第28話:大仮装祭に向けて!
突然の知らせから一日。
「おはようレイテ嬢、いい朝だな」
「う、うん」
意外なことにヴァイスくんは普段通りだった。
朝起こしに来てくれて、朝食の席まで連れ添って、座るときには椅子も引いてくれる。
「今日の朝食はトロールの肉を使ったポークリゾットだ。安全性が確認されたことで、一般の肉屋にも卸される予定になっているそうだな」
「まぁね。普通に美味しいから民衆もそのうち受け入れてくれるようになるはずだけど」
って、それは別にどうでもよくて、
「ヴァイスくん、大丈夫? この国が隣国に戦争仕掛けるって聞いてから、昨日は呆然としてたけど」
「ああ、そのことか」
いやそのことって。
てっきり数日は気に病むと思ってたんだけど?
「……もちろんショックは受けているさ。どうしてそんな愚かな真似を、とか。俺が革命を防げていたらこんなことには、とか。そう思い悩んだら眠れなかったよ」
ヴァイスくん……。
「おかげで朝まで剣を振るってしまった」
「ってまたやったんか!!!」
相変わらずの特訓気絶部ぅーーーー!!!
ほんと身体を大事にしなさいよ。なんで悪の女王たるわたしに心配って感情を芽生えさせてるのよ。
「はぁ。ま、最悪の事態にはならなくてよかったわ」
「最悪の事態?」
「うん。もしかしたらヴァイスくん、一人で王国軍を止めに行っちゃうかもって思ってたから」
だから実は、執事のアシュレイに一晩中ヴァイスくんを見張らせてたのよね。
最初は大変な命令しちゃったなぁって思ったけど、『野郎の寝顔よりお嬢様の寝顔を見たいのですがね~。できれば鼻先1cmで』と言われたあたりでどうでもよくなった。
そんな出来事を思い返すわたしに、ヴァイスくんは「なるほどな」と呟く。
「進軍を止めに行く、か。その手もあるな」
「えっ」
「腐っても俺はストレイン王国第一王子だ。王国軍の前に身を晒せば、話くらいは聞いてくれるだろう」
「ちょっと!?」
ちょっ、思いつかなかっただけでやる気なの!?
だけどそれには問題が、と言おうとしたところで、ヴァイスくんのほうから「だがそれは無理だ」と続けた。
「俺の言葉は届かないだろう。今の王国軍は偽物だろうからな」
無表情のままに、彼は悔しげに拳を握った。
「傭兵結社『地獄狼』。今やそいつらが国の主力を担っているはずだ。ゆえに俺の説得に意味はない。総帥ザクスの指示の下、蹂躙されて終わりだろう」
「それは……」
まさにその通りだ。
わたしも予見していたことである。
元より新国王・シュバールは、革命にあたり軍人たちを取り込むことが出来ず、傭兵結社『地獄狼』に頼ることにしたんだ。
だから現在も国とべったりだろうって。
「それに、この地まで王国新聞が届くには半月ほどのラグがある。ゆえに今ごろはもう……」
「とっくに、戦争状態でしょうね」
すでに手遅れというわけだ。
「シュバールを討ちに行く手もあるが、それも難しいだろうな。邪知に優れるザクス・ロアのことだ、保険としてそれなりの兵力と、幹部たる『五大狼』を何人か残しているだろう」
「うっ、『五大狼』ってアシュレイみたいな連中のことよね?」
この最強王子様には負けたが、本気を出したアシュレイの力はすごかった。
それが
脳内に『『『『『お嬢様! お嬢様!』』』』』とわちゃわちゃするアシュレイ五人の姿が思い浮かんでしまう。地獄かな?
「別の意味でもやばいわね……」
「ともかくだ。侵略軍に向かっても
あぁうん。ヴァイスくんの剣技、滅茶苦茶だしね。
かといって加減できる相手でもないか。
「となれば今は、
「そっか」
平気そうとかそういうのじゃなくて、怒りや決意を心の奥で燃え滾らせているわけね。
「なるほどね。ヴァイスくん、出会った頃より王族っぽく感じるわ」
「レイテ嬢の前だからな。無様な姿は見せたくないんだ」
「ぬっ!?」
……ヴァイスくんってば、ちょっと口まで上手くなったわね。
顔は相変わらず仏頂面だけど、これなら未来のお妃様も幸せになれそうね。
「ヴァイスくんってば立派になって……。結婚式場にはわたしも呼んでね?」
「! ああ、絶対連れていくさ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさっっっ!?急になによ!?」
国際情勢に不安を覚えつつも、気に病んでも仕方ないと元気に過ごす。
なにせハンガリア領最大のイベント『大仮装祭』も間近に迫ってるんだからね。
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