第13話:この護衛役爆発するわよ!?!?!?
土煙の中、ドクター・ラインハートは「興味深い」と呟いた。
「ほほォ――あれが“ストレイン流異能剣術”。強化系ギフトの持ち主だった初代国王が生み出したとされる、一撃必殺の剣術だネぇ」
「ネぇじゃないわよ……」
ヴァイスくんが刃を抜いた後のこと。戦いは既に決着していた。
「一体なんなわけ? 居合抜きしたら蒼い光の斬撃がビューッって飛んで、そしたら当たった鬼がドカーンッて」
「語彙力幼女だネェ~」
ぶっ殺すぞッ!
「でマジでなんなのよコレ?」
目の前の光景にドン引きする。
ヴァイスくんの前には、何十メートルも続く死の大地があった。
研究所ごとバキバキの焦げ焦げだ。
ちなみに肝心の
えぇ……。
「剣術の破壊規模超えてるでしょ……。斬ったというより、爆発起こした跡みたいになってない?」
「おォレイテくんよく気付いたネ。私が“視る”限り、あの『抜刀・斬煌一閃』という技は爆発反応を起こす剣術だ」
「って本当に爆発してんの!?」
剣術ってなんだっけ!?
「シャコという海洋生物を知っているカナ? 30g程度の体格ながら150kg級のパンチを繰り出すほぼ魔物な生物なのだが、それが拳を放つ瞬間、原子破壊光現象『ソノルミネッセンス』が起きるんだ。超速のパンチにより水中内で発生した真空の気泡が瞬時に圧縮・発熱し、
「王子なんなの!?」
あと重ねて問うけど、剣術ってなんだっけ!?
「異能発動時の王子の身体からは蒼白い光が漏れ出しているだろう。アレは『アリスフィア放射光』と呼ばれ、『ギフト』という“女神アリスフィアが与えた力”の構成エネルギーの輝きとされているんだ。個人によって色が異なり、また強化系能力者はアレが漏出しやすいとされているネ。そしてアリスフィア放射光は光の形を取りながらも液体に近しい性質を得ており、アレの中で零速度からの超音速抜刀を行うことで放射光内で発生した真空気泡が先ほど講義した
「わかったわかったもういいもういい!」
そんな話されてもわかんないわよっ!
とにかく頭おかしいトンチキ剣術ってことだけはわかったわ。
もうそれだけでお腹いっぱいよ。
「ちなみに私は、人類にギフトを齎した『女神アリスフィア』とやらがどんな存在か解き明かすのを研究テーマの一つとしているんだ。放射光が液体に似た性質を持ち、また“水は低きに流れる”とされていることから、山岳地帯に住んでいると思われるんだが……」
「まだ喋るじゃないのこのドクター……。てかそんな思想してるから異端視されるのよ」
「ウン、王都にいた頃はよく神学者から暗殺者を派遣されたネぇ。まぁ通報はせず、返り討ちにして捕らえてありがたく実験材料に――いや何でもない」
「だいたい言っちゃってるじゃないの」
グフフッと笑うロン毛おっさんにドン引く。なんか変なヤツ拾っちゃったわね。
「……今更だけど、私を捨てるのも手だと思うヨ? 王子たちほどじゃないが、上流階級者たちからは危険視されていてネぇ。追放後にも何度か暗殺者を放たれたし」
はぁ? いきなり何言い出してんのコイツ。
「いや馬鹿じゃないの?」
「ば、馬鹿ッ……?」
「そう馬鹿よ。アンタ捨てたら、数か月前に『アンタを拾う判断をしたわたし』を否定することになるじゃないの。そしたら悪の絶対者として名折れだわ」
だから王子たちを買っちゃった件も、後悔はしても投げ出さないようにしてるのよ。
「わたしに間違いなんてないわ。わたしはいつだってわたしの選択が、最終的にはイイ感じの結果に繋がるって信じてるからね。わかったかしらオッサン?」
「……あァわかったさ。にしても、鬼才天才とは呼ばれ続けてきたけど、馬鹿と呼ばれたのは初めてだネぇ……」
「これから何度だって言ってやるわよ。今回の死体暴走騒動でアンタ、もうちょい定期的に見てあげないとダメなヤツだってわかったしね」
まったく仕方ないオッサンよねぇ。生活力も皆無っぽいし。
逆にレイテちゃんは完璧存在だから、こーいうどうしようもない人見るとつい口出しとかしたくなるのよねぇ。
あ、そうだ。
「今度研究所にお泊りしてあげるわよ」
「ん?」
「ちゃんとしたご飯を作ってあげるから作り方を覚えなさい。あとお風呂もテキトーっぽいから洗い方を教えてあげるわ」
「んッッッ!?!?!?!?」
ってなによ。なんかドクターが今まで見たこともない顔してるんですけど。
あ、もしかしてお風呂に入れられるのが恥ずかしいの?
「別にわたしは気にしないわよ。こっちは水着着るし、年齢が倍くらい離れたオッサンの裸なんて興味ないし」
「そういう問題じゃ……」
と、その時。剣を鞘に納めたヴァイスくんが「レイテ嬢」と声をかけてきた。
「鬼の討伐、終わったぞ」
「あぁご苦労様。アナタには助けられ……って、なんか全身の蒼い光がさっきよりビカビカしてるんですけど!?」
「ああ、身体強化倍率が5倍になった」
「なんでよ!?」
たしかヴァイスくんのギフト『
なんで戦闘後に上がってるのよ!
「それよりもレイテ嬢。ダメなやつを甘やかしすぎるのはよくないぞ」
「ダ、ダメなやつってドクターのこと? ヴァイスくんってそんなに口調強かったっけ……」
「今回の死体暴走事件、領主であるキミを巻き込んだとして彼は投獄すべきだと思うが」
「投獄って!?」
ホントにどうしちゃったのよヴァイスくん、ドクターに何か恨みあるの!?
「べ、別にそこまでしなくていいわよ……。わたしが巻き込まれたのは、実験中の研究所にアポなしで入っちゃったのが原因だからね。違う?」
「む、だがキミを危険な目に合わせたのは事実で……」
「魔物の実験には危険がつきものでしょ。だから守護兵団の本部横に研究所を立てたわけだし」
もし魔物が逃げ出して領民傷付けちゃったら税収減るからね。対策はしてるわ。
「で、危険性把握してたうえで来ちゃったんだから
「いやァ~……他の地の有力者なら、間違いなく私を処刑してるんだけどネェ~……?」
よそはよそよ。
「わたしは極悪領主だからね。領民に罪を
わたしにとって罪は勲章だからね。
むしろ増えれば威圧感アップで、今以上にみんなから怖がられるようになるでしょ。さいこー!
「それにドクターには色々仕事を任せてるしね。また領民に講義したり、便利アイテムでも作って頂戴」
悪党であるわたしがタダでオッサンを飼ってるわけがない。
まだ量産前のモノが多いけど、色々と領地の発展に寄与する発明品を作らせてるのよ。
あとは街医者とかに最新の学問を教えたりね。
「ヴァイスくん、不調があったらすぐに医者に行くのよ? ウチの街医者たち、よほど出世したいのかめちゃドクターから学びまくって、みんな脳手術まで出来るから」
「街医者とは……!?」
お、ヴァイスくんの反応を見るにレベル高いのねウチの医者たち。
まぁ華の王都には、もっと優れたお医者さんいっぱいいるでしょうけどね~。
「とにかく今回の件は不問ってわけよ」
「むむむ……そうか。レイテ嬢がそう言うのならば」
渋々と頷いてくれるヴァイスくん。
珍しくドクターにキレてたのは、その真面目さゆえに“失態にはきっちり罰を”と考えているからだろう。それくらいしか思いつかないわ。
「ともかく、キミが無事でよかった……」
『お、王子殿下ー!』
わたしとの会話を終えた時だ。領地の兵士団がわっとヴァイスくんに集まってきた。
「自分たちをッ、何よりレイテ様を守って下さりありがとうございます!」
「なんてお強い人だ! 噂には聞いてたが、これほどとはっ!」
「お慕い申し上げますッ、王子!」
目をキラキラとさせる兵士たち。
どうやらヴァイスくんの強さに惚れ惚れとしてしまったらしい。
「や、やめてくれ。俺は尊敬されるような人物じゃ……っと、これはレイテ嬢に叱られてしまった物言いだったな」
「そうよ、素直に慕われときなさい。今回のアナタは、わたしもカッコいいと思ったしね」
「むむむむむ……!」
わっ、また光が増した。目が焼けそうになるからやめなさいっつの爆発王子が。
「それにしても……」
兵士たちに囲まれるピカピカヴァイスくんをよそ目に、彼の成した破壊痕を見る。
もう本当にメチャクチャのグチャグチャだ。とても、人間一人が剣一本で行ったようには思えなかった。
「ヴァイスくんって本当に強かったのね。これは頼りになるけど……」
でも、
「彼って、こんなに強いのに負けたのよね……?」
彼は語った。
革命の夜、燃える王城にて『傭兵王』なる人物と戦い、敗北したと。
どうやら不意打ちを受けたようだが、それでもヴァイスくんを倒すのは至難だろう。
世界には想像も出来ない化け物が溢れかえっているらしい。
「『傭兵王』……第二王子に雇われ、革命を成した男か」
一体どんなやつなのかしらね。
あとは父王を殺してまで王位についた第二王子シュバールも気になるわ。
ま、悪党度ならわたしも負けてないと思うけどね!
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【Tips】
レイテちゃん「わたしの悪党度は53万よ……!」
※5。
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