第39話 2vs100

レオンとカイルは、暗黒のオーラをまとった百体の魔物に囲まれ、背中合わせに戦闘態勢をとっていた。互いに視線を交わし、ふっと笑みを浮かべる。


「で、どうするよ?」とレオンが尋ねる。


カイルは肩をすくめながら答える。

「決まってるだろ?どっちが多く倒すか勝負だ!」


「のってやるよ!見てろよ、俺がほとんど片付けてやるからな!」

レオンは自信満々に告げると、魔物たちに突っ込んでいった。


カイルも青い覇気をまとい、魔物に向かって力強く駆け出した。彼の体から溢れる青い覇気が、まるで彼の闘志そのもののように周囲に広がる。次々と魔物を吹き飛ばし、豪快な一撃で敵を屠っていく。


「おいおい、覇気はチートじゃねえか!」

レオンが苦笑するも、彼も次々と拳で魔物を撃破していく。


二人は競うように敵を倒し続け、次々と倒れていく魔物の数が積み重なる。しかし、ついに残りが20体を切った時、異変が起こった。魔物たちがゆっくりと集まり始め、うごめきながら一つの巨大な姿へと融合していく。合体した魔物は、ムカデのように長くうねる体を持ち、黒い甲殻で覆われた凶悪な姿に変貌していた。


「げっ…合体しやがったか。」

レオンが不機嫌そうに呟く。


「レオン、気をつけろよ。たぶん闇の魔法を使ってくるぞ!」

カイルが警戒を強める。



その時、魔物はレオンとカイルに向かって素早く動き出し、鋭い牙をむき出しにしながら糸を吐き出した。粘着質の糸はカイルに絡みつき、彼の動きを封じ込める。



「くっ…なんだよ!この糸、なかなか切れない!」カイルが必死に糸を引きちぎろうとするが、糸は頑丈でビクともしない。彼の動きが封じられ、魔物はさらに闇のエネルギーを体から放ち、闇のオーラを纏ってレオンに襲いかかろうとする。


「カイル!」

レオンは咄嗟に彼を助けに向かおうとするが、相手の圧倒的な力を前に足が止まる。

「やべぇな…普通にやり合うなんて、こいつ相手にはダメか…」


レオンは思案した後、背中にある剣の柄に手を伸ばした。普段はほとんど使うことがなかったカイオスの剣――今まで抜くことさえためらっていた剣だったが、今ならばと覚悟を決める。


カイオスから貰った剣…それは、アポロンの刻印が入った魔剣だった。


「魔剣は持ち主の心に反応する…」


両手で剣の柄を握り、額に軽く当てて自分に言い聞かせる。


「今の俺なら、この魔剣を使えるはずだ。もう、復讐の邪念なんてねぇ!」


その瞬間、剣がかすかに光を放ち始め、レオンの心の強さに応えるかのように徐々に神々しく輝きを増していく。その光に包まれ、レオンは剣を振りかざして魔物に向き直る。


その時、ふとカイルとの特訓を思い出した。


「レオンはさぁ、攻撃は正直すぎるんだよな。もっと駆け引きをしなきゃ。例えば、俺と握手した時を思い出してほしいんだけど、あの時レオンは何を考えた?」


「いいやつだなぁ~って思ったぜ?まぁ、全然違かったけどな」


「でしょ。まさか、あの状態から投げられるなんて誰もが予想できなかったはずさ。」


「けどよ、それがなんだってんだ?」


「例えば、次に俺が握手するとしよう。そしたらレオンはどうする?」


「握手はするけど、警戒はするだろうな。」


「そうだよね。けど何もなかったら?」


レオンは、カイルの言葉を思い出してハッとする。

「そうか、攻撃されると思ってガードしたのに、何もなければ一瞬気が緩む。そこを狙うってことか!」


レオンはニヤリと笑い、魔剣を構えた。

(よし、まずは普通に攻撃を仕掛ける…)


レオンは魔物の胸元に向かって一閃を繰り出す。魔物は即座にガードを固め、鋭い甲殻で守った。

レオンは一歩引いてさらにもう一度、同じ箇所に攻撃を加える。しかし、今回はアポロンの魔剣が輝きを増していた。


魔物も一度目と同じ様に同じ構えで守りを固めた。


「そうだよなぁ!さっきも防げたし、同じガードになるよぁ!けど、二度目は魔剣の力を使ってんだよこちとらぁ!」


レオンの叫びと共に、魔剣が魔物のガードを貫き、硬い鱗をも砕いた。その一撃で魔物の胸元が露出し、核が剥き出しになる。

レオンはさらに力を込め、狙いを定めて渾身の一撃を放った。


剣が核に到達し、割れるような音が響いた。核が破壊されると、魔物の体は崩れ落ち、黒いエネルギーが霧のように消えていく。その瞬間、糸に囚われていたカイルも自由になり、ようやく解放された。


カイルが地面に着地し、糸を振り払って立ち上がる。

「やるじゃないかレオン!」


レオンはニカッと笑い、「どうだ、俺だってやる時はやるだろ?さて、俺が六十体撃破というのとで俺の勝ちだな!」と自信満々に言う。


「はいはい、今回は譲るよ。レオンの勝ちだよ。」とカイルは苦笑いしつつも嬉しそうだった。



一方、陽とライサはーー



陽とライサは全身に覇気を纏い、獣人化の力を最大限まで引き出しながら、目の前の魔物化した盗賊と激しい戦闘を繰り広げていた。二人の攻撃が的確に決まり、魔物は次第に追い詰められ、陽たちは優勢に立っていた。


激しい攻防の末、魔物の表面がひび割れ、内部に潜んでいた核が一瞬姿を現した。その機を逃さず、ライサが剣を構えとどめを刺そうとした、その時――。


突如、魔物は身体を震わせ、異様な形に変形し始めた。体の表面から黒い触手のようなものが伸び、背中からは数多くの突起が生え、体中に不規則に目のような模様が浮かび上がっていく。歪んだ顔がいくつも浮かび上がり、まるで体全体が意思を持ったようにうごめく不気味な姿へと変わっていった。そして、核は再び魔物の体内へと移動し、隠されてしまった。


「また形を変えたか…」ライサが眉をひそめる。


その直後、魔物は闇の魔法を発動し、周囲に闇のエネルギー弾を次々と放ち始めた。闇の一撃が次々と降り注ぎ、陽とライサはギリギリのところでそれをかわし続けるが、その攻撃は激しさを増していく。


「ライサさん、今だ!」

陽が叫び、隙を見つけて前へと飛び出し、両手を掲げると光と炎の魔法を放った。「焔光輪舞ラディウス・ブレイズ!」


眩い光と炎が陽の手から放たれ、魔物の体を包み込むと、内部の核が一瞬浮かび上がった。ライサはその瞬間を逃さず、剣を握り締めて力強く突き出し、核を目がけて渾身の一撃を加えた。


ガチンッーーー

しかし、核は砕けなかった。


魔物は体をうごめかせると、その巨大な爪を一気に振り上げた。


「しまっ――」


避ける間もなく、鋭い爪がライサに襲いかかった。

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