第24話 酒場の作戦会議①
「ちなみに、これで僕らの会話は他の人には違う内容に聞こえるから安心してくれたまえ!」
陽はアレクの魔法の技術に驚きつつも、少し感心していた。この男、見た目に反してかなりの実力者だ。しかし、それでも陽は彼の態度に疑念を抱かずにはいられなかった。
「で、アレクさん、さっき言ってたことだが、あなた、王座や信仰に興味がないって…それじゃ、この世界や自分の世界の均衡が崩れても気にしないってことか?」
陽は真剣な眼差しで問いかけた。アレクは軽く肩をすくめた後、口元に微笑を浮かべた。
「うーん、それは少し違うかな?僕とヘルメスが興味がないのは、王座のことだけさ。だから信仰を集める必要もない。でも、この世界の均衡が崩れるのはごめんだよ。だから僕なりに、信頼できる人が誰かを探しているんだ。必要とされれば助ける。ただそれだけさ。あとは、楽しく過ごせれば僕は十分なんだよ。」
「けれど、ゼウスの穴は誰かが埋めなければならない。その誰か。が誰でもいいというわけではない。」
そして、リーナが静かに口を開く。
「そういうこと。陽、僕らは国は違えど、地球出身だろう?だから、ギリシャ神話のことは、ある程度知っているよね?」
アレクが問いかけるように言うと、陽は頷いた。
「君は太陽神アポロンの召喚者。そして、リーナは知恵の女神アテナ。僕は伝令の神ヘルメスの召喚者さ。比較的、平和を好む神々だが…」
「アレス…。」
陽は小さな声でそう呟いた。
「そう。正解だ。アレスは戦争の神で、力で支配しようとする者だ。もし、そいつが次の王座についたら…もう考えたくないよね!」
アレクは冗談めかして言ったが、その裏には明確な危機感があった。
「にしても、ギリシャ神話に詳しいじゃないか。」
アレクは笑いながら陽を見た。
「小学生の頃、神話にハマってた時期があったんだ。」
陽は少し照れくさそうに答えた。
「ぷぷぷ〜かんっわいい〜」
アレクは陽をからかうように、口元に手を当てて笑った。
「うるせえ!」
陽は顔を赤らめながら叫んだが、すぐに真面目な表情に戻り、アレクに問いかけた。
「アレクさん、あなたがヘルメスの召喚者であるなら、冥界、つまりハデスとも繋がっている可能性があるんじゃないか?」
アレクの表情が一瞬引き締まった。
「ほう、僕が冥界を行き来できることを知っているようだね。」
「有名な話だろ。だからこそ、あなたが本当に信頼できるかどうか確信がほしい。」
陽の真剣な言葉に、アレクは少し考え込んだ後、突然立ち上がった。そして、リーナの前で膝をつき、静かに祈りを捧げた。
「まさか…」
陽は驚愕し、リーナも目を見開いた。
「どういうつもりだ?」
「見ての通りさ。僕はリーナに信仰を捧げた。これで僕はリーナに対して神の力を使うことができない。どうだい?これで少しは僕のことを信頼してもらえるかな?」
アレクの真剣な行動に、陽は一瞬言葉を失った。しかし、リーナも同様に驚いているのが見て取れた。
「アレクさん、あなたという人は…」
陽はしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「わかりました。少しはあなたを信じます。ですが…」
アレクはにっこり笑いながら、陽に近づき声をかけた。
「それなら良かった。それじゃあ、次は君にも…」
「へ?」
突然、アレクは陽に向かって信仰を捧げた。
「何をやってるんだ!いいのかよ、そんなこと!」
陽は驚き、思わず声を上げた。
「だから言っただろう?僕は君たちのどちらかが王座に選ばれればそれでいいんだよ。僕に敵意はない。」
アレクは陽にさらに近づき、小さな声で囁いた。
「それとね、僕は男女平等にどちらもいけるのさっ」
「ああ…あ…あなた、は、なにを言ってるんだ!!いけるってなにを!」
陽はさらに驚き、顔を赤らめたままアレクから距離を取った。
「本当に可愛いなあ、リーナちゃんいい子見つけたね!お兄さんは嬉しいぞ!うん!うん!アポロンのセンスは認める!わーはっはっはっー!」
「お兄さんって言ったってアレクさんいくつだよ。(たぶん一歳二歳下くらいだろう…)」
「え?三十二歳ぺろっ」
(歳上ーーーーーーーしかも、五歳ーーー)
「そんな陽くんは?いくつだい?」
「俺は二十七歳になったばかりですけど」
「はははーっ、若過ぎたねー。リーナちゃんも二十三歳だし、お兄さんっていうのしんどくなってきたぁー。……はぁ。」
(勝手に凹んでるし…っ!)
リーナが空気を読み、軽く息をつきながら軌道修正を図った。
「アレク、そろそろ本題に入りましょ。」
彼女の声が冷静に響くと、アレクは肩をすくめて答えた。
「ごめんごめん、今回の議題は三つだね。」
彼は指を三本立て、次のように続けた。
「まず一つ目は、僕たち三人がこのベオリアに来た理由。二つ目は今後について。そして三つ目は影の組織について。確認したいのはこれだ。」
陽は静かに頷いた。確かに、彼らが同じタイミングでこの地に集まるのは偶然にしては出来すぎている。何か理由があるはずだ。
「まずは一つ目だ。信仰を集める手段なんていくらでもあるのに、なぜこのタイミングで三人がベオリアに来たのか。」
陽は心の中で同意した。
(確かに、タイミングが良すぎるな…)
アレクが話し始める。
「じゃあ、まず僕から理由を伝えるよ。僕の場合は単純に、ヘルメスの指示で来たんだ。他人のことを言えた義理じゃないけど、ヘルメスが何を考えているのか、正直わからないし、教えてもくれない。ただ、『いい出会いがある』って言われた。それだけさ。」
アレクの言葉に、陽は少し驚きつつも納得した。彼らの神々は、時に気まぐれで謎めいた指示を出すことがある。
「リーナは?」
アレクがリーナに視線を向けると、彼女は静かに語り始めた。
リーナは静かに話を始めた。
「私はもともと水の都で信仰を集めていたのだけど、ある日突然、黒のマントを纏った仮面の男が現れたの。交戦になり、互角で終わったものの、最後には転移魔法を使われてしまって…。最初に飛ばされたのは砂漠みたいな場所だったのだけれど、すぐに、別の場所に再び転移されてね…そこがベオリアだったの。」
その話を聞いた陽は、ふと思い出したことを尋ねた。
「その仮面の男って…ガリウスじゃなかったか?黄色と青い瞳をしたオッドアイの!」
リーナは少し考え込んでから首を振った。
「いえ、オッドアイではなかったわ。」
(ガリウスじゃない?他の仲間なのか…)
陽の心に疑念が広がるが、リーナはさらに説明を続けた。
「私は転移魔法を使えないから断言はできないけど、魔力の波長が一回目と二回目で違っていたの。最初は冷酷で、闇属性を極めた感じだったけど、二度目は違っていた。もっと柔らかく、違う種類の力を感じたわ。」
陽はその言葉に深く考え込んだ。転移させた者が別人であるという可能性が、彼の思考をさらに複雑にしていた。
(どういうことだ?全く繋がらない…)
「さて、陽。次は君の番だ。」
アレクが話を切り替えて視線を向けてくる。陽は静かに息を吸い、今まで自分が経験してきたこと――ガリウスとの遭遇や、ここベオリアに至るまでの出来事を話し始めた。
話を聞いていたアレクとリーナは、真剣な表情で頷きながら耳を傾けた。
陽の話が終わると、アレクは口を開いた。
「なるほど。どうやら僕たちがこのタイミングでベオリアに集まったのは偶然じゃないみたいだね。」
アレクは軽く咳払いをしてから、次の話に移った。
「さて、次に二つ目の議題に移ろうか。僕たちがこれからどうするかについてだ。」
アレクは一呼吸置き、静かにリーナと陽の表情を確認する。緊張感が漂う中、彼は少し体を前に傾け、低く真剣な声で続けた。
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