第5話:奴隷買ったら王子様だったわよ!?!?!?!?



「えぇいシッシッ! わたしの肩を揉みたくば、まずはお風呂に入って身を綺麗にしなさい! ふかふかな着替えも用意してあるから! あ、ちゃんと耳の裏まで洗いなさいよね!?」


『ママ……!?』


「誰がママよッッッ!」



 群がってきた元傷病奴隷たちを追っ払う。


 あぁまったく。この連中もこうなのね。わたしがちょぉ~っとお金持ちな余裕を見せたら、すぐ媚びへつらってくるんだから。


 どうせ『優しくしたら金出しそう』とか浅ましい欲望を抱えていることでしょう。

 あるいはわたしを油断させて暗殺でもする気かしら?


 でも残念ね。この聡明なるレイテ様はそういうの見抜けちゃうんだから。無駄無駄無駄よ。わたしたぶんIQ200あるし。本とか100冊くらい読んできたし(漫画とかだけど)。



「ふむ、その点……」



 バカ騒ぎの中、唯一冷ややかに立ち尽くしているヴァイスくんのほうを見る。



「アナタ、不愛想ね」


「っ、すまない、別に感謝してないわけじゃ……」


「いえ気に入ったわ。これからもそのままのアナタでいなさい」


「……!?」



 わたしが褒めてあげると、ヴァイスくんは何やら驚いた様子だ。ってなによ?



「いや……俺は昔から感情が顔に出づらく、相手を不快に思わせてしまうことが多かったのでな。そんな風に言われたのは、初めてだ」



 ほーん。まぁヴァイスくんって身長もおっきいし細マッチョって感じだし、そんな男に無表情で関わられたら怖いわよね。

 でも残念。わたし様ことレイテ・ハンガリア様の心には恐怖心なんて感情存在しないのよ。

 むしろ睨みつけてコイツを怯えさせてやるわ。

 ムムム。



「……可愛いな」


「はぁ!?」



 ってこっわ!? 無表情でいきなり何言ってくれてんのよコイツ!? てかビビりなさいよ!



「あぁ、すまん。昔から思ったことがすぐ口に出てしまうんだ」


「な、なんなのよアンタ……」



 なんかとんでもないヤツを拾っちゃったわねぇ。

 不愛想で口に戸を立てられない体質とか、為政者としての素質ゼロね。下級兵士でつくづくよかったって感じ。

 まぁその代わりに、言動に嘘がないおかげか他の兵士連中からは好かれているようだけどね。

 現場で頼れるタイプみたいな?



「――ヴァイス様」



 とそこで。兵士たちの中でも筋肉質の青年が彼の名を呼んできた。さわやかマッチョって感じね。

 って、んん? 『ヴァイス様』? なんで下級兵士にへりくだってるのよこの人。



「僭越ながら申し上げます。彼女にならば、正体を明かしてもよいのでは?」


「む、しかし迷惑になるのでは……」


「大丈夫ですよ。……そもそも我らを買い入れて下さった時点で、レイテ嬢も覚悟はしているはず。であればむしろ、身を偽っているほうが不義理になるのでは?」



 は、はぁ……? 何の話をしてるのよコイツら。

 正体ってなに? あと、覚悟ってなに?

 わたしは王都からやって来たっていう奴隷商から、傷だらけなどこぞの兵士のアンタらをテキトーに買っただけだけど?


 ……って、んん……?



 『王都』の商人が連れてきた……なぜか『傷だらけなどこぞの兵士』って……まさか……?




「そうだな。では我ら一同、改めて自己紹介と行こう」


『ハッ!』



 瞬間、ヴァイスくんの言葉に息を合わせ、浮ついていた兵士たちが一斉に整列した。

 そこから筋肉質の男が一歩前に出て、そして……!



「我ら、『ストレイン王国騎士団』! 革命を受け敗れ去ったッ、生き恥晒しの軍勢であります!」



 ふぁッ、ふぁああああああーーーーーーーー!?

 ススススッ、ストレイン王国騎士団!? 革命を受け敗れ去ったって……つまりは今の政権の、残敵たちってわけ!?



「……恥ずかしながら、敗走中に例の奴隷商人の手の者に捕まってしまいましてね。『無銭で散る命なら商材にしたるわ』と言われ、遠方の地まで売り飛ばされたわけでして」



 知らないわよ!



「まぁ“革命後のタイミングで王都の商人が売りに来た、傷だらけの元兵士”とくれば、誰でもその素性に気付くでしょうけどね」



 気付いてないわよ!



「レイテ様も、察した上で買い取ってくれたのでしょうが……」



 察してないわよぉおおーーーーーッ!?


 馬ッ鹿じゃないの!? 現政権の敵だとわかってたら抱え込むわけないでしょうが!

 それを三十人も丸っと引き入れたとなれば、反逆を疑われても仕方ないわよ!

 ア、アホーーーーーーー!



「ここで買い取られていなかったらどうなっていたか……!」

「リスクを抱えてまで召し抱えて下さった上、致命傷や欠損すら癒してくれるなんて……!」

「このご恩は一生忘れませぬ……。あの奴隷商も、レイテ様の人徳を知って我らを売り込みに来たのでしょう」



 って勝手なこと言ってんじゃないわよ!

 わたしは何の真実も知らず、なんとなくアンタらを買っただけで…………なんて、そんな恰好悪いこと言えるわけがない……!


 というわけで、仕方なく……。



「そ、そうわよ! このレイテ様にはそれくらいの真実お見通しよッッッ!」


『オォォォ~~~~~~~!』



 チ、チクショーーーーーーッ! 覚えてなさいよ奴隷どもッ!

 この極悪女王であるレイテ様に出まかせを言わせた屈辱、いつか晴らしてやるからねッ!


 うぅぅ……わたしって嘘つくと気分悪くなるのよね……。

 なんかもう疲れたし寝たいわ……。へこむ~。



「ではレイテ様」


「ってなによ!?」


 

 な、なに!? まだ用があるの!?

 わたし、アンタらみたいな爆弾を抱えちゃった時点でいっぱいいっぱいなんだけど!



「聡明なるレイテ様ならば、これも気付いているかもしれませんな。こちらにおわす『下級兵士ヴァイス』、その正体に」



 いや正体ってなんなのよ!?

 えッ、そりゃ妙に堂々としてたり包帯に隠れてるけど顔の雰囲気がいい感じだったり、アンタらから慕われてて変な下級兵士ね~とは思ってたけど、正体ってなに!? 説明しなさいよヴァイスくん!



「レイテ嬢。騙していて、すまなかったな」



 そう言うと、ヴァイスくんは顔に巻かれた包帯をはぎ取り、その、新聞でよく見た素顔を、わたしの前に晒して……!



「俺こそが、第一王子『ヴァイス・ストレイン』。革命の前に散った次期国王だ」



 って、特級の爆弾が出てきたぁーーーーーーーーーーッ!?


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