第25話 酒場の作戦会議②

「僕がヘルメスに聞く限り、アポロンもアテナも、信仰を集めて平和的な世の中を目指すという方向性だったんだけど、あってるかな?」


「そうだな。」

「ええ、そうよ。」


陽とリーナがそれぞれ頷く。


アレクはそれを確認すると、話を続けた。


「そうであれば、君たちの目的は基本的に同じだ。力を正しい方向に使い信仰を得ること。僕自身は王座に興味はないけれど、アポロンでもアテナでも、どちらが王座に就いても構わない。目的が同じなら、争う理由はないはずだ。」


リーナが少し考え込んでから尋ねた。


「それはつまり…」


アレクは微笑みながら頷いた。


「そう、僕たちは協力関係を結び、助け合うべきだということだね。」


リーナは納得した表情で頷いた。


「確かに、それなら無駄な争いをする必要はないわね。賛成よ。」


アレクは陽の方に目を向けた。


「陽はどうだい?」


陽は少し考えた後、力強く答えた。


「アレクの言うことはもっともだ。無駄な争いは避けたい。俺も賛成する。」


アレクは満足そうに笑顔を浮かべ、手を叩いた。


「そしたら、決まりだ。僕らはこれから協力関係になろう。必要な時はお互いに力を貸し合い、無駄な争いは避ける。それでいいね。」


三人は頷き合い、協力することで一致した。


アレクは満足そうに頷き、次の話に移った。


「それでは三つ目、影の組織について話そうか…」



陽とリーナは息をのむようにして耳を傾ける。アレクの表情はいつもの軽やかなものとは違い、どこか鋭く引き締まっている。


「影の組織というのは、僕らが知らないところで暗躍している勢力だ。ここ最近、ベオリアや各国でも彼らの動きが活発化しているのを感じていてね。」


「影の組織…」リーナが眉をひそめる。

「その存在については、私も前から気になっていました。」


アレクは軽く頷き、続けた。

「影の組織に関しては詳細は掴みきれていないが、そのガリウスって奴や。リーナちゃんと戦った奴と、きっと関係があるだろう。この組織の狙いは明らかではないが、例えば…王座に関わる何か、あるいは、エリュシアそのものを裏から支配することかもしれないだろね。」


「それは危険だな…」陽が重い声で応じる。


アレクは神妙な顔つきで話を進めた。「そうだ。そして、この影の組織は僕たち召喚者を狙うかもしれない。」


「召喚者を…。何故、私たちが狙われるの?」


アレクは目を細め、手元のコップを軽く指で回しながら答えた。

「理由はいくつか考えられる。召喚者はそれぞれの神々の信仰の中心にいる存在だから、我々を操作すれば、その信仰ごと動かせる。信仰はこの世界の力そのものだからね。彼らはその力を支配しようとしているのかもしれない。」


陽はそれを聞いて、背筋が凍るような感覚に襲われた。そのようなことが起こればこの世界も、元の世界も大変なことになる。


「それだけじゃない。」アレクはさらに続ける。

「ヘルメスから聞いたのだが、彼らはどうやら、この世界にある強大な遺物を狙っているらしい。」


「遺物?」

リーナが疑問を口にする。

「それって…具体的にはどんなものなの?」


アレクは一瞬口ごもるような仕草を見せたが、やがて言葉を続けた。


「正直、僕も全貌は知らない。だが、影の組織が探しているのは、古代の魔法や神々の力に関する遺物らしい。もしそれが手に入れば、世界を一変させるほどの力を持つと言われているんだ。」


陽は目を見開いた。

「そんなものがこの世界に存在するのか…?」


「確かなことはまだわからない。」

アレクはゆっくりと首を振る。「そして、最近はベオリアだけでなく他の国でも謎の事件が多発している。組織の動きが加速している予兆だろう。」


「確かに、俺が精霊族の地に行った時、ラゼリアの大樹を守っていた、古代精霊ティラフィアスが黒のマントを纏った奴に操られたことがあったんだ。」


陽はふと思い出し、静かに口を開いた。



その言葉に、アレクとリーナは驚きの表情を浮かべた。


「古代精霊が操られていた…?」


陽は重々しく頷きながら、さらに話を続けた。


「そうだ。ティラフィアスは本来、大樹を守護する精霊として、古くからヴァレンティーナを護り続けていた。だが、ある時からその行動が異常になり、破壊衝動に駆られて、大樹までをも傷つけ始めた。ティラフィアスは何らかの理由で、影の組織の奴に何かされたずだ。」


アレクは腕を組み、考え込むように呟いた。


「なるほど…もし古代精霊まで影の組織に操られていたとしたら、彼らの力は想像以上に強大だ。しかも、それだけの魔力を操ることができるとなると、我々の敵はそう簡単な相手じゃないということになるな。」


「私が転移魔法で飛ばされたのも、関係ありそうね。」リーナが呟く。


アレクはリーナの言葉に頷く。

「その可能性も高い。影の組織がどこまで力を持っているのか、どの程度関与しているのかはわからないが、僕らの動きを探っているのは間違いないだろう。」


「まずは情報収集が先だな。」

陽が口を開いた。


アレクは頷きながら皆に提案する。

「まずは、ベオリアの内部を探るべきだろうね。この国には、影の組織と繋がっている人物が必ずいるはずだ。彼らを炙り出し、情報を聞き出す事が最善だ。ヘルメスから得た情報は君たちにも共有する。」


「そうね、私たちも具体的な情報を──」


リーナが何か言いかけたその瞬間、外から突然、悲鳴が響き渡った。

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