第6話:再革命とか言い出したわよ!?!?!?!?


「――恥ずかしい話、俺は大臣たちから好かれていなくてな。連中はこぞって第二王子おとうとの革命に賛同してしまった」


「へ、へぇ……」



 衝撃のカミングアウトを受けた後のこと。


 ひとまずみんなを風呂場に叩き込んだのち、実は王子だったヴァイスくんと騎士団の副団長だという筋肉質の青年・ソニアくんを呼び出し、詳しい話を聞いていた。



「まぁこんな不愛想な男だからな。こうなったのも仕方ないか……」


「いえヴァイス様は悪くありません! むしろ大臣どもは、賄賂や色仕掛けに一切なびかない実直さを嫌ったのですッ! このままアナタ様が王となれば不埒な真似は出来なくなると考え、第二王子をそそのかしたのでしょう……!」


「ふむ……だとしても臣下たちを抑えきれなかったのは事実。その時点で、俺に未来の王たる資格はなかったということだ……」




 ……何やらわたしの前でクソデカスケールな後悔をしている次期国王様ヴァイスくん

 己が器に思い悩む王族が目の前にいるとか、なんか信じられないわね……。


 まぁ一番信じたくないのは、今や国家の敵であるコイツらを抱え込んじゃったわたしの現実なわけだけどネ。へこむ~。



「っと、すまないレイテ嬢。つい内輪で話してしまったな」


「ずっと内輪で話してていいわよ。わたしに関わらない形で」


「あぁ気を使ってくれるのか。キミは本当に優しいな」



 ってどうしてそんな評価になる!?


 わたしはもうアンタたちのトラブルに関わりたくないだけよ! あとわたし、悪の女王様だからッ! 優しさとかないからッ!



「まぁ聞いてくれ」



 や!!!! や!!!!!!



「革命時の詳細についてだがな、幸いにもほとんどの王国騎士たちは俺に味方してくれた。俺の弟、第二王子・シュバールは、大臣たちは味方に出来ても肝心の戦力は集めきれなかったわけだ」



 ぎゃー! 聞きたくないのに歴史の裏話語ってる~!



「そこで第二王子シュバール陣営は、大胆な策に出た。悪名轟く傭兵大結社『地獄狼』を雇い入れたのだ」



 絶対ろくでもない組織出てきたッッッ!?



「『地獄狼』。万にも及ぶ団員数を誇り、さらには多くの『ギフト』持ちすら保有しているという戦争集団だ。とにかく凶暴な連中でな、ヤツらを雇い入れたが最後、敵軍どころか味方にさえ被害が及ぶと有名だ」


「へぇぇ……」



 あぁ、なんか新聞で読んだことあるかも……。

 ここ十年くらいの間にあちこちの戦場に出没するようになった連中で、とにかくオーガほど強くて凶悪で、通った後は血と絶叫と惨劇に溢れるとか……。まさに地獄の餓狼の群れね。


 そ、そんな連中が第二王子の手元にいるとか、いやぁああああ~~~……!



「全てを知ったのは、奴らが首領『傭兵王』と対峙した時だがな。その時にはもう王城は焼け落ち、父王陛下も兵たちも殺し尽くされた後だったさ……」



 声を落とすヴァイスくんに、ソニアくんが言葉を続ける。



「まったく許しがたいことです……。第二王子は、『地獄狼』の連中に“王族用の隠し避難通路”を教え、そこから城の内部へと攻め込ませたのです。その結果」


「革命に成功されちゃったわけね」



 うん。革命時の詳細は分かった。

 それと同時に、“絶対に関わっちゃいけない案件”だっていうのも改めてわかった……!


 まったくもう。悪の支配者たるわたしは、あくまで弱い者を虐げるのが好きなのよ。

 わたしよりも偉い第二王子陣営とか、例のアホみたいにやばい傭兵団とかとは間違っても対峙したくないわ……。

 


「ちなみに、第二王子がヴァイス様の殺害に成功したと報じているのは、そうすることでヴァイス様支持派の意気を挫くためでしょう。多くの武闘大会で優勝してきたヴァイス様は、男たちの憧れですからね」



 自分もその一人なのか、ヴァイスくんに対して尊敬のまなざしを向けるソニアくん。

 

 しかしヴァイスくんは、その視線から目を逸らした。



「……俺など奉じる価値はないさ。鍛えた腕も『傭兵王』には敵わなかった。俺は無力で駄目な男だ」



 は?



「俺は敗者だ。多くの兵士を犠牲にした上、最後は城の崩落に助けられる形で、命からがら敗走した恥知らずだ」



 はぁぁ?



「加えて火傷まみれだったことを利用し、誇るべき身分を隠してしまった落伍者だ」



 はぁぁぁぁ……?



「そんな俺が、尊敬される権利など」




 ヴァイスくんの言葉は続かなかった。

 わたしが俯く彼のほっぺに、ビンタをかましてやったからだ。



「なっ、レイテ嬢……!?」


「この、アホ王子!」



 こんのスットコドッコイを怒鳴りつけてやる!

 まったくアンタは、何を言ってるのよ!?



「アンタ、兵士からは好かれてるんでしょう? そこのソニアくんからも尊敬されてるんでしょう!?」


「あ、あぁ、まぁ」


「だったらッ、堂々と胸を張りなさいよッ! みんなの憧れを否定してんじゃないわよ!」


「っ!?」



 あぁまったく許せない。

 尊敬なんて望んでもされるものじゃないのに、それをポイッとする言動するとか。そんなのは悪徳以前にアホよアホ。



「レイテ嬢……だが俺は、期待を裏切って敗北したわけで……」


「でも生きてるでしょ? 逆に考えなさいよ。アンタは、例の凶悪な傭兵団が『内側からの奇襲』なんて真似をしたのに、それでも仕留めきれなかったのよ?」



 そんなわたしの言葉に、ソニアくんが「そ、その通りですよッ!」と頷いた。



「ヴァイス第一王子! アナタは窮地より生き延びたことで、我らの希望を繋いでくださったのです! これは誇るべき偉業ですよ!?」


「ソニア……」


「レイテ様のおっしゃる通りですよ。何が恥知らずですか、何が落伍者ですかッ! 私が男として尊敬する相手アナタを、馬鹿にしないでほしい!」



 うんうん。言ってやれソニアくん。

 こういう唐変木には時々ガツッとかましてやればいいのよ。


 さぁて。これで流石のヴァイス王子も、反省してやる気を出すんじゃ……って、んん?



「ソニア、そして何より、レイテ嬢。ありがとう……お前たちのおかげで目が覚めたさ……!」



 って、なんかヴァイスくんの瞳に意志の光が輝いてるんだけど!?

 全身から覇気みたいなオーラが出てるんだけどぉおおーーー!?



「ヴぁ、ヴァイスくん、あのー……?」


「レイテ嬢、改めてキミに感謝するぞ。俺は、キミのおかげで“やるべき道”を見出せた」



 やる気ムンムンッのヴァイスくん。や、や、やるべき道ってまさか!?



「俺は第二王子を討ち、この王国を取り戻すッ!」



 ってうぎゃああああああ!? 革命返しレコンキスタ誓っちゃったぁーーーーーーッ!? 未来の大戦争確定だぁ~~~!?



「ちょちょちょっ、ヴァイスくん! その決断は、あのっ、そのっ!」



 お願いだからやめてほしい……と言おうとしたところで、ヴァイスくんに手を握られた! ひえっ!



「この決断は、キミのおかげで出来たものだ」


「ファッ!?」


「これより征くは修羅の道だ。多くの犠牲と混乱が生まれるかもしれないが、それでもキミのおかげで決心できた」


「ちょいちょいちょいちょい!?」


「あぁレイテ嬢。キミが背中を押した再革命者オレの行く末を、どうかその目で見ていて欲しい!」



 いやいやいやいやいや押してない押してないそんな背中押してないし見たくもないッッッ!


 わ、わたしはあくまで地方の悪党よ。

 支配下の民衆を混乱させるのが好きなだけで、一大国家を大混迷させる歴史の立役者になんてなりたくないわよッッッ!



「ヴぁヴぁ、ヴァイスくーん……! お願いだから落ち着いて……」


『うぉぉぉぉぉッ! レイテ様万歳ッ!』



 とその時、部屋の外から野太い喝采が響いてきた。

 扉が一気に押し破られ、興奮状態の王国騎士たちが流れ込んでくる……!

 ってなによぉ!?



「これまでのやり取りッ、失礼ながら立ち聞きさせていただきましたッ!」

「ありがとうございますッ! 王子を尊敬する俺たちの心と、何より失意の中にあった王子をお救い下さりありがとうございますッ!」

「身体だけでなく、アナタは我らの魂すらも救ってしまうのか……ッ! うおおおおおおお!」



 ひぃっ、なんなのよコイツら!?

 ちょっ、泣きながら『レイテ様万歳レイテ様万歳』叫ばないでよ!

 そんな馬鹿騒ぎしたら屋敷の使用人たちも集まってきて……あッ、アイツらまで一緒に万歳コールし始めやがった! ふざけんなバァァァカッ!



「レイテ嬢。この辺境の地で、キミという存在に出会えてよかった……」


「うひぃぃぃぃ……!」



 ぎゅっぎゅっと何度も手を握ってくるヴァイスくんに、わたしはもはや立ち尽くすしかない。


 こ、これからわたし、どうなっちゃうわけ~……?



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「どうなっちゃうわけぇ~……?(※現政権反攻勢力を抱えた女のセリフ)」



・第一章完結です!

↓途中でも『ご感想』『こうなったら面白そう』『こんなキャラどう?』という発想、また『フォロー&☆評価』お待ちしております!

 

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