盟約の刻編【ベオリア】

第23話 移民国家ベオリア

陽たちがベオリアに到着すると、広がる美しい景観に思わず足を止めた。広大な街並みには、様々な種族が行き交い、活気に満ちていた。移民国家というだけあり、多様な文化が一つの場所に集約され、独特な雰囲気を醸し出している。陽は少し圧倒されたように街を見渡した。


ライサが陽たちの横に歩み寄り、満足そうに微笑んだ。


「ようこそ!移民国家ベオリアへ!ここはエリュシアでも最も種族に関係なく平等な国なんだ。どんな背景の者でも、ここでは平等に扱われる。それがベオリアの誇りなのさ。」


ライサの言葉に、セレーナも感嘆の表情を浮かべる。


「本当にすごい国ですね…。こんなに多様な種族が共存している場所は、他に見たことがありません。」


ライサは笑みを浮かべた。「そうだろう?ベオリアはそれが特徴なんだ。さて、カイルを先に帰らせるから、君たちに宿を案内するよ。」


カイルはライサに促され、軽く手を振りながら自分の家へと向かった。


陽たちは、ライサに案内されて宿に到着した。そこはベオリアでも評判の良い宿で、外観からして風格が漂っていた。


「ここが君たちの宿だ。いい場所だろう?私が手配したから、料金は必要ないよ。」


宿主もにっこりと微笑みながら言った。


「ライサ様のお客様ならお金は取れませんよ!いつもお世話になっていますから。」


ライサは宿主に向かって軽く頷き、気前よく答えた。「助かるよ。また必要な家具や消耗品があれば言ってくれ。安く仕入れておく。」


ライサの言葉に、セレーナは少し戸惑いを見せた。「申し訳ありませんが、やはりお金を払わせてください。さすがに甘えるわけには…」


だが、ライサはセレーナの言葉を遮り、笑顔で言った。「いや、君たちにはカイルを助けてもらった。これはその礼だ。受け取ってくれないと私が落ち着かないんだ。」


セレーナは一瞬考えたが、最後には感謝の意を表し、深々と頭を下げた。「ありがとうございます…お言葉に甘えさせていただきます。」


陽とレオンも同じように感謝を示し、礼を述べた。


しかし、宿は二部屋しか空いていないということで、男女で部屋を分けることになった。セレーナは少し残念そうな表情を見せた。



ライサと別れた後、陽たちは一息つこうと部屋に入って荷物を置き、少し休憩した。



その後、外に出て昼食を取り、帰り道に差し掛かった時、陽の目にリーナの姿が映った。


「あれは…リーナさん…!」


突然大きな声を上げた陽に、セレーナとレオンが驚いた。


「どうしたんだ、陽?急に大きな声を出して…」


「ごめん、二人とも先に宿に戻っててくれ!」


陽はそう言うと、リーナの方に駆け寄った。久しぶりに見る彼女の姿に緊張が高まる。


「リーナさん!」


陽の声に気付いたリーナは、少し驚いた表情で振り向いた。


「あなたは…」


「リーナさん、お久しぶりです。俺のこと覚えていますか?」


「ええ、アポロンの召喚者の。」


「アレイオスの時は、本当にありがとうございました。あの…俺、ちゃんと強くなりました。だから、もうあの時みたいに守られてばかりじゃありません。」


陽は一瞬息を呑み、さらに言葉を続けた。


「俺はあなたに守られた借りがある。だから、もしあなたに危機が訪れたら、俺が助けます。借りはちゃんと返しますから。それだけ、言いたかったんです。」



彼の声には決意が込められており、その真剣な眼差しがリーナに届く。リーナは一瞬驚いたようだったが、陽の成長を感じ取り、穏やかな微笑を浮かべた。


「努力されたのですね。一目でわかりましたよ。」



その急な褒め言葉に陽は少し照れながら頭をかいた。


しかし、そこへ突然別の声が飛び込んできた。


「リーナちゃん、話の途中だよ?それに、この人は誰?」


振り返ると、陽の目に飛び込んできたのは、見知らぬ男だった。彼は穏やかな笑顔を浮かべていたが、その視線は陽を鋭く見つめている。


リーナは少し困った顔をして、彼に説明しようとした。


「ごめんなさい、アレク。彼はアポロンの召喚者よ。名前は…えっと…」


(そういえば、俺この前自己紹介してなかった…!!)

陽は焦り、勢いよく答えた。


「日向陽です!」


アレクと名乗る男は驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔に戻り、陽の手を握った。


「ああ!君がリーナちゃんが言っていた、アポロンの召喚者、ヘリオスの力を宿す者だね!会えて光栄だよ、陽くん!」


「よ、陽くん…!?」


陽は困惑した笑みを浮かべ、どう対応すべきか迷っていた。


「僕の名前はアレク・カーライル。僕はヘルメスの召喚者だ。アレクと呼んでくれて構わないよ!」


「召喚者…だと?」


アレクは陽の肩を軽く叩き、にこやかに答えた。


「そうだよ。その反応からして、リーナちゃん以外の召喚者に会うのは初めてなのかな?」


「ええ、まあ。」


陽はアレクの気楽な態度に、最初はどう反応していいかわからなかった。彼は、笑顔を浮かべているが、その奥に何を考えているのか掴めない男だった。



「まあまあ、緊張しないでよ。僕は争いとか王座とかには興味がないんだ。だから平和的に仲良くしてくれよっ!」


アレクは肩をすくめ、無邪気に笑う。その態度に陽は思わず眉をひそめた。


「何だって?それじゃあ信仰を集めたりとか…」


「なーい、なーい!僕は僕なりにこの世界を楽しんでいるだけさ!」


陽は目を細めて彼の言葉を聞いたが、その意味がすぐには理解できなかった。信仰を集めることも、王座を目指すこともなしに、この世界へ召喚されたなど…。


「まあ、ここで立ち話も疲れるし、どこかゆっくり話せるところにでも行こうか。リーナちゃんも!」


アレクは軽い口調でそう言い、近くの酒場を指さした。リーナも軽く頷いて、アレクの後について歩き出した。陽はその場の空気に押されるようにして、無言で後を追った。


酒場に入ると、店内は昼間にもかかわらず活気があった。酒の香りが漂う中、アレクは気さくに声をかけ、店主に飲み物を頼んだ。


「マスター!紫の三つくださいーっ!」


「ここ酒場じゃないですか。昼から酒なんて…」


陽が少し困惑気味に言うと、アレクはニヤリと笑った。


「大丈夫だよ、陽くん。ほら、ベオリア特製のブドウジュース的なやつをどうぞ!」


(ブドウジュース的なやつ…とは…)


アレクは紫色の液体を陽に差し出した。陽は警戒しながらも、それを口に含んでみた。確かにそれはブドウに似たような味がし、ほんのり甘い香りが広がる。


「うまい…確かにブドウジュース的なやつだ。」


アレクは陽の反応に満足そうに微笑んだ。


「さあ、ここからは僕ら召喚者同士の内密な話になるからね。誰にも聞かれないよう、魔法で結界を張るよ!」


アレクはおもむろに詠唱を始めた。彼の声は柔らかく響き、その言葉の一つ一つが空間に魔力を紡ぎ出す。


「静寂なる風よ、我が言葉を包み込み、外界に響かせん。結界をもって、我らを守れ…」


沈黙の風壁サイレント・ヴェール



周囲に魔力の波動が広がり、次第に陽の耳にも周囲の雑音が聞こえなくなった。そして、アレクの声が結界の中で響いた。



「さ、会議を始めようか。」

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