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変態眼鏡執事のアシュレイ曰く、奴隷商のキノコくんが再びやってきたとのこと。
ぬあぁんですってぇ~~~?
「会われますか、レイテお嬢様? 例の奴隷商、表で待たせておりますが」
「あいつかー……」
キノコ頭の奴隷商。本名はたしか、ノ……なんちゃらかんちゃら。まぁキノコくんでいいわ。
「ある意味因縁の相手よね」
革命に燃える王城から傷病兵たちを拉致ってきて、そこに含まれた第一王子・ヴァイスくんごとわたしに売ってきた野郎よ。
本人がそれを知ってるかはわからないけどね。
でもどちらにせよ、わたしは大量の前政権が敗残兵+王位正当後継者を保護することになっちゃって、バレたら即刻処刑の身になっちゃったわ。ちくしょう。
ま、一度身内にしたからには、絶対にヴァイスくんたちは捨てはしないけどね。
悪の女王は自分の選択を覆すような真似はしないのよ。
「いかがされます?」
「ふんっ、いいわ。会ってやろうじゃないの。アシュレイ、客間にキノコを呼び出しておきなさい」
「は!」
政治的爆弾を売り込んできた件はもちろん、この極悪令嬢レイテ様に二度も飛び込み営業をかけてくるとは、だいぶ舐めてるわよねぇ。
「こうなったらわたしの『邪悪なる舌』で罵倒の限りを尽くして涙目キノコにしてやるわッ!
ほらヴァイスくん、今から成人男性を泣かせるレイテ様の舌を見なさい!? まるで凶器のようでしょう!? べーっ」
「小さくて桃色で可愛いな」
「すっとぼけ王子が!」
相変わらずの節穴的外れヴァイスくんね。
「レイテお嬢様」
って、何よアシュレイ? まだそこに立ってたわけ? はよキノコくんのとこ行きなさいよ。
「まさか〝これがご所望のキノコくんです〟とか言ってズボン下ろすつもり? それともキノコくんの話題に合わせて『直立』のポーズを取ることでなんか下劣な政治的主張でもしてるわけッ!? 踏み潰すわよッ!」
「あっ、それは魅力的なッ――って、いえ、そうではなく。実はもう一つ伝えるべき要件を思い出しまして」
「はぁ~?」
因縁キノコくんの来訪でちょっと機嫌悪いんですけど!
今日のレイテちゃんはビーストモードなんですけどッ!
そんなわたしに何よ何よ!? にゃ゛ーッ!
「実は、油田が湧きました」
えっ。
「レイテお嬢様、ちょくちょく他領から逃れてくる貧民たちを手厚く保護されているでしょう? その方たちがやる気になってあてずっぽうに井戸を掘ってたら、油田が湧きました。いま貧民街は石油祭りです」
ふぁっ、ファーーーーーーーーーーーーッッッッ!?!?!?!?!??!?!!?
◆ ◇ ◆
客間にて。
「――はぁい、レイテはん。元気しとるかぁ? 奴隷商のノックスお兄さんやで~。まぁアンタにとっては、見たくもない顔かもやけど」
「こんにちわキノコくんッッッ!!! お日柄もよくご機嫌うるわしゅうですわ~~~~~~~~~ッッッ!!!」
「お、おう!?」
うへへ~っ、もう最高の気分ね!
お祭りにカードゲーム事業にとただでさえハンガリア領は儲かってるのに、石油資源までゲットしちゃったわけ~?
これは来たわね……レイテ様の時代がッ!
もう何やっても幸せな未来しか見えないわ~~! ごろにゃ~~んっ!♡
「な、なんかえらい元気そうやなぁレイテはん」
「まぁね。そういうアンタは……なんかボロボロね?」
以前は商人としてしっかりした格好をしていたキノコくん。
なのに今日はどうしたわけよ?
服はあちこち破れてるし焦げてるし、目元は隠れてるから顔全体はわかんないけど無駄に綺麗なほっぺとかにも傷があるわ。
「なにアンタ、事業で失敗でもした? それで借金取りにボコられながら逃げてきた感じ? 匿ってあげよっか?」
「ってちゃうちゃう、借金なんてしてへんがな。あとこの領に住むのだけは絶対にイヤや。クソ兄貴がおるからなぁ」
えっ、こいつお兄ちゃんいてわたしの領地に住んでるの!? マジ!?
「まぁ聡明で博識なレイテはんのことやし、アイツがワイの血縁なことは気付いてたやろうけどな。少なくともワイの名字聞いた時には」
「……そうわよ」
いやしらねぇ~~~~~!?
アンタの名字なんて覚えてないわよッ!!!
「ふっ、流石やな」
「(話題そらそ)で、その怪我はどーしたわけ? ダメージファッションってやつ?」
「いや実際にダメージ負うファッションがあるかいな。冗談上手い方やわぁ」
冗談で言ったんじゃないんですけど!?
「……実は戦地に行ってきてなぁ。新鮮な傷病奴隷たちを掻き集めてきたんや~!」
邪悪に笑い、指を鳴らすキノコくん。
すると客間の扉が開かれ、全身に包帯を巻いた『褐色』の男たちが入ってきた。
瞬間、わたしの背後に立つ護衛役のヴァイスくんが目を見開く。
「ッ!? 褐色肌……その特徴はたしか、砂漠地帯にある『ラグタイム公国』の者たちの……!?」
「そうっ! この国の大侵攻を受け、敗けたてホヤホヤの国から取ってきたで~!」
「焼きたてホヤホヤのように言うなッ!」
「まぁどうでもええやん! ほいっ、というわけでマニア垂涎の褐色傷病奴隷たちや!」
またも紹介される三十名ほどの奴隷たち。
……なんか全員わたしのことを睨んできてるわね。
特に薄金髪のひときわ背が高い人なんて、包帯の下の顔を一見クールに見せながらも、夜色の眼光の奥にめっちゃ殺意溢れさせてるし。なまいきねぇ~。コイツあとでいじめてやろ。
まぁーウチの国に負けたばっかだからしょーがないわよね。なるほどなるほどっと。
「さぁレイテはんっ、今回は異人ってことで高いでぇ~!? 一人、一千万ゴールドや! でもどいつも扱いをミスったら殺しに来そうなほど怨みムラムラやし、その危険性を加味したら高すぎると感じたなら、交渉も受け付け」
「全員買ったわ」
「て――って、マジかいなっ!?」
素っ頓狂な顔をするキノコくん。でも目の奥は嬉しそうね。まぁ大金が手に入るのだから当然かー。
「はっ……流石はレイテはんやな。アンタなら受け入れてくれると思ってたわ」
「当然よ」
だって石油湧いて超大金持ちになっちゃったしねッッッ! おほほほほほほほほッッッ!
「それにアンタ、夜色の瞳の兄さんのこと見とったよなぁ。やっぱりわかるんか?」
「まぁね」
ふんっ、レイテ様の慧眼を舐めないで頂戴!
反抗心溢れまくってるのが丸わかるよ! 絶対にいびりまくって心折ってやるわッ!
「あとでおもてなししてあげないとねぇ」
「フッ、流石やね。じゃあもうワイに語ることはあらへんわ。脇役はこのへんで退場するわ」
キノコくんはどこかスッキリした顔で立ち上がると、最後にわたしの背後のヴァイスくんのほうを見た。
「アンタは……レイテはんと違って、気付いてへんか。将来は聡明な嫁さんをもらったほうがええで?」
「何の話だ、奴隷商」
ヴァイスくんの視線は鋭い。
なにせ戦場漁りの奴隷商だしね。善良なヴァイスくんからしたら、傷病者を売っぱらうような相手は嫌いか。
それにしてもずいぶんと機嫌が悪そうだけど。
「ヴァイスくん、どうしたの……?」
「いや、なに。公国には、親友がいたものでな……」
「親友?」
ふむふむ、王子であるヴァイスくんの親友っていうんだから、たぶん国交の関係で会うことになった公国の王族あたりかしら?
……でもそれだと生存は絶望的ね。ウチの王国、公国を完全にブッ潰すために〝敵の王族は全員抹殺した〟って公言してるし。
もしも逃げ伸びたとしても、軍全体が血眼になって探し求めるはずよね~。
ただでさえ革命時にはヴァイスくんを逃しちゃったんだもの、たぶん今回は超全力で全軍向かわせる勢いになるはずよ。こわ~。
「ははは。お気の毒やなぁ、イケメンの護衛役はん~」
「ッ、なんだと……!?」
暗く声を落とすヴァイスくんに対し、キノコくんはまるで嘲笑うような様子だ。
何よコイツ、性格悪いわね。
わたしとキャラ被りしてるんですけど!?
「貴様……キノコ……!」
「キノコちゃうくてノックスやボケ。――さてと、ほなサイナラの前に、
彼はひょこひょこと出口に向かうと、一言、
「ラグタイム公国の第一王子の死体――ちょっと絵画よりブサイクかもやて~?」
「ッッッ!?」
よくわからないことを言うキノコくんと、なんかハッとするヴァイスくん。
えっ、えっ、つまりどういうことなわけ?
まっ、超大金持ちのレイテ様にとっては細かいことはなんでもいいけどねー! おほほほほお~!
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・※細かくないです
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