第24話:拉致されたわよ~~~~!?


「キミの“魔物の身体を余さず使いたい”という思想が気に入ってネぇ。そこでかねてより着目していた『魔晶石』を研究しようと思うんだ」


「魔晶石?」



 首を捻るわたしに、ドクターが指をピンと立てて説明を開始する。

 無駄に白くて長い指ねぇ。ピアノとかやってた?



「魔晶石とは、魔物が体内に有する謎の結晶さ」


「へー」


「学会では長年“魔物特有の尿路結石か何かだろ”と思われてきたが、実はコレに関してある噂を聞いたんだ。なんでも、とある剣士が魔物のまったく急所でもない部分を切ったら一撃で死んでしまったとか。剣士は首を捻りつつ、斬った部分を見てみると……」


「……割れた結晶があったとか?」


「そう正解ッッッ!」



 うるさ!?



「元より私は魔物の生体に疑問を抱いていたのだよ。連中は異様な巨体や攻撃器官を有しているが、その割に『摂取カロリー』が低すぎるんだ。人間以外の血肉に興味を示さず、草食動物程度の草しか食べないわけでネ。これはおかしいと」


「話が長いわね。つまりどういうことよ?」


「能力者が『ギフト』という力を神に与えられているように、魔物も『魔晶石』を中核として誰かからエネルギーを注がれているんじゃないか、ということサ」



 ……ふむなるほど。ドクターの説明に納得がいった。

 たしかに人間のヴァイスくんとかだって、爆発剣術で災害じみた真似ができるのに、食べるご飯カロリーの量は普通だしね。

 全ては女神アリスフィア様がくれたギフトのおかげだ。

 そんな風に魔物のほうも、どこかから別ルートでエネルギーを仕入れているわけか。



「たしか……神話ではあれよね? 魔物を作ったのは『闇の神アラム』とかいうのらしいから、そいつから貰ってるのかしら?」


「かもしれないネ。『女神アリスフィア』と同じく、所在と生体をぜひ知りたいところだ。――さて話は逸れたが」



 ドクターは腰を折り、垂れた前髪の奥の瞳でこちらをジッと見つめてきた。



「キミにお願いしたいこととは、『魔晶石』採取への協力サ」


「……は? なんでわたしに?」



 戦闘力カブトムシのわたしに、採取依頼ぃ? なにそれどゆこと?



「いやぁ実はネ。魔晶石の位置は、各個体ごとにバラバラみたいなんだよ。しかも魔物を先に殺してしまうと、どうやら体内に溶けてしまう始末。だからこそ採取がゲキムズなんだが~……そこでッ!」



 ズビシッ! と、彼はわたしの両目を指差してきた! こわい!



「キミのギフト『女王の鏡眼きょうがん』の出番ってわけだヨ! 対象の弱い部分きゅうしょまで見抜けるキミの瞳なら、魔晶石の位置もずばりわかるんじゃないかとネ!」



 おぉなるほど!



「魔晶石はエネルギーの塊。もし無事に取り出せて研究利用できたら、領地が爆発的に発展しちゃうかもダヨ~!?」


「それはワクワクするわねぇ! よしわかったわ、喜んで協力を――」



 と言ったところで、わたしはハッと気付いた。

 あれ、つまりわたしって、生きた魔物の前まで出向かなくちゃいけないんじゃって。

 それはちょっと危険なんじゃ……!



「あの、ドクター」


「よォし許可は取れたッ! じゃあ爆速で研究開始だァアアアーーーーーーーッ!」



 オッサンはそう叫ぶと、わたしを脇に持ち上げて、そのまま『魔の森』方面に爆走を開始した――!



「ウォオオオオオオテンション上がってきたヨぉーーーーーーー!!!」



 ってなんか景色が超速で過ぎていくんですけどォッ!?

 オッサンはやぁーーーー!?




 ◆ ◇ ◆




「――今思えば『蘇生実験』が失敗したのは魔物の死体に『魔晶石』が足りてなかったからだと思うんだよネぇ。アレをエネルギー源としてのみ仮定したら砕かれた瞬間に死亡するのはおかしいだろう? 飢餓状態になったとしても死亡するまでは猶予があるはずだろうに。つまり魔晶石にこそ『魂』と呼ぶべき非物質的概念が宿っているんじゃないかと私は推測してだネぇ」


「ネぇじゃないわよぉ……!」



 相変わらずマイペースなオッサンにつっこみつつ、わたしは草の地面にへたれ込んだ……。


 ドクター・ラインハートに拉致された後のこと。ついた場所は『魔の森』だった。

 しかも入り口付近とかじゃなくガッツリ中まで食い込んだあたりだ。


 当然、周囲の木陰からは『ギィーッ! ギィーッ!』とこちらを威嚇する魔物の鳴き声が……! ひえ~!



「え~んこわいよぉー! おうち帰してよー!」


「安心したまえ、キミのことは私が守る」


「って無駄にいいセリフ言うな馬鹿ぁッ! そもそもアンタが連れてきたんでしょうが!?」



 立ち上がっておっさんの無駄に長い足を蹴ってやる!

 おら死ねッ、極悪令嬢キック! ってうぎゃー痛い! 無駄におっさんの足硬いよ~!?



「びえええええええーーーーーーん! な゛ん゛な゛の゛コ゛イ゛ツ゛ゥゥゥうううう!!?」


「アッハッハッハ! レイテくんは元気だネェ~! 見てて飽きないよ!」


「うるさいアホ! いやホントアンタなんなのよ、わたし抱えながら爆速ダッシュできたりして何よその身体能力!? 実は強いの!?」


「さてどうだろうネぇ。まぁ私は天才であるがゆえ、凡人よりはそこそこ闘えるつもりだが――」



 瞬間、ドクターは懐はメスを取り出した。

 それを背後へと振りかぶるや、ガキィィンッという金属音が鳴り響く――!



「この王子には、敵わんネぇ」


「ラインハート……ッ!」



 そこにいたのは、ドクターへと剣を叩きつけたヴァイスくんだった……!



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※執事は放置されました。

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