第26話:相変わらずの爆発王子わよッッッ!!!!!

「フ、フフフフ。まさか私に、あんな感情が残っていたとはネぇ……。やはりレイテくんといると飽きないなぁ……」


「なにぶつくさ言ってるのよ。いくわよドクター」



 ヴァイスくんと合流した後のこと。

 私と王子様とドクターは、のそのそと『魔の森』を探索していた。


 理由はもちろん『魔晶石』を回収するための魔物探しだ。別に中断したわけじゃないからね。



「今はヴァイスくんがいるから安心ね。アナタならどんな魔物が出てきてもやっつけてくれるでしょ?」


「もちろんだ」



 ふんすと無表情のまま気合いを入れるヴァイスくん。

 やっぱりすごく彼がいると安心感がすごいわねぇ。

 でも、



「しかし……魔物が一向に出てこないな。どうしてだ?」



 そう。『魔の森』には多数の魔物が生息しているはずなのに、なぜか全然襲われないのだ。

 しかも私とドクターの時はギィーギィーと遠巻きに吠えていたのに、それもない始末。これじゃただの森林散歩だ。



「もしかしてだけどさ……魔物たち、ヴァイスくんにビビッてる?」


「そうだろうネぇ」



 わたしの予想に、ドクターも「無理もない」と同意した。



「なにせそこの王子様は数日前、この森の地形を一部変えてしまった男だからネぇ。冷静に考えて、破壊光ズバズバ放ってくる生物とか魔物でも嫌だろ」


「そりゃごもっとも」『ギギィ……』



 ……なんか、周囲からも「同意」と言った感じの鳴き声が聞こえた気がする。



「ふむ」



 と、そこで噂の爆発王子様が何やら考え込み始めた。なによなによ?



「なぁレイテ嬢。この『魔の森』だが――滅ぼしてしまって構わんだろうか?」


「えぇッ!?」『ギギィッ!?』



 瞬間、一気にざわつく周囲の森林。間違いなく魔物たちが驚愕していた。



「だってそうだろう? 魔物が多く住み付くこんな森があるから、キミの領地が危険に晒され続けるんじゃないか? 俺ならおそらく焦土に出来るが」


「い、いやいやいや。気持ちはありがたいけど、でも駄目よ」



 わたしはコホンッと咳ばらいをし、王子様に説明を始める。



「いいかしら? もし魔物たちがこの森で発生してるっていうなら、別に滅ぼしても構わないわ」


『ギィーギィーッ!?』



 やめてくれーッ! という必死な叫びが。えぇい話は途中だから黙ってなさい。



「けど違うのよ。全ての魔物たちは、未だ人類が踏み込んだことのない『未開領域』からやってくるわけ」



 ――『未開領域』。それは未だこの世界のほとんどを占めるという、魔物に溢れた大地のことだ。



「わたしたち人類は大昔から、少しずつ少しずつ輪を作るように住める土地を増やして、やがて各地にいくつもの国を作ったとされているわ。ここまではヴァイスくんも知っているわよね? 常識だし」


「どうにか」


「どうにかかー」



 流石は特訓気絶部……。

 一日二十時間だかの鍛錬で意識と記憶を飛ばしてきた男は違うわ。

 今度お勉強を教えてあげようかしら……。



「話が逸れたわね。要するに、森の向こうはどんな魔物がどれだけいるかわからないような場所ってわけよ。んでこの森は、そんな魔物たちからの侵攻を遅らせてくれる天然の要害なわけ」


「なるほど?」


「あとなくなったら街も向こうから丸見えになって、山ほどの魔物に殺到されるだろうしね」


「なるほど……」



 ヴァイスくんも理解した様子だ。よかったよかった。



「つまりその『未開領域』に踏み込んで無双しまくればいいわけか?」


「ってちがぁあああうッ!」



 こ、この王子ってばめちゃ思考が好戦的なんですけど!?

 出会った時はもっと自信なかったような……?



「グフフ、レイテくんが色々と教育してあげたおかげだネぇ。話題になってるよ? 『尊敬を蔑ろにする王子を叱り付けた』とか、『決闘の時にも腑抜けている彼にキレて言葉責めした』とか」



 うぐっ、わたしのせいってわけぇ……?



「レイテ嬢、命令をくれ。キミが望むなら喜んで領土を広げてやろう」


「ってストップストップ。流石にアナタ一人で『未開領域』を切り開くのはきつそうだし、なにより土地の開拓は王様の決めることなのよ。勝手にやっちゃめーなの」


「めーなのか……」



 がっくりと肩を落とすヴァイスくん。「俺が王になれていれば、レイテ嬢の土地を増やしてやれたのだが……」と本気で悔んでいる様子だ。



「いや、もし革命が起きなかったらそもそもヴァイスくんと会えてないでしょ。だから過去を悔やんでも仕方ないわよ」


「む……それもそうだな。では、未来に約束するとしよう。再革命を成して俺が王になった日には、キミに莫大な土地を与えるとな」


「あはっ、そりゃいいわね。せっかくだから国土の半分くらいの土地が欲しいわ」


「……ああ。約束しよう」



 ふふ。ヴァイスくんには悪いけど笑ってしまう。

 どうせそんなの無理なのにね。再革命しようにも同志が集まらないのは確定してるから、アナタはこのままこの地で平和に暮らすのよっと。



「さぁ、いい加減に魔物探索に戻りましょう。といっても向こうから避けられてるんだけど……」


「あァ、それなら心配無用だヨ」



 悩むわたしに、ドクターがニヤニヤと顎をさすった。なによなによ。



「いいかいお二人さん? 魔物とは、人間に対して異常な攻撃性を見せる生物の総称だ。だからこうして彼らの前に身を晒し続けたら――やがて」



 その時だった。目の前の木々がズズンッと揺れるや、唸り声を上げながら三体の巨人が現れた……!

 ああ、こいつらは、



一つ目巨人サイクロプス……!」



 ――一つ目巨人サイクロプス。体長五メートルほどもある巨体と、顔の大半を占める巨大な単眼が特徴的な魔物である。


 連中の危険度は大鬼ジャンボオーガと同じ準一級。

 一体を倒すために、一般兵士三十名ほどの犠牲は覚悟しなければならないレベルとされている。


 鬼と比べたら、身体能力は僅かに劣るとされる彼らだが――、



『ガァァアッ……!』



 ただでさえ巨大なその手には、大木を削り抜いたような粗雑な棍棒が握られていた。


 これが一つ目巨人サイクロプスの恐ろしいところだ。

 連中は知能が高く手先も器用で、魔物のくせに『武器』を作って使用するのだ。

 特に経験を積んだ一つ目巨人サイクロプスほど複雑で強力な武器を生み出すとされているため、見かけたら最優先で狩らねばいけない魔物だった。



「グフフ。見てみなよレイテくん、連中の一つ目を」


「……めちゃ血走ってるわね。明らかに正気じゃない感じ」


「そう。強力な魔物ほど人間への攻撃性も強いとされていてネ、いくら王子が怖かろうがずっと人間を見てたら理性がプッツンしちゃうのサ」



 なるほど。餌をぶら下げられ続けた犬みたいなものね。ドクターはこうなるのを予想してたんだ。



「さてレイテくん。キミの異能で、連中の『魔晶石』の位置は掴めるカナ?」


「ん、どれどれ……」



 瞳に意識を集中させる。ギフト『女王の鏡眼きょうがん』全力発動だ。



「んー……脳とか心臓は当たり前に“弱い部分”として……あ、なんかそれぞれ、別の部分にちっちゃいポヤポヤが見えるわね。ソレに向かって、どっかから光が収束していくような感じ」



 わたしの瞳が特殊な力場を感じ取る。

 巨体と比べて随分と小さいのか感知しづらいが、それでも意識を集中させていくと……、



「――見えたわ。真ん中の一つ目巨人サイクロプスは臍の左横5センチあたり、右のヤツは鳩尾ど真ん中、左のヤツは右足の膝上30センチあたりにポヤがあるわね」



 そう告げると、ドクターが「なるほどォ!」と満足げに頷いた。



「本当に個体によって位置がバラバラなんだネぇ。こりゃレイテくんがいなかったら研究は不可能だったよ。感謝感謝だ」


「――では次は、俺の出番といったところか?」



 ヴァイスくんが前に出る。

 その構えは抜刀の型ではなく、無手の格闘術の構えだ。



「対象を殺さず、魔晶石だけを壊さず抉り抜かなければいけないのだったな。であればこのほうがいいだろう」


「へー、ヴァイスくんって素手での戦闘も出来るのね。例の一日二十時間の鍛錬で覚えたの?」


「いや、二十時間は全て剣術に費やした。格闘術の鍛錬は日に二時間程度だ」



 特訓気絶部ーーーーーーーーッ!

 つまりコイツ一日二十二時間修行してたってことぉ!? もうマジで休みなさいよ!



『ゴガァァアアアーーーーーーッ!』



 そんな王子にいよいよ襲い掛かる一つ目巨人サイクロプスたち。


 三対一。巨人対ヒト。武器使い対無手。

 そんな、一見すれば不利すぎる状況だけど……、



「来るがいい。レイテ嬢の糧としてやろう」



 不安感は全然なかった。むしろ『どうやって倒す』か気になるくらいなんだから、やっぱりヴァイスくんはすごいや。



「ではいくぞ」



 ヴァイスくんはそう告げると、なにやらポッケに拳を入れて……、




「“ストレイン流異能拳法”――『居合い拳・撃煌一閃』」




 次の瞬間、輝きと共に大爆発を起こすパンチを放つのでした。


 ってパンチも爆発するんかーい!!!!!!



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・どうあがいても爆発……!


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