第16話:執事が反社だったわよ!?!?!?!?



 ――そんなこんなで、『爆発王子ヴァイスくん』VS『変態執事アシュレイ』のドチャクソ決闘デュエルを審判することになってしまった。


 まぁ十中八九アシュレイが童貞のまま人生終了ターンエンドするでしょうけどね。

 


「ヴァイスくん、できれば重症くらいに留めてあげてね~……?」


「善処はするが、意識不明は覚悟してほしい」



 はい嘘のない言葉ありがとう! 善処してソレか~!



「まぁ、そんときはそんときね……」



 ちなみに現在の場所は領地外縁の『魔の森』付近だ。

 魔物が領地に押し寄せてくる入口みたいな場所ね。


 ここならヴァイスくんが滅びの爆発バースト謎剣技で大破壊しても問題ないし、アシュレイが大地を汚しても気にならないから。



「はいというわけで、わたしの護衛役を懸けた決闘を始めるわよ~」


『オォォォォォォーーーーーッ!』



 叫び声をあげたのは領地の兵士団だ。

 一応『魔の森』手前に出向くってことでわたしが連れてきた。



「あのヴァイス様の戦いがまた見れるなんて……!」

「執事さんには悪いが、ヴァイス様を応援させてもらうぜ!」

「参考にさせて貰います!」



 彼ら的にもヴァイスくんの戦う姿は見たいようだ。すっかりファンね。


 さて、そんなわたしたちに見られながら戦う決闘者たちの様子はというと、



「執事よ。先刻言った通り、俺は加減が苦手な男だぞ?」


「舐めるなよ王子。むしろ手加減してやろうか?」


「ほう……」



 お、おぉぉぉおっ、なんか予想以上にシリアスでバチバチなんですけど!?

 ヴァイスくんは油断なく抜刀の体勢を作り始めたし、アシュレイのほうも拳を構えてステップを刻み出した……!



「――ふむ。ヴァイス様はもちろんのこと、アシュレイ殿も隙がない」


「あら?」



 わたしの横に現れたのは、元王国騎士団副団長のムキムキさわやかソニアくんだ。彼は思案気な顔でアシュレイのほうを見る。



「アシュレイ殿の構えは近接闘法パンクラチオンに近しいですね。拳を固めて足を駆動させていることから、『駆け寄って殴る』と宣言しているようだ。されどヴァイス様は長剣の使い手。アシュレイ殿が攻撃するには必然的に王子の一撃を一度防ぐか回避する必要があるのだが――」


「めっちゃ喋るじゃんソニアくん」



 だけど解説助かるわ。わたしバトルには詳しくないからね。



「なんだかわたしもワクワクしてきたわね。それじゃあ二人とも――決闘開始よ!」


「「オォッ!」」



 瞬間、二人は同時に行動を始めた。



「我が身に力をッ、『天楼雪極てんろうせつごく』!」



 ヴァイスくんの全身から蒼白の光が湧き上がる。

 身体強化系ギフト『天楼雪極てんろうせつごく』が発動した証だ。



「それがどうした!」



 対してアシュレイは愚直に駆ける。拳を構えた独特な低姿勢のまま、ヴァイスくんの前まで迫る。



「それ以上は寄らせるものか。“ストレイン流異能剣術”奥義――『抜刀・斬煌一閃』!」



 次瞬、情け容赦なくヴァイスくんは必殺技を解き放った。

 超音速での居合斬いあいぎり。それに合わせて斬閃が放たれ、大爆発が巻き起こる。



「うひゃぁっ!?」



 思わず声が出てしまった……!

 大鬼ジャンボオーガの時ほどじゃないかもしれないが、それでも十分な音と衝撃だ。

 砂埃が舞い上がり、アシュレイの姿はその中に掻き消えてしまった。



「ぁ、アシュレイ? もしかして本当に死んじゃったの……?」



 すわこれで決着か。そう思ったが、しかし。



「――まだだッ!」



 砂煙を突き破り、アシュレイが無傷のまま姿を現した! って、ええ!?



「なにっ」


「受けるがいいッ!」



 炸裂するアシュレイの鉄拳。それはヴァイスくんの腹に突き刺さると、そのまま彼を何メートルも後退させた。



「くッ……」



 どうにか耐えるヴァイスくん。しかしその表情は苦しげだ。

 っていやいやいやありえないでしょ……!



「身体強化されたヴァイスくんは、鬼の攻撃も受け止めれるのよ? それにアシュレイ、アナタってば爆発剣術をやり過ごしたことといい、一体なにを……」


「簡単なことですよ、お嬢様」



 眼鏡を外すアシュレイ。

 それを燕尾服の懐に仕舞い込むと――彼の全身から、灰色の光が沸き上がった……!



「それは、『ギフト』の光……!?」


「隠していて申し訳ありませんでした。実は私、“ギフトを無効化するギフト”の持ち主でして」



 え、ええええそうだったの!?

 なんで雇用主にそういうこと言わないのよ!

 履歴書の特技欄にちゃんと書いておきなさいよ! むきー!



「隠し芸じゃないんだからヒミツにすることないでしょっ! そーいうチカラがあるとわかれば、それに見合った仕事だって振ったり」


「――お下がりくださいッ、レイテ様!」



 わたしが文句を垂れていた時だ。ソニアくんがムキムキな腕でわたしを庇い、さらには剣を抜いてアシュレイに向けた。

 ってなによ!?



「名前だけならいざ知らず……ギフト無効化能力に、灰色のアリスフィア放射光……。間違いありません。この男は、傭兵結社『地獄狼』の幹部・アシュレイにございます!」


「ファッ!?」



 そ、そんな経歴、履歴書になかったんだけどぉーーー!?



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【悲報】慧眼なるレイテ様、履歴書詐欺した反社を雇う――!


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