第17話:キャラ被ってるわよこの執事!!!!!(※被ってない)



 ムキムキ騎士のソニアくんは、ウチのアホ執事を指して言った。

 そいつは『地獄狼』のアシュレイだと!



「ふっ、ふええええ!? 『地獄狼』ってあの、第二王子に雇われて革命を成功させちゃった極悪組織の!?」



 王城燃やして国王様殺してヴァイスくんたちをボロカスにした、あの!?



「マ、マジなのアシュレイ?」


「マジですよお嬢様。……といっても数年前に辞めた身ですが」


「あ、なんだよかったぁ。ってよくないわよッ!?」



 それでも履歴書の前職欄に書いておこうよ~~~~~~~!

 わたし、反社会勢力の人雇っちゃってたよー!



「ま、まぁ下っ端だったなら……」


「いえ、『五大狼ごたいろう』という一万人の構成員の上位五名に立つ立場でした」


「めちゃ偉かった~~~!?」



 そう言えば幹部とか言ってたねッ!


 ちょっとちょっと……この領地の悪党はわたし一人でいいんだけど。

 領民たちにキャラ被ってるって思われちゃうじゃないのどうするのよ……。



「すみませんね、お嬢様。本当は死ぬまで黙っているつもりだったのですが。……だがしかし、先刻申し上げた通り、我慢できなくなってしまったのですよ」



 琥珀色の瞳でヴァイスくんを睨むアシュレイ。その眼光には本気の怒気が宿っていた。



「ヴァイスよ。貴様はで、お嬢様を『傭兵王』との戦いに巻き込もうとしているな」


「!」



 ヴァイスくんの顔に動揺が走る。ずばり、図星といった表情だ。



「貴様もわかっているはずだ。『傭兵王』は……ザクスさんは最悪の人物だと。ひたすらに強い上に邪智にも優れる。闘争本能を満たすために、謀略、詐欺、恐喝、脅迫、あらゆる手段を使って戦争を起こす極悪人だぞ」


「わたしとキャラ被ってるわね」


「「……ふ」」



 思っていることを呟いたら二人に微笑を向けられた。ってなによ!?



「お嬢様は置いておくとして」


「置いてかないでよ!」


「ヴァイスよ。再革命を成し、『地獄狼』を討伐せんとする貴様の心意気は認めよう。私が言うのもなんだが……あの組織はクソだ」



 わたしを無視し、アシュレイの口から飛び出す悪態。苦虫を噛み潰したような表情で彼は語る。



「まともな連中ではないさ。ザクス・ロアの下、荒らした街を欲望のままに食い漁り、人々を恐怖に突き落とす餓狼の群れだ。あんな連中が国の中枢に居座り続ければ、この先どうなるかわかったものではない」



 だが、と。アシュレイは続ける。



「心意気が正しくとも、力がなければ奴らに食い潰されて終わりだ。そんな結末にレイテお嬢様を巻き込みたくはない」


「……納得できる意見だ。ゆえに再革命の準備なら、他の土地でやれと?」


「ああそうだ。そして」



 アシュレイが胸元から何かを取り出し、わたしへと投げる。

 


「わ!?」



 それは一枚のメッセージカードだった。

 慌てて掴み取ってみると、そこにはわたしへの感謝と別れの言葉が書かれており……、



「って、これ辞表?」


「えぇそうです。本日限りでおいとまを頂こうかと」



 寂しげな笑みで、彼は告げる。



「……『地獄狼』が国の中枢に居座った以上、造反者たる私の存在も察知されかねない。それではお嬢様に危険が及んでしまう」


「そ、それで出ていくっていうの?」


「はい。ヴァイスと同じく、私も『地獄狼』の“獲物”ですので」



 ゆえに王子だけ追放して居座るなんて、そんな恥晒しをする気はありませんよ――と、彼はヴァイスくんを見ながら語った。



「そ、それからアンタはどうするのよ?」


「私も悪行を重ねた身ですからね。責任として、私もヴァイスの再革命に加担し、『地獄狼』を滅ぼすために命を投げ打つ所存です。……ゆえに今回の決闘は、新たな主君の力を見るためにも開いたのだが……」



 王子を見る目に失望を浮かべるアシュレイ。

 彼は肩を竦めながら、「これではザクス・ロアに届かない」と失笑を漏らした。



「この程度の力で再革命を成すつもりだったのか? 笑いものだな。いっそ私が軍勢を率いてやろうか?」


「……それは頼りになる申し出だ。だが俺は王子。仲間たちは俺が率いてみせる」



 再び睨み合う二人。彼らはこの決闘にて、再革命軍のリーダーを決めるつもりらしい。


 ……もはやわたしの護衛役を巡る件は『終わった話』になっているようだ。

 二人ともわたしを巻き込まないために、すでに土地を去る気なのだから。



「はぁ…………」



 ああ、そりゃいいわね。

 わたしも内心、政権争いに巻き込まれるのは勘弁だと思ってたし。

 でもねぇ……。



「なんだか――腹が立ってきたな」



 わたしを放置して、話を進めるなよ。


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