々魔物に襲われる辺境の領地だからね。他の領以上に稼げる『何か』がないとやっていけなくなるわけよ。んで、そこのロン毛オッサンはその何かを
「……納得は出来る意見だ。だがだからとて、キミを危険に巻き込んでいいわけがないだろう。いい加減に罰するべきだと思うが?」
「そ、それはまぁたしかに……」
ん~といってもねぇ、色々と技術や知識を領地に広めてくれてる彼を投獄するわけにはいかないし。それに、
「ンッ、いよいよ罰せられちゃうのかい私? ん~キミがどんな罰を下すか興味深いネぇ~!」
本人はこの調子だ。
大抵の罰はヘラヘラと乗り切っちゃいそうだから、意味ないのよねぇ。
「それじゃあ……」
結局なにも思いつかなかったわたしは、テキトーな罰を言い渡すことにした。
「次にわたしが嫌がることしたら、わたし、アナタのこと嫌いになるわ」
「――」
つまり、実質無罪である。
これほど意味ない罪はないわね。性悪女のわたしに嫌われたって、大抵の人はどうでもいいと思うわよ。
特にこの人なんてどうせヘラヘラして終わりでしょうね。
そう思ったが、しかし。
「――すまない。今回は流石に失礼が過ぎた」
って、ドクターがなんか真摯に謝ってきた!? すごく綺麗に頭を下げてきた!?
えっ、この人にとってはわたしなんてどうでもいいでしょ……!? “なんかお金出してくれるヤツ”くらいの扱いでしょ!?
…………あー、だからか。ドクターってば、財布の口を閉じられると思ったわけね。
だからこその謝罪って感じか。実際は何も反省してないでしょうけど、でもでまかせな言葉と態度でこれまで通りお金が入るなら、そりゃ謝るわ。この人って効率主義な感じだもん。
「あードクター、別に研究費用減らしたりはしないから。ただ、アナタと一生口を利かなくなるくらいよ」
「!?」
子供みたいな罰よね。大人のドクターは別に何も思わないでしょ。
「それで二度と顔も合わさないようにするわ。ねぇ、ドクターにとってもわたしなんて幾ら危険に合わせてもいい
王子様にそう問うと、なぜか彼は顔を青くして、
「レッ……レイテ嬢! 彼もこうして反省していることだし、今回は大目に見てやらないか……!?」
って、なんかヴァイスくんがドクターを庇い始めた!? なんでよ!?
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