第3話 大人げなく買いしめるわよ~~!!!!!!!


 客間にて。



「――やぁ~まいどまいど! アポなしなのに会ってくれて嬉しいわァ!」



 例の奴隷商人というのは、軽薄そうな若い男だった。

 前髪の長いキノコ頭で目が隠れてるんだけど。それちゃんと前見えてるの?


 あと、彼の背後には、



『うぅ……』



 死んだ雰囲気の奴隷たちがいた。

 その多くが全身を包帯で包んでおり、立っているのもやっとという有り様だ。



「んじゃ自己紹介といきまひょか~」



 そんな奴隷たちに一切気を遣うことなく、商人は慇懃に頭を下げる。



「ワイは奴隷商のノックス・ラインハートっちゅーモノですぅ。今後ともよろしゅう」


「わたしはレイテ・ハンガリアよ。よろしくね、えーと……キノコくん」


「名前まったく合ってないやん……」



 えぇ……と不満げなキノコくん。アンタの名前なんてどうでもいいからさっさと商談を進めなさい。



「はぁ、じゃあ仕事話といきまひょか。今回ワイが持ってきたのはこの通り、三十名ほどの男奴隷になりますぅ」


「全員買ったわ」


「まぁどこぞの敗残兵たちで傷だらけやけど、お貴族はんなら拷問用にでも……って、え!?」



 なによキノコくん、なに固まってるのよ。さっさと契約用紙を出しなさいよ。



「い、いやいやいやいやいや……! 傷病奴隷とはいえ一括買いって、結構な額になりまっせ……!? それにワイが言うのもなんやけど、中には死にそうなヤツも……」


「えぇ“視えてる”わ。特に左端にいる黒髪の彼。全身火傷まみれだし、明日にも死ぬでしょうね。敗血症で多臓器不全を起こしているもの」


「!?」



 わざわざ説明しなくてもいいわ。この極悪令嬢レイテ様にはそういうのがわかるのだ。


 

「視えとるって……まさか、『ギフト』かいな!?」


 

 そう。貴き血統の者の中には稀に、ギフトと呼ばれる異能力を発現する者がいる。


 もちろん神から愛された美とおつむを持つレイテ様もギフトの発現者だ。ふふ〜ん。



「わたしのギフトは『女王の鏡眼きょうがん』。見た対象の弱り具合や、弱い部分を見抜ける能力よ」



 うっふっふ。まさに悪の権化にふさわしい異能よね。

 弱っている者を見抜いてさらにイビッてやれるとか、極悪すぎるわ。うひひ!



「というわけで傷病奴隷全員置いて帰りなさい」


「っていやいやいや……! 死にかけのヤツが見抜けるんなら、そいつだけ買わない手も……」


「黙りなさいキノコくん。このレイテ様が、そんなせせこましい真似をすると思って?」



 貴族だったら一括買い一択よ!

 あとの買い手たちのことなんて気にせず、領民が稼いだお金を使って大人買いしてやるのだわ~~!


 ふぅー極悪ーーーッ!



「それで、売るの、売らないの、どっちなの?」



 そう訊ねると、キノコくんは妙な顔をしながら、



「……わかったわ、全部売るわ。レイテ嬢の噂はホンマやったんやねぇ……」



 と言ってきた。


 あら、わたしの極悪っぷりってば王都の商人にも知られてるみたいねぇ。

 おっーーーーーーほっほ~~~~~~~~!



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【Tips】


ギフト:神に与えられた権能。優性遺伝能力であり、必然的に貴族・王族が多く保有している。


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