第27話:近づく異変
その後。
ヴァイスくんは技を出すとパンチだろうが大爆発することが判明したため、地道に剣で魔晶石の周りを抉り抜いていく作戦に変更しました(最初からそうしなさい)。
わたし監修のもと出会う魔物を次々ザクザクしていき、小一時間経つ頃には三十個近くの魔晶石が手元に集まったのだった。
「グッフッフ! 大量だネぇ~! これは色々と研究できそうだ」
「よかったわねー」
ドクターもご機嫌でなによりだ。黒い宝石のような魔晶石を掲げ、太陽の光に当てたりして観察している。
「ここまでで色々と分かったことがある。まず一つ。“魔晶石を抉り抜かれた魔物は、死亡せずとも動きが鈍くなる”ということだ」
前髪の奥の瞳を輝かせながら、ドクターは語る。
「興味深いのが、動きが鈍くなる度合いが肉体と石の『距離』によって強まることだネ。離れるほどに肉体は動かなくなっていくんだ。
「なるほど。じゃあコレこそ魔物の本体かも、ってわけ?」
石の一つを取って話しかけてみる。
こんにちはー、レイテ・ハンガリアよー。めちゃくちゃ悪女よー。つんつんつん。
「うわッ、ブブブブッて震えた! きも」
「クフフフ、発見その二だネ。魔晶石は無機物のように見えながら、内部で光が蠢いたりと生物的な反応を見せることがある。これは研究しがいがあるヨ」
石を革袋にしまい込むドクター。
ちなみに彼の革袋、なんと
この実験のために念のため用意して来たとか。
「そして発見その三だ。石を取り出したあと肉体にトドメを刺すと、石のほうも徐々に崩れていってしまうとわかった。魔晶石を体外に出してから殺しても駄目みたいだネ。まさに肉体と魂が如く、二つはどちらも欠けてはならない存在らしい」
だが、と。石がパンパンに詰まった革袋を、ドクターは遠慮なくバシバシと叩く。
「しかしそこで、魔晶石を『魔物の臓器から作った袋』に入れるとどうなるか? ――答えは『安定化』だヨ! しばし放り込んでおけば崩壊が止まって固着するんだ! いやァ、備えあれば
ナッハッハと、ドクターは高らかに笑い声を響かせる。
やっぱりこの人優秀ねぇ。王都の有名人らしいだけあるわ。
「実に興味深いネぇ~~~~~~~。魔晶石を袋に入れて固着させると、取り出した後も崩壊がほとんど見られなくなるんだ。推察するに魔晶石という名の魂が革袋という名の『死に体』に適合したからじゃないだろうカ? 酸化していずれ風化するしかない生命反応の極めて乏しい肉体に宿ったからこそ逆に魂もソレに見合った永続性を獲得したんじゃなかろうかと」
「な、なるほど?」
「あとは他にも色々発見があるネぇ。強い魔物ほど魔晶石も大きめだとか、内部の光も強く輝いているとか。光があるということは即ちそこにエネルギーが宿っているわけだからソレを取り出せるようになれば間違いなく新たな動力機関に――!」
「あぁうん、本当に元気ねぇドクター……」
相変わらずのお喋りさんね。
ともあれ研究は上手くいきそうでよかったわ。ヴァイスくんもお疲れ様~。再三言うけど、帰ったら寝てね?
「レイテ嬢」
「ん、なによ? もしかして寝たくないわけ? そんな生意気言うとまた『膝枕の刑』に処すわよ~? 年下のわたしにあんなことされるとか、屈辱的すぎてもう二度とごめんでしょ?」
そう言ってクスクス笑うも、なにやらヴァイスくんは硬い雰囲気だ。
ど、どうしちゃったわけ?
「ヴァイスくん、怒っちゃった……? わたしが悪女すぎてごめんなさい」
「いや色々な意味で違う」
色々な意味でってどういうことよ!?
「不意に、どうにも嫌な予感がしてな」
彼は金色の目を細めながら呟く。「まるで、革命が起きる直前の時のように」と。
「えっ、えぇ? なによそれ縁起でもない……!」
「すまない、ただの気のせいならいいんだが――」
と、ヴァイスくんが言いかけた時だ。
近くの茂みがガサガサッと揺れるや、執事のアシュレイが飛び出してきた!
「うわアシュレイ、今までどこにいたのよ!?」
「トイレに行ってる間にお嬢様たちのほうがいなくなってたんですよ! いやそれよりもッ」
アシュレイは懐におてて(ちゃんと洗った?)を突っ込むと、新聞の一面を出してきた。
「こちらを見てください」
「な、なによ。新聞なら朝に読んだけど? 今日の四コマ『オホちゃん』は主人公のオーホッホお嬢様ことオホちゃんが感覚遮断落とし穴に落ちてオホーッて……」
「あのマンガ読んでませんでしたがそんな内容なんですかッ!? ……いえそれはどうでもよく」
よくないわよ。
新聞の価値の七割は四コマ漫画にあるでしょ普通。
「それでなによ?」
「はっ、この新聞は号外で刷られたものとなります。まぁこの地は辺境ゆえ、とっくに王都では配られているものになりますが……」
紙面を広げてみせてくるアシュレイ。
はたして、そこに書いてあった内容は――、
「……なっ!? “同盟国『ラグタイム公国』に襲撃を開始”ですって!?」
なによそれ、どういうことよ……!? ウチの国は何を考えてるのよ!?
「――嘘、だろう?」
背後より響く、震え声。
それは国王になるはずだった男、ヴァイスくんの絶望が込められた呟きだった――。
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