第23話:魔晶石わよ~~~~???


「むっ、貴様は――ドクター・ラインハート!」


「やァ私だよ」



 ヴァイスくんの凶行を止めたのは、肉の送り主なロン毛オッサンだった。

 いやなに人の敷地に勝手に入ってきてるのよ、とツッコみたいけどその前に……、



「ヴァイスくん、下ろして~……!」


「あっ、す、すまない!」



 椅子にそっと下ろされる。

 瞬間わたしはグラスの水をグビグビ飲み、どうにか産まれかけていた豚鬼トロールを鎮めるのだった。

 ふぅ、助かったわ……!



「会話は大体聞いていたヨ。どうやら王子は、私の贈り物の安全性を訝しんでいるみたいだネぇ」


「当たり前だ。死体蘇生など敢行したあげく暴走させたような男、信用できるわけがない。それでこの肉は大丈夫なのか?」


「いやわからないネ。それを知るための実験体が彼女だ」


「殺す」



 眼にも止まらぬ速さで剣の柄が握られる。ヴァイスくんはそのままドクターを――ってちょっと待ってストップー!



「ヴァイスくん、違うから! 違わないけど違うから!」


「どういうことだ?」


「あ、あのね、別にドクターは勝手にわたしを実験体にしたんじゃなくて、わたしから志願したのよ……!」


「むむむ……ッ!?」



 驚きの表情をするヴァイスくん。

 ま、まぁヘンテコな話よね。ドクター、説明頼んだわ。



「いやァ実はネ、魔物肉の食用化はレイテくんからの提案なんだ。『魔物って殺して終わりじゃ生産性がなくない? コイツら食べたりできないの?』と言われてネ」



 はい、言い出しっぺはわたしです。



「いや目から鱗だったヨぉ。魔物特有の部位については採取して加工利用するなり考えていたが、大部分を占める脂肪部を食用に消費しようとは。何せ長らく魔物の捕食=人食行為にも等しいタブーとされてきたからで私も自然と常識に毒され――」


「ドクター、余談が長い。そういうのはいいから」


「こりゃ失敬。まぁそんなわけで付近の魔物の肉質を調査した結果、この地の豚鬼トロールは食用に適しているとわかったわけだヨ。それでマウスや犬にも食べさせてアレルギー反応もないとわかったんだが……」



 ドクターはヨヨヨと語る。「人間の実験体を募集したんだが、誰も応募してくれなくてネぇ」と。



「だがそこで、レイテ嬢が『じゃあわたしが食べるわ』と言ってくれてネ。それで豚鬼トロール霜降りセットをお送りしたわけだよ」


「……なるほど。貴殿に悪意がないと分かった、陳謝しよう」



 しかし、と。

 ヴァイスくんはちらりとわたしのほうを見てきた。なによなによ!?



「レイテ嬢……。キミは領主という替えの効かない立場だろう? それが安全性のわからないモノを食べるのはどうかと……」



 うぐ!?



「それは……だってわたし、お肉大好きだし……!」



 あと、あれだ。



「……それに腹立つじゃないの。いつまでも魔物に人類が怯えてるとかさ。だからわたしが悪党として、魔物を食べれるようにして『勝利』してやろうと思ったのよッ!」



 そう訴えると、ヴァイスくんは「ふむ……」と神妙な顔で頷いた。



「それは、ありかもしれないな。魔物が恐れられている原因は、聖書においても彼らが『捕食者』と定義づけられている点だ。だがその価値観を破壊すれば、勇気を出して魔に挑まんとする戦士が増えるかもしれない。人々の戦意も高まるだろう」


「でしょー!?」


「だが、やはり無茶は禁物だぞレイテ嬢。……キミに何かあったら心配だからな」



 うぐぐ……!? そう言われると反論できない。

 普段は天然でボヤボヤなのに、戦闘とか人の心配する時は真剣なのねぇこの人……。



「はぁ、わかったわよヴァイスくん。心配してくれてありがとうね? 悪の右腕にしてあげるわ」


「それは遠慮しておく」


「なんでよ!?」



 ――そんなやりとりをしていた時だ。

 ドクターが「仲いいネぇ」とニヤつきながら、何やら進言してきた。



「さてレイテくん。実はキミにお願いがあるんだ」


「お願い?」



 なによもったいぶって。



「追加のお小遣いが欲しいなら、わたしの肩でも叩きなさい」


「キミは私の母親かネ。研究費用なら十分もらってるから、そうでなく」



 じゃあなによ?



「キミの“魔物の身体を余さず使いたい”という思想が気に入ってネぇ。そこでかねてより着目していた『魔晶石』を研究しようと思うんだ」

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